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技術によって「砂糖」は代替できるのか? 〜代替甘味料を提供するスタートアップ6社〜

2024/03/07

近年、消費者の健康志向の高まりにより、砂糖を代替する甘味料が注目を集めています。このレポートでは新たに注目を集めている2つの代替甘味料にフォーカスし、本領域の最先端で活躍するスタートアップの革新的な取り組みを紹介します。さらに、日本の代替甘味料市場の今後の展望についても考察します。

[目次]

  1. 砂糖の代替品が注目されている背景
  2. 人工甘味料の課題
  3. 新たに注目を集めている代替甘味料
  4. 新たに注目を集めているスタートアップ
  5. 日本で代替甘味料市場が発展するためには

Writer: Risa Taniguchi

Marketing Associates


Co-Writer: Yoshitake Sohma

Director, Food & Beverage / Ventures Associate


1. 砂糖の代替品が注目されている背景

近年、消費者の嗜好が大きく変化し、健康的で安全性・栄養価が高い食品への需要が世界的に高まっています。パンデミック後、「健康」や「ウェルネス」に対する意識の高まりは加速しており、特に糖類の摂取過多がもたらす健康への影響は、深刻なものとして捉えられています。

WHOによると世界では約4億2,200万人が糖尿病を患っており、毎年150万人近くの人々が糖尿病を原因に死亡しています。そのため、糖尿病をはじめとした肥満・高血圧などの生活習慣病への対応は喫緊の課題となっています。

米国の大手食品原料メーカーであるArcher Daniels Midlandによると、米国の成人の77%が健康維持のために糖類の摂取を積極的に控えるよう努めているほか、McKinsey & Companyの調査では米国のみならず、欧州各国においても糖類の摂取を控える傾向があると指摘されています。

このような課題に対し、砂糖の代替品として人工甘味料を使用する企業は多くあります。人工甘味料の歴史は古く、1952年に初めてダイエットソーダが発売されました。アメリカでは1950年代にダイエットソーダブームが巻き起こり、大手飲料会社がこぞってゼロカロリーの飲料を発売するなど、1950から1960年代にかけて需要が増加したと言われています。

「人工甘味料」とは、人工的に化学合成された甘味料のことで、糖アルコールと合成甘味料が該当します。糖アルコール(e.g. エリトリトール、キシリトール)は、自然界にある糖質を化学合成したもの、合成甘味料(e.g. アスパルテーム、スクラロース)は自然界に存在しない糖質を化学合成したものという違いがあります。どちらも砂糖と比較し数百倍の甘さがあることから、少量で十分な味付けが可能です。また、インスリンの分泌刺激が弱いことに加え、ブドウ糖を含まないことから、摂取後の血糖値上昇や脂肪内へのブドウ糖の吸収がなく、肥満に繋がりにくいと言われています。つまり、人工甘味料自体に体重を減らす効果はないが、摂取カロリーを抑えることができるため、結果的に減量につながるとされています。これらの人工甘味料は、清涼飲料水やガムを始めとし、さまざまな飲食物や医薬品に使用されています。

2. 人工甘味料の課題

人工甘味料は2031年には市場規模が32億9,000万ドルに達する見通しとなっています。これは、現在砂糖(精製糖)の市場規模と言われる(622.4億ドル)の5%を占め、2023から2031年の10年間で約10億ドルの市場成長が予測されています。欧州の国々で導入されている砂糖に課される税も人工甘味料の市場拡大の追い風となると言われています。

一方で、近年さまざまな研究機関は人工甘味料がもたらす健康リスクを発表しており、人工甘味料の長期的な使用における安全性が懸念されています。

アメリカの科学誌Nature Medicineは糖アルコールの一種であるエリスリトールが血液の粘性を増加させ、心臓発作や脳卒中のリスクを高める危険性があることを発表しました。また、IARC(国際がん研究機関)も合成甘味料の一種であるアステルパームの発がん性リスクを発表しています。

