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スタートアップと共に建設業をDXで変革する鹿島建設

2024/09/13

鹿島建設株式会社(以下「鹿島建設」)では、2024年問題への対策として、建設現場における業務効率化ツールの導入や DX推進に取り組んでいます。同社関西支店の活動について、スタートアップとの協業における組織体制づくりや実際の取り組み事例を中心にお話を伺いました。


Writer: Haruka Ichikawa


プロフィール


竹内 秀和 (写真右)

建築部 生産推進生産グループ グループ長(本社イノベーション推進室兼務)


三輪 敦 (写真左)

開発部 事業推進グループ 担当部長


西尾 萌 (写真中央左)

建築部 生産推進サポートグループ 現場 IT 化推進 課長代理


吹谷 菜々香 (写真中央右)

建築部 生産推進サポートグループ DX 推進アシスタント


部署横断チームと技術検証を進める 40 名の若手人材による体制づくり

ーー貴社は建設現場の課題解決を目指して Plug and Play のプラットフォーム にご参画いただきましたが、関西支店における取り組みはどのように始まったの でしょうか?

竹内:

私は 2020年4月に、本社が活用しているプラットフォームやツールの現場導入を促す部門である生産推進サポートグループに着任しました。

「2024年問題」と呼ばれる時間外労働時間の上限規制が 2024年4月から建設業などで適用されることにより、業務効率化や労務管理への対策が求められていました。生産推進サポートグループでは、この対策の一環として、現場が無理なく稼働できるように業務効率化ツールの導入を推進してきました。Plug and Playとの連携においては、現場に導入するためのスタートアップの新技術探索に取り組んでいます。Plug and Playへの参画後は、社内で取組を推進するリソースを拡充するために、部署横断のチームを組成したり、英語人材を採用したりと PoC がしやすい環境づくりからスタートしました。今では組織が大きくなってきたため、月に一度、設計部や開発部など部門間で「DX 会議」を実施してプロジェクトの情報交換をしています。

仕組みづくりとしては、IT ツールを現場に導入する「スマートアシスタント(SA)」と呼ば れる派遣社員を 40 名ほど現場に配置しました。20 代のスマホ世代を中心とする SA に率先してさまざまなツールをテストしてもらい、技術検証に加えて、現場活用の価値がある技術は、 SA 起点で広げていってもらっています。実際に稼働している現場で技術検証ができる仕組みを作れたことで導入を促す環境づくりに貢献できたと思います。

「2024 年問題」対策に繋がったスタートアップとの協業

ーー「2024 年問題」への対策に繋がった取り組み事例はありますか?

西尾:

現場の課題やニーズを収集し、その現場で活用できそうな技術を紹介する『業務削減キ ックオフ』という会議を設けているのですが、現場から出てきた課題を既存の技術では解決できない場合は、Plug and Play プログラム採択スタートアップとの取組みにつなげることがで きました。

西尾:

時間外労働の上限規制に伴い、休日に閉所する現場が増え、現場で働く技能者の方の賃金が減少する可能性があります。そこで、現場で活躍する技能者の方に対して何かできることはないかと考えていました。

竹内:

我々は元請けで一次会社や二次会社を経て技能者に業務を依頼しているので、鹿島から直接技能者に報酬を渡したり、報酬額を増減したりすることはできません。また、技能者の情報は、雇用者や管理会社が保有していますが、技能者側には情報が残りません。そこで、技能者同士が「いいね」を送り合って、お互いを評価し合うだけでなく、将来的には技能者自身の情報を技能者側が保有する仕組みの構築を目指す PoC を実施することになりました。

西尾:

実は「いいね」の表彰システムは、現場の技能者の方にインタビューをして生まれたアイデアだったんです。既存の工事現場での表彰制度では声が大きい方や目立ちやすい方が選ば れてしまうこともあり、実際に現場で活躍している方たちに光を当てたいという声がありまし た。

竹内:

現在の PoC では、多くの技能者に使ってもらうための検証を積み重ねている段階です。 まずは、現場の技能者同士で働きぶりを評価して「いいね」を送り合うシステムを構築しています。セガ エックスディーさん(株式会社セガ エックスディー)にも関わってもらい、ゲーミフィケーションを用いて継続利用してもらえる仕組みを構築し、更に PoC の中で技能者からフィードバックをもらい、改善を続けています。

