エクイティファイナンスとは?資金調達の方法と事例を解説
2025/05/28

スタートアップにとって「資金調達」は成長のためのエンジンであり、その設計次第で未来の姿は大きく変わります。
エクイティファイナンスは、スピードとスケールの両方を追求する企業にとって、避けては通れない選択肢です。しかし、ただ資金を集めればいいわけではありません。バリュエーション、株式比率、投資家との関係――すべてが“将来の自由度”に直結します。
本記事では、スタートアップの経営者・CFOが知っておくべき資本政策の設計法と、成功/失敗事例をもとに学ぶ実践的なポイントを徹底解説します。
(Unsplashのcharlesdeluvioが撮影した写真)
1. エクイティファイナンスとは?
エクイティファイナンス(Equity Finance)とは、企業が株式を発行して投資家から資金を調達する方法を指します。投資家は取得した株式比率に応じて、株主総会へのオブザーバーとしての参加から取締役選任などの経営判断まで、企業の経営権の一部に関わる立場を得るのが大きな特徴です。
エクイティファイナンスは返済義務がない代わりに、株式を投資家に渡すことで経営権に関わる調整や配当方針などを共有しなければなりません。特にスタートアップの場合、短期で大きな資金を必要とするケースが多いため、返済リスクを軽減できるエクイティファイナンスは成長戦略と相性が良いといえます。
デットファイナンス(銀行融資)との違い
デットファイナンス(Debt Finance)とは、一般的に銀行や金融機関からの借り入れによって資金を調達する手法を指します。借入金額に対して利息を支払い、原則として期日までに返済義務があるのが特徴です。
エクイティファイナンスとデッドファイナンスの一般的な違いをまとめると以下の通りです。
デッドファイナンスには、金融機関からの借入、社債、コマーシャルペーパー(短期の約束手形)などがあります。
エクイティファイナンスがスタートアップに必要な理由
スタートアップは市場に新しい価値を提供し、急速に事業規模を拡大することを目指すため、研究開発や採用、マーケティングなどに大量の資金を投下する必要があります。
また、スタートアップの成功率(M&AやIPOなどのEXITまで辿り着く)は10%未満(*)。
そのため、返済を前提とする銀行融資のみで資金調達を行うことには大きなリスクを伴います。出資者側がハイリスクであることを前提としているエクイティファイナンスを活用することで、将来的なリターン(株式の価値上昇)を期待するVCなどの投資家から大規模な資金を調達しやすくなります。また、投資家の持つネットワークやノウハウ、経営アドバイスはスタートアップの成長を後押しする大きな武器になります。ハイリスク・ハイリターンな事業領域へ積極的に挑戦しようとするスタートアップほど、返済負担の少ないエクイティファイナンスによる資金調達が重要なのです。
2. エクイティファイナンスの種類
エクイティファイナンス(株式を使った資金調達)と一口に言っても、その手法は複数存在し、企業のフェーズや目的によって使い分けが必要です。この章では代表的な手法を取り上げ、それぞれの特徴・適用場面・留意点を整理します。
第三者割当増資(Third-Party Allotment)
既存株主以外の特定の第三者(VCやCVC、エンジェル投資家など)に対して新株を発行する形の増資手法です。スタートアップで最も一般的なエクイティファイナンスの手段です。
特徴
- VC・CVCなど外部からの資金調達に最適
- 投資契約・株主間契約などがセットになるのが一般的
- 株式比率の変動に注意(経営権の希薄化リスク)
第三者割当増資は一般的なスタートアップの資金調達方法で、シード〜シリーズC以降の幅広いフェーズで広く利用されています。調達額だけでなく、「どの投資家からの出資か」が企業価値や次ラウンドに影響するため、調達先は慎重に見極めないといけません。また、投資契約書の中で、優先株、清算優先権、議決権制限などの条件が設けられるため、法務・財務面の慎重な検討が不可欠です。
株主割当増資(Rights Offering)
