地域交通を変革するMaaS 2.0 ~テクノロジードリブンで地域交通DXを加速~
2024/12/13
日本では、2017年頃からMaaSの取り組みが促進されてから、早7年が経過しました。現在、各地域が直面している現状や課題に対し、官民が一体となって改めてソリューションを考え、それを実行に移していくことが求められています。
本レポートでは、国土交通省(以下、国交省)が考える現状のMaaSに対する見解や、今後の「MaaS2.0」立ち上げに向けた方針を共有すると共に、テクノロジーを活用して地域交通が抱える課題の解決に向けた取り組み事例をご紹介します。
(本記事は、2024年9月13日に開催した地域交通を変革するMaaS 2.0|Plug and Play Japan」セミナーの内容を基に作成しています。)
登壇者:
- 内山 裕弥氏
国土交通省 総合政策局 モビリティサービス推進課 総括課長補佐
Project LINKS テクニカル・ディレクター
PLATEAU アドボケイト 2024
東京大学 工学系研究科 非常勤講師
東京大学 空間情報科学研究センター 協力研究員
- 日高 洋祐氏
MaaS Tech Japan 代表取締役
- 髙原 幸一郎⽒
株式会社NearMe 代表取締役社長
- 北島 昇氏
株式会社電脳交通 取締役COO
- 久米村 隼人氏
株式会社DATAFLUCT 代表取締役CEO
- 田村 賢哉氏
株式会社Eukarya 代表取締役CEO
- 伊勢 勝巳氏
東日本旅客鉄道株式会社 代表取締役副社長 イノベーション戦略本部長
- 中西 良太氏
東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部 戦略・プラットフォーム部門 MaaSユニット 副長(チーフ)
- 牧村 和彦氏
計量計画研究所 理事、神戸大学客員教授
1. 国交省が考えるMaaSと地域交通が抱える課題
1. 現状のMaaSにおける課題
- ① 誰もがいつでも使いたくなるサービスレベルを目指して
多数の交通事業者が存在する日本独特の事情もあり、真にシームレスかつマルチモーダルなサービスの展開には課題がある。その結果、MaaSが登場した当初に想定されていたようなスケールのサービスとなっていないのが現状です。
- ② 地域課題との関連性が不明瞭
交通空白対策や地域交通の持続可能性に対する打ち手の関連性が明確でなく、地域交通の課題解決に向けたMaaSの位置づけが分かりづらくなっている。
- ③ 協調領域と競争領域区分が不明瞭
日本では多くのMaaSに関連するサービスやアプリケーションがあり、多くの事業者が似たようなサービスを提供しているため、その結果、投資すべき領域への余力が分散してしまっています。
従来のMaaSの取り組みによって各方面に一定の成果がみられたものの、上記のような課題は残されています。これらの課題を解決すべく、真の意味でのMaaSの推進速度を早める必要があります。
そのうえで、地域交通が抱える課題として利便性向上や持続可能性の向上、生産性の向上に加え、あらゆる交通データの標準化やデータ分析DXの定着があげられます。
そこで、MaaSと地域交通が抱える課題を解決する取り組みをより効果的に結びつけるためのソリューション概念を「MaaS2.0(地域交通DX)」とし、取り組みを進めています。
2. 国交省が考える MaaS 2.0とは?
