プラスチックごみをなくし、サステナブルなパッケージへ - Blue Lake Packaging
2022/03/30
Blue Lake Packagingは、メーカー・企業のサプライチェーンをより持続可能なものにし、パッケージング(包装・資材)業界におけるプラスチック汚染問題の解決に取り組んでいる。代替プラスチックの持つ課題を解決し、自然環境を次世代に残すという同社のミッションについて聞いた。
Interviewer: Suzu Kitamura
Blue Lake Packaging, Inc.
https://www.bluelakepackaging.com
Blue Lake Packagingは、100%繊維ベースのパッケージングソリューションを提供し、パートナー企業がサプライチェーンや製品のライフサイクルを通じてプラスチック廃棄物を削減し、最終的にゼロにすることを可能にします。
Ying Liu
Founder and CEO
イン・リウ氏は、工学学士号と経営学修士号を持つ、サプライチェーン・マネジメントとCSR(企業の社会的責任)の専門家である。BLPを設立する以前は、Appleのシニア・グローバル・オペレーション・ディレクターとして、Apple China Procurement and Operationsの設立を担当。これらの経験と環境に対する情熱から、インは製造工程における持続可能なパッケージングを提供するスタートアップを設立する道を歩むことを決意した。
プラスチック汚染は、国際的な問題として近年重視されるようになった。毎年、我々は約3億トンのプラスチックを排出し、これは地球上の全人類を合わせた量にほぼ匹敵する。この問題を解決するためにリサイクルなどが叫ばれているが、これまでに排出されたプラスチック廃棄物のうち、リサイクルされたものはわずか9%で、残りは埋立地や自然の中に埋もれている。耐久性に優れたプラスチックは決して劣化することなく、小さな粒子に分解され、海、魚や動物、そして人間の体にも浸透していく。
イン・リウ氏は3年前、友人から「持続可能なパッケージを製造している会社を探してほしい」と頼まれ、パッケージ業界のプラスチック汚染の現実に直面した。当時中国に住んでいたインは、世界中のサプライチェーンについて詳しかったにもかかわらず、サステナブルなパッケージを提供している企業を探すことは決して簡単なことではなかった。インは多くの工場を訪問した結果、従来の包装に代わるサステナブルな包装を専門的に製造している業者がいないという事実を知ることになった。
その後、インはアメリカに戻り、カリフォルニア州の*MRF(Material Recovery Facility: 資源回収施設)を訪れた。そこで彼女が目にしたのは、周辺の家庭から集められたゴミの山だった。「家庭から回収されたゴミが山積みにされ、プラスチックの種類ごとに選別されていました。ゴミの回収は市場原理が働いており、ある種のプラスチックだけがリサイクルの対象となるのです」とインは語る。「自分が捨てたゴミがどこに捨てられるのか、考えたことがなかったんです。現実を突きつけられました」
*MRF(マテリアルリカバリーファシリティ)は、ゴミを処理し、リサイクル可能なものをメーカーに販売する廃棄物処理施設。メーカーはリサイクル可能なものだけを原料として使用する。
しかしインは見て見ぬふりをすることなく、自ら行動を起こし、変化をもたらすことを目指した。起業する以前、インはAppleに勤めていたが、彼女は新事業を立ち上げる経験をすでに持っていた。中国に派遣されてApple China Procurementをたった一人で立ち上げ、中国の調達業務全体をゼロから構築し、適切な人材が見つかるまであらゆる部門を担当したのだ。「人を雇い、事務所を探し、事務用品を買う方法を考えなければなりませんでした。限られたリソースの中で、人事、IT、財務、その他あらゆる部門を兼務することになりました。大手企業にいながら、起業家的な体験ができました。」
インは過去の経験を活かし、テクノロジーやバイオマス素材に精通したビジネスパートナーとチームを組みながら、環境に対する情熱を共有できる仲間を見つけ、2018年に持続可能なパッケージングソリューションを提供するスタートアップBlue Lake Packagingを設立した。インは「生分解性、堆肥化性、そして最低限リサイクル可能な製品を作る必要性を感じました」と説明し、これらの性質をもった製品のことを「Exit-friendly product(廃棄段階まで考慮された製品)」と呼んでいる。
Blue Lake Packagingは、製品の原材料に生物再生可能な資材を使用している。世界中の製紙工場(中国、ブラジル、ノルウェー、フィンランド)から繊維を調達し、バガス(サトウキビの葛)や竹などの材料も利用している。また将来的には、農業廃棄物も原料として再利用することを視野に入れている。しかしインにとって、真に持続可能なパッケージング製品を作ることは、単に環境に優しい材料を使うということにとどまらない。「当社の考える持続可能性とは、パッケージング製品のライフサイクル全体を対象としています。もちろん、原料は再生可能なものを使用し、製造工程ではエネルギーと水の使用量を最小限に抑え、有害な化学物質を使用しないことを保証しています。しかし、当社の競合優位性は、製品がバリューチェーンの最後に何が起こるかに焦点を当てていることです。」