上記の発表については依然として不確実な点も多いことから、WHOが2023年5月に発表したガイドラインでは、完全な使用を禁止する内容ではなく、「減量や生活習慣病の予防の手段として人工甘味料を使用しないことを推奨する」という条件付き推奨にとどまっています。

また、2023年6月に開催されたFAO/WHO合同食品添加物専門家会議「FAO/WHO Joint Expert Committee on Food Additives (JECFA)」の声明では、現段階の研究結果においては、アステルパームが発がん性を有するとは必ずしも言えず、更なる研究が必要であるとされています。

このように、人工甘味料が健康に与えるリスクについてはIARCの発表後波紋を呼んでおり、人工甘味料市場に少なからず影響を与えていることは間違いありません。また今後、複数の研究機関により真偽が解明されていくことが予想されています。

3. 新たに注目を集めている代替甘味料

こういった背景から、人工甘味料とは異なる形で新たに研究が盛んにおこなわれている2つの代替甘味料があります。

一つ目が、「天然由来の新興甘味料」です。植物の葉や果実などに含まれている甘味成分を抽出して生成しており、「植物由来のノンカロリーな甘味料」と呼ばれ、 アメリカ食品医薬品局(FDA)の安全基準合格証(GRAS)の認証事例も複数出ています。すなわちこれは、市販前のレビューなしに製品を販売することができることを意味します。

この天然由来の新興甘味料には、「アルロース」や「モンクフルーツ」等が挙げられます。「アルロース」はイチジクやレーズンなどに含まれ、日本でも香川大学で生産酵素が発見されたことを契機として同大学を中心に香川県内で研究・開発が進められています。また、「モンクフルーツ」は中国原産の瓜科の植物で、米国の糖尿病学会において糖尿病患者に優れた効能を持つとの評価がなされています。

これらの天然由来の新興甘味料は従来の甘味料の課題を解決しうる可能性を秘めています。しかしながら、希少性ゆえに入手が難しく必然的に価格が高くなりやすいことや、独特な口当たりであるものもあり砂糖の完全な代替品とはなり得ないこと、小腸で分解・吸収されにくく、排泄される量が多くなるなどという懸念点もあり、これらを解決しうるソリューションが求められています。

二つ目が、「甘味タンパク質」です。一般に無味とされているタンパク質ですが、「ソーマチン」を代表として甘味を有するタンパク質が複数発見されているほか、ミラクルフルーツに含まれる「ミラクリン」など、酸味を甘味に変換する活性を有する味覚修飾タンパク質も発見されています。独特な口当たりで大半が体内に吸収されにくい天然由来の新興甘味料とは異なり、現在研究・開発されている甘味タンパク質の多くは砂糖への互換性が高い味わいであり、かつタンパク質のように体内で消化・吸収されやすいとされています。日本は、大学等研究機関において甘味タンパク質分野に関する研究を精力的におこななっており、京都大学では甘味タンパク質「ソーマチン」の原子レベルでの構造解析と置換により、甘味度を強化(高甘味度化)することに成功しています。こういった研究を通じて、低カロリーなタンパク質性甘味料を食品・飲料等へ応用していくことが期待されています。

甘味タンパク質についても、天然の新興甘味料同様に今後、生産を拡大していくにあたり、精密発酵等の技術を活用し、特定の植物から抽出されたタンパク質を一定量生産できる仕組みを確立していくことが重要となるでしょう。

4. 新たに注目を集める代替甘味料系スタートアップ

【図2】砂糖を代替するソリューション

(1) 天然由来の新興甘味料の量産に取り組むスタートアップ

Resugar(シリーズA, $3M)

2018年創業のイスラエルのスタートアップであるResugarが開発する製品は植物由来の天然原料をもとに作られており、血糖指数を低減しうる代替甘味料です。また、前述のとおりこれまで希少性が課題視されていましたが、イスラエルのテクニオン工科大学との提携により独自の酵素プロセスを開発したことで、量産化も可能となっています。

