世界が注目する「日本の玄関口」から、都市のESG価値を再定義する
2026/03/30
HANEDA INNOVATION CITY(以下「HICity」)は、羽田空港に隣接した複合施設です。羽田空港の年間利用客数が9000万人を超える中、空港エリア全体を先端技術と日本文化が融合する「スマートシティ」として進化させる試みに注目が集まっています。
2025年、東京都が推進するスタートアップ支援施策「キングサーモンプロジェクト」の一環として、株式会社GOYOH(以下「GOYOH」)のAIソリューションを活用し、既存エリアのESG価値を可視化・数値化するという取り組みがおこなわれました。ESGの可視化が全世界的に進む中、空港周辺エリアが持つ価値をどのように発見し活用していくのか、プロジェクトの担当者たちに話を聞きました。
- 徳光 勇人氏:羽田みらい開発株式会社
- 伊藤 幸彦氏:株式会社GOYOH CEO and Founder
- 板橋 紀子氏:株式会社GOYOH Senior Sustainability Coordinator
背景と課題
2020年開業のスマートシティが直面した「ESGの空白」
「羽田空港エリアの開発プロジェクトの事業コンペが行われたのは2017年のことでした」と、羽田みらい開発の徳光勇人氏は振り返ります。
当時は現在ほど、不動産開発においてESGやSDGsがメインストリームではありませんでした。ハードウェアとしての省エネ設計などは盛り込まれていたものの、2020年の開業後、世界的にESG投資への関心が急速に高まる中で、HICityは一つの課題に直面していました。
「建物というものは、一度出来上がってしまうとなかなか更新しづらいものです。しかし、昨今のESGへの要請に対し、後付けでも何か取り組まなければならないという強い危機感がありました」
HICityは、大田区が所有する土地に50年間にわたって展開される長期事業です。持続可能な都市であり続けるためには、常に最先端のイノベーションを街に実装し続け、その価値を検証し続けなければなりません。この「後付けであっても、時代に合わせたESG価値を実装していく」というアプローチが、HICityの長期ビジョンに合致した出発点でした。

(画像提供:羽田みらい開発)
シナジーのポイント
なぜ「GOYOH」だったのか——デベロッパーの「言語」を持つテクノロジー
多くのESGスコアリングサービスが存在する中で、なぜGOYOHが選ばれたのでしょうか。そこには、技術力以上に重要な「共通言語」の存在がありました。
「GOYOHの伊藤さんは不動産アセットマネジメントのプロとしての背景をお持ちでした。我々デベロッパーが、投資家や行政に対してどのようなエビデンスを示せば納得を得られるか、そのツボを熟知されていたのです」と徳光氏は語ります。
建物を起点としたサステナビリティ価値の可視化に長年携わってきたGOYOHの代表、伊藤幸彦氏は、HICityという場所が持つ他にはない特徴に可能性を感じました。
「社会インパクトを考えたとき、建物単体では収まりません。エリアや都市という広がりの中で、いかに地域課題の解決と経済性を両立させるか。その実装フィールドとして、世界への競争力と玄関口としての機能を持つHICityは、これ以上ない理想的な場所でした」

(写真:羽田みらい開発 徳光 勇人氏)
デベロッパーが抱える実務上のペインと、スタートアップが持つ技術。両者が「不動産価値の最大化」という同じ方向を向いたとき、プロジェクトは動き出しました。
ソリューション
眠っていたデータがAIで目覚める——40から80へ、価値の「倍増」
プロジェクトが開始されると、GOYOHのチームはHICityに眠っていた4年分の膨大なデータの解析に着手しました。
「HICityは、先端的な設備だけでなく、運営面でも非常に多くのユニークな取り組みをされています」と伊藤氏は指摘します。地域住民との交流、地元企業の支援、水素ステーションの稼働、そして「足湯」の利用状況など、多岐にわたるデータが対象となりました。

