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ビジネスモデルから考えるサーキュラー・エコノミーへのアプローチ「第一回 Circular Construction Challenge 循環型建設業への挑戦」

2022/04/25

サーキュラー・エコノミー(循環型経済)がEU主導で進められ、海外ではさまざまな業界で循環型経済を実現させる取り組みが加速しています。日本では、「建設業」および「建築」に関わる業界(建設業のみならず、不動産業、設計、建設資材・設備等の製造業等を含む)においてまだ十分な取り組みが進んでいる状況ではないという課題が挙げられます。

「建設業」および「建築」に関わる業界は社会・生活を形づくる基盤であり、一方で多くの二酸化炭素や廃棄物を発生する産業として、サーキュラ・エコノミーの実現に取り組む責任があります。Plug and Play Japanでは全3回にわたりサーキュラー・エコノミー実現に向けた「建設業」および「建築」に関わる業界の在り方について議論するシリーズ型イベント「Circular Construction Challenge 循環型建設業への挑戦」を企画・運営しています。本記事では第一回目として2022年3月25日(金)に実施されたイベント内容を振り返りお届けします。


Haruka Ichikawa

Communications Manager


登壇者一覧

株式会社電通

ソリューション・デザイン局 事業共創グループ統括 チーフ・ビジネス共創ディレクター(兼)事業構想大学院大学 特任教授 小宮 信彦氏

株式会社大林組

大阪本店 大阪関西万博・IR室 室長 門重 学氏

一般社団法人 CDP Worldwide-Japan

シニア・マネージャー 松川 恵美氏

ダイキン工業株式会社

テクノロジー・イノベーションセンター副センター長兼CVC室長 三谷 太郎氏

コマツ

生産本部 部品リマン推進本部リマン推進部長 植山 将宜氏

建設業におけるサーキュラー・エコノミーとは?

循環経済(サーキュラーエコノミー)*1とは、従来の3Rの取り組みに加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化などを通じて付加価値を生み出す経済活動であり、資源・製品の価値の最大化、資源消費の最小化、廃棄物の発生抑止などを目指すものです。製造から廃棄までが一方通行となる「線方経済」に対峙する概念として、製品の使用に伴う製品価値の損失や廃棄物を最小化する経済のあり方や脱炭素化に向けて、部分最適ではなく全体最適である社会変革を踏まえて取り組むべき課題だといえます。

(資料提供:Circular Construction Challenge運営事務局*2)

サプライチェーン全体における脱炭素やエネルギー削減に対する取り組みの現状について、施工段階の廃棄物処理・分類・再生や建設現場における省エネルギー化など、建設会社が自社内で改善できる領域については比較的取り組みが加速している一方で、上流・下流といわれる領域での課題が顕著となっています。製品の使用に関わる領域では、ZEB*3などのビルの利用、建物管理における取り組みが見られる一方で、建築資材の循環を踏まえた取り組みは不足していることが明らかになっています。
サーキュラー・エコノミー推進上の課題として、一品生産でありCO2排出量の算定基準が定めにくいこと、リユース市場を形成するだけのスケールがないこと、取組によるコスト増を建物の賃料に転嫁できないこと、、また毎回参加する事業者が変わるのでサプライチェーン全体における事業者間での横断的・統合的な取り組みが難しいこと等が挙げられます。

ZEBとは:Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、「ゼブ」と呼びます。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のことです。

Circular Construction Challengeの狙い

このような課題に対してどのように取り組むべきか、Circular Construction Challengeでは3つのアプローチ方法について模索します。

(資料提供:Circular Construction Challenge運営事務局)

物理的アプローチ:

どのような手法で素材が循環されるべきかを問い直すこと。

社会システム的アプローチ:

1社単独ではなくサプライチェーンおよびデマンドチェーンへの全体最適を目指すこと。また複数企業間における新たな価値創造を模索すること。

マーケティング的アプローチ:

既存製品・サービスの利用方法を再考案し、モノの消費に留まらず、モノとサービスを一体としてビジネスモデルについて考えること。

環境開示にみるコーポレートガバナンス指標

2050年までのネットゼロおよびネイチャーポジティブ(自然界を優先する)な世界の実現に向けて、行動に移すためにはまず現状を知り、知見を得ることが大切です。情報を正しく管理するためにCDPでは情報開示のプラットフォームを運営しています。

CDPについて:
CDPは、英国の非営利組織が運営する環境に特化した国際NGOであり、投資家、企業、国家、地域、都市が自らの環境影響を管理するためのグローバルな情報開示システムを運営している。2000年の発足以来、グローバルな環境課題に関するエンゲージメント(働きかけ)による課題の改善に努めている。日本の拠点は、2005年より活動を開始。

CDPが環境に関する質問書を企業に送付、企業から回答が得られた情報はCDPを介して機関投資家やサプライチェーンメンバー(購買企業)に開示される仕組み。(資料提供:CDP Japan)

自社の直接関与する排出量(スコープ1、2)に比較して間接的に関与する排出量(スコープ3)は平均して11倍と言われており、サプライチェーン・マネジメントの重要性が高まっています。2021年、グローバルで200社以上のサプライチェーンメンバー企業(顧客企業)が、自社のサプライヤーに対してCDP質問書を介した情報開示を求めました。この働きかけにより、サプライヤーのスコープ1、2削減を促し、結果として自社のスコープ3の削減を実現することができます。