既存株主に対して新株を割り当てる形で行う増資手法です。各株主が現在保有している株式数に応じて持ち株比率を維持できるよう、新株予約権(ライツ)を与えるのが特徴です。
特徴
- 希薄化を避けたい既存株主に配慮できる
- 株主からの支援強化につながる
- 上場企業では比較的使われやすい
少数の株主構成で設立されているフェーズで、内部からの追加出資を得たい場合には有効です。ただし、すでに外部投資家が多く関与している場合は、合意形成の難しさがネックになります。
公募増資(Public Offering)
不特定多数の投資家(証券市場)を対象に新株を発行する方式で、主にIPO後の上場企業が用いる手法です。未上場企業には通常適用されません。
特徴
- 大規模な資金調達が可能
- 市場の評価に基づくバリュエーション
- IR体制・ディスクロージャー義務が発生する
スタートアップの直接的な活用機会は少ないですが、将来的にIPOを視野に入れる場合、「IPO後の資金調達手法」として理解しておくことが重要です。IPO後に事業拡大資金を確保するために、再度公募増資を実施する上場スタートアップも増えています。
転換社債型新株予約権付社債(Convertible Bond with Stock Acquisition Rights)
いわゆる「CB(Convertible Bond)」や「新株予約権付社債」と呼ばれる手法で、社債として資金を調達しつつ、将来あらかじめ定めた条件で株式へ転換できる仕組みを持つ資金調達手段です。
特徴
- 初期段階ではデット(借入)として扱われるが、将来的にエクイティ(株式)に転換される
- 調達側にとっては希薄化のタイミングをコントロールしやすい
- 投資家にとっては下方リスクを限定しつつ、アップサイドを確保できる柔軟な仕組み
新株予約権付社債を使えば、厳格な企業価値評価の先延ばしが可能であり、迅速な資金供給ができます。スタートアップなどが将来の株式転換を前提に、先に資金提供を受けるエクイティファイナンス手法です。
転換時の株価を固定せず、ディスカウントやキャップ(上限価格)を事前に設定しておくことで、企業価値の評価を先延ばしにできる点が特徴で、事業リスクの高いシード期でも柔軟に資金を集められます。
【コラム】J-KISSとは何か?――日本版「SAFE」の新しい選択肢
J-KISS(Japan – Keep It Simple Security)は、米国のY Combinatorが開発した「SAFE(Simple Agreement for Future Equity)」(*)の日本版として策定された投資契約のフォーマットです。
特徴
- 将来的に株式転換される前提の“簡易型投資契約”
- バリュエーションの議論を先送りにし、スピーディに資金調達が可能
- 発行時点では株式を発行せず、後日イベント(例:次ラウンド)で株式へ転換
シードやプレシード期のスタートアップにとって、契約交渉の工数を大幅に削減できる点が最大の魅力である一方、ファイナンスの理解が浅いまま導入すると後々のトラブルの元になりうるため、「いつ・いくらで株式に転換されるか」の条件設計は慎重に行う必要があります。
「今すぐに資金が必要だけど、バリュエーションがまだ決まらない」「次の調達ラウンドが近く、スピーディに資金を入れてプロダクトを進めたい」といったスタートアップにおすすめの手法であり、J-KISSは日本のスタートアップファイナンスの柔軟性を高める新しい選択肢として、特に初期フェーズにおいて導入事例が増えています。
3. エクイティファイナンスのメリット・留意点
スタートアップがエクイティファイナンスを検討する際、主な選択肢として挙げられるのが「ベンチャーキャピタル(VC)」「銀行融資」「コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)」「エンジェル投資家」です。それぞれの特徴やメリット・デメリットを理解し、自社の成長フェーズや資本政策に合った選択を行うことが重要です。
以下に、各資金調達先のポイントを比較表にまとめました。
