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フードテックの最前線:持続可能な食システムへの挑戦と新たな可能性

2024/11/06

フードテックは、食料問題や環境問題、そして健康意識の高まりなど、現代社会が抱えるさまざまな課題を解決する可能性を秘めています。9月20日に開催された「FoodTech Innovation Hub」では、フードテックが切り拓く未来の可能性を探るため、Plug and Play JapanのFood & Beverage Team Directorの吉岡忠祐が「世界における日本のフードテックの現状」と題した基調講演を行いました。その後、国内外のスタートアップが、陸・海・空それぞれの分野で革新的な技術とアイデアを発表し、多くの参加者が熱心に耳を傾けました。


Writer: Miri Kim


 

Plug and Play Japan, Food & Beverage Team Director 吉岡 忠祐

Plug and Play Japan, Food & Beverage Team Director 吉岡 忠祐
様々な業界・領域での起業や事業経営、ベンチャーキャピタル(VC)におけるEIR(客員起業家)等の経験に加え、任天堂、Amazon、クックパッド、ワールドといった大企業での新規事業開発にも携わる。これらの経験を活かし、自身の得意分野である「食」・「農」分野のオープンイノベーションを推進するため、Plug and Play Japan に参画。

BeeHero, Inc. Co-founder and CGO, Itai Kanot氏 (Online登壇)

BeeHero, Inc. Co-founder and CGO, Itai Kanot氏 (Online登壇)
BeeHero社の共同設立者兼CEO。イスラエル最大の養蜂場Boaz Kanot Bees and Honeyのオーナーも務める。養蜂家一家に生まれ、養蜂、受粉、農業に関する幅広い知識と経験を持つ。ミツバチ、養蜂家、そしてミツバチに支えられた農業を守るという使命を胸に、2017年にBeeHeroを共同設立。

株式会社ウーオ 取締役 Chief Product Officer 土谷 太皓氏

株式会社ウーオ 取締役 Chief Product Officer 土谷 太皓氏
新卒でクックパッド株式会社に入社し、レシピサイトやクックパッドAndroidアプリのサービス開発を担当。PT. COOKPAD DIGITAL INDONESIAへの出向を経て、より上流の水産業でインパクトを起こしたいと考えウーオに入社。

株式会社アクアム 代表取締役 河﨑 悠有氏
株式会社アクアム 代表取締役 河﨑 悠有氏
大学卒業後、渡米し照明デザインに従事。最先端技術への関心から「空気から水を作る」技術を知る。帰国後はデザイン設計業を営みながら、日本の技術を世界に発信することを志す。
病を経験し、その技術への想いを新たにし、空気製水機の実用化を目指しAQUAMを起業。

Carbon Xtract株式会社 代表取締役 森山 哲夫氏

Carbon Xtract株式会社 代表取締役 森山 哲夫氏
2009年3月に筑波大学 大学院(工学/修士)を卒業後、同年4月に双日株式会社へ入社。情報システムや金属資源事業(投資管理・トレード・新規開拓)で経験を積んだ後、蓄電池関連の新規事業の組成、新素材系スタートアップへの新規投資などを行う。2021年からは双日の脱炭素に関する新規事業開発部隊のマネージャーを担った。2024年6月より現職。

世界における日本のフードテックの現状

冒頭の吉岡による基調講演では、世界の食領域における主課題として、「2050年代に世界人口が100億人に達する中で、どうように適切に食を提供していくのか」という問いが提示されました。吉岡は、フードテックスタートアップの潮流もこの文脈で隆盛していることに触れる一方で、日本における食領域の課題は、人口動態や推移予測の違いから、世界の状況とは大きく異なっていると述べました。

また日本には市場や協同組合の状況、企業特性、消費者マインドといった課題があり、フードテック領域への適切な投資が他の先進主要国と比較して十分にはなされていないと述べました。ただし、「日本の食」は世界的に非常に注目されており、各セクターのプレイヤーが「食領域を日本の主要な輸出産業として育てる」という意識を持ち、連携してオープンイノベーションに取り組むことが重要だと語りました。

「陸」:ミツバチ業界の課題と動向

ミツバチは、世界の食料生産の3分の1を担うとも言われ、農作物の受粉において不可欠な存在です。しかし、近年、世界中でミツバチの大量死や巣箱の減少が深刻化し、その数は30年前に比べて3分の1にまで減少したと言われています。

世界でミツバチが減少する中、イスラエルのスタートアップ企業BeeHero, Inc.(以下、BeeHero)は、IoT技術を活用した新たな解決策を提案しています。BeeHeroのシステムは、ミツバチの巣箱内のデータをリアルタイムで収集し、飼育している蜂の健康状態をモニタリングします。これにより、養蜂家は従来の経験に加えて、データに基づいた科学的な養蜂が可能になり、ミツバチの病気や害虫の発生を早期に検知し、適切な対策を講じることができます。

BeeHeroの取り組みは、単にミツバチの保護にとどまらず、世界の食料供給や生態系のバランス維持にも貢献します。この技術は、養蜂業界のデジタル化を推進し、持続可能な農業の実現に不可欠なツールとなるでしょう。

「海」:水産業界の課題と動向

世界人口の増加に伴い、水産物の需要は高まる一方、乱獲や海洋汚染により漁獲量は減少傾向にあります。この深刻な状況を改善するため、漁獲制限の強化や養殖技術の革新、そしてIT技術の活用など、さまざまな取り組みが進められています。

このような状況の中、株式会社UUUO(以下、UUUO)は漁師や産地仲卸が出品した水産物を、飲食店や小売店がスマートフォンから直接購入できるプラットフォームを開発し、社会に貢献しています。同社のシステムは、全国100以上の漁港の水揚げ情報が集約されており、リアルタイムな情報に基づいた取引を可能にし、漁業の効率化と資源管理の精度向上に繋がります。

UUUOのようなテクノロジー企業との連携は、水産業界のイノベーションを加速させ、持続可能な漁業の実現に不可欠です。水産資源は人類の食料安全保障にとって重要であり、UUUOの取り組みは、この問題解決に向けた一歩と言えるでしょう。

ウーオ 土谷氏によるピッチの模様

 

「空」:空気から水やCO2を回収する業界の課題と動向

世界的な水不足と気候変動問題が深刻化する中、空気から水や二酸化炭素(CO₂)を回収する技術が注目されています。特に、乾燥地域や災害時における水源の確保、そして温室効果ガスの削減による気候変動対策への貢献が期待されています。

例えば、株式会社アクアム(以下、アクアム)はエアフィルターで空気中の汚れを取り除き、コンデンサーで空気を冷やすことで、空気中の水分を効率よく回収し、飲料水として利用できる空気製水機を開発しています。また、Carbon Xtract株式会社(以下、Carbon Xtract)が大気中のCO₂を直接回収する技術として、高いCO₂透過性を持つ分離ナノ膜を搭載した、CO₂の回収から炭素燃料や原料製造まで一貫して行う小型モジュール装置の開発をしています。

空気から資源を回収する技術は、持続可能な社会の実現に向けて、無限の可能性を秘めています。アクアムやCarbon Xtractのような企業の取り組みを加速させ、技術革新と社会的な取り組みが一体となって、この分野の発展が期待されます。

アクアム 河﨑氏よる事業説明の様子

 

Carbon Xtract 森山氏による事業説明の模様

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