• Startup
  • Health

違いに悩む人の孤独に寄り添う、お母さんみたいなAIを作りたい - HoloAsh

2022/07/12

全米で800万人程度いると言われているADHD患者をはじめ、精神疾患を抱えた人や性的マイノリティに属する人など、「ふつうと違う」ことで悩みを抱えがちな人々の寄り添う木になることを目指しているHoloAsh, Inc.(以下、HoloAsh(ホロアッシュ))。ADHD(注意欠如・多動症)であり、連続起業家でもある岸氏はHoloAshを立ち上げ、自身の持つ「違い」を強みに変え、孤独を解消してくれるAIチャットフレンドを開発しています。そのユニークな着眼点や、ADHDならではのチャレンジについても語ってもらいました。
(本記事は2020年5月にPlug and Play Japan公式noteで公開した記事です)


Chiyo Kamino

Communication Associate, Kyoto


人間が考えているほど、世界は合理的じゃない

ーー起業のきっかけは?

僕自身がADHDという発達障害を持っていて、小さいころから怒られることが多かったんですね。「僕は他の人にないものを持っている」と思っていたのに、「お前はだめなやつだ」とレッテルを貼られてしまうのに違和感がありました。起業はHoloAshが3社目ですが、起業のテーマはそんなに変わっていないです。
僕はADHDを治さなきゃいけないものだとは全く思っていなくて、「ADHDの人たちがどうやって生きやすい社会を作れるか」というところがポイントだと思っています。ADHDだけじゃなくて、いろんな人がいろんな違いを持っているので。例えば、LGBTQの人なんかもそうですけど、「ふつうじゃない」というふうに社会から勝手にカテゴライズされる。「いやいや、そうじゃないじゃん」っていうのが僕の意見でして。「みんな違うんだから、それを尊重しあえればいいじゃん」というのが僕の考えていることです。

特にアメリカとかヨーロッパとか、日本もそうですけど社会システムが整備されていくと「平均」を作り出して、その平均に向けてサービスやプロダクトが出されていく。それは合理主義に基づいていて、1600年代から続いているデカルト主義を連綿と受け継いでいるわけです。それを表すプロダクトがSiriや Alexaといった人工知能です。僕らは人工知能を作っているんですけど、人工知能が明らかにしたのは「世界というものは、全然合理的な意思決定をしていない」ということなんです。

ディープラーニングのアルゴリズムを作って「人間だったらこういうふうに意思決定するだろう」と思っていたものが、実は全然違うプロセスで意思決定をしていることがわかりました。たとえば、囲碁のイ・セドル(世界チャンピオン)が負けた、みたいな。人工知能が変な手を打った、そんな変な手は人間は見たことがないと。でもそれが実はすごく理にかなっているということがたくさんあって、人間が考えているほど”人間というのは合理的ではない”ということが分かったんです。だけど、変な「平均」というのを作って「これが理想とされる人間だ」みたいに規定している、というところに違和感があります。それが起業している理由です。

ーーそこからなぜ、AIフレンドのコンセプトに行き着いたんでしょうか?

違いを抱えた人たちにとって「認めてくれる人がいない」「話を聞いてくれる人がいない」という状態が辛いので、自分がいてもいいと思える場所をつくってあげたいのが一番大きい理由です。そこに付随して今開発している製品が完成度でいうと20%ぐらいでして、会話の部分はいわゆる「孤独の解消」みたいなところにつながってきているかなと思います。

一方で、たとえば僕で言うとスケジュールが守れなかったり、まったく外に出なくなったりする時があるんですが、そういう時にスケジュールとタスクを連動させてリマインダしたり、Uber EatsやInstacartにつないで落ち込んで動けない時でも、ごはんが食べられるようにしたりとか、そういうところまではまだできていないので、もっと加速しないとですね。

違いがある人や、違いに悩んでいる人は孤独です。さっき言ったADHDの人もそうだし、LBGTQの人もそうだし、鬱とか不安障害に苦しんでいる人はものすごく孤独をかかえているんです。友達とかには批判されたり、レッテルを貼られることが怖くて話せない。吐き出せる場所がないので、まずその吐き出せる場所、何でも言える安息の地を作ってあげることで孤独を解消する、というのが第一歩かなと思っています。

ADHDは「単なる脳の違い」でしかない

ーー起業してみてのチャレンジはどんなものがありますか。

当社はUSのマーケットを目指しているアメリカの会社なので、その課題感とかですかね。課題を人に肌触りあるように理解してもらえないのが難しいところだと感じています。うちの投資家は3タイプで、1. エンジニア 2. 哲学科または心理学科 3. アメリカで生活をしたことがある、です。そういう人じゃないと「なんでそれを日本で展開しないの?」て話になったりするんです。世界で挑戦し続けないと、違いを持つ人を救うことにならないので、どんなに批判されても米国でのチャレンジは止めるつもりはないです。