資金調達を行う場合、一社のみから資金調達を行うことや、1つの調達先のみを利用するのではなく、自社の目的に合わせて組み合わせることが肝要です。例えば、まだ売上がほとんどないシード期で大きな額を銀行から借りるのは難易度が高いです。一方で、ある程度事業実績が出た後なら、銀行融資などデットファイナンスの選択肢も広がり、資金調達手段の幅が広がります。
また、出資者の特性(例えば、VCの支援スタイルやCVCの戦略的メリットなど)を理解し、自社のビジョンや経営方針と相性が合うかを確認しましょう。相性が悪いと、後々の追加投資や経営判断に支障が出るケースもありますので注意が必要です(詳細は後述)。
【コラム】クラウドファンディングという選択肢
クラウドファンディング(Crowdfunding)は、インターネットを通じて不特定多数の投資家(もしくは支援者)から資金を集める手法です。近年は、製品開発や社会的意義のあるプロジェクトなどで大きな金額を集める成功事例が相次いでいます。
製品ローンチ前のマーケティングやユーザーコミュニティづくりを重視するなら魅力的な選択肢となり得ます。一方で、数億円規模の本格的な資金調達を目指す場合、VCなど他の調達手法と組み合わせることが一般的です。
また、近年は「株式投資型(Equity Crowdfunding)」も増えつつありますが、法規制や投資家保護の観点で制約が多い点を理解する必要があります。
いずれにしても、自社のフェーズや目的に応じてクラウドファンディングを活用するかどうかはメリットとデメリットを比較した上で、慎重に検討しましょう。大きな爆発力を持ちながら、想定以上のリスクも内包しているのがクラウドファンディングの特徴です。
4. 重要なのはゴールから逆算したエクイティファイナンスの設計
スタートアップがエクイティファイナンスを検討する際に見落としがちなのが「ゴールから逆算した資本政策の設計」です。エクイティファイナンスを考える上では、成長の先にあるエグジット戦略(IPO、M&A、事業売却など)や次の調達ラウンドを見据え、どのタイミングでどれだけの資金を、どの投資家から調達すべきかを検討する必要があります。
以下では、そのポイントを3つの観点から整理します。
1. IPOとM&A・事業売却、どちらを視野に入れるかで変わる最適解
スタートアップの最終的な目標(エグジット戦略)としては、一般的に「IPO(新規株式公開)」「M&A(他社による買収)」が挙げられます。どの出口を想定するかによって、調達手法や希望する投資家のタイプ、株主構成が大きく変わってきます。
- IPOを目指す場合
企業価値の透明性やガバナンス体制が重視されるため、複数のVCやCVCが株主として入るケースが多くなります。また、上場基準をクリアするための内部体制構築も求められます。 - M&A・事業売却を視野に入れる場合
自社事業と相乗効果のある大手企業や海外企業とのパートナーシップを強化し、特定企業にとって魅力的なバリューを提供できる形に仕上げる必要があります。CVCや戦略的投資家との連携が進むことも多いです。
- IPOを目指す場合
2. ランウェイ設定と調達サイクル管理
ランウェイとは、現在のキャッシュと予測されるコストから逆算して「いつ資金が尽きるか」を計算した期間のことです。スタートアップが資金繰りで最も恐れるのは「キャッシュアウト」であり、このランウェイを定期的にアップデートし、どの段階で追加の資金調達が必要になるかを明確にしておくことで、“資金ショート”のリスクを回避できます。
スタートアップは成長のための投資を優先するため、キャッシュの消耗(バーンレート)が大きくなる傾向にありランウェイは短くなりがちです。計画以上に支出が増えるケースを想定し、多いため、保守的に計算するのが無難です。シード期のように、事業収益が十分に無い際のランウェイ設定は、一般的には12~18ヶ月程度が理想的とされています。一方、バリュエーションが低い初期に株式で資金調達しすぎると、必要以上に株式を渡すことにもなりかねないので、ランウェイ設定とのバランスが重要です。
また、 次のラウンドを起案する際には、交渉・契約に数カ月かかることを織り込む必要があります。着金までのリードタイムを見据えて、少なくともランウェイが半年以上残っている段階で調達をスタートするのが一般的です。
