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Startup School #8 | Web3・メタバースで起業すべきか?

2022/08/01

今テック業界でもてはやされているWeb3・メタバース。深く理解はしていなくても聞いたことがある、興味があるという方は多いのではないでしょうか。インターネットが普及し始めた90年代の熱狂に例える人も多く、大きな変革が起きようとしている予感があります。
今回のこのブログではWeb3・メタバースが何なのか、今後どうなっていくのか、というところには敢えて触れませんが、世の中のこうした大きな流れ、熱狂を起業家としてどう捉えるべきなのかという視点から考えてみたいと思います。


Zak Murase

Executive Advisor, Plug and Play Japan

シリコンバレーと日本でスタートアップへの投資を行う。 慶應義塾大学環境情報学部卒。ソフトウェアエンジニアとしてソニー入社後、1998年にパソコンVAIOのプロダクトマネージャーとしてシリコンバレーに赴任。米国PlayStation Network、光ドライブ事業、UX開発におけるスタートアップとの協業などを経て、2013年に米国ソニーを退社。 ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインのシリコンバレーオフィスの立ち上げを経て、2017年独立しPacific Sky Partnersを創業。主にシリコンバレーでスタートアップと協業あるいは投資を模索する日本企業向けにコンサルティングを行うほか、現地スタートアップのアドバイザー、日本のスタートアップのアメリカ進出支援などに従事。


波に乗るべきなのか?

もしあなたが今起業のアイデアを探している、あるいは今すでに作っているプロダクトの方向転換を考えているのであれば、Web3・メタバースのようなテクノロジーの流れに乗ろうとするのはいいアイデアかもしれません。世の中で話題になっている、流れが起きつつあるものには投資家もついてきます。スタートアップはどんなプロダクトであれ、成功させるためには資金が必要になるわけですから、資金調達をやりやすい方向にプロダクトを振るのはそれだけで成功の確率を高めることになります。
また投資家だけでなく、必要な人材も集まりやすくなります。プロダクトがテクノロジーの流れと同じ方向を向いていなかった時には見向きもしてくれなかった優秀な人材が、そこのベクトルがあった瞬間にいきなり興味を持ってくれるといったこともあるかもしれません。シリコンバレーではGAFAに勤めていた優秀な人材が次々にWeb3・メタバース関連のスタートアップを起業する、あるいはジョインするといった話をあちこちで聞きます。スタートアップの成長を牽引するのは優秀な人材ですから、波に乗ることで一気に成長を加速させることができるかもしれません。

ただし気をつけなければならないこともあります。調査会社のGartnerが提唱するHype Cycleと呼ばれる波がありますが、流行り物のテクノロジーの波はある時突然引いていく可能性があります。インターネットの初期においてもドットコムバブルが弾けた後はしばらく冬の時代が来ましたし、AIやブロックチェーンも一時期もてはやされた後一度引いています。そこを乗り切ればまた緩やかな勢いが戻ってくることが多いのですが、そこで力尽きてしまうスタートアップもたくさんあります。

また新しいテクノロジー領域はいろいろなインフラ基盤が整備されていなかったり、こうすればうまくいくといった蓄積されたナレッジも不足していたりするので、手探りで試すことになります。また変化のスピードが非常に早いため、今日うまく行ったことが明日にはもう古臭いものになってしまう可能性もあります。常に最新の情報にアンテナを張っていないといけないので、本来のプロダクト開発に割かなければいけない時間もどんどん奪われていきます。もちろんそういった先の見えない、変化の激しい世界の中で新しいものを創造していくのが起業の醍醐味でもあるのですが、スタートアップの成長に向けて最短距離でやっていくことはおそらく不可能なので、回り道をしてリソースと時間を無駄にすることのリスクを取る覚悟は必要でしょう。

もう一つ知っておきたいのは、過去の歴史を振り返ってみると、必ずしも先駆者がその後一番成功しているとは限らない、むしろその方が稀であるということです。検索の世界ではGoogleは最後発でしたし、Facebookもそうでした。インターネット以前を見ても、他社の真似をせずに一番にやることが尊いとされていたソニーでさえ、プレイステーションは全くの後発だったりしたわけです。なので、今このタイミングを逃したら成功できないのではないか、と焦る必要はおそらくないでしょう。

プロダクトが提供する価値が何なのか?

いずれにしても重要なことは、世の中の流れに乗るのか、乗らないのかということではなく、作ろうとしているプロダクトが本質的にどんな価値を提供するのか?どんな顧客の問題を解決するものなのか?という基本的なことです。Web3・メタバースに乗ったあなたのプロダクトが本当に価値を生み出し、顧客の問題を解決しているのであれば、おのずと成長はついてきます。

でももしPMF(プロダクト・マーケット・フィット)が見えない、思ったように成長できない、というような局面に来たら、冷静に基本に立ち返ってみましょう。Web3・メタバースでなければならない理由はどこにあるのか?既存のテクノロジーでは解決できない問題なのか?顧客がWeb3・メタバースであることを求めているのか?

Web3・メタバースそのものが本質的にどんな価値を提供しているのか、現在の時点ではまだ明らかになっているとは言えません。概念や仕組みだけでは本質的な価値を生み出すことはできないのです。90年代のドットコムバブルがそうだったように、ただインターネットというだけで価値が創造されたわけではなく、それが顧客の問題を解決する手段として有効に機能し、本質的な価値を生み出すようになるまでには非常に長い時間と、数えきれないほどの試行錯誤と失敗の積み重ねが必要だったのです。

テクノロジーそのものに惚れ込まないこと

90年代にインターネットに出会い、以来ずっとテクノロジーの世界に身を置いてきた自分自身にことあるごとに言い聞かせることがあります。

「テクノロジーそのものに惚れ込むな。テクノロジーはあくまでも手段であって、目的であってはならない」

テクノロジーの世界は本当にエキサイティングです。新しいテクノロジーが出現すると、あんなこともできる、こんなこともできる、と勝手に妄想を繰り広げるのがとても楽しいですよね。テクノロジーの世界で起業する起業家の皆さんもきっと同じだと思います。でもそこが起業家にとって落とし穴になることがあるのです。テクノロジーを理解することは重要ですが、惚れ込み過ぎるとそれを使うことが目的になってしまいがちです。4年前に書いたちょっと古いブログですが、こちらを読んでみてください。この中で1997年にアップルのスティーブ・ジョブスが開発者向けのカンファレンスの中で話をしているビデオを紹介しています。彼自身が技術に惚れ込みすぎることで失敗を重ねて来たこと、カスタマーエクスペリエンスを起点にテクノロジーに逆戻りして考えることの重要性を説いています。

最終的にプロダクトが価値を生み出しているかどうかを判断するのは起業家のあなたではなく、それを使う人たち、すなわち顧客です。そして多くの顧客にとって、そこで使われているテクノロジーが何であるのかはおそらく重要ではないし、気にもしていません。あなたのプロダクトが問題を解決してくれているのか、そしてそれを対価を払ってでも使いたいと思えるのか、そこが重要なのです。

もしあなたがWeb3・メタバースの世界で本当に顧客の問題を解決するプロダクトを提供できるのであれば、ぜひこの波に乗って突っ走ってみてください。でも時々振り返って考えることも忘れずに。テクノロジーが刻々と変わっていく中でも、顧客提供価値という本質さえ見失わなければ、テクノロジーの流行り廃り関係なく目指すべきところは明確になるはずです。

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