(画像提供:GOYOH)
GOYOHのAIは、これらの多様なデータを読み込み、不動産運用や国際的なESG基準に照らしてマッピングしていきました。その結果は驚くべきものでした。
「プロジェクト当初に私たちが認識していたサステナブルな要素は約40項目でしたが、AIによる分析とヒアリングを経て、結果的に80を超える要素が特定されました。公開情報には含まれていなかった、文字通り『2倍の価値』が見えてきたのです」。
例えば屋上テラスで解放されている「足湯」といった、単なる観光客向けの施設だと思われていたものが、データを精査すると、地域住民や入居企業従業員の日常的な健康増進やコミュニティ形成に寄与しており、さらにそれは地域課題の解決へ寄与する要素でもあり、入居企業からも求められていたものでした。東京都の他の大型ビル約1,000棟との比較では、HICityはウェルビーイングやコミュニティエンゲージメントといった項目においてはともに上位5%以内の高い評価が確認され、定性的な「Social(社会)」の価値が裏付けられました。

(写真:GOYOH 伊藤 幸彦氏)
「やっているけれど測っていなかった、あるいは測り方が分からなかった価値が、不動産の機能とステークホルダーへの価値を体系立てて定義し、AIを駆使することによって手に取るように分かるようになりました。これは世界的に見ても、極めて最先端の取り組みだと自負しています」と伊藤氏は解説します。
実装の結果
キングサーモンプロジェクトがもたらす「公共の信頼」
今回のプロジェクトは、東京都の「キングサーモンプロジェクト」の枠組みで行われています。スタートアップの技術を社会実装し、海外展開を支援するこの公的支援は、両者に大きな影響を与えました。
徳光氏によれば、行政の関与は「場所貸し以上の価値」をもたらすといいます。
「我々民間企業だけでは、どうしても場所をお貸しすることしかできませんが、東京都のプロジェクトという枠組みがあることで、事業の公共性や信頼性が担保されます。官民連携による社会的妥当性の裏付けが得られることは、経営層や大田区などの行政機関と連携する際に、大きな説得力となります」
また、GOYOH側にとっても、海外販路拡大を目指す上でこの「公共性」は大きな武器となっています。

(写真:GOYOH 板橋 紀子氏)
「すでにアジアの大規模都市開発エリアでの取り組みが進んでおり、また欧州の空港からも問い合わせをいただいています。羽田という日本の玄関口で、東京都と一緒に社会課題解決を実装しているという事実は、海外のプレイヤーにとっても極めて高い説得力を持ちます」
また、当プロジェクトに代表される、GOYOHによる社会インパクトやサステナビリティを都市・企業・利用者の価値に転換する取組みは、公共的および事業的な価値を高く評価され、東京金融賞2025 サステナビリティ部門の本賞を受賞しました。

(画像提供:GOYOH)
10年後の東京を創る——スタートアップが「橋渡し」となる未来
両者の社内にも変化が生まれています。GOYOHの伊藤氏は、今回のプロジェクトについて「10年後の東京の価値を創るという熱意を持って取り組んでいる」と語ります。
「品川から羽田空港までの一帯は、次世代の都市開発の軸になります。ここで得られた知見は、単なる一施設の改善にとどまらず、東京都全体、さらにはグローバルな都市づくりの『ベストプラクティス』になるはずです」
一方、羽田みらい開発側も、今回の実装を経て、オープンイノベーションに対する姿勢がより明確になったと語ります。
「よく『課題は何ですか?』と聞かれますが、実は我々自身が課題を言語化できていないことが多いのです。それをGOYOHさんのように、整理して言語化し、解決策を提示してくれる存在は非常に貴重です」と徳光氏は語ります。
今後の展開
人と企業と技術が交差する「化学反応」の場へ
HICityの魅力は、単なる最新技術の展示場ではないという点にあります。
「ここは空港に近く、ものづくりに関わる日本企業との関係も深いです。日本のマーケットに入りたい海外勢にとっても、ショーケーシングの場所として最適です」と徳光氏は結びます。
GOYOHの伊藤氏も、さらなる展望を描いています。
「HICityは人と企業と技術が交差する場所です。我々のプラットフォームが橋渡しとなって、多様なスタートアップの技術がここで化学反応を起こし、社会課題を解決していく。そんなWin-Winなきっかけをこれからも創り続けていきたいと考えています」
羽田という日本の玄関口で磨き上げられた『街の真の価値』を可視化する技術は、世界中の都市が抱える課題を解決する可能性を秘めています。

