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都市のエネルギー問題を解決する洋上太陽光発電への一歩 | 東急不動産 x SolarDuck 協業事例インタビュー

2023/02/24

日本初となる洋上太陽光発電に向け、実証実験を開始した東急不動産と浮体式洋上太陽光発電設備を開発するオランダのスタートアップ、SolarDuck。大都市圏における電力自給問題に対する将来的な解決策として、東京湾の海上に太陽光パネルを浮かべ、発電した電力を陸上へと輸送する試みが始まっています。プロジェクトの背景と将来構想について、担当者の2人にインタビューを行いました。


Interviewee : 渡邉 聡氏

東急不動産株式会社 都市事業ユニット都市事業本部 スマートシティ推進室


Interviewee : Olaf de Swart(オラフ・デ・スワート)氏

SolarDuck 共同創業者


Interviewer : アルダウシ コイルル リザル

Plug and Play Japan Program Manager, Energy


Company Profile

東急不動産株式会社

https://www.tokyu-land.co.jp/
東急不動産は、オフィス・商業施設などの都市事業、住宅事業、ウェルネス事業などを展開する総合不動産事業です。また、「環境」と「街づくり」をキーワードに事業拡大を進める中で、再生可能エネルギー事業をはじめとした環境分野への取組みも積極的に進めています。

SolarDuck

https://solarduck.tech/
SolarDuck B.V.は、オランダとノルウェーにまたがる、海運業に根ざした洋上浮体式太陽光発電の企業です。オランダ最大の造船所であるDamen Shipyardsから分離独立して設立され、それ以来「洋上浮体式太陽光発電で世界を電化する」というビジョンに向け、たゆまぬ努力を続けており、独自の最先端技術を駆使して洋上太陽光発電を地域の要件に合わせて行っています。
SolarDuck B.V.は、世界のエネルギー需要の増加に対応するための持続可能なソリューションを提供しており、特に脱炭素化の必要性と限られた土地面積のために、海洋空間でのソリューションが必要とされています。SolarDuckの技術は、サンベルト地帯の島々からオランダを含む北海のハイブリッドオフショアパークに至るまで、幅広いユーザーケースにおいて魅力的な価値を提案します。

協業の背景

ーー東急不動産はPlug and Play Japanの複数のプログラムに参画されていますが、さまざまな分野の中でもエネルギー分野に注力される理由は何でしょうか?

渡邉氏:

当初参画しました2017年頃は、まず都市開発の観点からIoT分野を中心にスタートアップとの協業を検討し始めましたが、会社としてはそれ以前から再生可能エネルギーを含むエネルギー分野の施設開発にも積極的に取り組んでいました。社会的な要請も高まる中、エネルギー分野により注力していきたいということで、2021年からSmart Citesというテーマに加え、Energyプログラムにも参画しています。

ーー再生エネルギーの中で洋上太陽光発電に着目された理由は何でしょうか?

渡邉氏:

当社としては再生可能エネルギー事業にも積極的に取組んでおり、これまで陸上での太陽光発電や風力発電に取り組んできましたが、今後の可能性として洋上での発電にも注目しています。日本では池や湖における水上太陽光発電の事例は多いですが、私が聞いている限りでは海上での事例はまだないので、海上という環境下でも設置できる技術を持つSolarDuckに今回着目しました。またそのような中、東京都より東京湾における実証プロジェクトである『東京ベイeSGプロジェクト』が公募され、SolarDuckの技術がフィットするのではと考え、今回の事業提案、実証実験に至りました。

ーーEnergyプログラムに参加されていかがでしたか?

渡邉氏:

エネルギー分野に興味のある他の企業さんと一緒に出席した勉強会が良かったと感じています。何度か参加させて頂いた中でSolarDuckとの協業可能性をテーマにした会があり、その中で様々なアイデアが出されたのは非常に刺激になりました。

Plug and Play Japanの活用

ーーSolarDuckがこのプログラムを知ったきっかけと、当初期待していたことをお聞かせください。

De Swart氏:

2019年、私は初めて日本を訪れました。日本はターゲット市場の一つとして興味があったため、当時からネットワークを構築したいと考えていました。日本でのアクセラレータープログラムを探しており、Plug and Play Japanに出会いました。

私たちのようなスタートアップでは、技術を商品化するために協業することが必要だと思い、当社技術に関心のある企業と提携したいと常に考えていました。しかし、日本では特に適切なコネクションを見つけることが非常に難しい場合があります。Plug and Play JapanのEnergyプログラムを通じ、日本の大手エネルギー企業数社の適切な担当者とコネクションを構築することができました。私たちとの協業に関心があるかどうか探る上で、理想的な出発点だったと思います。そこで、東急不動産と出会ったのです。

ーープログラム期間中に出会った多くの日本企業の中から、東急不動産をプロジェクトパートナーとして選んだ理由は何ですか?

