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全ての病気に特効薬がある世界を目指して- MOLCURE

2022/07/07

がん細胞などをピンポイントで治療する、副作用の少ない効果的な治療法として期待を集めるバイオ医薬品。しかし適切なバイオ医薬品を作るためには数億を超える分子の組み合わせから候補を絞り込む必要があり、そのプロセスでは人間が一つずつ実験を繰り返して候補を見つけているのが現状です。バイオ医薬品の創薬プラットフォームに世界で初めてAIを活用した株式会社MOLCURE(以下、MOLCURE(モルキュア))。AIとバイオの掛け合わせで従来にない抗体発見効率を実現する同社ですが、そこに到るまでの道のりについてCEOの小川隆氏にお話を聞きました。
(本記事は2020年5月にPlug and Play Japan公式noteで公開した記事です)


Chiyo Kamino

Communication Associate, Kyoto


世の中に直接役に立つ研究を目指して

ーー創業の経緯、バックグラウンドについて教えて頂けますか?

私自身のバックグラウンドとしては、慶應大学の先端生命研で修士・博士と研究を続けていました。AIや機械学習を使って、ゲノムの中から人類が未だ発見していないパターンを見つけるという研究で、科学者向けのソフトウェア開発をしていたんです。

ただ、在学中に父ががんで他界したのですが、自分の研究が全く力になれなかった。そのことがきっかけで、学びをより直接的に世の役に立てたいと思うようになりました。

ーーそうだったのですね。そもそもバイオ系の研究に進まれたきっかけは何だったんですか?

かなり前にさかのぼるんですが、高校生の頃に『攻殻機動隊』の世界観にすごく憧れていたんですよね。人間の脳とコンピュータが一緒になって、脳どうしで通信するという技術が出てくるんですが、それが「ナノマシン」という分子くらいの小さいロボットによって実現されているという設定なんです。このナノマシンを作る人になりたいなぁと思っていました。こう言うとただのSFを夢見る少年、という感じですが(笑)。

ーーでもその夢にとても近いところにいらっしゃいますよね。実際に起業すると決断されたときのことをもう少し教えてください。

MOLCURE自体はドクター時代の研究内容を元に起業したのですが、スタートアップに関しては学部生の頃からいくつか縁がありました。先輩が立ち上げたSNSスタートアップ の創業期に携わったり、修士の時にはアプリ制作スタートアップ のコアメンバーとして参画してVCからの資金調達も経験しました。それらの知見を通して、自分のやりたいことである「抗がん剤をつくる」「研究を世の役に役立てる」という目的への最短経路は何かなと考えたんです。アカデミアなのか、製薬会社に入るのか、それとも自分でやるのかという、選択肢の一つに起業は最初から入っていました。そして、どの選択肢においても研究開発資金の調達は必ず直面する課題だというのは明白でした。

アカデミアに進んだ場合、研究助成金の獲得が必要です。ただ、申請ー審査ー承認ー受け取りと手間も時間も掛かる上に、金額自体も限られており、受かるかどうかもわかりません。アカデミアはかなり研究資金に苦しんでいて、極めて優秀な研究者でも1千万円単位の研究開発費の調達に苦慮するような状況で、楽な道ではないのはわかっていました。

製薬会社に就職した場合でも、社内での予算取りが必要ですから、十分な予算を得るためには、予算獲得競争、稟議の突破、社内政治なども必要になってくると思います。また、どの製薬会社に属するかによって研究開発路線は異なってきますし、会社が研究開発や経営方針を途中で変更する場合もあり得ると考えました。

不確実性の高いこういった選択肢に比べると、自分で起業すれば少なくとも自分の意思と責任で選択できる要素の幅が広がります。また、スタートアップの経験もありましたので、最も勝率の高いと思われる選択肢を選んだ結果、自然と起業の道へ進むことになりました。僕としては合理的な判断をしたと思っているので、リスクの大きな決断をしたという感覚はありません。

医学領域での起業はIT産業と大きく異なる

ーー創薬・バイオ領域で起業されたが故の悩みはありますか?

以前経験したITと最も異なるのは、検証により多くの時間、お金、設備が必要になることです。ITであれば、コーディングしてアプリを開発すれば比較的小さなコストで検証することができます。しかし、バイオ領域では実際に実験を行ってデータをまず収集し、そこにAIを活用していくので、より多くのコストが必要になります。コンピュータの中で設計しても実際に実験してみないと机上の空論で終わってしまいます。

ーー資金調達面で困ることもあるのでしょうか?

バイオに限らず全般的に、技術面を重要視して検討してくださるVCの方は、貴重な存在だと考えています。研究開発型のスタートアップ や事業拡大を達成する前のスタートアップにとっては、売上や利益、新薬開発の成功数に関して、強いエビデンスを提示することが難しいケースが多いと思います。

ーやはり、短期目線・Exit目線の場合が少なくないですよね。

ITなどではユーザー数や課金率をもとにした収益の予測が成立するケースがあり、投資する側にとっても判断材料が整いやすいケースがあると思われますが、バイオの世界では技術検証や技術が売上数値に結びつくまでに時間がかかるので、どうしても投資判断が難しい部類に入ってしまうことはよく理解できます。例えば、僕らが作った薬が「がん細胞に効く」ということが研究室の実験でわかっても、「がん患者さんに効く」のとは必ずしもイコールではありません。薬として効くかどうかを確かめるには、100人から1000人以上の患者さんに試す臨床試験の必要があります。創薬は一般的に10年タームのプロジェクトになるため、医薬品開発が成功した実績をエビデンスとすることは弊社に限らず難しいと思いますので、技術的な側面での投資判断が必要になってきます。長期的な目線で、テクノロジーに興味を持ってくださるVCの方は、非常にありがたい存在だと思います。

ーそうなるとVC以外にも目線を向けることになりますよね。どこの企業や業界と組みたいという具体的なイメージはお持ちですか?

資金調達という文脈では、治療薬や検査薬を開発されている企業様、IT企業様を中心に考えています。顧客や共同研究という文脈では、治療薬や検査薬を開発されている企業様に加え、製薬会社をクライアントに持つIT・バイオテック企業の方々もターゲットになると考えています。私たちは創薬に繋がる分子の構造を設計する技術を持っていますので、製薬会社さんとライセンス契約を結んでいるバイオテック企業に対しても同様にサービスを提供していけると思います。

全ての病気に治療薬がある世界を目指して

ーー御社の技術を通じて、将来どんな世界を実現したいとお考えですか?

全ての病気に特効薬がある世界を実現したいと思っています。今日現在でも、有効な治療薬がない病気が3万以上あります。創薬というのは非常に時間もお金もかかるプロセスで、一つの薬が出来るまでに10年、そして1000億円掛かると言われています。
この費用の大部分が臨床試験に投下されており、動物実験・健康な人での治験、そして実際に症状をお持ちの患者さんでの治験と進んでいきます。各ステップで有効性が実証されなければ次のステップには進めませんし、実際に病気の方に投与する段階では既存薬で最も効果のあるものとの比較を行い、それを上回らないと製品化することはできません。この長い臨床試験の途中で失敗した場合は、それまで投資した時間・お金が失われることになってしまいます。なので、一番大切なのは、その成功確率を上げていくことだと考えています。そのために、可能な限り成功率が高いと考えられる分子を設計するということ、そして病気に効くお薬を世の中に増やしていくこと。それが僕たちが今やっていることです。

株式会社MOLCUREについてもっと知りたいという方は、ぜひWEBサイトをご確認ください。

http://molcure.com/

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