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StripeとEDGEof INNOVATIONに聞く、スタートアップにとっての日本市場

2023/10/23

グローバル市場でスタートアップが経済を牽引する中、日本のスタートアップエコシステムはどのように起業家を支援できるのか。2021年に世界最大のユニコーンとなったStripe、そして欧州や新興国のスタートアップエコシステムに精通するEDGEof INNOVATIONの2者を迎え、世界と地域の両面からスタートアップを支援するアプローチについてPlug and Play Japanと鼎談をおこないました。

(*本記事は、2023年9月に行われた「Japan Summit – Summer/Fall 2023」におけるパネルディスカッション『グローバルとローカルの観点で考える、これからのスタートアップエコシステム』の内容に基づいて構成・編集しました)


Writer: Haruhito Suzuki Marketing & Communications Intern


[Panelist]


ダニエル ヘフェルナン Daniel Heffernan

ストライプジャパン株式会社 代表取締役

Stripeの日本におけるプロダクト・開発分野を担う。2014年にStripe日本法人を創設。以来、日本向け製品の開発や組織の拡大に尽力し、日本市場向けのプロダクト戦略を統括。Stripe参画以前は、クックパッドでエンジニアとして従事。東京大学にて情報理工学修士号を取得。 Stripe:https://stripe.com/jp


小田嶋 アレックス Alex Odajima

合同会社エッジオブ・イノベーション CEO

ビジネスインキュベーションのスペシャリストとして、数多くのスタートアップ立ち上げや企業の新規事業開発に携わる。2018年に設立したEDGEofでは、2年間で世界50ヶ国以上から1万5千人を超える来場者を迎え、数多くのイノベーティブなプロジェクトを展開。各国大使館やスタートアップ支援機関と連携したイノベーション関連施策に関わり、多くのスタートアップ育成プログラムにメンターとして携わる。J-Startup推薦委員、German Entrepreneurship 日本代表、Endeavor Japan オペレーション・マネージャー。 EDGEof: https://www.linkedin.com/in/taisuke-alex-odajima/


ヴィンセント・フィリップ Phillip Vincent

Plug and Play Japan株式会社 代表取締役社長

2014年シリコンバレーのPlug and Play本社にジョインし、IoT部門とMobility部門のプログラムのディレクター、および日本企業のアカウントマネージャーを兼務。2017年にPlug and Play Japanを立ち上げる。現在はPlug and Play JapanのCEO & Managing Partnerを務める。


自国マーケットだけでは成長できない

Philip: 

日本のスタートアップエコシステムでも「グローバル」という言葉を聞く機会が増えています。日本のスタートアップエコシステムがグローバルになるためには何が大事なのか、アウトバウンドとインバウンド両方の観点から伺いたいです。まずは、お二方の考えと事業の説明をお願いします。

Alex: 

私はEDGEof INNOVATIONにてヨーロッパと日本のスタートアップエコシステムを繋ぐ活動をおこなっています。去年からは、発展途上国で起業家を発掘し、グローバル企業として成長させる国際的スタートアップ支援組織Endeavorの日本支部においても活動しています。日本をどのように国際化させていくのかという視点を持ちながら、日本のスタートアップエコシステムの形成に関与しています。

「グローバルに活動することがなぜ大事なのか」という質問には、「地球に住んでいるからには、地球規模で物事を考えることは当たり前である」と回答しますね。これまで国内の起業家は日本市場だけを考えていれば問題がなかったかもしれませんが、今はグローバル視点を考慮すべきステージに変化してきています。今後は国内市場重視の事業体制が通じなくなる可能性が大きいので、初期段階からグローバル市場を見据えて事業展開を計画することが重要です。

海外の例をあげると、人口120万人程度ながら10社ものユニコーン企業を輩出しているエストニアでは、日本と比較してグローバル志向が強いです。自国のみだと事業が成り立たない場合が多いため、グローバル志向で考えざるを得ない。

日本におけるグローバルマインド普及への障壁は、国内市場が中途半端に大きいという特徴に起因しています。日本では大抵の場合企業活動は国内だけで成り立つので、日本で上場してそれなりの資産を築くことが可能ですし、VCや証券会社なども国内重視の事業形態で充分だと考えています。過去20年間この意識が培われてきたのが、最も大きな問題ではないかと思います。

Philip:

日本企業がグローバル展開するインセンティブが高くなかったという面はあると思います。ダニエルさんは、スタートアップのグローバル展開をどう考えておられますか?

