検査を迅速化することで、診断プロセスのボトルネックを解消したい- GattaCo
2022/07/06
血液検査の簡易診断キットを開発しているGattaCo Inc.(以下、GattaCo)。福島第一原発の事故をきっかけに簡易診断キットの重要性を感じ、GattaCoの原型となるテクノロジーを生み出したといいます。創設者でCEOのMcNeely氏は科学者としての立場から、ヘルステックスタートアップの資金調達の難しさや、「検査の迅速化」というミッションの重要性について語ってくれました。
(本記事は2020年5月にPlug and Play Japan公式noteで公開した記事です)
Chiyo Kamino
Communication Associate, Kyoto
ーーGattaCoを立ち上げたきっかけは何ですか?
2014年にGattaCo立ち上げた時は、私ひとりだけでした。私は診断の迅速化を可能にするテクノロジーが重要だと考え、その開発に興味を持っていました。簡単でスピーディで低価格な検査キットが必要だと感じていたのです。
なぜそれが重要であるか、例を挙げてお話ししましょう。たとえば新型コロナウイルス感染拡大に関する現在の問題としては、検査結果が返されるまでに24〜48時間かかる点が挙げられます。鼻腔スワブあるいは血液サンプルを採取して検査が行われるため時間がかかるのです。また、処理が必要なサンプルが数万件に上っており、数週間かかっています。その間、人々は感染しているのではないかという懸念のために通常の生活を続けることができず、隔離されることになります。
2011年に福島第一原発が爆発した時も同じような状況でした。実際、放射線に被曝したことを懸念して検査サンプルを提供した人々がいましたが、サンプル数は非常に多く、一方で検査機関の数は非常に少なかったのです。事故から12か月経っても処理できていないサンプルがありました。
このように、現時点ではサンプルの迅速な処理に対する大きなボトルネックが存在しています。だからこそ私たちのテクノロジーが重要なのです。サンプルを迅速に処理し、診断テストの結果をすみやかに取得することによって、人々が自分の健康状態を理解し、政府が国民の健康を管理することに役立つことができます。
正しい情報が得られない時、政府は往々にして恐怖心を利用して人々をコントロールしがちです。診断の迅速化によって、政府が国民の健康問題に対して正しい情報をもとに判断を行うことが可能になるのです。
迅速な情報の取得を妨げているボトルネックの主な原因は、血液サンプルの処理が非常に複雑であるために時間がかかることです。このボトルネックの削減や解消に向けた人々の関心は高く、実際に過去30年ほどの間にいくつかの方法が提案されました。しかしそれらは複雑すぎたり、高価すぎたり、作業が難しすぎたりして成功していません。私も20年ほど前に、遠心分離機を取り除く方法を考えてみましたが、実際に取り組もうとは思いませんでした。
私は2012年と2013年に来日し、日本の大学や企業と共同で、福島第一原発の爆発に対応する診断テストを開発するプロジェクトに取り組みました。その経験を通して、検査を迅速化するテクノロジーの重要性を思い出したのです。そこで、福島のプロジェクトが終わってアメリカに戻ってから、GattaCoの診断キットの開発に取り組み始めました。
開発はうまくいきました。そこから人々が簡単に使用でき、簡単に製造できるような形式に展開するまでに数年かかりましたが、他社の製品やサービスにも実装できるようになりました。これがGattaCoの始まりであり、起業の背景であり、私たちの製品が重要な理由であり、日本とリンクしている要因です。
ーーということは、日本には既に何度か来られているのですね。
2003年に最初に立ち上げた会社の時に来日したのが初めてです。そのおかげで日本市場をよく理解することができました。日本市場は有用なテクノロジーに関して、ニーズさえあればアーリーアダプターになりうるということがわかったのです。また、価格に関しての感覚も合うと感じました。
ーー日本人は価格にシビアなことで先進国の間では有名だと思っていましたが…。
まあ、品物によるとは思います。ただ私たちが想定してるコストを伝えると、日本人は「良い値段だ」と言ってくれます。 他のアジア市場では「高すぎる」と言われます。日本は市場が成熟しているので導入しやすいのではないかと思います。
ーー日本市場についてはどのように感じておられますか?
言うまでもなく、常に言語の壁はありますね。ただ文化の壁に関しては、以前はやや難しいと感じましたが、現在はそれほど大きな問題でもないようです。人々が新しいことを試したいと考えているのを感じます。 また、思っていたよりもはるかに多くのアントレプレナーが日本にいることもわかりました。
ーー日本またはアメリカで、直面したチャレンジはありますか?