MaaS 2.0とは上述の通り、地域交通のDXであり、MaaSアプリによる単純なユーザーの利便性向上だけでなく、データ取得や活用、地域交通マネジメントを含め、広い意味で地域交通の課題をデジタルのアプローチで解決していくことを示しています。
MaaS 2.0では、従来のMaaSにおけるフォーカス領域である利用者の利便性向上に留まらず、利用を通じて収集されたデータを活用した現状把握や、打ち手の導出、また地域公共交通の持続可能性を高めるための交通施策への反映というサイクルを回していくことが重要です。
また、下図で示す4つのカテゴリを中心に、官民一体となってプロジェクトを推進していくことが想定されています。取り組みを推進していくうえで、国交省では迅速な成果をあげるために、交通事業者やソリューション提供企業、研究者や地方自治体などから幅広くアイデアを集め、官民一体となってMaaS 2.0を推し進めていくことをスコープに入れています。
3. 持続可能な地域公共交通の実現に向けた取り組み事例
持続可能な地域交通の実現に向け、先進的な取り組みを行っている株式会社NearMe(以下、NearMe)と株式会社電脳交通(以下、電脳交通)の事例を紹介していきます。
- ① NearMeの取り組み
昨今のインバウンド需要の回復や移動困難者の増加に対して、タクシードライバーが減少していることにより、ドアツードア移動の需給のバランスが崩れています。
さらに、公共交通機関の利用者のうち96%は電車・バスを利用しているため、タクシーは金銭面かつ需給バランスの観点から、ドアツードア移動課題を解決する抜本的なソリューションになっていないと考えています。よって、タクシーと電車やバスの間に存在する、シェア乗り領域のサービス展開が必要とされています。先述したドアツードア移動の需給バランスの解決に向け、輸送量の増加を目指すことは重要です。一方で、輸送の質も担保する必要があり、その解決策が「シェア乗り」です。NearMeでは、タクシーのシェア乗りを促進することで、第4の公共交通機関の確立を目指しています。
地域公共交通が抱える課題解決に向け、NearMeではシェア乗りの取り組み以外にも、テクノロジーを活用することで、運行管理会社の業務をデジタル化(DX)するサービスも提供しています。具体的には、乗車の組み合わせの最適化や計画配車などの領域で、AIやデータ分析を用いて効率的な運行を実現しています。これにより、配車効率の向上や、ドライバーの労働負担の軽減、利用者にとってスムーズで便利な移動手段の提供が期待できます。
- ②電脳交通の取り組み
タクシー業界は現在、ドライバーの高齢化や小規模自業率の割合の高さなどにより、企業規模の観点から新たな取り組みにアプローチするのが難しい状況となっています。
電脳交通は、クラウド型配車システムおよび、配車業務委託サービスを運営している企業です。このシステムにより全国47都道府県のタクシー事業者と連携が可能となり、効率的な配車サービスの提供を実現しています。
電脳交通では、サプライヤー側のプラットフォームを成熟させることによって、あらゆる外部サービスと連携していくことが重要だと考えています。
例えば、多様化している配車サービスにより、タクシー車内には複数のモニターが搭載されていますが、これらの領域を技術的に統合することでコスト面も含めた持続可能性を高める取り組みを推進しています。
具体的には「クラウド型タクシー配車システム」を地域公共交通に必要な形に応用しつつ、協調領域については統合を促すことにより、地域の移動課題解決を支援しています。
4. 交通関連データ活用の課題と先進テクノロジーの紹介
交通データの利活用や持続可能な地域公共交通の実現可能性に関して、先進的な取り組みを進める株式会社DATAFLUCT (以下、DATAFLUCT)と株式会社Eukarya(以下、Eukarya)の事例を紹介していきます。
- ①DATAFLUCTの地域交通事業者に対する取り組み
地域公共交通事業者へのヒアリングを行う中で、「データの利活用・スキル」に関する課題が多く見られました。特に、基盤となるデータ標準化やデータを分析・活用するスキルの向上が重要だと感じています。
そこでDATAFLUCTでは、生成AIなどを活用した、より簡易かつ精度の高い分析ツールを交通領域に活用していくことを目指しています。
まずは交通関連データをオープン化し、その上で交通事業者に標準化した分析フレームワークを提供することを考えています。また、生成AIを活用して、自治体や事業者ごとにオリジナルな分析や解析モジュールを提供する進め方を想定しています。交通領域において非構造化データを構造化することは、帳票の多さや表現の違いによって難しさが増します。そのため、自社で案件ごとに辞書化していく取り組みが必要です。事業者単位での違いがデータ面で標準化されることで、事業者間のデータ共有化や分析の幅が広がることが期待できます。
