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Portfolio Interview | Frich 株式会社

Frich 株式会社 | 2019 年9月に Plug and Play Japan から日本初の投資をうけ、2020 年1月には東京都金融賞 金融イノベーション部門で第1位を獲得。2020 年4月9日からは、規制のサンドボックス制度下において日本初となる特例措置つきで P2P 保険プラットフォーム(https://frich.jp/)の実証実験を実施中。既存の仕組みでは保険引受が難しいような分野であっても、テクノロジーを活用することで「助け合い」の仕組みを成立させることを目指している。


Frich 株式会社 代表取締役 富永源太郎 氏

東京都出身。全日本空輸株式会社 (ANA) 及び全⽇空商事株式会社にてマイルやカードビジネスなど⾮航空領域の新規事業開発を 10 年間経験した後、Frich 創業。



Plug and Play Japan 株式会社 李 暢 (Chang Li) Director, Insurtech

大手生保会社にて資産運用やクロスボーダー M&A に従事。香港大学 MBA 取得後、2018 年 12 月に Plug and Play Japan へ入社。


Plug and Playとの出会い 「Frich創業の地」

Chang

2018年12月入社した時にPlug and Play Japanでは国内での投資開始準備中でした。私の方でも各分野の会社をいくつか挙げさせていただいたんですけど、P2Pという単語に惹かれて、まず日本でもこんな会社があるんだと思って入社して早々、ぜひ投資したいという話をしました。富永さんはInsurtech のBatch 1プログラムに参加して頂いたりと、実は私の入社前にPlug and Playとすでに出会っていましたよね。

富永

僕がPlug and Playと初めて出会ったのは、実は創業前でした。2018年1月にFrichは創業をしたのですが、その前からの立ち上げ準備中に、たまたま渋谷でPlug and Play Shibuyaの施設を通りかかったんですね。オフィスをどこにしようかと考えていた時だったので飛び込みで立ち寄りました。
そこで開催されるPlug and Play Japanのアクセラレーションプログラムの話とか、施設の話を聞いて総合的にすごくいいなと思ったんですね。しかもPlug and Playって世界で有名なVCじゃないですか、オープンイノベーションの推進に注力しているということなので、起業した後もすごく有効に活用できるんじゃないかと思い、まずはコワーキングスペースに入居することにしました。なので、「創業の地」っていうすごく愛着のある場所です。事業を組み立てていくときに、やっぱりPlug and Playの人の話を聞いてみたいと思い、一番最初に話をしたのが内木さん(COO)でした。内木さんと話をしてみて、面白そうな事業だからPlug and Play Japan Batch1に参加してみませんかという提案をいただきました。僕らまだプロダクトも何も無いのに、コンセプトだけでいいんですか!みたいに思いながら参加したら、コンセプトがすごくよかったのでプロダクトに期待したいという評価をいただきました。それが一番最初の始まりですね。

Chang

Plug and Play Japanのプラットフォームはいくつかの特徴があると思います。例えばグローバルネットワーク、大企業とのつながりを持っている、スタッフがフレンドリーなどを挙げていただくことがありますが、その中で創業された当時に入居する決め手になり、継続的に関係を持っている一番大きな理由についてお伺いしたいです。

富永

創業前だったので、一番最初はコワーキングスペース代金をみていましたね。当時はオープンイノベーションプラットフォームというのも使ってみたいな・・ぐらいだったんですよね。
でも、実際入ってみると今言ってくれた項目全てを感じることが出来たんです。グローバルでもあるしオープンでイノベーティブでもあるし、何よりもPlug and Play のスタッフのみなさんが前向きで。
今まで僕は周りから「できないよ」というネガティブなことを言われ続けてきたのですが、それと真逆なことしか言わないんですよね。
そこで僕自身が前向きにいろんなことに取り組めるようになったんです。その大企業とのネットワークもBatch1プログラムを通じて、保険会社さんを中心にいろいろご紹介を頂けたので、Plug and Playとコラボするのは間違い無いなという確信が実務を通じて生まれていきました。