De Swart氏:

まず、東急不動産は非常に先進的な企業であり、使用する電力の100%を再生可能エネルギーにする事に取り組んでいる企業が加盟している国際的な企業連合「RE100」の一員でもあります。 東急不動産は積極的なCO2排出量削減目標を掲げ、陸と海の両方で再生可能エネルギーに注力していることから、私たちとの協業の理想的な候補でした。さらに、東急不動産ではすでに東京都の東京ベイeSGプロジェクトを検討しているところでした。それらすべてがうまく一致したのです。

プロジェクト概要

ーー今回のプロジェクトの概要を教えてください。

渡邉氏:

東京都が打ち出した50年・100年先の都市のあるべき姿を構想した未来のまちづくり戦略『東京ベイeSGプロジェクト』の先行プロジェクトでは、「再生可能エネルギー」「次世代モビリティ」「環境改善」という3つのテーマに基づき、弊社を含め計9プロジェクトが採択されました。今回の我々の提案は、発電したエネルギーを蓄電し、その蓄電池を自動航行帆船で運ぶというもので、SolarDuckさんに加えてもう1社、エバーブルーテクノロジーズさんというスタートアップも一緒にチームとして取り組んでいます。

今回の実証プロジェクトは、2022年度を含む3カ年のプロジェクトとして、2025年3月まで実質2年強で進めるものになります。タイムラインとしては、2022年度は設計や許認可の検討をおこない、2023年度はSolarDuckのユニットを設置し実証を開始します。最終年度となる2024年度は、発電・蓄電・搬送を中央防波堤という限られた場所の中で実施し、通年で変化する気象条件のもと発電が行えるかどうか等を検証する予定です。

今回の対象地は波の影響を受けにくい場所ですが、東京湾は台風などの自然災害が頻発するエリアなので、1年を通して実験する中で海上発電ユニットが気象変動に耐え得るかを検証したいと考えています。発電・蓄電したエネルギーは実際に竹芝で使用する予定です。ポータブル蓄電池に蓄電して電動バイクに接続したり、イルミネーションイベントなどで使用する程度の消費電力からスタートする形でまちづくりに活用していきたいと思っています。

(画像提供:東急不動産)

ーー技術的な面でこのプロジェクトに期待することは何でしょうか?

De Swart氏:

今回のプロジェクトは、日本初の洋上浮体式太陽光発電です。実証実験で私たちの技術が台風や地震など日本が抱える厳しい環境条件にも耐えられることを示したいと思っています。私たちは日本でユニットを組み立てなければならないので、部品を日本で購入しグリッドに接続する必要があります。そのために、日本市場におけるサプライチェーンの仕組みやパートナーを調査し、日本における製品完成までの全工程を把握し、プラントのメンテナンス方法やオペレーションをテストしたいと考えています。

将来構想

ーー実証実験以降、事業化あるいは事業拡大などの長期的な展開は考えられていますか?

渡邉氏:

まずは今取り組んでいる竹芝エリアの開発を基点に、東京都の掲げる東京ベイエリアにおけるゼロエミッションの達成に寄与すべく、東京ベイエリアにおける事業展開の可能性を検討するとともに、地方での洋上風力発電との連携なども検討してみたいと思っています。今後はSolarDuckさんと一緒に再生可能エネルギー事業としての洋上太陽光、洋上風力分野への補完、他地域への展開などが検討できたらと考えています。

ーー東京だけでなく、日本全体での再生エネルギー開発にはどのような可能性を感じていますか?

De Swart氏:

日本では、地域によって課題も違えばチャンスも異なると思います。特に東京湾は風速が弱く、洋上風力発電所を大規模に建設する利点がないという興味深い地域です。また、東京周辺では土地不足が深刻であるため、東京周辺エリアから再生可能エネルギーを供給することは非常に難しい。このような地域では洋上太陽光発電は理想的と言えるでしょう。大阪、岡山、福岡などの都市でも似たような状況です。

また、洋上太陽光発電と洋上風力発電を組み合わせることでよる利点もあります。この場合、既存の送電網のインフラを活用できます。洋上風力発電所と同じ変電所や送電用ケーブルに接続することができるのです。風力と太陽光を組み合わせることで出力はより安定するので、24時間365日エネルギーを供給するために必要な貯蔵量も少なくて済みます。
東京湾は3,000万人が住む世界有数の大都市圏のエネルギー供給地です。この地域の電力の多くは化石燃料で発電され、しばしば輸入されています。そのため、再生可能エネルギーによる発電を増やすことができれば、日本のエネルギー自給率を向上させることができます。

晴れた日には太陽光発電を、風が強いときには風力発電を行うのが理想的です。またそれらを陸上の揚水発電と組み合わせて一時的なバッテリーとして機能させ、将来的には水素と組み合わせることで、日本がエネルギーを完全自給できるようになる可能性があります。このように、日本ではさまざまな興味深いビジネスモデルが考えられます。

ーー今後、他のEnergyプログラムの企業パートナーと提携する可能性はありますか?

渡邉氏:

当社は基本的には不動産会社なので、再生可能エネルギー事業のコア技術を持っているわけではないのですが、実証の場の提供や調整というかたちで連携できると思っています。他のスタートアップや企業パートナーの方々から、技術実証のニーズを持ってきて頂けましたら、私たちは実証の場の提供などを通じてご協力、ご連携できると思っています。

Energyプログラムのパートナーさんだけでなく、スマートシティやモビリティでも同じように実証実験の場を求められるケースはあると思うので、そういう分野でも貢献できたらと思っています。また、主に東京を中心とした地元行政との関係性のもと事業を展開する企業であるからこそ、今回のように強みを発揮できると思っています。特に海外のスタートアップなどからすると、東京都などの地元行政と直接接点をもったり、協議を行うことに対するハードルはあるのではないかと思いますが、ぜひそのような部分で当社を活用頂く中で、海外スタートアップを含め、各社さんとご連携ができたらと思っております。

(東京ポートシティ竹芝にて)

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