- ②Eukaryaの大規模都市データ領域におけるテクノロジードリブンなシステム開発の取り組み
あらゆるWeb関連の技術の発展により、Web上で全ての業務が完結するGISプラットフォームの構築が可能となり、EukaryaではRe:Earthというツールを開発しました。
このツールには、ノーコードでデータビューアを作成・編集できる「Re:Earth Visualizer」や、ノーコードでデータの投入・管理・API配信が可能な「Re:Earth CMS」など、多岐にわたるユースケースに対応した機能が含まれています。Webの進化により、次世代MaaSシステムの可能性が拓けており、これまでWeb化されていなかった領域や業務についても積極的にWebクラウド化が可能となっています。
Webのみならず、ゲーム技術などから生まれたアイデアをMaaSの世界に置き換えるなど、最新技術を積極的に活用できる環境を整備することが重要だと考えています。
5. MaaSの未来〜JR東日本とMaaS Tech Japanの取り組み事例〜
- ①東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)におけるMaaSの取り組み
JR東日本として、移動領域のDXから始まったMaaSですが、これまでの延長線ではなく、社会課題を解決する観点からのMaaSに取り組んでいます。具体的には、Suicaとマイナンバーカードを連携させることで、特定地域の居住者向けサービスや特定年代向けの交通サービス提供などを可能にする取り組みが始まっています。
地域課題を解決するにあたり、実績に基づく計画実行のサイクルを回していくことが今後非常に重要となります。
地域によって抱えている課題は異なるため、固有の課題仮説を精緻に立て、その仮説に対して打ち手を講じ、データ分析機能の強化も含めてサイクルの高度化に取り組んでいきたいと考えています。
- ② 株式会社MaaS Tech Japan(以下、MaaS Tech Japan)のMaaS2.0に向けた取り組み
今後のMaaSの推進のためには、ユーザーのシームレスな接点の強化に加え、MaaSのシミュレータやコントローラとしてシミュレーションした結果をダイヤや料金の最適化、稼働率向上に活かす仕組みを作り上げていく必要があると考えています。
各自治体とは実際の取得データや分析データの利活用領域での連携を開始しており、モビリティハブとしての適地選定や、連接バスの導入路線検討に役立てられるなどの事例があります。
また、自治体完結だけでなく、関西MaaS・九州MaaS・北海道MaaSなどに代表されるような広域MaaSの取り組みが今後益々重要となっています。MaaSの土壌や土台は、さまざまな事業者がこれまで推進してきたことにより、一定程度形成されてきたと考えていますが、今後は各モビリティサービスの特徴を連携強化することで、本質的な課題解決に繋げていくことが重要です。
6. 最後に
計量計画研究所の理事であり、神戸大学の客員教授である牧村氏によると、今後MaaS 2.0を推進するにあたり、先進的なテクノロジーを持つスタートアップが主役となることに加え、官民一体となってデータガバナンスの考え方を連携させることも重要になると述べています。
移動の先にあるまちづくりについては、GAFAの力を持ってしても入り込みにくい領域であると牧村氏は考えています。そのうえで、日本の各都市の都市形成の歴史を踏まえた交通を起点に、さまざまなプレイヤーが参入することでコンソーシアムが形成され、業種をまたいだ接続性が強化されることによって、日本ならではのMaaSのあり方が成熟していくことは間違いないと、見解を述べています。
また世界では既に、自動運転社会を前提としたMaaSビジネスが移動DXのメインストリームになっています。路肩や縁石等のカーブサイドをデジタル化するといった動きが活発になっており、各種スタートアップがしのぎを削っています。
都市を丸ごとデジタル化していく動きを中心に、さまざまなMobilityと接続していくMaaS3.0という概念もそう遠くない未来にあります。先進的な技術を持つスタートアップにはこの領域に積極的に参入していけるように、国もしっかりと資金面・制度面で支援を強化していくことが期待されます。
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Mobility Manager 唐澤 舞:m.karasawa@pnptc.com
Mobility Associate 野口 直人:n.noguchi@pnptc.com