創業の想い「P2P保険」

富永 

僕が創業を決意したのは2015年でした。東日本大震災がきっかけになっています。
当時僕は、ふるさと納税の仕事で、全国各地を飛び回っていたんですが、たまたま会津若松市に行った時に、仮設住宅の看板を見つけたのが創業のきっかけでした。仮設なのに、アルミでできた常設の案内板があることに大きな矛盾を感じました。震災から4年という時間時間が経ってもまだ困っている人がいることに気が付いて、当時自分のやっている仕事はいわゆる”地方創生”だったのですが、助け合うこと人々が助け合うことをサポートするビジネスをしているはずが、自分は本来の事業目的とを果たせていないのではないかと感じるようになりました。それ以来、そのことをずっと考えるようになり、P2P保険というのが海外で流行っているという情報に触れた時に、これこそ僕求めていたものだ!とインスピレーションをもらいました。いわゆる保険のように、何かあった時に何千万 円、何億円とかの保障を行うものだけじゃなく、P2P保険の仕組みを活用して、月々1万円とかの少額で良いので、生きるのに最低限必要なお金を出し合うような、そんな継続的な互助の枠組みがあって良いのではと思ったわけです。
Frichとしては、不特定多数の人々を1人でも多く募る形では無く、同質なリスクをもった人たちに継続的な保障を届けられるような仕組みを作りたい。ネットビジネスでいうところのAmazonのロングテールを 目指しているんですが、保険のニッチなところを 狙っていく。今まで保障の光が当たらなかった人に伴走し、困った時にはしっかりとサポートして いくというプラットフォームを作りたいというのがFrichのビジョンです。

Chang

海外のP2P保険がヒントになったんですね!

富永

今まさにベンチマークしているのがBought By ManyとFriendsuranceです。 特にBought By Manyにはすごく影響を受けまして、パグ保険っていうのがFrichのヒントになっています。やっぱり、保険会社がリスク高くて引き受けられない分野の方々を、グループ化して、 保険料ボリュームが一程度見込めるので引き受けてくださいよって保険会社と交渉をして、しかも保険料の値下げにも成功しているって素晴らしいじゃないですか。そういう今まで保険を引受けてもらえなかったような分野の方々をグループ化して保険会社に引き受けてもらう、 且つそれをリーズナブルな価格で引受けてもらうというのを目指したいと思っています。

Chang

P2P保険の仕組みは当時日本で認可されていなく、非常にハードルの高いビジネスのスタートだったと思いますが、それでもチャレンジしようというモチベーションはどこからきていますか?

富永

僕もANAグループで10年くらい新規事業をやっていて、正直新規事業ってこうすれば当たるなという感覚ある程度は持っていました。でも、どれもこれも自分の心にフィットするものじゃなかったんですね。さっき言ったようにビジネスだからやってるっていう感覚だったんですよ。 だから僕からすると、起業するんだったら自分の中で一番難しいチャレンジをしようと思って起業しています。
難しいのは当然で、しかも保険という金融のど真ん中の世界で、ビジネスと理念のバランスを上手く取っていこう、しかも起業というリスクをとってチャレンジしようと。それが自分自身の成長にもつながると思ったことが大きいですね。

Frichのサービスモデルとは

富永

今ローンチしているのはスポーツ傷害保険と返品送料保険の2つです。スポーツ傷害はその名の通りで、月々100円ぐらいの非常に安価な価格で怪我をした時の補償が受けられますよというもの。これはまずはP2Pというものにお客様に馴染んでもらうために、なるべく身近な補償から始めたいということと、グループ性が色濃く出る補償内容なので、そういうP2Pに親和性の高い保険ということで導入しました。
もう一つの返品送料はかなり実験的な取り組みで、中国の衆安保険がやって大流行したものを参考に作ったものになっています。これは、敢えてコミュニティが効かなそうな保険を入れることによって、P2Pの世界観とどうつながっていくかをテストしたかったという狙いがあります。スポーツだったら例えばサッカーのチームとかってイメージが湧くわけですが、返品送料ってそういうイメージが湧かないですよね。そういったものをP2Pのプラットフォームに入れたらお客様の動きがどうなるのかというのに興味があります。補償内容としてみると月々100円払っていれば、回数無制限でECで買ったお買い物を自己都合で返品でき、返品時の送料を1000円まで補償してくれるという内容です。

Chang

なるほど。斬新な商品ですね。 Frichには相互扶助コミュニティというキーワードがあったと思いますが、実際のプロダクトには既存の保険と違う点はありますでしょうか?