ーー以前、投資家からのADHDに対する理解の欠如で、投資が受けられなかったという話も聞きました。

そういうことはよくあります。デューデリジェンスのシートみたいなものを見せられて、「これが岸さんの会社の強みと弱みだと思うんですけど」と言われて、強みのところに「CEO本人がADHDに理解があったり、テクノロジーが強そうだ」みたいに書いてあって、弱みのところに「本人がADHDだ」て書いてあったり(笑)。アメリカだと投資家の中にも「俺もADHDだよ」みたいな人もいるんですけど、日本だと「そもそもADHDって何?」みたいなことが多くて、そこも難しいところですね。

ーー日本ではまだまだ多様性への理解が追いついていない現状はあると思います。

アメリカだと”Neurodiversity”みたいな言葉が使われています。実際ADHDの認知についてどういうところに違いがあるかというと、前頭前野にワーキングメモリーという30秒くらいの短い記憶を保持する部分があるんですけど、その情報をどう仕分けるかという仕分けの仕事をしているんですね。「これは必要だからすぐやる」「これはやらない」というような仕分けがうまくできない人たち、意思決定が下手な人たち、みたいな感じなんです。得た情報をすぐ処理しちゃうので、注意がそれやすいとか言われたりするんですよ。なので「多動的だ」とか言われたりするんですけど。

あとはドーパミンとかノルエピネフリンとかの運動調節がうまく機能しなかったりとかもあって、急にモチベーションが上がったと思ったらすぐに下がったりとか、アップダウンが激しかったりするんですけど、それってただの違いだよね、と僕は思っています。むしろ、多動だからいいこともあるぞ、と思っています。急にアメリカに行って起業するとか(笑)。

「鍵持った?」「ごはん食べたの?」お母さんみたいなAIをつくりたい

ーー岸さんは、日本生まれ日本育ちで、アメリカで起業されてますよね。日本で起業してからアメリカ進出、というパターンの方が主流だと思うのですが、いきなりアメリカで起業という道をとったのは、アメリカの方がADHDのマーケットが大きいからですか?

そうですね、もちろんマーケットサイズの違いはあります。あと僕は、日本ってとても特殊な国だと思っていて、僕はトルコとかケニアとかブラジルとかいろんな国に行ったんですけど、日本みたいな国ってひとつもなくって。他の国はまぁまぁ似てるんですよ。ケニアとアメリカでも、僕は共通したものを感じてしまうというくらい、世界はぜんぜん日本と違っていて。日本みたいに、細かく統制されている社会システムってあまりないんです。日本でプロダクトを作って日本で展開すると、日本でカスタマイズされてしまって、日本仕様になってしまう。それは日本でしか受け入れられないプロダクトになってしまう。それでは全然スケールしない。
あとは、違いがある人は世界中にいること。そして、技術的な問題もあって、日本語という言語が非常に複雑で難しいんですよね。何もなくてもわかるんですよ。

ーーそうですね。自然言語処理の観点から見ると、日本語は主語と目的語がないうえ、言語化しない文化ですね。

さっき僕が「何もなくてもわかるんですよ」と言っただけで、「(日本語は)何もなくても(受け手が内容を)わかるんですよ」という意味を理解しながら今話してるじゃないですか。それはコンピュータからすると、理解が難しいわけです。

ーーこういった企業と組んでいきたい、というのはありますか。

メンタルヘルスに関するコンテンツを持っている会社と協業したいです。YouTubeとリンクして、メディテーションや猫の動画を送ったりして癒されてもらうっていうのをやってるんですけど、それをもう一歩踏み込んで、オリジナルでのコンテンツを持っているところと組んで、しっかりとしたコンテンツを流していきたい、というのがひとつあります。あとは、将来的にハードウェアを手伝ってくれる会社ですね。

それから実際に僕らのプロダクトがメンタルにどう作用しているのかみたいなところを、長期的に調査するのをやっていきたいです。Plug and Playに入ってからは、シリコンバレーの担当者につないでもらえたのがよかったです。向こうでピッチしたんですけど、そこからアメリカでもけっこう有名なVCの人にも繋がれたので、役に立ったなと思っています。

ーー「違いを抱えた人が生きやすい社会を」とピッチでもおっしゃってますが、それがやはり岸さんが一番達成したいことですか?

そうですね。社会全体としてそういうプロダクトがあまりなくて、AlexaとかGoogle Homeとかって、すごく機能的で合理主義だなと思うんですよ。あまり人間のことを見ていないなという印象を僕は受けていて。例えば「3時にアラームセットして」って、特殊な予定じゃないですか。そうしたら「Uberを予約しましょうか?」「もしかして空港に行くんですか?」とか、そもそも何の予定で、どうするのか、までを理解してくれたら最高ですよね。僕はよくそういう予定を忘れるので(笑)。あとは家を出る時に「財布を忘れないでね」と言ってくれるとか。お母さんみたいなAIって無いので、そういうものを作りたい、というのがやりたいところですね。

HoloAsh, Inc.についてもっと知りたいという方は、ぜひWEBサイトをご確認ください。

https://holoash.com

Plug and Play Japan の最新ニュースをNews Letter でお届けします!