新規事業開発において重視すべきイノベーション指標とは?
2023/10/06
なぜ「イノベーション指標」が必要なのか?
オープンイノベーションにおいて、その成果を可視化することは容易ではありません。テクノロジーやビジネスモデルにおける画期的な進歩は、あらゆる組織の収益に大きな影響を与えるため、これらを評価する指標を基に分析することは、イノベーションが企業の成長にどのように貢献しているかを理解するために重要であり、今後の方針を決定する材料となります。
イノベーション指標を設定することで、企業は長期的な進捗状況を把握し、データに基づいた意思決定をすることができます。しかし、財務結果を重視しすぎると、本当に画期的なアイデアが形になるのを妨げる無難な方針をとることになりかねません。本記事では、企業がオープンイノベーションを活用して新規事業を生み出す上で役立つ「イノベーション指標」について紹介していきます。
(本記事はPlug and Playによる英文記事 “5 Innovation KPI Metrics Every CEO Should Care About“を参考に、Plug and Play Japanが編集・加筆し作成しました。)
BNP Paribaにみるイノベーション活動の実績とアプローチ
イノベーションは、さまざまな方法で測定することができます。イノベーションの評価には、売上や利益の成長だけでなく、顧客関与や市場シェアの拡大、そして組織内外のステークホルダーからのフィードバックを総合的に考慮することが重要です。
この動画では、Plug and Playとのパートナーシップによりスタートアップとの共創支援に取り組むBNP Paribaにおけるオープンイノベーション活動の実績が紹介されています。BNP Paribaは、51社のスタートアップを支援し、62件の実証実験をおこない、そのうち37%が製品化や事業化に繋がったことを発表しています。また、18事業部の巻き込みや、3,000名の顧客とのPoCプロジェクトの実施、15万人以上のユーザーへの貢献など、活動の成功例が紹介されています。これらの実績は、イノベーション指標を設定するごく一例に過ぎませんが、イノベーション指標に着目することで、企業は改善すべき分野をより的確に絞り込み、外部パートナーとの協力による投資対効果を最大化することができます。
最重要視すべき5つのイノベーション指標
それでは、ここからは企業が新規事業開発において最も重要視すべき5つの指標を紹介していきます。
1. 投資収益率(ROI)
財務結果のみに頼りきることは望ましくありませんが、ROIは、企業がイノベーションの取り組みからどれだけの収益と利益を生み出したかを追跡するうえで役立ちます。この指標は、企業が活動の成功を評価し、どのプロジェクトを継続または拡大する価値があるかを判断し、投資の財務的影響を測定するため、コーポレート・イノベーションに不可欠です。
2. 市場投入するまでの時間(Time To Market)
TTMは、企業が新製品やサービスをいかに早く市場に投入できるかを測るものです。この指標は、業務効率を改善しながら、新製品やサービスの発売を早める機会を提供するため、企業のイノベーションにとって極めて重要です。さらに、この指標を理解することで、企業は新規事業に投資すべきか、既存の製品やサービスの改善に注力すべきかというタイミングを見極めることができます。
3. アイデア形成率
競争力を維持するために、企業は新しいアイデアやコンセプトをいち早く定める必要があります。この指標は、社員の開発プロセスへの関与を測定することで、そのクリエイティビティに注目し、成功または停滞の可能性がある領域を評価するものです。これにより、企業はイノベーティブな新製品やサービスを継続的に推進することができます。
4. 文化・社会に与える影響
企業は競争力を維持するために、自社の製品・サービスやプロセス・戦略が、世界中のさまざまな文化価値にどのように適合し、受け入れられるかについて理解する必要があります。社会・文化に与える影響には、地域または国ごとの特性、規制、宗教的慣習、社会規範、技術力、経済的資源などがあります。革新的なソリューションや製品を開発する際に、文化の違いにおける微妙な差異を考慮し、そのために必要なリサーチをおこなうことで、企業は最も幅広い顧客にアプローチし、広い市場における浸透と持続的な成功を収めることに繋がります。
5. 顧客満足度
顧客満足度は、企業が顧客のニーズにどれだけタイムリーかつ効果的に応えているかを知ることができるため、企業のイノベーションへの貢献度を測る上で重要な指標となります。顧客満足度が高ければ、企業が顧客の期待に応え、変化する市場の需要に対応したイノベーションを起こしていることを示していると言えます。また、顧客からのフィードバックをもとに、改善すべき点を特定し、顧客ニーズを満たす新製品の開発に注力したり、既存製品をより顧客ニーズに合うように調整したりすることも、オープンイノベーション活動の計画に役立てることができます。
企業のイノベーション戦略の成功を評価するには、売上と利益成長、顧客へのリーチとエンゲージメント、市場シェア、顧客調査とフィードバック、社内への聞き取り調査の5つのアプローチが有効です。売上と利益成長は新製品やサービスの導入による売上高や利益の増加を監視し、顧客へのリーチとエンゲージメントでは顧客へのアプローチと関与度を評価します。市場シェアは新製品やサービスの市場でのシェアを測定し、顧客調査とフィードバックは顧客の認識と行動に関する情報を収集します。最後に、社内への聞き取り調査は定性的なアプローチで、組織の文化やプロセスへのイノベーションの影響を詳細に調査します。これらの指標を用いて、イノベーションの成功を総合的に評価することが重要です。
海外大手企業のイノベーション指標事例
この動画では、イスラエルに本社を構え、肥料や特殊化学事業を展開するICL GroupのDirector of External InnovationであるRobert Stenekes氏が注目するイノベーションの指標をいくつか挙げています:
- 連携事業部やスタートアップの数(担当事業部は、何社のスタートアップと関わってきたか?)
