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Partner Story |
株式会社フジクラ X 電源開発株式会社


株式会社フジクラ 新規事業推進センター シリコンバレーオフィス 所長 今井 隆之 氏

1988 年慶應義塾大学理工学部卒、フジクラ入社。素材系研究所、エレクトロニクス事業部門に在籍し、プリンテッドエレクトロニクス製品を中心に、新商品開発、タイ拠点での製造、アメリカ西海岸の拠点での技術営業などに携わる。2014 年よりフジクラの長期戦略策定に従事し、「オープンイノベーションを通じた社会の課題解決」を主旨とする、フジクラの「2030 年ビジョン」策定を牽引。2017 年 4 月から現職。シリコンバレーを中心にグローバルな情報収集を行い、スタートアップ企業との協業を推進している。


電源開発株式会社 経営企画部 経営企画室 イノベーション 上席課長 遠藤 二郎 氏

2001 年東京大学大学院工学研究科修了後、半導体メーカーを経て、電源開発(J-POWER)入社。バイオマス燃料事業、水道事業、火力発電事業(徳島県の橘湾火力発電所に約 3 年間勤務)に従事。2016 年より経営企画部(兼原子力業務部)2018 年 10 月同部にイノベーションチーム立ち上げ、現職。新事業探索に取り組んでいる。


Plug and Play Japan 株式会社 仲田 紘司 (Partner Success Manager, IoT )


Plug and Play との出会い。オープンイノベーションの始まり。

仲田

まずは御社のイノベーション創出活動の歩み、Plug and Playとの出会いについて改めて伺えますか?

今井

当社は自前主義だったことから課題を感じていて今から3年前、2017年に「2030年ビジョン」を公開しました。方法論としてはオープンイノベーションを通じて社会の課題を解決していきましょう!という内容です。オープンイノベーションを全くやっていなかった会社だったので今年ちょうど4年生になりました。
2017年にオープンイノベーションの取り組みを始めた時に、オープンイノベーションといえばシリコンバレーだろうと感じたので現地を放浪していたんです。本当の話なんですが、たまたま向こうのスタッフが「Plug and Playという面白いところが10分くらいのところにあるよ」ということで、行ってみたということが始まりです。両方でのパートナーシップももちろん考えた中、結果日本のパートナーとして参画を決定しました。もちろん情報の速さはシリコンバレーであると思いますが、日本の方が本社もあることから巻き込めるメンバーの人数も多いので、日本でのパートナーシップとしてプログラムに参画することに決まりました。それ以降、立ち上げのBatch0から今までアクセラレーションプログラムを一緒に回してきたという形になります。

遠藤

会社の成長を中長期的に考えたときに、新しい取り組みの必要性を認識。今から2年前にその準備のために、3~4カ月ほど他社の活動をヒアリングしたり、過去の自社の取り組みを棚卸したり、並行して長期的なビジョンの考察などを実施しました。そしてその活動の中で Plug and Playとも出会いました。そこでデジタル化や分散化、気候変動問題など、加速する事業環境の変化に対し、スピード感をもったアクションを起こすことの重要性を認識し、スタートアップや事業会社との連携が有効な1つの手段と考え、2018年10月にイノベーションチームを立上げ、同時にスピード感ある意思決定ができる体制を構築、 Plug and Play Japanにもパートナーとして参画しました。Plug and Play に決めた理由は、効率的にスタートアップと出会えるソーシング力と、同時にFujikuraさんのようなパートナー企業として参加される他の大手の事業会社さんとの連携への期待からです。単発のマッチングイベントはあっても、腰をすえて話し合えるような機会はあまりない中、 Plug and Playにそういった機会を数多く提供してもらえるような印象がありました。

今井

そうですね、このPlug and Playのプラットフォームはスタートアップさんとすごく深く付き合える、むしろ付き合わなくてはいけない、というような場所ですよね。

遠藤

Fujikuraさんは、自社でBRIDGE*1というスタートアップと直接接点をもてる場をつくられていますが、Plug and Playとの住み分けはどう考えられているんですか?

今井

自社でやっている企業でもPlug and Playの特異的な部分を求めて来るんだと思います。我々だけではスタートアップのソーシング能力やブランド力が無いので、Plug and Playのネットワークに結構頼っています。

スタートアップとの協業事例、協業スタイル

仲田

FujikuraさんはBatch0から、電源開発(以下 J-Power)さんはBatch2からプログラムに参画いただいて い ま す 。I o T の B a t c h 採 択 ス タ ー ト ア ッ プ だ け で こ れ ま で に 数十、百社近くのスタ ートアップとお会いいただいていま す が 、そ の 中 で も 特 に 協 業 が 進 ん だ 事 例 に つ い て い く つ かお話を伺えますか。