3. 株式比率・バリュエーションの意思決定
エクイティファイナンスでは、「どれだけの株式を投資家に渡すか」が重要な検討ポイントです。この割合は、資金調達額と企業のバリュエーション(評価額)によって決まります。バリュエーションは、事業の成長性や市場規模、実績などをもとにそのラウンドを取りまとめる投資家(リードインベスター)とスタートアップが交渉して決定されます。
適切な比率設定のポイントとしては下記が挙げられます。
- 経営権コントロール:経営者が最低限保持しておくべき株式比率を明確化する(5章にて解説)。
- 追加調達の余地:将来的なラウンドでの株式希薄化も見越して、各ラウンドごとの譲渡比率を計画する。
- 交渉範囲の確認:投資家が要求する株式比率や優先株条項などを想定し、事前に受け入れラインを定めておく。
また、エクイティファイナンスは、1回きりではなく複数のラウンドを重ねるのが一般的です。そのため、今回の調達だけでなく「次のラウンドではどのくらいの資金を、どんな投資家から調達するか」を大枠で見通しておくと、よりスムーズに資本政策を進められます。
以上のように、ゴール(エグジット)を見据えたエクイティファイナンスの設計は、スタートアップの中長期的な成長軌道を大きく左右します。単なる資金調達の手法にとどまらず、自社の将来ビジョンと資本政策をいかに統合的に考えられるかが、経営者やCFOの腕の見せどころといえるでしょう。
【コラム】:バリュエーションが全てではないことを理解する
スタートアップが高いバリュエーションを得られれば、一見すると創業者や既存株主にとって有利に思えます。しかし、あまりにも高額なバリュエーションで調達すると、その後の調達やエグジットが難しくなる「ダウングレード調達リスク」や、投資家との利益相反が生じる可能性があります。
- 株価が下落する“ダウンラウンド”のリスク
事業進捗が期待値を下回ると、次ラウンドでバリュエーションを引き下げざるを得なくなり、経営陣や既存株主へのダメージは大きくなります。 - 投資家との摩擦リスク
成長予測を過大に設定して調達してしまった場合、投資家からのプレッシャーが強まるほか、次のラウンドやエグジットまでのハードルが高くなります。
結果的に、“無理なバリュエーションを設定するよりも、長期的に信頼できる投資家とのパートナーシップを築くほうが事業を安定成長に導きやすい”という点を念頭に置くことが重要です。
- 株価が下落する“ダウンラウンド”のリスク
5. エクイティファイナンスで注意するべき3つの数字
スタートアップがラウンドを重ねるほど、創業者や既存株主の株式は希薄化していきます。その際に見落としがちなのが議決権割合の閾値です。特定の比率を下回ると、重要な経営判断における主導権を失ったり、逆に意思決定を阻止しにくくなる場合があります。
ここでは「33.33%」「50%」「66.66%」という3つの数字に注目し、どのような意味を持つのか解説します。
【33.33%】経営方針の“拒否権”を握るかどうかの境界線
1/3超の保有がある場合、会社法や定款で定める特別決議(たとえば合併や定款変更など)を単独で阻止できるケースが多いとされています。
逆に言えば、33.33%を下回ると、他の株主たちが結託すれば特別決議を通される可能性が高まります。
投資家がこの数字を意識することも多く、将来的にIPOやM&Aを視野に入れる際、少なくとも1/3以上の議決権を確保したいと考える創業者も少なくありません。
【50%】“過半数”というわかりやすい主導権ライン
会社の通常決議(役員選任や重要事項の承認など)においては、過半数を持っているかが大きな意味を持ちます。50%を超える議決権を持つ株主は、取締役の選任・解任をはじめとする普通決議を単独で可決できる可能性が高いため、実質的に企業の経営を主導できる立場となります。
エクイティファイナンスを進める過程で、投資家が大きく株式を取得して50%超を保有する状況になると、創業者や既存経営陣は経営判断の自由度を大きく失うリスクがあります。
【66.66%】“特別決議”を単独で通せる、または阻止できるライン
会社法上、多くの重要事項(定款変更、組織再編など)には総株主の議決権の2/3以上が必要とされるケースがあります。
