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デジタルツインによる豊かなまちづくりを目指して|Resonai Inc. x 株式会社竹中工務店 協業事例インタビュー

2022/07/19

2020年度、国土交通省がスマートシティをはじめとするまちづくりのデジタルトランスフォーメーションを進めるため、現実の都市をサイバー空間に再現する3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化を進めるプロジェクト「Project PLATEAU(プロジェクト プラトー)」を開始しました。多様な生き方や暮らし方を支えるサステナブルで人間中心のまちづくりを実現することを目指して、デジタルツインを広範囲に実装するための3D都市モデルへの期待が高まっています。

株式会社竹中工務店(以下、竹中工務店)では、都市OSとデータ連携が容易な建物OS「ビルコミ®」を開発し、高機能なスマートビルの実現に取り組むとともにデジタルツインによるまちづくりを積極的に推進し、スマートシティの実現を目指しています。今回、竹中工務店はイスラエル発スタートアップResonai Inc.(レソナイ、以下、Resonai)が開発するARプラットフォーム「Vera」を活用し、ビルコミと掛け合わせることで建物内の管理機能拡充に向けた協業を開始しました。協業の背景や、Resonaiが有するテクノロジーの特徴、今後の展望などについて、竹中工務店情報エンジニアリング本部の政井氏、粕谷氏、青野氏、技術本部の井原氏、中島氏、Resonai Chief Business OfficerのGavin氏にお話を伺いました。


Writer: Haruka Ichikawa

Communications Manager


政井竜太 氏 

竹中工務店 情報エンジニアリング本部

1993年に竹中工務店入社。オフィスや工場などの設備設計を経て、2000年から2年間データ通信会社に出向。帰任後はデータセンターやスマートビルの技術開発や営業を担当。2013年、情報エンジニアリング本部に配属、2019年より本部長。


粕谷貴司 氏

竹中工務店 情報エンジニアリング本部

2008年に竹中工務店入社。2009年よりワークプレイスプロデュース本部。2014年より情報エンジニアリング本部に所属し、建物における情報エンジニアリングに従事。BIMと建物設備システムの融合を目指して研究と実践を続けている。2021年より情報処理推進機構(兼務)。博士(情報理工学)


青野敏紀 氏

竹中工務店 情報エンジニアリング本部

2016年に竹中工務店へ入社。2017年より、ワークプレイスのTEL/LAN構築やスマートビルの設計・施工支援業務に従事する。2017年11月から情報エンジニアリング本部に兼務となり、ビルコミⓇ及びゲームエンジンを用いた人流シミュレーションの開発・プロジェクト展開活動を行っている。


井原健史 氏

技術プロデュース部 GRIT(Global Research and Innovation Team)グループ

2003年に竹中工務店に入社。入社以来、建築材料・工法の研究開発に従事。三菱一号館美術館の施工管理、ノルウェー科学技術大学(NTNU)へ留学、そしてNEDOへの出向を経験。2020年からGRITグループにて、先端技術の情報収集と実証、様々なコラボレーション活動を推進している。PhD


中島奈央子 氏

技術プロデュース部 GRIT(Global Research and Innovation Team)グループ

2011年に竹中工務店に入社。病院の施工管理業等に2年間従事し、2013年から自然素材の建材利用や3Dプリンターの建設利用をテーマに研究開発に従事。2021年4 月からGRITグループにて、サスティナブル素材に関する技術開発の推進とともに、社内・社外とのイノベーション活動を行っている。


Gloria V. Gavin

Resonai Inc. Chief Business Officer

エンタープライズ、SMBソフトウェア、Saasサービス、消費者向けインターネット産業に関する新規事業モデルの立ち上げ及び革新的な商品のローンチに25年間以上従事。 前職ではコンサルティング業務に従事し、成長フェーズにある様々なスタートアップ、またGoogle、Facebook、PWC、WalmartLab、eBayなど大手企業に向けて商品販売戦略や市場開拓サービスを提供。 現在は、高度成長AIと空間コンピューティングの開発・提供を行うテルアビブ発スタートアップResonai Inc.のチーフビジネスオフィサーとして、アメリカでの事業にも携わっている。


協業の背景:イノベーション文化とシステム基盤の構え

ーー協業の背景についてお聞かせください。

粕谷氏:

情報エンジニアリング本部ではスマートビルソリューションの開発・推進に取り組んでおり、当社の建物OS「ビルコミ」のプラットフォーム上で建物の管理機能を向上させる連携技術を以前より模索していました。Plug and Play JapanのChampionである井原さんよりDealFlow*を介してResonaiを紹介いただきました。複数のスタートアップとお会いして、コンピュータビジョンをベースとした優れた空間構成やナビゲーションの機能があり、建物内の情報モニタリングや遠隔制御を同時に実現することが可能で、すぐに導入もできるということでResonaiとの協業がスピーディーに決まりました。

DealFlowとは:Plug and Play Japanが提供する大手企業向けのイノベーション支援として、大手企業ごとの探索ニーズに合致する複数社のスタートアップを紹介する仕組み。

ーー複数のパートナー候補の中から、Resonaiとの協業に至った理由や、スピーディーに協業が進んだ要因は何でしょうか?

