身体のデータをパーソナライズすることで、ヒトの可能性を最大化していきたい - Sportip
2022/07/18
スマートフォンで身体の可動域や正しい姿勢を計測できるアプリを開発している株式会社Sportip(以下、Sportip(スポーティップ))。「一人に”ひとつ”のコーチ」を提供することをミッションに、スポーツのトレーニングフォーム解析や、オンラインフィットネスジムといったサービスを展開しています。2020年6月、為末大氏が代表を務めるDeportare Partnersからの第一号案件として出資を受けたことでも注目を集めました。野球少年だったという自身の経験、筑波大学発スタートアップとしての創業期など、「カラダ」の可能性を見据えるCEO 髙久侑也氏にお話を聞きました。
Chiyo Kamino
Communication Associate, Kyoto
ーー起業に至ったきっかけを教えてください。
私自身が野球を12年間やっていたのですが、実は胸郭出口症候群という先天的な疾患を持っていました。簡単に言うと猫背の強化版で、血管と筋肉と神経をせき止めてしまうという病気なんですけど、中学生の頃からそういう疾患に悩まされていて高校生の時に手術もしたんですが結局治らなかったんです。そういった身体の疾患を無視した野球の指導を受ける中で野球を続けられなくなってしまうという経験から、個人の身体や目的に合わせた指導を届けるのことがすごく重要だと思う一方で難しいとも感じたため、そういうところをサポートするサービスを作っていこうと思ったのが起業のきっかけです。
あとはそもそものバックグラウンドとして、父と祖父が会社を経営していまして、自分でも何かを創っていくということをやりたいなと漠然と思ってはいました。課題を解決するものは何かないかな、というのは高校を卒業したタイミングからずっと考えていました。
大学2年生の時にカーネギー・メロン大学の論文を読んで、動きを手軽に映像だけで解析できるという技術を見つけたんです。まだその時は技術もよくないですし精度も悪くて大変でしたが、そこから少しずつメンバーを集めて今に到ります。論文も起業の大きなきっかけになりました。
ーー大学発スタートアップとして良い例ですね。産学連携的な後押しもあったのでしょうか。
最近は他の大学の方も勢いがあるかもしれないですけれど、筑波大学側からは、大学発ベンチャーを推していこうという流れがすごくあって、企業の教育であったりとか研究室側のサポートであったりとかはかなりやってくれるようなところでした。
私自身もいろんな先生と在学中からお話させてもらって、「こういうことをやろうと思うんですけどどう思いますか?」などヒアリングをよくさせてもらっていました。
ーー壁打ちができたり、そういう機運があったということですね。
そうですね、それは大きいと思います。ただそう言っても、筑波大学の体育専門学群という学部なんですけれど、そこから起業する人はほとんどいないんですね。なのでエコシステムがあったと言うよりかは、本当にいろんな人がサポートしてくださって、いい意味で調子に乗ってしまったというところがあるかもしれないです(笑)。
ーーいい意味で調子に乗せられる環境は大事ですね。そんなSportipの強みとは何ですか?
データに優位性がありAI解析ができる点は強みとしてもちろんあるんですけど、それ以外のところでいうとチームメンバーの熱量かなと思っています。開発スピードがかなり早いと自負しています。世界の人たちにサービスを届けるためにどうするかということを考えながら全メンバーがやっているというのが、現時点での強みの一つであるかなと思っています。
たとえばKDDIさんと一緒にランニングフォーム解析のプロダクトをPoCで作らせてもらったこととかあったんですね。その時もゼロから作って、実働2週間くらいでアプリを作ったりもしていたので、スピード感を持って実装していっています。
ーーそういう熱量の高いチームメンバーはどうやって集めているのですか。
ほとんど私がSNSでDMするという形ですね(笑)。あらゆる手を使って理想を実現しようと考えていて、SNSでのDMは一つの手段でした。SNSは興味や関心も落ちてますので、SNSでしっかりと僕自身の思いを語ることで良い人材を採用できました。思いに共感して協力してくれるメンバーがたくさんいたっていうのが、起業してからこれまで一番よかったことかもしれないですね。
ーーデータ解析に協力してくれるアスリートはどのように選ばれているのですか。
筑波大学はエリートアスリートが多いので、もともと人脈があった部分は大きいですね。競技を問わず、トップアスリートってつながっているんですよ。そしてアスリートって一流のところで戦っているので、一生懸命前線で戦っている人間をアスリートかどうかにかかわらず尊敬してくれるという傾向があるんです。なので僕らのことも、真剣に頑張っているというところを認めて協力してくれています。
ーーアスリートの方も人間なので、身体の動かし方にどうしても個人の癖というのはありますよね。そういった生身の部分をデータ化してお手本にすることに対してはどう対応しておられますか?