66.66%以上を単独または連合で保有していれば、特別決議を一方的に通すことが可能になるため、企業の大規模な方向転換やM&A、さらには上場廃止などの重大事項を実質的にコントロールできるようになります。
投資家側が将来的なM&Aや経営権掌握を見据えてこのラインを提示することもあるため、創業者にとっては資金調達以上の意味を持つ、重要な判断ポイントになります。
【コラム】資本戦略は後戻りできないので慎重に
事業アイデアや戦略がうまくいかなかったとき、ピボット(方向転換)や新規事業に乗り換えるなど、事業面の方針は柔軟にやり直すことが可能です。しかし、一度決まったCap Table(株主構成)を大幅に変更するのは非常に困難です。投資家が増えれば増えるほど、各株主の利害調整や法的手続きをクリアするハードルが上がるからです。
だからこそ、エクイティファイナンスを進めるときは、資金需要だけでなく、中長期的な資本政策と経営権コントロールの視点を持って慎重に検討しましょう。事業戦略はいくらでも修正がきく一方で、Cap Tableの改変は容易ではない――それを頭に入れておくことが、創業者やCFOにとって非常に大きなリスクヘッジになります。
6. エクイティファイナンスで行う資金調達シミュレーション
続いては、実際にエクイティファイナンスを行う際に、ラウンドごとにどのように進んでいくのかをシミュレーションします。下記のように4度の資金調達を行い、最終的にIPOする企業でシミュレーションしますので、資金調達の際のイメージを掴んでいただければと思います。
2つの評価額が出てきますが、違いは以下の通りです。・プレマネー評価額(Pre-money valuation)
資金調達前の企業の価値。投資を受ける直前のスタートアップの評価額。
・ポストマネー評価額(Post-money valuation)
資金調達後の企業の価値。投資額を含めた評価額。関係式としては、【ポストマネー評価額 = プレマネー評価額 + 調達額(投資額)】となります。
前提として、会社設立直後(資金調達前)、創業者チーム(3人)が 300万円の資本金で1,000,000株(100%)を保有。BtoBのSaas事業を立ち上げたとします。
社内リソースでプロトタイプを開発し、メーカーと1件のPoCを実施。初期成果が得られたことから、プロダクト化に向けた調達を検討します。
シードラウンド(初回調達)
- プレマネ評価額:2億円
- 調達額:5,000万円
- ポストマネ評価額:2.5億円
- 出資主体:エンジェル投資家
- 出資比率:20%
- 創業者株式比率:80%
このラウンドでは、PoCで顧客のリアルなニーズと課題が明らかになり、フル機能版を開発することを決意。外注を含む開発リソース確保と、法人営業の初期人材採用に向けて、経験豊富なエンジェル投資家5,000万円を調達しました。プレマネ評価額は2億円で、ポストマネ評価額は2.5億円。エンジェル投資家は20%の株式を取得し、創業者の持分は80%に希薄化しました。
シリーズAラウンド
- プレマネ評価額:10億円
- 調達額:3億円
- ポストマネ評価額:13億円
- 出資主体:VC A社(国内大手VC)
- 出資比率:23.1%
- 創業者株式比率:61.5%
初期導入企業3社で成果が出始め、プロダクトのPMF(Product-Market Fitの略で、プロダクトが市場に受け入れられてる状態)が見えたタイミングで、マーケティング強化と人員拡充のために資金調達を実施。展示会出展、広告、インサイドセールス体制の立ち上げなどに資金を投下。
シリーズBラウンド
- プレマネ評価額:25億円
- 調達額:7.5億円
- ポストマネ評価額:32.5億円
- 出資主体:VC A社(再投資)、VC B社(米系VC)
- 出資比率:23.1%(両社合計)
- 創業者株式比率:47.3%
契約社数が30社を突破し、SaaS型ビジネスモデルでMRRが順調に成長。海外展開(台湾・ASEAN)およびAPI連携機能開発のために、国内VCに加え、海外VCからの投資も獲得。
シリーズCラウンド
- プレマネ評価額:60億円
