がんが手遅れになる前に、家庭で手軽に検便・検尿ができるセンサーを普及させたい - RedEye Biomedical
2022/04/28
大腸癌や膀胱癌の早期発見に役立つ一般家庭用検査デバイスを開発しているRedEye Biomedical Inc.(以下、RedEye Biomedica)。手掛けるのは、水洗トイレで排泄した後にリトマス試験紙のような使い捨て紙片を便器の中の水にひたして、便や尿中の血液を検出するヘモグロビンセンサーです。今回、創業者/CEOのネルソン・ヤン氏に起業に到るまでの長い道のりから、文字通り心血を注いで開発したデバイスについてインタビューしました。
(本記事は2018年10月にPlug and Play Japan公式noteで公開した記事です)
Chiyo Kamino
Communication Associate, Kyoto
家族が打ちのめされた義理の父のがん宣告
ーーなぜRedEye Biomedicalを始めたのですか?
会社を設立する前は、台湾の大手企業Foxxconnで働いていました。日本では、SHARPを買収した鴻海という名でよく知られています。初めての仕事がFoxconnで、エンジニアリングやマネジメントについて多くのスキルを学ばせてもらいました。
しかし時間が経つにつれ、自分や家族のためだけではなく、人々や社会全体のために自分に何ができるだろうと考えるようになりました。2009年に経済危機が起こったあと、友人を見舞いに病院へ行った時に、たくさんの人で混雑しているのを目にして『世界経済は今ひどい状態だけれども、病院の経営基盤はとても安定しているみたいだ』と思いました。『もし自分が事業を始めるとしたら、どんなところが良いだろう?』と想像して、その頃から自分の時間とリソースをバイオメディカル業界に投資したいと思うようになりました。
しかし実際に会社を設立するまでは、時間をかけて何がいちばん良い方法なのかを考えることにし、急がないことに決めました。取り組むべきテーマが優れていないと、説得力もないと考えたからです。自分自身を納得させる必要もありました。そんなある日、義理の父の病気がわかったのです。
彼は血尿になり、驚いてすぐ病院に行きました。悪いことに、検査の結果は膀胱癌でステージ3でした。血液がほとんど目に見えないため初期では気づかなかったのです。
そこでもし自分が血尿の初期徴候を発見できるようになれば、同じような病気の人々を救うことができると考えました。そして尿や糞便中の目に見えない微量の血液を、家庭で早期に発見できる方法をインターネットで検索しましたが、そんな方法はないことがわかったんです。確立された検出方法がないと知って、業界におけるニッチが存在するのだと気付きました。業界におけるニッチはチャンスだと思い、Red-eyeを立ち上げることにしました。
ただ自分のアイデアに最初は自信がなかったので、Ph.D時代の友人をはじめ、多くの人に相談しました。皆に良いアイデアだと言ってもらえたのでこの方法を進めることに決め、2016年には、大学教授でエンジニアリングの専門家でもある友人に水中の血液成分を検出する方法を相談しました。またお金もなかったので、彼に頼んで安い報酬で実験に協力してくれる学生を紹介してもらいました。
そして実験はうまくいき、人間の、特に男性の血液の徴候を水中で確認することができました。そこから銀行やエンジニア、投資家など多くの人に話をして支援をとりつけ、2017年7月12日にRed Eyeを台湾で立ち上げました。
文字通り自らの心血を注ぎ込んだ開発
ーー会社を立ち上げてから、直面した課題は何ですか?
小さい会社なので、誰も私たちのことを知りません。最初は資金面で支援を受けるのに苦労しました。銀行からは、会社が新し過ぎて収入がないため貸付できないと言われました。若手起業家向けの政府の支援金にも応募しましたが、同じ理由で却下されました。若すぎる、規模が小さすぎる、収入がなくお金を返せるあてがない。それがまず最初の試練でした。
R&Dの面でも課題に直面しました。まず、実験のために人間の血液が大量に必要でした。最初は血液採取用の針をどこで手に入れられるのかも知らなかったので、ふつうの針で自分の指先を刺して血液を採取していましたが、とても痛かったのを覚えています。しばらくして医療用の針を手に入れましたが、それでも血液をうまく採取できず量がたりませんでした。
そこで病院に行って、受付にいた看護師に「学生なんですけど、実験用に血液が要るので私の血を抜いて試験管に入れてくれませんか?」と頼んだんです。見ず知らずの人にそんなことを頼むのはとても気が引けましたし、やってくれるのかどうかもわかりませんでしたが、ありがたいことに彼女は私の血液を採取してくれました。あとは実験中にレーザーの光が強過ぎて血液を燃やしてしまったこともありましたね。ひどい臭いでした。
いつも助けてくれるYvonneをはじめ、チームの皆には毎日本当に感謝しています。おかげで設立から2年半が経って今ここにいます。
ーーRed Eyeの独自性とは何ですか?
便や尿中に血液が混じっているかどうかを、家庭のトイレで調べることができる新しいソリューションだという点です。以前は、人々は便を採取して病院まで持っていき、1週間以上待たなくてはいけませんでした。また、検便をしてもその便にたまたま血が検出されなかったため見落とされたりということもありました。
RedEyeを使えば、10秒で結果を見ることができます。現在人々が検便や検尿を行うのは通常、1年に1回かそれより少ない頻度ですが、RedEyeでは病気の早期発見のために2週間から週に1回程度の検便/検尿を勧めています。
私たちのデバイスは、世界初の家庭向け光学電子ヘモグロビンセンサーです。病院や研究所向けの検査機器は巨大ですが、私たちのデバイスはハンドサイズです。また、私たちのテクノロジーはスマートトイレに組み込むことも可能です。
ーーPlug and Playのプログラムで、何か進展はありましたか?
Plug and Playのプログラムに参加する前、既に島津製作所と京セラには会ったことがありました。再びお話する機会ができて嬉しいです。その2社に加えて、東京のInsurtechのイベントで保険会社数社とお会いしました。ビジネスモデルとしてこれから具体的にどう進めていけばいいかはまだわかりませんが、たくさんディスカッションできました。保険会社と話をするのは初めてだったので、今までになかった話ができてとてもよかったと思います。
健康管理をもっと手軽に、潜血検査をもっと迅速に
ーーどんな未来をつくりたいと思っていますか?
まず、現実的な目標としては会社を存続させていくことです。これはどのスタートアップも同じだと思います。販売業者や戦略パートナー、日本の顧客などに向けてより多くのプロジェクトをスタートさせたいと考えています。そして日本だけでなくグローバルに製品を展開していきたいですね。より多くの人に私たちのテクノロジーを知ってもらい、家庭で製品を使ってもらいたいです。自己健康管理をすることで、病気の早期発見につなげ、病院で検査を受けるきっかけにしてほしいです。
がんのステージ1から3の初期症状を発見できれば、人々の役に立つことができます。世界中で大腸癌の患者は180万人おり、これは多過ぎます。人々がRedEyeの製品で初期症状を発見し、早期に治療を始めることができるようにすることが、私たちのモチベーションです。