身体のデータを変えていくことですね。身長・体重・体脂肪率も違いますし、身体の柔軟性や利き手など。直近では、共同研究を始めているんですけど、個人の持っている遺伝子、腸内細菌がどういうものを持っているかというところで分けて行っています。ある程度人間ってパターンが分けられると思うので、その中でアスリートがパフォーマンスを上げるための最短のフォームだったりトレーニングだったりというところを、個人のデータに合わせてやっていくというところを今後はより精緻にやっていきます。項目数は正確には難しいんですが数十項目くらいはあると思います。筑波大学のいいところなんですけど、それを細かく分けても膨大なデータがとれるというのは強みだなと思っています。データの質と量が重要なので。
ーー様々なアクセラレーションやコンテストにも参加されていますが、Plug and Play に期待することは何ですか?
これまでにお話をいただいた大企業や中小企業も幅広いんですが、Plug and Playさんが持たれているコネクションはグローバルですし、日本だけで見ても今まで接点のない企業さんが多いなという印象だったんです。私たちから全然想定していないパートナーから声がかかるのも、Plug and Playの魅力かなと思いました。なのでそこでお繋ぎいただきながら、我々のプロダクトをいいものにする、あるいはPoCを実行して新しいビジネスを育てていく、あるいは資金調達する、そういうサポートを期待しています。
ーーこういうパートナーと組みたいというのはありますか。
長期的な視座に立って連携していきたいなと思っているので、フィットネスに止まらず、ヘルスケア関連の事業会社さんや保険会社さんにもすごく興味がありますし、住宅メーカーさんとかも可能性がいろいろ考えられると思います。トレーニングの解析だけではなく、日常生活に入り込んだり予防したり、そういう広い領域でのエコシステムを作っていける共創パートナーと連携して行きたいですね。もちろん、短期的な形で弊社のサービスとの連携も歓迎ですけど。
ーー5年後、10年後のビジョンはありますか。
5年以内で言うと、短期的なゴールとして上場を目指しているので、IPOをしていきたいなと思っています。10年後に関しては、今やっている事業からさらに広がっていくと思っています。例えばBMI (ブレイン・マシン・インターフェイス) とかを使って、脳とデバイスを直接接続してしまって、スポーツの指導を受けるとかスポーツを体験するとか。広い意味で、IoTとか他の技術と組み合わせて、個人の身体に合わせて、個人に合ったトレーニングや対策が処方される、そんなサービスを作っていきたいと思っています。
将来的にはロボットと融合できるような形で進んでいければなと思っています。僕らは脳の部分となるソフトウェアを作ることがメインで、ロボットを作るというのはできないので、そういったところと協業していけたらと思いますね。ロボットの脳を作ることで、個人の問題を解決する新しいシステムを作っていく。5〜10年後はそんなことをしたいなと思っています。
ーーヒトの身体から出発したビジネスが、ロボットに行き着くというのは面白いですね。
新型感染症の影響でオンライン化、デジタル化というのは言われていますけれど、やはり介護にせよスポーツせよリハビリにせよ、フィジカルなコンタクトって重要じゃないですか。なのでそこをロボットを使ってやっていきたい、コーチを提供していきたいなと思います。
ーー新型コロナウイルス 感染症の影響で、遠隔サービスには需要が高まっているかと思いますが、何か影響はありますか。
Sportip ProというB2Bサービスがあるんですけど、そこへの問合せは倍増していますね。協業先に関しても、遠隔でどうやって現場でやっているのと同じように届けるとか、オンラインではできないことを補完していくかというニーズが業界問わず高まっています。ただ我々は、日本の社会はアメリカの状況とはちょっと違って、180度変わるようなニューノーマルというのは訪れないと思っているんです。消費者のデジタル化に対する心理的ハードルが下がったりとか、通勤をしなくなったことによる健康意識が高まったりとか、そういう変化をとらえつつ、現場とオンラインを融合させるようなサービスの設計をしていきます。
ーー完全にオンラインに移行するのではなく、オンラインとオフラインでお互いを補完するという感じでしょうか。
そうですね。フィットネスの事例で言えば、筋トレにすごく打ち込んでいる人たちがいるじゃないですか。そういう人たちって、やっぱりリアルでジムに行くんですよね。その価値ってあんまり薄れていない。一方でライト層というか、「運動を楽しみたい」「ちょっと痩せたい」というくらいの層はオンラインになると思うので、うまくセグメンテーションしたり、シーンを分けることで融合させていきたいですね。現在、Sportip Meetと言うオンラインAIフィットネスクラブを開発中です。8月頭には提供開始予定で先行登録も開始してますね。
今使っているテクノロジーに固執することなく、個人の可能性を最大化していくこと、個人に合わせたものを届けていくということができればいいなと思っています。そこに価値はあると思っているので。それを実現するために、あらゆる手段を使って、やっていくという感じですね。
ーーではパートナー企業にもそういったミッションに共感してくれるところが良いということでしょうか。
そうですね。ヘルスケアでも、介護でも、フィットネスでも、そういうアプローチが一緒にできる企業であればぜひご一緒したいですね。
ーーありがとうございました。
(画像提供:Sportip)