- 調達額:15億円
- ポストマネ評価額:75億円
- 出資主体:CVC(製造業系)・海外投資銀行
- 出資比率:20%
- 創業者株式比率:37.9%
導入企業100社を突破し、AIエンジンの高度化とビッグデータ活用による分析サービスの拡充を計画。また、サブスクに加え、データ販売という収益モデルも構築。戦略的パートナーとして製造業系CVCと提携し、IPO準備も本格化。
IPO(新規株式公開)
- IPO評価額:120億円(想定)
- 調達額(公募):24億円(新株発行による)
- ポストマネ評価額:144億円
- 創業者株式比率:約31.6%
- 創業者保有株式の価値:約45億円(120億円×31.5%)
IPO時にはプロダクトの社会的信頼性も確立し、製造業界におけるSaaS導入の成功モデルとして評価される。資金は北米市場への参入と、製品ポートフォリオ拡充に充てられた。
スタートアップはプロダクト開発、PMFの確立、スケール、海外展開、そしてIPOといった成長の各ステージに応じて、目的を明確にした資金調達を行ってきました。その過程では、創業者の株式比率は80%から最終的に31.5%まで希薄化しましたが、企業価値自体は飛躍的に拡大し、保有株式の価値は約45億円にまで上昇しています。
一方で、調達による株式の希薄化は創業者にとって単なる資産の減少ではなく、経営権や意思決定の構造に直結する重要なテーマでもあります。特にシリーズB以降では、複数のVCやCVCが出資することで、株主間のバランスや取締役構成の複雑化が進み、創業者の戦略的判断が思い通りに進まないリスクも高まります。
このように、エクイティファイナンスは資金の獲得と引き換えに、支配権や経営の柔軟性をどこまで維持するかという戦略的判断が問われるプロセスです。
7. 成功事例・失敗事例から学ぶエクイティファイナンス
スタートアップがエクイティファイナンスで大きく飛躍する例もあれば、過度なバリュエーションや投資家との対立で失速する例もあります。ここでは、具体的な成功事例と失敗事例を取り上げ、それぞれの学びを整理します。
【成功事例】Uber:投資家とのビジョン共有で生まれるシナジー
世界的なモビリティプラットフォームに成長したUberは、創業初期からベンチャーキャピタルや著名エンジェル投資家の出資(*)を得て急拡大を遂げました。
シードラウンド(2009年8月)
- 調達額: $ 200,000
- 主な投資家: 創業者(Garrett Camp, Travis Kalanick)自身の資金、エンジェル投資家数名
シリーズA(2010年〜2011年)
- 調達額: 約1100万ドル(Benchmark Capitalを中心に)
- 主な投資家: Benchmark Capital、Chris Sacca など
- 評価されたポイント:
- サンフランシスコでの初期実証(ユーザー満足度、利用頻度が高い)
- 将来的に北米全土、さらには世界へ拡大可能なスケーラブルな事業性
- 創業者・経営陣の実行力とテクノロジーへの理解
シリーズB(2011年〜2012年)
- 調達額: 約3700万ドル
- 主な投資家: Menlo Ventures、Jeff Bezos(個人投資)、Goldman Sachs など
- 評価されたポイント:
- 都市部での利用者急増によるレベニューモデルの裏付け
- モバイルアプリのUX改善により利用ハードルが下がったこと
- 今後の国際展開(ヨーロッパやアジア)の可能性
シリーズC(2013年頃)
- 調達額: 約3億6300万ドル
- 主な投資家: Google Ventures(現・GV)など
- 評価されたポイント:
- Googleとのシナジー(地図サービスや自動運転分野への展開)
- 都市輸送インフラ全体を変えるビジョンの明確化
- 既存利用者のロイヤルティの高さ・継続的な売上成長
シリーズD・E・F…(2014年〜2018年)
- 調達額: 数億〜十数億ドル規模で複数回
- 主な投資家: Fidelity Investments、Wellington、BlackRock、Microsoft、Baidu など
- 評価されたポイント:
- グローバル進出の加速と圧倒的なブランド認知度
- Rideshareだけでなく、Uber Eatsや物流事業への多角化戦略
- 莫大なキャッシュバーンとリスクを踏まえても高成長が見込めると判断された点
IPO(2019年)
- 調達額: 約82.4億ドル(IPO時)
- 評価されたポイント:
- 世界的なプラットフォーム企業としてのポテンシャル
- モビリティ領域のデファクトスタンダードになりつつある市場シェア
- 投資家との長期的な信頼関係と、複数ラウンドを通じて実証された拡大戦略
Uberは複数の資金調達ラウンドを経て、その都度高いバリュエーションを獲得してきました。IPO前の主要株主とその持株比率は以下の通りでした。
- ソフトバンク・ビジョン・ファンド:16.3%
- Travis Kalanick(共同創業者・元CEO):8.6%
- Garrett Camp(共同創業者):6%
- Benchmark Capital:11%
- サウジアラビア公共投資基金(PIF):5.3%
ソフトバンクが2018年1月にセカンダリー取引(株式譲渡)によってUberの株式を取得しており、IPO時には最大の株主になっていることがわかります。また、共同創業者のTravisとGarrett、初期のUberを支えBenchmark Capitalも大株主であることが見て取れます。
【失敗事例】WeWork:過度なバリュエーションの弊害
オフィス共有サービスを手掛けるWeWork(We Company)は、大型のVCやCVCから高額の資金調達を受けたことが大きく報じられました。しかし、過度に高いバリュエーションがついた反面、経営トップと投資家の間でビジョンやガバナンス上の認識にズレが生じました。
シリーズA(2012年頃)
- 調達額: 1700万ドル
- 主な投資家: Benchmark Capital、エンジェル投資家など
- 評価されたポイント:
- 共同オフィス(コワーキングスペース)の先駆的モデル
- 創業者 Adam Neumann のカリスマ性とネットワーク
- 都市部におけるスタートアップ需要の高まり
シリーズB〜シリーズE(2013年〜2016年)
- 調達額: それぞれ数千万〜数億ドル
- 主な投資家: Goldman Sachs、T. Rowe Price、Hony Capital など
- 評価されたポイント:
- 不動産の再定義とコミュニティづくりという新しい概念
- 入居者数の拡大ペースが早く、世界主要都市へ進出
- “テック企業”としてのブランディングにより高いバリュエーションを獲得
シリーズG以降(2017年〜2018年)
- 調達額: 44億ドル
- 主な投資家: SoftBank(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)など
- 評価されたポイントと問題:
- ソフトバンクから巨額出資を受け、“世界中のオフィス空間を支配する”野心的な拡大路線
- 一方で、事業モデルが「家賃差益ビジネス」に依存している現実に加え、Neumann氏の投資判断や関連会社との不透明な取引などの懸念が増大
- 大幅な赤字にもかかわらず、一時期の評価額は400億〜470億ドルと報道され、過度なバリュエーションと指摘された
IPO直前の頓挫(2019年)
- ダウンラウンド・評価額の急落:
- IPO準備で提出されたS-1(証券届出書)により、赤字拡大やガバナンス面の問題が市場に認知され、投資家の懸念が一気に高まる。
- 想定された時価総額が急落し、一時は400〜470億ドルの評価から約150〜200億ドルにまで下方修正が検討された(*)。
- 投資家との対立・経営トップの退任:
- ソフトバンクをはじめとする大口投資家がNeumann氏の辞任を要求し、経営方針を再編。
- IPOは延期→事実上の撤回という形で頓挫し、大規模リストラや資産売却へと追い込まれる。
何が成功/失敗を分けたのか