多くのスタートアップが実現不可能な約束をし、それを達成できずにいたために、過去数十年でたくさんの投資家が多額の損失を被りました。そのほとんどは2008年の金融危機のせいです。うまくやっていると思っていたところに突然、巨額の損失を受けたのです。ですから彼らは私の言葉に対しても懐疑的です。そのため資金調達は20年前よりもはるかに難しくなっています。
また別のよくある問題としては、レイターステージの投資家がアーリーステージの投資家の価値を一掃してしまうことがあります。会社が当初の目標を達成することができず、より多くの資金を必要としているのに対し、投資家が「目標を達成できなかったのだから最初からやり直せ」と言って、アーリーの投資家はすべてを失い、レイターの投資家がすべてを横取りしてしまうといったケースです。
これは本当に、本当に、本当によくないことです。このようなケースで多くの人がお金を失ったために、アーリーで投資する人はかなり少なくなってしまいました。投資家は、投資する前に企業へ、より多くの顧客、収益、技術の検証など、より多くの価値を求めるようになっています。このような要求は、製品を作ろうと苦労している中、資金が入るまで製品が作れないという場合、本当に難しいんです。顧客を獲得するまで収益はあげられず、顧客を獲得するには製品が必要、という悪循環です。私たちのことを十分に信頼し、事業を進められるだけのお金を入れてくれる人をどこかで見つけなくてはいけません。そして言ったように、みな懐疑的になっているので、日本であろうとどこであろうと、ヘルステック分野において今は以前よりも資金調達が難しくなっています。遠心分離機の代替となるテクノロジーを約束して10回も投資を受け、すべて失敗したスタートアップの話も聞いたことがあります。そうなると投資家は、百万個の受注が入るまで誰の話も信じなくなってしまいますよね。
私たちも他のスタートアップと競合しています。 資金調達のために、皆が戦っています。そうしないと誰も気づいてくれませんから。ただ、私たちは科学者です。誇大広告をすることは私たちの信念に反します。私たちの言葉をいますぐ信じてくれなくてもいいのです。テストキットを見れば、私たちが嘘を言っていないことがわかってもらえるでしょう。ただし、開発には長い時間と多くのお金がかかっていることもわかってもらいたいです。 そのお金の多くは、私自身とMahmoud (CSO)の自己資金から調達したものです。最初の5年間は自己資金で運営していたのです。私とMahmoudとで10万ドルずつ投資しました。
ーーかなり勇気がいったと思いますが、その確信はどこからきたのでしょうか?
私たちは2人とも、仕事とプライベート両方の経験から、GattaCoのテクノロジーがもたらす価値を社会は必要としていると信じていたからです。このテクノロジーの重要性を知る機会は、頻繁に起こることではありませんが、ひとたび起これば、その影響の大きさを知るには十分です。
パンデミックが起こるとどうなるか。今回の新型コロナウイルス感染拡大の一件を見てみればよくわかります。国境が閉鎖され、何十億ドルものお金を、経済的損失補填と人的被害保証に費やすことになります。何週間も人々を閉じ込めて血液検査を実施し、感染状況を正確に把握したうえで管理しなければならなくなります。私たちは二人とも、慢性疾患で苦しんでいる親がいます。自宅で検査ができない場合に医者に連れて行ったり、病院に行くために準備をしたりするのはとても大変です。これは非常に現実的な、社会に大きな影響を与えられるニーズなのです。
ーーGattaCoのテクノロジーは他にも転用可能なのですか?
私たちのテクノロジーには、多くの可能性があります。 今最も注力しているのは、血液とろ過、血液浄化です。 他にも産業用液体や他の生物学的サンプルにも応用できます。治療用にもさまざまな用途が考えられます。治療用プラズマなど、まだ検討していない他の多くのアプリケーションもあります。
ーーヘルステックスタートアップの資金調達の難しさは、他のスタートアップからもよく聞きます。そのような状況を、私たちも変えられれば良いのですが。
繰り返しになりますが、私たちが成功すれば、より多くの人々を助け、よりよい社会にする手助けができます。これは本当に重要なニーズです。新しいアプリは必ずしも必要ではありません。もちろん、誰かの命を救うようなアプリもありますが、ただ単に生活を少し便利にするだけといったものが多いですよね。それにひきかえヘルステックでは、多くのテクノロジーが実際に誰かの命を救うことができるのです。
ーーGattaCoの製品が広まり、パンデミックに対する検査能力が向上できるよう祈っています。ありがとうございました。
- 2020年5月更新情報:
GattaCoはCOVID-19血清サンプル前処理の改善ニーズに応えるため、2つの新製品を発売しました。
「A-PON™」は、迅速検査アプリケーション向けの高収率IgG抗体およびIgM抗体を用いて、指先で採取した血液から血漿を分離します。当製品は、ストリップ検査や新規バイオセンサー検査装置を含む迅速抗体アッセイの感度、特異度、精度を向上させることができます。「A-CUBE™」は、ラボベースのハイスループット検査におけるサンプルの可用性を高めることを目的としています。当製品は、抗体を豊富に含む液体血漿をラボに配送し処理する唯一の家庭用サンプル収集デバイスであり、集団ベースの血清有病率の調査用に設計されています。COVID-19に対する集団の回復と免疫を特定することで、世界中の人々が仕事に戻れるように支援することを目的としています。