- PoC、パイロット案件数(パイロットプロジェクトを何件実施したか?)
- 検証技術数(これまでにどれだけの数の技術を調査したか?)
- 新規事業件数(協業による事業を何件始めたか?)
一方で、フィンランドに本社を構える電力会社FortumのStartup Sourcing and Market Analysis Manager Heikki Koponen氏は、オープン・イノベーションの評価方法について「指標は何をしたかという活動ベースで定量的に測られることが多く、どのような効果をもたらしたかというインパクト・ベースで定性的に評価されづらい傾向にある」と言及しています。
活動量を測定するだけでは不十分で、むしろ定性的な要素も取り入れながら、活動のインパクトについて測ることは、分析を通じて画期的な進歩を遂げようとする組織にとって、極めて重要です。イノベーションを成功させるためには、その効果を検証するための指標やKPIに、財務管理が可能なデータと無形資本によるアセットを反映させる必要があります。
これらの指標によって、製品やサービスに対する顧客満足度、一定期間内に登録された特許数、新製品やサービスの発売までにかかった時間など、効果的な計画を立てる際に含めるべき必要な情報を測ることができます。またこの戦略には、関連プロジェクトや企画に対するリソース配分や、組織内のチームを効果的に協力させる方法、最先端技術を活用して顧客インサイトを即座に獲得する手順といった要点を押さえる必要があります。
戦略や指標を決めたあとは?組織内共有の重要性
どのようなプロジェクトにおいても、イノベーションを成功させるためにはチーム内およびリーダーや実務担当者間で十分なコミュニケーションを最優先することが重要です。シドニー工科大学の研究によると、従業員のうちわずか29.3%しか自社の戦略を理解していないというデータがありますが、明確な目標設定と進捗共有が組織全体で透明性をもって伝えられれば、関係者全員が目標達成に向けて協力しやすくなります。組織は進捗状況の定期的な更新や成功だけでなく失敗も共有することによって、チーム間での創造性と協力を促す環境を作り出すことができます。KPIを共有することで、全員が同じ目標に向かって動くことができ、プロジェクトが成功する可能性がより高まります。
イノベーションを測定するための適切な手段を選ぶことは、組織がどこまで進歩できるかに大きな違いをもたらします。リーダーは、イノベーションの成功に向けて最も重要となるKPIについての理解を深め、進捗状況を把握し、必要な場合には軌道修正できるよう、継続的に努力すべきです。また、これらの指標を理解することは、マネージャーが自信を持ってリソースの割り当てと優先順位を計画し、決定するのにも役立ちます。確立されたパフォーマンス基準に関する明確なコミュニケーションは、チームメンバーの参加を促し、社内からのイノベーションへのより大きな投資を促す上で重要です。成功や失敗を共有することにリスクを感じる必要はありません。それはチームの学習、実験、リスクを取る挑戦を奨励するために重要なのです。
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本レポートでは過去5年間、Plug and Play Japanが50社以上の主要な日本企業に対するオープンイノベーションの支援経験から、スタートアップとの協力における鍵となるポイントを紹介しています。初めてオープンイノベーションに参加する方から、新規事業開発の経験豊富な方まで、幅広い層の方までお役立ていただけます。