Uberの成功事例においては、各ラウンドで投資家とのビジョン共有を徹底し、事業拡大を加速できました。バリュエーションを“過度に吊り上げすぎず、かつ将来の高成長を見込める妥当な水準”で調整し続けたこと。そして、複数の追加事業(Uber Eatsや物流など)を展開し、投資家から見た“投資リスクの分散”も評価され続け、IPOまで追加のラウンドでも、調達することができています。
一方、WeWorkの失敗事例においては、巨額の資金を得た一方、事業実態や収益構造がバリュエーションに見合わないリスクを抱えていました。創業者の独断的なガバナンスや不透明な関連取引が、投資家との信頼関係を損なう結果となり、IPO直前まで高い評価が続きましたが、最終的には書類開示によって実態との乖離が露呈し、一気にダウングレード調達・上場撤回に至っています。
いずれの事例も、「多額の資金を調達できるかどうか」だけでなく、「投資家との関係構築や実際の事業価値とのバランスをどう保つか」が肝要であることを如実に示しています。特に急成長を狙うスタートアップほど、“過大なバリュエーション”や“ガバナンス不備”が表面化したときのダメージは大きいことを十分に認識する必要があります。
失敗を回避するための5つのチェックリスト
上位の成功失敗事例やエクイティファイナンスの特性を考えて、エクイティファイナンスを行う際には、逃してはいけないポイントがあることがわかります。下記では、そのポイントを5つの項目に分けていますので、ぜひ参考にしていただければと思います。
- バリュエーション算定を客観的に行う
- 自社の事業進捗や実績を踏まえ、専門家や複数の投資家の意見を取り入れて適正水準を把握する。
- 過大評価とならないよう、将来のKPI達成可能性を慎重に査定。
- ビジョン・ガバナンスのすり合わせ
- 投資家との間で、どのような経営方針・企業文化・ガバナンス体制を築くか事前に合意を形成する。
- 特に取締役会や株主総会の権限分配、重要事項の決定プロセスなどを明確化しておく。
- 株式比率の変化を長期視点でシミュレーション
- 複数ラウンドを見据え、各段階での想定バリュエーションや株式比率変化を計算しておく。
- 経営陣のモチベーション維持や、既存株主・投資家との利害調整が可能かどうかを確認。
- キャッシュ消費速度とランウェイを定期的に把握
- チャーンレート(解約率)や売上成長率などの主要KPIをモニタリングし、想定外の事態に備える。
- 追加調達や次ラウンドの開始時期を早めに見極める。
- 事業・戦略の柔軟性を保つ
- もし想定と異なる市場環境が訪れても、ピボットや新規事業に舵を切れるよう準備しておく。
- 投資家とのコミュニケーションを密にし、必要に応じてサポートやネットワークを活用。
- バリュエーション算定を客観的に行う
8. まとめ:エクイティファイナンスで会社の未来を設計しよう!
エクイティファイナンスは、単なる資金調達手段ではなく、企業の未来を設計する行為です。本記事では、各ラウンドにおける調達手法、投資家選びの判断軸、バリュエーションの設計、そしてエグジット戦略との整合性まで、スタートアップが押さえておくべき実務的・戦略的視点を整理しました。重要なのは、目先の金額ではなく、長期的な成長と経営自由度のバランス。今日の意思決定が、明日の経営をつくります。
✔ 資金調達フェーズごとに、適切な投資家と手法を選んでいますか?
✔ 株式比率の変化と将来のガバナンス構造をシミュレーションしていますか?
✔ バリュエーションの設定が、次のラウンドやIPOを妨げない設計になっていますか?
✔ 投資家との関係性が、事業成長に貢献する“パートナーシップ”になっていますか?
エクイティファイナンスを戦略的に設計することは、あなたのスタートアップの可能性を最大化する最初の一歩です。
Plug and Playは世界で最も活発なVCの1つとして、毎年約200社のスタートアップへの投資・成長をサポート続けてきており、ポートフォリオのユニコーン数は30を超えています。また、大手企業との連携機会の提供やグローバル展開のサポートなど、資金提供に止まらない支援ができるのも当社の強みです。エクイティファイナンスで事業成長を計りたいスタートアップの方は、ぜひご相談いただければと思います。
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