同社の製品は、食品・飲料メーカーが懸念する味や工業的特性を一切損なうことなく、いずれの製品も砂糖と同じ機能性と甘味度を持ちつつ、人工的成分を一切取り除くことでクリーンラベル化に成功しています。2022年にはシリーズAで300万ドルの資金調達を完了し、大規模な産業用途向けの甘味料の生産に向けて更なる技術革新を進めている企業です。

Sweet Balance(シード, $850K)

2021年創業のイスラエルのスタートアップであるSweet Balanceは、植物由来の天然の低強度甘味料*1 のみを活用し、顧客や製品特性等に合わせて特別な調整・配合を行い製品の味や食感を損なうことなく、オーダーメイドの代替甘味料を提供しています。

同社は、 5 年間にわたる食品センシングの研究開発を経て、食品・飲料用途に最適な配合構成を生み出しました。食品や飲料によってカスタマイズで生産が可能な本技術は、従来の代替甘味料の不便さを払拭し、特許も取得しています。天然素材にこだわり、低GI・カロリーを実現しているため、高品質でありながら、健康にも良い製品となっています。

食品大手Tnuva、飲料会社Tempo等が運営するインキュベーションプログラムにも参加しており、イスラエルでの製品発売を足掛かりに、世界市場への製品投入も見据え、勢力的に活動をしています。

*1 カロリーとグリセミック指数が低い甘味料のこと。グリセミック指数(GI値)とは、どれくらいの速度で血糖値が上昇するかを数値化したもの。

Bonumose(シリーズB, $14.3M)

2016年創業のアメリカのスタートアップである同社は、植物由来のデンプンから希少糖であるタガトースを低コストで製造する独自の酵素プロセスを開発しました。タガトースはプレバイオティクス特性*2 があり、腸内で有益な細菌の増殖を促進する機能などを持っています。同社は、2022年の世界経済フォーラムにて公衆衛生の維持において重要な役割を担う企業であるとして「テクノロジー パイオニア」に選出されています。

2023年には特許取得済みの本技術を取り入れ、商業規模としては初となる50,000平方フィートの生産プラントをバージニア州に建設しました。タガトースは砂糖とほぼ同様の味と風味を持つことから、食品・飲料業界の大手企業から注目を集めており、この施設の開設にあたっては、甘味料会社ASRグループとHershey等が900万ドルを投資するなど強力に支援をし、今後はタガトース等の希少糖を活用した菓子など、新たな商品の開発に取り組む予定です。

現在BonumoseはFDAに対し、タガトースの添加糖としての栄養表示の免除申請を提出しています。2024年2月時点では、FDAは上記申請を許可していませんが、この動向もタガトースの市場拡大に大きく影響を与えると予想されます。

*2 胃や小腸で分解・吸収されることなく、大腸にて微生物の餌となる食品成分のこと。

(2) 甘味タンパク質の開発・量産に取り組むスタートアップ

Oobli(シリーズB, $31.9M)

2014年創業のアメリカのスタートアップOobliは、特定のフルーツから抽出した甘味タンパク質「ブラゼイン」を精密発酵により製造しています。ブラゼインは、アフリカ西部原産のアブラナ目の樹木ニシアフリカイチゴ(Pentadiplandra brazzeana)の果実に少量しか含まれないため、砂糖の10倍程度の金額で取引されるケースもありますが、同社は精密発酵による量産化で価格の低廉化を目指しています。

Oobliが製造するブラゼインは、砂糖より2,000倍以上甘いにもかかわらず、低カロリーであるため血糖値への影響も限定的であると言われています。2022年には、本タンパク質を使用した最初の自社ブランド商品としてチョコレートバーを発表し、大きな注目を集めています。2024年現在では、新たな商品として飲料も発表しています。

同社は世界各国から関心を集め、日本の大手食品企業や金融機関、ベンチャーキャピタル等からも出資を受けており、日本での活躍も期待されています。

Sweegen(シリーズB, $31.9M)