(資料提供:竹中工務店)

粕谷氏:

最初から技術的な解像度が高かったことに加えて、エンジニアの方が技術部分を含めて細部まで情報を公開してくださったり、当社の建物OSに搭載する技術を掛け合わせる上でのアイデアを出してくださったことで実証のイメージを深めることができ、結果として実証範囲も拡げることができました。
また、本取組にはコモングラウンド・リビングラボ*という大阪にある実証施設を利用しましたが、そこでは建物内の点群データが予め用意されていたため、実証実験をスピーディーに開始することができました。社内の体制面においてはChampionである井原さんの活躍も大きいと思います。NDAなどの契約面から諸手続き、他部門との調整など多方面でサポートをしていただきました。

井原氏:

2017年から竹中工務店ではオープンイノベーション推進に向けた体制が構築され、我々が保有していない技術をスタートアップなど、他社との連携により実装していこうという方針が定められました。会社全体のオープンイノベーションに対する前向きな風土という好影響もあり、プロジェクトを発足することができました。
これまでのオープンイノベーション活動の中で、まだ世の中に浸透していない技術やソリューションを有するスタートアップと協業を進めていく上で、実現できる未来像があいまいになりがちであることを課題に感じていましたが、本案件では相互に協業における具体的なイメージが合致したことが、この取り組みの実現に至る大きな要因だったと思います。

コモングラウンド・リビングラボとは:
「コモングラウンド・リビングラボ」は、スマートシティを促進させるサービスやアプリケーション、製品を開発・提供する企業にとっての実証・実践の場として、大阪商工会議所と竹中工務店を含む賛同企業5社により設立された。参画企業である中西金属工業敷地内にシェアオフィスと共同実験場で構成されたラボを開設。
ラボは、カメラやLiDAR(ライダー)などのセンサー技術を活用し、フィジカル空間とデジタル空間との間で、リアルタイムかつ双方向に情報をやり取りする実験を行うことができる。Plug and Play Japanは2021年5月、スマートシティ実装の推進に向けてコモングラウンド・リビングラボ運営委員会、Rainmaking Innovation Japan合同会社と3者間の連携協定を締結。

既存のプロダクト同士を掛け合わせる強み

ーーResonaiにとって、日本企業である竹中工務店とのプロジェクトにはどのような特徴がありましたか?

(資料提供:竹中工務店)

Gavin氏:

日本のAR市場は成熟していて大変興味深いと感じていたところ、Plug and Play Japanプログラムへの参加により、竹中工務店のような大手企業との対話を重ね、大手企業が先端技術を導入する上での組織体制や戦略について学ぶことができました。竹中工務店は「なぜデジタルツインを必要としているのか」という問いに対して具体的なニーズとビジョンがあり、スムーズに共同開発に向けた議論を進めることができました。どのような建物にでも実装できるようなデジタルツインを目指す思想のもと、竹中工務店が開発した建物IoTプラットフォームfutabaにResonaiが保有するアプリケーション「Vera」を実装させるための実証実験を開始しました。

これまで多くのグローバル企業と共同開発に向けた議論を重ねてきましたが、技術開発やシステム導入のトレーニングに終始することなく、既存のプロダクトと掛け合わせることでより具体的なユースケースを想定して始めから議論し、このように開発を進められたことは非常に先進的だと感じています。

竹中工務店の開発パートナーであるタタ・コンサルタンシー・サービシズ(以下、TCS)にResonaiのソフトウェア開発キット(SDK)を提供して、数週間で開発基盤のトレーニングを終え、ARナビゲーション、建物内の侵入検知、照明機器などの設備制御、利用者の権限管理などの共同開発を行いました。Plug and Play JapanやTCSともコミュニケーション面でサポートをいただき、とても素晴らしいコラボレーションが実現したと感じています。

開発の成果:ARナビゲーションから建物設備制御へ

ーー本プロジェクトの結果について教えてください。

(資料提供:Resonai)

青野氏:

ResonaiのARナビゲーションの実装が可能かどうか実証をすることがまず第一の目的でしたが、実装が可能という目的を達成後、Resonaiの開発者の方からもアイデアをいただきビル周辺から内部のナビゲーションに加えて、ビル全体の設備制御についても共同開発を進めていくという第二の目的へと発展しました。
本取り組みでは、当社が実施した2019年度の国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」建物OS「ビルコミ®」の基盤を適切に使用して、サードパーティアプリケーションの開発に繋げられたという点においても大きな成果だと捉えています。

政井氏:

実証の場でもあるコモングラウンド・リビングラボにて実証実験の成果をお披露目したのですが、短期間で高い精度の実証結果に対する評価が高かったです。
既存のスマートフォン上のナビゲーションシステムは通信状況が悪い地下通路や線路脇などで案内が途切れてしまうこともありますが、今回のプロジェクトでは点群データとコンピュータビジョンをコア技術として、通信の影響を受けづらい高精度ナビゲーションが可能であることなど、検証技術の実用性を伝えることができました。

Gavin氏:

Resonaiでは人間のような眼として物体を認識できるソフトウェアを8年以上開発し続けてきました。クラウドシステム上でディープラーニングを用いて開発を重ねることで、開発コストを削減して、実際に活用したい機能の実装にすぐにとりかかれる環境を提供することができます。竹中工務店との実証実験を通して、当社としてもこれまでに知ることができなかった実務的な課題を発見することができ、アプリケーションを拡充させるための良い経験を積むことができました。
ARナビゲーションの情報と連動させながら、利用者に対するユースケースを拡げるために今後もさまざまな機能を開発していきたいと考えています。

ーー本プロジェクトにはどのような課題がありましたか?また、その課題にはどのように取り組まれましたか?

青野氏:

Veraシステムへの実装においては非常にスムーズに進めることができましたが、あえて挙げるとすれば、設備制御のUIについては3Dモデルのインポートや細かな修正に関するやり取りが発生したので、技術者の方との丁寧なコミュニケーションが求められました。時差や言語の制約がある中で、イメージがしっかりと伝わるよう、ビルコミの仕様に関する図解の説明などを増やすなど工夫しました。

Gavin氏:

コロナの影響もありコミュニケーション上の課題は深刻でしたが、対話量を増やし丁寧に伝えることを徹底しました。当社のCEO Emil Alonはエンジニアとしての経験もあり、Resonaiにおいても長年の開発や育成に関わり、技術力への高い自信がありました。AI、3Dモデルなどの各技術における理解力に加えて、アイデアをコンテンツとして具現化する力に強みを持っているので、エンジニアにもためらわずアイデアを形にするための経験を惜しまないよう伝えています。そうすれば、当社にとって実践的な経験が増え、開発が進めば進むほど、さまざまな方に新たな体験を提供することができる。私達はいつもそのようにオープンでいられるよう意識しています。

今後の展望:デジタルインフラの構築に向けて

ーー今後の展望をお聞かせください。

粕谷氏:

Veraプラットフォームのケイパビリティを引き出していくためのPoCを今後も続けていきたいと考えています。具体的には位置情報検出機能など、ビルコミと連携させていきたいという計画を立てています。また、商業化に向けては開発パートナーであるTCSや社内外のステークホルダーとも連携しながら検討していきたいと思います。

政井氏:

当社が開発を進めるデジタルツインでは、デジタル空間上で得られる情報や価値をリアル空間にフィードバックして活用していくものです。万博を契機に描かれる未来社会では、どのような方にも参加していただける、ボーターレスな世界の実現が期待されています。どの国からでも参加できるようなデジタルツイン万博構想についても、このような開発技術が貢献できると感じており、引き続きさまざまな可能性を模索するための共同開発を進めていきたいです。

Gavin氏:

当社も次のフェーズに向かう時期だと感じており、今年の初めに資金調達を実施しました。事業成長に向けて採用を拡大し、年内には日本にも本格的に参入していく予定です。
メタバースが勃興する昨今、人々の期待が新たなデジタル体験に寄せられています。当社のようなAIやコンピュータビジョン技術がスマートビルや建物管理、施設内での体験価値向上に対して貢献できる領域や地域は今後ますます増えていくでしょう。
私達は実在する建物をデジタル化して、建物の仮想空間を創り上げています。建物のメタバースともいえる空間内において、道案内や設備制御は、そこで体験できることの一端に過ぎません。従来にはないコンテンツを仮想空間上に提供するためのデジタルインフラストラクチャの構築こそが、当社が竹中工務店とともに実現したい未来像です。

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