今井

結果的には、各バッチで1,2社必ず協業できていま すね。 最初の方は新規事業部門中心、つまり我々自身がハンドリ ン グ す る と い う P o C が 中 心 で し た 。そ の 中 で 今 で も 協 業 さ せていただいてる会社さんはBatch1のHERBIOさん*2。当 社で働く人々の体温をデータを取得してお互い共同でデ ータを活用しながら新規サービスを立ち上げられないか、という検討をしています。
あとはEdgetensor Technologies Incさん*3やKenpal株 式 会 社 さ ん * 4 、と 当 社 3 社 で の 協 業 を さ せ て い た だ き ま し た。車の運転者、同乗者の画像や脳波などのデータを取得 し、安全性、快適性などを向上するためにどうするか検討 し、新規事業に繋げられないか、と模索しているというとこ ろ で す 。我 々 に と っ て 新 し い 試 み が で き た 事 例 だ と 思 い ま す。

仲田

スタートアップ複数社との協業事例や、大企業複数 社 を 巻 き 込 む よ う な 事 例 を た くさ ん 産 み 出 して こ ら れ て い るFujikuraさんですが、そういった組み方も何か特別意識 してやられているんでしょうか。

今井

そうですね、特に新規事業部門内中心で動いているテーマでは企業としてのアセットをあまり使えない状態にあります。我々対スタートアップという形じゃ少し足りないんです。ですので、スタートアップ数社だったり他の事業会社の長所に頼って、事業を進めるという形をとっています。もっと我々のビジネスアセットを使って協業できるとスピードも加速します。

仲田

自社に足りないところを把握し、そこに積極的に外部の力を活用されているということですね。自社のアセット活用と言えば、先日リリースも出されていたHERBIOさんとの協業事例では、御社の事業部の方にデバイスを付けていただいてPoCを実施されたとのことで、実施にあたって社内の巻き込みに困難もあったかと思いますが、PoC実施までどのように進められたのでしょうか。

今井

HERBIOさんの件は事業部の巻き込みというより、従業員の健康に関連しているんです。健康経営の文脈ですね。健康経営の部署の者も新しいことにチャレンジして
いて、どうやって社員の行動を変えていくかについて頭を悩ませている部署なので、比較的説得は難しくはなかったです。

仲田

なるほど、会社のビジョンや戦略とアラインメントが取れていることで社内を動かしやすいということですね。遠藤さんにもスタートアップとの協業事例について伺えますか。

遠藤

我々はBatch 2の途中からの参画で、はじめは右も左もわからない状態でした。Batch 2ではまずいくつかの事業部に見学に来てもらいスタートアップとはどういうものかなど雰囲気を感じてもらい、Batch 3から面談にも参加してもらっています。そこで直接話してもらって、3社ほど先に進める事ができ、そのうち2社がPoCに至りました。その一社がAllganize Japan*5さんですね。言語AIで、水力
発電所の保守点検の高度化をすることに取り組んでいます。もう一社はHmcomm*6さんです。こちらは音声認識術を活用した風力発電所の点検業務効率化に取り組んでいます。

仲田

Batch期間内に成果までスピード感をもって進めていただいている印象ですが、“期間”というのは結構意識されていますか。

遠藤

最初は事業部の担当が、3ヶ月以内で成果を出す必要があるのか?!という反応でしたが、そこは我々の方で 「まずPoCをうまく回してみましょうよ。期限は気にせず、3ヶ月間でどこまでいったかを見ましょう」と伝えました。音声AIや言語AIなど似たような技術を持ったスタートアップは沢山あるのですが、担当者は技術や優位性をしっかり把握していたので、その特徴が事業部の課題解決にフィッ
トしたのだと思います。社内の技術報告会のような所でも話して、じわじわと活動の中身が社内に広がって行くいい事例になりました。

仲田

事例として名前の挙がった2社を含め、Batch 3の期間中にはスタートアップのみなさんと御社の火力発電所にも訪問させていただきました。現場を自分の目で見ることができ、スタートアップのみなさんからは非常に好評でしたが、御社内でも反響等ありましたか。

遠藤

はい、経営にも伝えています。実際にみてもらわないと気づきが出なかったり、新しい目線からみてもらうことで良いアイディアに繋がるのかなと思っています。まだ1度しかできてないので、またスタートアップの方に見てもらいたいですね。
我々の方も、単純に見せるだけではなく、弊社がどのような事業をしているのかよりわかりやすく説明し、課題感についても詳細伝える機会がないと、より良い物に繋がっていかないんではないかと思います。

新規事業担当者として事業部の巻き込み方の工夫

仲田

お二人にはパートナー同士での交流も積極的に行っていただいていますが、他のパートナー企業の取り組みについて意識されているところはありますか。

遠藤

連携を考えたときに、真っ先にFujikuraさんにお話してるんです。こんなことをしませんか、と。今井さんは全て前向きに捉えてくれるので相談はしやすいですし、そういった中で、何か一緒にできることはないかと思えてきますし。