将来的に彼らの業務に対する評価がデジタル ID として記録されれば、技能者側でも利活用でき、例えば銀行での借り入れ時にも信用スコアのような形で役立てられる。建設業界全体でそのような技能者一人一人の働き方を変革する世界を実現したいと考えています。

AR 技術を活用して墨出し業務・施工管理を効率化

竹内:

施工現場での業務効率化に向けた取り組みとしては、現場データ連携に特化した Onesight Technology との PoC を進めています。墨出しという作業では、図面から必要な寸法を算出し、現場でミスがないか確認しながら進めるのですが、この業務に慣れるまで何年もかかります。AR を活用して、現地で BIM と重ね合わせることによって、業務に慣れてない若手社員でもわかりやすく図面と現場の情報を照合して施工管理ができます。Onesight Technology は位置情報の認証がしやすく、改善対応のスピードも早くてありがたいです。

西尾:

経験が浅い社員でも直感的に施工管理ができるようになれば、大幅な業務改善が見込めるため現場所長もぜひ本取組を続けていきたいと話しています。今後は、AppleVisionProとの併用により、精度を高めてより広範囲な現場でテスト利用を進めていきたいです。

スマートシティ領域における複数の取り組み

ーー現在 Plug and Play の Smart Cities プログラムに参画されていますが、スマートシティに関連する取り組み事例はありますか?

竹内:

Otonoさんとの取り組みは、もともとは現場訪問者に対する案内業務の効率化という目的からスタートしましたが、今はスマートシティの文脈で多目的な取り組みが進んでいます。

西尾:

現在は工事現場の仮囲いに QR コードを貼り、近隣住民の方に工事の進捗状況を伝える実証準備を進めています。その他、万博エリアの工事現場におけるルート案内でも活用を進めています。

三輪:

万博の工事現場には、アジア太平洋トレードセンター(ATC)から夢洲の工事現場に向 かう送迎シャトルバスが運行されています。夢洲は 390ha と広大な敷地で、技能者にとっ て、バスが夢洲のどの辺りを走っているかわかりにくいという課題がありました。そこで Otonoさんの音声観光ガイドアプリ「おともたび」を建設現場に適用いただきました。スマホを使った GPS 連動のアプリです。スマホのブラウザーを使って、万博工事に関わる他社を含 む全ての技能者が利用できます。運行経路上に万博施設の完成予想図も載せており、ユーザーは音声ガイドを聞きながら万博会場をイメージすることができます。

大阪市域は、内閣府「スーパーシティ型国家戦略特区」に指定されています。夢洲では『夢洲 コンストラクション』という実施主体の異なる各工事を連携させるデータ連携基盤の構築に取り組んでおり、そのなかで「工事現場内外の移動の円滑化」や「技能者の安全管理の円滑化」 にも Otonoは寄与しています。

今後は、まちづくりと連携した音声ガイドの活用を検討しています。訪日外国人の観光目的や ルートを国別のデータで見ると、歴史が好きでお寺を訪ねるケースや、日本の自然に触れるためにトレッキングに行くケースなど、国ごとの文化や生活圏によって嗜好は異なるようです。 それぞれの目的や嗜好に寄り添ったまちの音声ガイドへの展開を考えています。

ーースタートアップとの協業において、工夫された点や現在の課題について教え てください。

竹内:

PoC の予算確保と工事現場のスタートアップ受入体制の構築という、2 つの大きな課題に対しては環境をある程度整備することができたと考えていますが、現場所長に、技術や取組みの価値を感じてもらうことが最も大切なので、他の現場での活用事例などを積極的に所長に 伝える機会を設けるようにしています。

現在の課題は、スタートアップとの協業検討が追いつかないところです。各部門への導入を促 すうえで、我々が伴走していく必要があるため、技術探索を続けながら進行中の PoC を推進する難しさを感じます。

ーーこれから鹿島建設との協業を希望するスタートアップに対して、メッセージ をお願いします。

竹内:

現在の課題としてお伝えした通り、リソース不足で検討を前に進めづらい時期というの はどうしてもあります。また、検討に際しても社内調整に時間がかかることがあります。一度目のタイミングが合わなくても、相互に情報共有を続けていき、新たな協業の足がかりを相互 に探り合える関係を作りたいと考えているので、ぜひプロダクトや事業の進捗など継続してお伝えいただけるとありがたいです。スタートアップとの関係は相互に成長を期待できる対等な関係でありたいです。

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