例えば、Blue Lake PackagingのLucerneTM Fiber Film(LFF)は、プラスチック製のフィルムと同様の特徴と機能性を備えている。しかし、LFFは100%天然繊維でできているため、生分解性に優れていることが特徴だ。LFFはバリューチェーンから外れると、紙と一緒にリサイクルされるか、工業的に利用されるか、あるいは家庭で堆肥化されるか、その地域で利用可能な方法に基づいて成分解される。自然中では3ヶ月で完全に生分解されるという。
また、部品や仕掛品を輸送する際の梱包も含め、製造工程全体を意識する必要があると、インは強調する。サプライヤーやサプライチェーンの管理に長年携わってきたインは、ここに存在する市場機会を実感してきた。「サプライチェーンの過程で、もっと環境にやさしくできる素材がたくさんあるはずです。それがサステナブルパッケージングの市場機会だと考えています。サプライチェーンの中で使われるパッケージも含めて、バリューチェーン全体が環境にやさしいものであるべきです。企業には、完成品の包装だけでなく、その先を考えてほしいと思います。」
Blue Lake Packagingは、透明フィルムや保護フィルムから発泡繊維まで、あらゆるパッケージの代替となる製品を提供している。同社はメーカーと協力し、特定のニーズに対応したバイオベースのソリューションを開発している。同社が参入した業界の一例として、自動車産業が挙げられる。「新車には、車体、ダッシュボード、フロントガラスなど、たくさんの保護フィルムが貼られています。それらの用途に向けて、私たちは堆肥化可能な代替品を提供しています」とインは言う。
また、静電気防止用のESD (Electrostatic Discharge)パッケージも同社の代表製品だ。インはこの製品について、日本市場に潜在的なチャンスがあると見ている。「日本はエレクトロニクス産業が盛んで、他の国々と比べても非常に進んでいます。環境保護の観点からも、私たちのESDパッケージング・ソリューションは適しているのではないでしょうか。日本のブランドやメーカーと協力して、私たちの持つ技術を活用し、プラスチック廃棄物の削減を支援することに非常に興味があります。」
インが日本で大きな市場の可能性を感じているのは、エレクトロニクス産業だけでなく、人々や文化にも理由がある。「日本のライフスタイルや市場に関する私の知識では、環境に対して関心が高く、どんな素材を使うかに敏感で、リサイクルやコンポストに熱心な人が多いと感じています。そのような考え方やライフスタイルは、Blue Lake Packagingが提供する製品に適しています。」
Blue Lake Packagingは、出口に優しい製品へのこだわりだけでなく、製造工程のすべての段階で環境に配慮することの重要性を強調し、パッケージング業界に革命を起こしている。同社には無限の可能性があるが、その分、課題も多い。ひとつは、サステナブルパッケージング企業にとって、機会の多さそのものが課題であるとインは言う。「いかに早くソリューションを生み出し、新製品を世に送り出せるかが勝負です。私たちは、世の中に変化をもたらすために、たくさんの機会を追い求めています。私たちのチームは多くの時間をリサーチに費やしていますが、比較的小さなスタートアップなので、現実的に追求できる機会を選んでいかなければなりません」。
また、世界的な大流行で渡航が制限されたことも、同社にとって大きな問題となった。20人のメンバーが2つの国に分かれているため、インは蘇州のチームやパートナーとのオンラインコミュニケーションに制限されたことが辛かったと語る。
さらに、インにとってもう一つの課題は、子育てと起業の両立だ。「子供たちの良いお手本になるように、生活と仕事、そして個人的な目標や影響力のバランスを取る必要があることを示したいと思っています。これらは私にとって非常に重要なことです。」 そして、親であるインにとって、Blue Lake Packagingのビジョンである、将来の世代にプラスチック汚染のない環境を提供することは、個人的な意義でもある。「私の2人の子供が大人になったとき、どのような世界を経験するのか、とても心配です。もしかしたら、きれいな土はどこにもないのかもしれません。あるいは、きれいな海の水を見つけることができないかもしれない。」
インのストーリーから私たちが学べることは、企業であれ個人であれ、私たちの身近にある課題を認識し、それに向けて行動を起こすことの重要性ではないだろうか。「誰か」ではなく「私たちひとりひとり」が、「いつか」ではなく「今」行動すべきなのではないだろうか?