今井

新規事業部門同士の会話はうまく行くんですが、それを事業部まで落としていこうとするとうまくいかないんですよね。大変になるんですよね。

遠藤

スタートアップとの面談に事業部門を連れていければ良いんですが、連れていけない場合でもどう興味を持ってもらおうかといつも考えています。その技術をいきなり持っていっても、事業部も本業で忙しいし、独自の取り組みも行っているケースもあるので、そこはまず「面白い技術があるんだけど、俺よくわからないから教えてくれる?」ようなスタンスで話をすることで時間をとってくれたりします。そのあとに関心があれば、あの技術面白かったね、という話になって、少し興味を持って調べたりしてくれたり。必ずそうなるとは限らないんですが、そこは伝え方次第かなと一つ意識はしていますね。

今井

その遠藤さんのやり方、聞いて実践しています。「教えてくれない?」という感じで。

仲田

スタートアップを事業部と繋ぐ前にもそういった工夫をされているんですね。他にもたくさん工夫や働きかけを社内でもされていると思いますが、社内を巻き込むうえでの学びや気づきについて伺えますか。

今井

社内の巻き込み方は、“興味関心をどう集めるか”というのが課題だと思います。さっきの遠藤さんの話もそうですが、いろんな方々のやり方がすごく参考になりますね。それをPoCまで繋げるのはまた違った努力だと思いますが、興味関心に繋げる事自体も大変なのだなとの気づきはありました。

遠藤

あとは事業部に努力してもらったのは、PoCをするための予算をしっかりとってもらったことです。お金の話なので、ここをどううまく伝えるかは難しいんですけどね。理想としては各事業部に窓口をおいて、スタートアップがすぐ面談できるような担当者がいることです。正直、実績がないと、そういった体制を作るのは難しいので、今は少しづつでも実績を積み重ねて、スタートアップとの連携を広げていけたらなと思います。

今井

企業文化から変えていかないと厳しいですよね。失敗を許すような文化とか。チャレンジに対する価値観の違いがかなりあるので、そこを少しずつ変えながら実働の部分も、両方変えていかなくてはと思います。

3 年を振り返り、次の 3 年を見る

今井

私は実はもともとスタートアップとは何かを全く知らなかったんです。ですので、この3年でかなりスタートアップ界隈について学ぶことができました。
スタートアップのみなさんと接していくことで、みなさんの考え方や起業に対する姿勢、生き様を学んで来れたと思います。 
そこに我々のようなコーポレートのアセットを活用すると、こんなにうまくいく場面があるんだなというのもJ-Powerさんや他の企業パートナーさんの事例をみて、我々にもできるんだ、と自信になりました。

遠藤

スタートアップと話をすると当社の強みはアセットを保有していることと言われます。自分たちのアセット活用を通して、当社のアセット価値の顕在化につながればと考えています。我々はもうこれしか使えないと思っているところを、スタートアップの技術を持ってくることで、新しいことに繋がるということができればいいですし。スタートアップと我々だけではなく、スタートアップ数社と、パートナー企業数社と連携して何か新しいものを作っていけたらと
思っています。

仲田

最後にスタートアップのみなさんにメッセージをいただけますか。

今井

スタートアップのみなさん!社会を変革しようと頑張っている姿をみて、心を動かされることが多いです。ピッチ聞いただけでも涙が出そうになることもあったりなんかします。今大変な時期かもしれないですが、その中でもピンチをチャンスに変えてやっていってらっしゃる方もたくさんいて、非常に勇気をもらっています。
これからも我々のアセットを使って出来るだけ力になりたいと思いますので、一緒にやっていければと思います。

遠藤

同感です。スタートアップの技術に魅了されてこういった取り組みをしていますが、一緒にやっていく以上は我々としても何を貢献できるか、何を価値提供できるか、という視点も忘れずに色々ディスカッションしていければと思います。

Index

*1 BRIDGE : BRIDGE Fujikura Open Innovation Hub
*2 株式会社 HERBIO: IoT Batch 1 スタートアップ |お臍で深部体温を測るウェアラブルデバイスを提供
*3 Edgetensor Technologies Inc: IoT Batch 3 スタートアップ | エッジ(端)向けの拡張可能で手頃な AI を提供
*4 Kenpal 株式会社 : Mobility Batch 2 スタートアップ | 居眠り運転防止アプリ「ドライブスコア」の開発 EC パッケージ及びタイムセール EC システムの設計 ·
開発
*5 Allganize Japan 株式会社 : IoT Batch 3 スタートアップ | 高レベルの自然言語処理とディープラーニング技術をベースとした企業向け AI ソリューション
を提供
*6 HmComm 株式会社 : IoT Batch 3 スタートアップ | 音声認識 AI プラットフォーム「THE VOICE JP」を提供