ブラゼイン関連で注目すべきもう一社が、2013年創業のアメリカのスタートアップであるSweegenです。同社は、ブラゼインの商業生産で世界初のFEMA GRAS*3 を取得した企業です。この認定を受けることにより、当該食品成分は安全であると一般に認められ、食品添加物の承認要件から免除されることから、Sweegenはブラゼインを含む独自の甘味フレーバーを製品に使用できるようになりました

また、甘味タンパク質の分野で注目を集めている同社ですが、天然由来の新興甘味料においても、目覚ましいと活躍を遂げています。合成生物学を活用し、微生物の設計・培養・発酵プロセスの工業化を行うConagen社と提携し、次世代のステビア甘味料の事業化に成功しました。通常ステビアの葉に少量しか含まれないとされるステビオール配糖体を、独自の生物変換技術により量産することで、苦味等の後味の違和感を除去し、高品質な味を実現しています。高品質な味と低価格、ゼロカロリー、Non-GMO(非遺伝子組み換え)などの特徴から、世界各国の飲料・食品業界からも注目されているほか、日本企業からも出資を受けています。

*3 GRAS は、米国において1958 年の改正食品医薬品化粧品法に基づく、“一般に安全とみなされる物質”。なかでも FEMA GRAS とは 米国香料・抽出物製造業者協会 (The Flavor and Extract Manufacturers Association of the United States / FEMA) がフレーバーとしての使用において安全と見なされる物質として公開したものを指す

Amai Proteins(シリーズA, $17.5M)

2016年創業のイスラエルのスタートアップであるAmai Proteinsは、マレーシア、中国、西アフリカなどの熱帯植物が生成する貴重な甘味タンパク質「モネリン」に着想を得て、精密発酵技術で独自の甘味タンパク質「スウィーリン」を生成しています。スウィーリンは、優れた官能特性、低温殺菌に対する熱安定性を備え、消費者の味覚体験を変えることなく、幅広い食品や飲料に加えられている糖分を最大70%低減することが可能です。

そういった背景から、食品・飲料業界から高く評価されており、現在はケチャップから飲料に至るまでさまざまな用途に活用されています。Danone、Strauss、SodaStream、PepsiCoなどと共同開発契約や材料移転契約を結び、生産能力拡大に向けて精力的に活動しています。

5. 日本で代替甘味料市場が発展するためには

日本はこれまで、数々の代替甘味料の原料となる成分を世界に先駆けて発見するなど、代替甘味料分野の研究においては、他国を牽引してきました。大学等における研究が進む一方で、これらの研究成果の商用化については、更にスピードを上げて進める必要があります。世界で資金調達を進める代替甘味料市場のスタートアップの多くは、徐々にラボスケールでの開発フェーズから量産化のフェーズに移行しつつあり、今後は量産された原料を活用した製品を開発し、消費者に提供していくことが求められます。

その実現にあたっては、

  1. それぞれの成分がもたらす健康への影響についての正しい理解の普及啓発を図ること
  2. 生産体制の確立により価格逓減を図り、容易に入手できる環境を整えること 
  3. 砂糖を代替しうる高品質な味や風味、特性を再現すること

が重要な鍵となると考えられます。

日本の大手企業の多くは、発酵プロセスに用いる菌株の開発からスケールアップに至るまでの全てのプロセスを自社で完結させる必要があると考えがちです。しかし、購買時に認知度の高い製品が選択される傾向が高い食品・飲料業界において、新たな製品で収益を上げるには、低価格であることは勿論のこと、+αの付加価値があることが求められます。その付加価値を生み出していくには、既にある成分の開発・製造において一定の技術力を有するスタートアップと提携し、大手企業は菌株の共同開発やスケールアップ、商業化に注力することが勝ち筋であると言えます。

世界のスタートアップの中には、高い研究・技術レベルを有する日本企業との提携に可能性を感じ、日本進出を市場拡大の重要なステップと考えている企業も少なくありません。

Plug and Playは、代替甘味料の生産規模拡大に取り組む革新的なスタートアップと食品・飲料業界の大手企業とを結びつけることで、より身近な製品への応用を拡大し、消費者のウェルネス向上に貢献していきます。

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