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【後編】オープンイノベーションを進めるうえでのボトルネックと解決法

2021/09/10

前編では、イノベーションを促進するうえで必要な7つの要素のうち、イノベーション活動初期に注力すべき2つの要素として「推進担当者のドライブ力(人材)」と「トップのコミットメント(ビジョン・戦略)」について触れました。後編では、オープンイノベーションを進めるうえで大手企業が傾向として抱える課題や、その解決法についてPlug and Play Japan COOの内木遼とPlug and Play Japan New Materials Directorの新井に話を聞きました。


▶︎【前篇】オープンイノベーションを促進するうえで優先的に取り組むべき2つの要素とは


内木 遼(Ryo Naiki)

執行役員 COO

エネルギー会社での海外プロジェクト、総合商社での事業開発・事業投資を経験。コロンビア大学でMBAを取得。デロイトトーマツベンチャーサポートのシリコンバレー事務所の事業開発統括として、金融、製造業等における新規事業開発コンサルティングに従事。事業開発戦略策定、ビジネスモデル考案、ベンチャー評価・交渉・提携支援、複数の実証実験の設計・実行等に携わる。Plug and Playの日本オフィスの立ち上げに参画し、東京に次いで京都・大阪に拠点を開設するなど、イノベーションプラットフォームの拡大を牽引している。


新井成実(Narumi Arai)

Director, New Materials

エンジニアとしてSONYに新卒入社し、本社R&D部門でのリチウムイオン電池の研究開発に2年間、海外電力会社とのJV設立及び現地での蓄電システム開発に3年間従事。帰任後は中期計画策定PJのリーダーとして事業部の3ヵ年計画を作成、実行を推進。その後日系シンクタンクに移籍し、AI・モビリティ・ロボティクス等の先進テーマに関わる、新規事業 / オープンイノベーションの戦略策定・実行支援コンサルティングに3年間従事。2021年よりPlug and Play Japanに参画。


ーー大手企業がイノベーションを進めていくで、ボトルネックになりやすいポイントは何でしょうか。

新井:

4, 5年前はいかに有望なスタートアップを発掘するかに焦点が当たっていた印象ですが、近年では社内の巻き込みという内的課題が顕在化しているように感じます。つまり、有望なスタートアップを発掘して社内の関係部署に投げたとしても、その受け手が不在であることがボトルネックとなっているケースが散見されます。この課題に対して特に鍵となる要素が前編であげた「トップのコミットメント」と「推進担当者のドライブ力」です。


▶︎【前篇】オープンイノベーションを促進するうえで優先的に取り組むべき2つの要素とは

ーー担当者のドライブ力はどのように育成すれば良いのでしょうか。

内木:

アクセラレータープログラムなどは、基本的に決められた期間の中で実施するため、時間的な強制力をもたせることができ、目標までのマイルストーンを引きやすくなるため、そのような活用法も効果的です。
他にも、新規事業の成果が出た際には賞与などのインセンティブを得られるような体制を作ることも人材育成という観点では効果的だと思います。

新井:

資質のある社内人材を登用する、もしくは社外から適任者を採用することが最も手早い方法ですが、育成が必要な場合は外部の専門家に頼ることも必要な手段の1つだと思います。イノベーションは長期にわたるうえに、本質的には失敗自体がKPIになりうる世界なので、上司から結果を問われると明確に提示しづらい状況もあります。外からは華やかな仕事に見える一方で担当者は時に孤独です。専門家にメンターとして伴走してもらうことで知見の習得はもちろん、現実的なマイルストーンの設定や、それに対する現状と成果の把握がしやすくなります。これは本人のモチベーション維持や社内説明においても有効だと思います。
また、大手企業であっても推進チームのリソースは2〜3名程度と限られているケースも珍しくなく、社内の協力者の巻き込みも重要な要素です。

ーー社内ネットワークを構築するうえでのコツはありますか。

新井:

例えばスタートアップピッチのような社内イベントを開催し、回収したアンケート結果からイノベーションに前向きな協力者を発掘する方法があげられます。その際には研究所や事業部のような直接的な連携先部署はもとより、知財部や法務部のようなサポート部署など、社内各所のキーマンと繋がることが理想です。どの企業にも新たに挑戦することに喜びを感じる気概を持った人材はいるものです。まずは局所的に協力者ネットワークを築くことでリソースの乏しい中でも推進力を担保できるように思います。

内木:

以前当社がサポートした事例として、ある企業でオープンセミナーを実施した際に、イベントの集客とイノベーション活動の社内認知獲得を目的とし、許可を得たうえで当該企業のロビーでビラを配布したことがあります。結果、参加した社員数も多かったですし、何より事業部のキーマンが興味を示してくれ、その後プロジェクトがスムーズに進んだこともあります。

ーーオープンイノベーションを進めていった先に、よりスピードを加速させるためにすべきことはあるのでしょうか。

新井:

取り組みが進展して事業化が見えてきた段階において、出島化(別会社化)することは有効なオプションであると思います。これまでの経験からも、出島化している企業はイノベーション活動のスピードや意思決定が早いです。
大手企業の仕組みは収益の大部分を占める既存事業に合わせた形で成り立っており、既存ブランド棄損への懸念もあり反対意見が生じることも少なくありません。しかし新規事業を別会社で運営することで、業務プロセスや法務・知財・人事等の制度面を切り分けることができ、スピードを落とすことなくプロジェクトを進められるように思います。
ブランドイメージへの懸念に対しては、事業やプロダクトをステルスブランドで展開することも戦術の1つです。

内木:

出島化においては、切り離せば切り離したで問題がでてきてしまうこともあります。既存事業を巻き込まなければいけない場合、別会社化することで連携が難しくなることもあります。そのため企業によっては、キーとなる事業部から人を選び、既存事業と出島で二足のわらじを履きながら活動する仕組みを作っており、橋渡しをするようにしています。
また財務リターンも意識したうえでスタートすると、出島化しても本社との戦略シナジーを生みやすくなるように思います。例えばCVCファンドから出島化した先に資金を投入することで、新規事業がうまくいけば本社にもリターンが得られる仕組みを作れば相乗効果が得られるのではないでしょうか。

ーー企業のオープンイノベーション活動を加速させるために、Plug and Play Japanではどのような支援を提供しているのでしょうか。

新井:

イノベーション課題は企業固有のものなので、お仕着せのサービスではなく各企業パートナーに合わせた伴走支援を提供しています。具体的には専任担当者による隔週の面談を通じて、目指す姿を定義しながら、そこに対する現状と課題を可視化し、課題解決に資する施策の検討と実行を行います。この流れは一度限りのものではなく、取り組みからの気づきを踏まえてアジャイル的にアップデートしていきます。施策としてはスタートアップ探索のような外部連携系もあれば社内文化醸成イベントのような内部変革系もあり、企業パートナーごとに力点が異なります。

当社のアクセラレータープログラムにおいては、大手企業とのコンソーシアム型であり、現在9つの業界テーマ*でプログラムを展開し、毎年200社以上のスタートアップを採択しています。プログラムでは業界の垣根を超えて大手企業とのクロスマッチングイベントなども実施しており、自社のニーズに対して多角的な視点で、幅広いスタートアップとの共創可能性を探ることができます。
アクセラレータープログラムという性質上、大手企業も自社の情報を開示すると共に、積極的に他社の情報も受け入れるため、スタートアップと大手企業だけではなく、大手企業同士でもより良いケミストリーが生まれやすくなっています。

*9つの業界テーマ:Fintech、Insurtech、IoT、Mobility、Brand & Retail、Health、Smart Cities、New Materials、Energy

内木:

アクセラレータープログラム以外の支援として、イノベーションへの理解促進や文化醸成を目的とした社内セミナー、企業パートナーの役員層を対象にオープンイノベーションの取り組みに関して意見交換を行う「Executive Breakfast」、大手企業の個社別ニーズに対して複数社のスタートアップを紹介する「Deal Flow」など、包括的にサービスを提供しています。

Executive Breakfastでは、シリコンバレーでの成功事例や、他社・他業界の成功事例に触れることで、良い刺激になると好評をいただいています。
セミナーを通して、自分たちがいる業界は将来的にディスラプトされるかもしれないという危機感を持ち、新しいことに挑戦していかなければいけないというマインドセットを育てるきっかけにしていただいており、新しい事業アイデアを出し合うワークショップなども実施しています。
ある企業では、新規事業開発研修が当社のアクセラレータープログラムと同時期に行われていたため、Plug and Play Japanの採択スタートアップと共に、ワークショップを行い、一緒にアイデアをブラッシュアップするような施策も実施しました。
イノベーションプラットフォームとして、他業界の大手企業やスタートアップとも繋がれるので、知の探索を効率よく行えることに価値を見出していただいています。

ーー今後のビジョンについて教えてください。

内木:

業界横断型の取り組みや社内ワークショップの質は継続的に向上させていくと共に、外部連携・内部変革という二軸で、さらに深掘りした価値を提供していきたいと考えています。
例えば社内起業家育成支援として、実際に新規事業アイデアを考えていただき、当社のアクセラレータープログラムの採択候補に加えることで、他社からフィードバックを得られるような仕組みを作っていきたいと考えています。採択スタートアップと連携しながら新規事業創出ができると刺激にもなり、面白いのではないでしょうか。
他にも海外との連携をより一層強化していきたいですね。19カ国40拠点以上に展開しているPlug and Playのグローバルネットワークを活かし、海外企業の取り組みや、海外拠点で実施しているプログラムでの成功例など、海外事例を交えたインサイトを提供していきたいと考えています。

新井:

当社の場合は、Plug and Play Japanだけでも合計9つの業界テーマ*それぞれにスタートアップと大手企業が紐づいており、かつそれがグローバルの拠点数分あるわけです。これは唯一無二のネットワーク・アセットなので、これらの掛け合わせによる提供価値は今後一層追求していきたいです。
また、大手企業の休眠シーズの活用支援にも力を入れていきたいと考えています。大手企業のR&D予算は莫大ですが、期待するROIが得られていない企業は少なくないと感じています。主要因の一つとして「出口ニーズが見えていないこと」が考えられます。休眠シーズということは、理論上自社や既存顧客向けでは事業化しにくいテーマが多いので、必然的に人脈の乏しい新市場の顧客ニーズをゼロベースで理解した上で、PMF(プロダクトマーケットフィット)を目指す必要があります。ここはPlug and Playのネットワークが大いに価値を発揮する領域だと思いますので、ぜひ日本のR&DにおけるROI底上げの一助となれれば幸いと考えています。

<後編まとめ>

・近年では社内の巻き込みという内的課題が顕在化。解決策は、「トップのコミットメント」と「推進担当者のドライブ力」
・新規事業成果に基づいたインセンティブ設計も人材育成という観点では効果的。
・資質のある社内人材を登用する、もしくは社外から適任者を採用することが最も手早い方法だが、育成が必要な場合は外部の専門家に頼ることも必要な手段の1つ。
・限られたリソースでイノベーション推進をするうえで、社内のキーマンと繋がることが重要。
・社内ネットワークの構築方法として、スタートアップピッチのような社内イベントのアンケート結果からイノベーションに前向きな協力者を発掘する方法も有効。
・意思決定スピードをあげ、イノベーションを加速するために、出島化(別会社化)することは有効なオプション。
・出島化することで既存事業との連携が薄まってしまうデメリットもあるため、既存
・新規事業を橋渡るするような人材を配置するか、財務リターンも意識したうえで出島をスタートさせると、本社との戦略シナジーを生みやすくなる。

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