企業の環境課題に対する取り組みは投資家からの注目も集めています。2022年にはCDPに賛同し署名する金融機関が680を超えました。CDPは企業の開示内容を、グローバルなスコアリング基準に沿って評価します。スコアリングの基準は投資家にとって今後ますますコーポレートガバナンスを評価する上で有効な指標になるでしょう。

質問書の構成一例。水セキュリティやフォレスト、業界固有の設問もあり。投資家要請を受けた企業のスコアは初回回答企業以外は必ず開示される仕組みで、無回答企業は「F(Failure)」とスコアリングされる。(資料提供:CDP Japan)

建物に関連する二酸化炭素排出量は、現在、全世界の二酸化炭素排出量の39%を占めており、全世界の建物面積は2060年までに2倍以上に増加する見込みです。新築、拡張、改修、インフラのための建築材料の需要増が想定され、プロジェクト完了前に大量な排出が生じることが想定されます。このような状況を踏まえ、CDPでは建設業界に以下のような情報開示を求めています。建設業にとっては質問内容を今後の対策に向けて活用することができます。

建設業におけるチェックポイント

■プロジェクトにおけるライフサイクル排出量

建設プロジェクトにおける二酸化炭素排出量の収集方法を策定出来ているか。

■低炭素投資

製品またはサービスの研究開発への投資状況を把握することで、将来的な低炭素製品の開発や購買の切り替え準備が出来ているか。

■ネットゼロカーボンビルディング

新築や大規模改築プロジェクトのライフサイクル排出量について管理が出来ているか。現状の対策状況を把握する指標として有効。

企業の取り組み事例

DAIKIN - 所有からサブスク型のビジネスモデルをタンザニアで展開

ダイキン工業株式会社では、空調機の需要増加に伴う二酸化炭素排出量増加への対策を講じるため、2021年度の中期経営計画で2050年のネットゼロ実現に向けたカーボンニュートラルへの取り組み強化を発表。開発・生産工程における排出量の削減、排出量の削減が期待できる新事業への取り組み、二酸化炭素の分離・回収・再利用に関する先端技術のリサーチや技術開発を中期目標に掲げる。
直近の取り組みにおいては、タンザニアでエアコンサブスクリプションを提供するため、WASSHA社とのジョイントベンチャーBaridi Baridi株式会社を設立。DAIKINが所有するエアコンを市場展開することにより、自社でエアコンの稼働率を把握できる仕組み。地球温暖化の大きな要因である冷媒の大気放出をゼロにすべく、所有からサブスク型のビジネスモデルへの転換により、これまで自社管理ができていなかった冷媒管理が可能となる。

コマツ - リマン事業によるライフサイクルコスト低減

(資料提供:コマツ)

建設・鉱山機械、ユーティリティ(小型機械)、林業機械、産業機械などの事業を展開するコマツでは、鉱山機械に求められる長期連続稼働を低いライフサイクルコストと高い機械稼働率で実現するため、エンジンなど機械の使用済みコンポーネントを自社で新品同様の品質にして再び市場へ供給するリマン事業を国内外で展開。リマンとは「再生」を意味する「Remanufacturing」の頭文字「Reman」を表している。モノをループさせる循環を作ることで環境負荷を下げる資源の節約と廃棄物の削減に貢献。

パネルディスカッション(一部抜粋/要約)

(パネルディスカッションの様子:(左からモデレーター小宮氏(株式会社電通)、パネリスト門重氏(株式会社大林組)、松川氏(一般社団法人 CDP Worldwide-Japan)、三谷氏(ダイキン工業株式会社)、植山氏(コマツ))

ーサーキュラー・エコノミーの実現に向けて、企業はどのように取り組みを社内で開始すべきか?

■トップダウンによる意識改革

日本政府によるカーボンニュートラルを目指すグリーン成長戦略宣言や中期経営計画の発表など「やらなければいけない」というトップダウンのメッセージは有効。現場レベルでは、既存事業に関連付けられる活動ではビジネスチャンスと捉えることで推進できる部分がある一方で、社内の大きな渦をつくる上ではまだ課題がある。自社製品における環境負荷への認識、変化が求められているという社会的な責任への意識改革が必要。

ー企業活動におけるサーキュラー・エコノミー成功の秘訣とは?

■ストーリーを作って巻き込む意義

社内の経営戦略と外部発信するべき意図、社内外を結びつけるストーリーが必要。外部プレイヤーとの共創で空気を変える。プロジェクト実装におけるリソースが足りていても、長年蓄積されたしがらみから体制構築できない場合がある。外部プレイヤーとの共創で空気を変え、既存の論理がはたらかない仕組みを作ることも有効。

■サプライヤー・エンゲージメント

例えば海外では昨今、二酸化炭素排出量に制限を設けることを購買や取引の条件として活発な交渉が行われているが、日本では顧客に寄り添う文化的な背景があり、取引先への直接交渉が難しいという側面がある。
日本では各産業の経済価値に対応する顧客エンゲージメントに取り組む形で、周辺サービスが普及・発展してきたが、脱炭素社会への転換においては、取引先を巻き込みながら裾野を広げていく共働を意識したアプローチが必要。

Special thanks to:
・ご登壇いただいた皆様
・イベントの準備・運営にご尽力いただいた方々
・イベントへご参加いただいた皆様

出典:
*1: 環境省 令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r03/html/hj21010202.html

*2: 環境省・経済産業省「サプライチェーン排出量算定をはじめる方へ」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/supply_chain.html

*3: 環境省 ZEBポータル
https://www.env.go.jp/earth/zeb/about/index.html

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