富永

これはP2Pの一番の特徴ですが、業界で言われる 「無事故戻し」を入れています。前提として月々の保険契約期間になっているんですけれども、無事故だと翌月の保険料が50%割引ということになっています。なので翌月の保険料が半額になるので、グループみんなで自己予防に努めようというインセンティブが働くと考えています。既存の保険ですと、保険会社に対して無数の顧客が存在するため、無事故にしようというインセンティブがどうしても働きにくいんですけれども、それを、我々はなるべく小さなグループごとに細分化してグループ運営することによってインセンティブが働きやすいようにしています。

Chang

既にリリースしている商品は2つですが、これは今後増やしていく形でしょうか?

富永

どんどん増やしたいと思っています。ニッチなニーズには限りがないと思っているので、マーケットプレイスみたいに色々な保障が出てくるようにしたいです。と。そのうちの1商品はこの間東京都金融賞で発表をした犬種特化型のペット保険になっています。

Frichのこれから

Chang

新型コロナウイルス感染拡大は御社のビジネスにどんな影響をもたらしていますか?

富永

この環境においては、ある意味では保険のあり方そのものを再考しなくてはならないっと思っています。そうすると、僕らは全てを顧客中心に考えているので、従来型の保険の世界に拘泥するのではなく、クラウドファンディングやろうみたいな発想が出てくるんですね。つまり既に有事となった今、保険の仕組みによって万一の場合に備えるのはあまり意味がなくて、今すぐ保障を提供できるような仕組みをつくろうと。
こういったことは実際に困っている人々、顧客の視点に立つから生まれてくる発想なのだと思います。顧客視点に立つというのはミッションが大きく関わっていますが、僕がすごいと思ったのは、実証実験開始の翌日にもかかわらず、クラウドファンディングをやってみようと言った僕の提案に対して、メンバー全員誰も反対をしなかったということです。

Chang

今準備されているクラウドファンディングのビジネスに関してもう少し詳しく教えていただけますか?

富永

今は一旦飲食店やホテル・旅館向けに提供をしようと考えています。新型コロナウイルス感染拡大の影響で営業自粛によって収入が激減している店舗のオーナーが、常連を中心に支援を集めるプラットフォームです。言うなればクラウドファンディングプラットフォームなんですが、何が違うかと言うと、従来型のものは、保険と一緒でサポートが必要ですと不特定多数の人にお願いをする形です。でも例えばブランド価値を大切にしているような店舗って、お金ください!と大々的に打ち出すのは少しやりにくいと思うんですね。でも一方では、そういった店舗には常連さんが沢山いると思 っていて。だから招待制のクローズドなプラットフォームであれば、お互い素直にマッチングできるんじゃないかと考えたのです。常連さん中心の小さなコミュニティで、毎月数万円ずつ継続的に支え合うプラットフォームを作って、国の補償とFrichを使った補償のトータルでなんとかこの状況を生き抜くみたいなそういうサービスにしていきたいと思っています。

Chang

保険の原点である「助け合い」をFrichだからできる形で提供できるようになりますね。

富永

この数ヶ月で急激に状況が変化して、旧来の保険会社の動きだと追いつけないし、規制があるために動けない部分も多いと思います。僕らがこだわっていたのは、スピード感で、何かあった時にすぐにサポートしてあげたいと思うし、それがまさに今問われていると思いますし、全力でやっていきたいと思います。

Chang

飲食店だけではなくて、クライアントを抱えていて、クライアントのコミュニティが既にあるという企業は全員Frichと提携の可能性があるということになりますね。今後Plug and Playに期待していることは何でしょうか?

富永

期待することは既にもうやってくださっているので、改 めて挙げるのは難しいんですが、やっぱり、大企業との連携強化ですかね。いろいろな事業会社が僕らのお客様になる可能性があるわけで、幅広い意味での保険サービスを事業会社とともに創るという点でのサポートをこれからもやっていってほしいと思っています。もちろん状況が落ち着けば、海外展開も考えていますので、その点においては本当に色々と教えてほしいと考えます。アジアの人口の多いインドやインドネシアなどでマイクロファイナンス的な感じで、小さな保険をいっぱい創るということもやっていきたいですね。

P2P 保険

シェアリングエコノミーを応用した新たな保険の形として近年注目されており、SNS の友人同士でグループをつくって保険に加入するという仕組み。グループの保険料は事故率によって決まるため、他のメンバーに迷惑がかからないように各加入者が気を配ることで、事故や不正請求などの抑制が促進され、結果として保険料の減額につながることが最大の特徴。この仕組みは、規制のサンドボックス制度の利用を通じて日本で初めて Frich が実現させた。