Daniel:

ストライプジャパンは決済サービスを提供する米国企業の日本支社です。私は生まれも育ちもアイルランドですが、2010年に来日し、2014年に当時100人規模だったStripeに入社して日本展開を担当しています。現在は約50カ国に展開しており7000人程の従業員を抱えています。

Stripeは「インターネットのGDPを拡大する」というミッションを掲げています。さきほどアレックスさんの「地球に住んでいる」という発言がありましたが、私たちは「インターネットは一つの経済圏である」という思想から、国によって通貨・決済手段が異なること、また煩雑な手続きや加盟店審査があることを古いと考えています。複雑な現在の仕組みに疑問を感じるデジタルネイティブ世代も多いのではないでしょうか。インターネットが当たり前である現代人にとって「世界に出よう」というマインドセットも当たり前のことなので、それを実現するためのツールとしてStripeが13年前に立ち上がりました。

正直に言いますと、我々の日本進出自体は日本のスタートアップがグローバル展開するうえでの参考にはならないのではないかと思います。むしろやめておいた方がいい事例かもしれません。なぜかというと、Slack、GitHubなどSaaS系のスタートアップが提供するサービスは、インターネットさえあれば顧客がどの国にいても、自社のサービスをトライアルとして無料で提供することが可能です。なので、とりあえず全世界にサービスを提供して、どの国のどの顧客層にどういうニーズがあるかを特定し、試してみる機会を設けることが望ましいでしょう。そうすれば、トライアル利用者から得たフィードバックをもとに、サービスのアップデートや投資を強化すべき箇所の特定ができます。

一方、Stripeは金融サービスなので「とりあえず全世界にサービスを出してみる」という方策が難しいです。業種的にしかたがない部分もあるのですが、我々の場合はかなりの初期投資、1年スパンにわたる採用、現地法人の設立、物理的な接続環境の確保、必要な行政登録などの地道なステップを経なければ海外展開ができませんでした。なので「この国に絶対展開するぞ」というかなりの自信を持ってのぞまなければなりませんでした。

「日本展開は難しい」は本当か

Philip:

経験者ならではの「やめておいたほうが良いケース」もスタートアップにとっては貴重な情報ですね。海外スタートアップが日本で事業展開する場合、どのように事業を軌道に載せていくべきでしょうか?

Daniel:

Stripeでは日本に展開する前に世界各国の経済・マーケット規模を詳細に分析・評価しました。インターネットGDP、とりわけE-Commerceの規模を見ると、中国、米国、イギリス、日本という順位で日本は世界4位でした。もう一つの要因として考慮したのが、展開の複雑さです。中国は日本よりマーケットが大きい反面、海外企業が参入するうえでの障壁が高いです。マーケットの有望性と参入障壁という二つの観点を加味したうえで戦略を策定し、日本進出を決定しました。英語圏ではない国への初めての進出でした。

海外企業が日本進出後に「日本への展開は大変だった」と言う理由の大半が言語の壁です。ただ、言語の壁を乗り越えることさえできれば、日本はイメージされているほど進出が難しいマーケットではないと言えるでしょう。

ただ、日本は大きな市場である一方、事業成長のスピードは極めて単調です。例えば、シンガポールではサービス提供直後に多くの顧客が使ってくれたため、ごく短時間のうちに成長飽和点に達しました。日本人はリスクを取りたがらない傾向にあるため、最初は新しいサービスを使用してくれません。なので「皆が使っているから大丈夫だよ」というメッセージを顧客に伝えつつ、サービスを導入してもらうことが重要になります。また日本は、新しいサービスが参入したからといってすぐに他社製品に乗り移ることも少ない、ロイヤリティの高い市場だと思います。

 

後編では、日本をよりグローバルなスタートアップ・エコシステムにするためのアクションについて3人が語った内容を紹介します。

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