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サーキュラーエコノミー実現を目指す企業の動きと業界をリードするソリューション 「第三回 Circular Construction Challenge 循環型建設業への挑戦」

2022/10/31

サーキュラーエコノミー実現に向けた「建設」に関わる業界の在り方について議論する『Circular  Construction Challenge』プロジェクト。本取り組みは現状と社会のニーズを知り、各企業が取り組んでいる成果や課題を共有し、何ができるかについて議論することを通じて、業界を横断的に議論できるネットワークの形成を目的としています。前回は「マインドシフト」をテーマに企業事例をご紹介いただき、サーキュラーエコノミーの観点から建設業界が抱える課題について議論しました。

第3回となる今回のイベントでは、建設に関わるライフサイクル全体のCO2排出量削減の取り組みを促進、定着するために重要となるマネジメント支援ソリューションをテーマに、基調講演として経済産業省近畿経済産業局様、川上段階(設計・調達)におけるCO2排出量マネジメントソリューションを住友林業様、川下段階(解体後)における建設資材リユースマッチングソリューションとしてEUでこの分野で注目を集めるスタートアップであるUpcyclea様をお招きして、循環型建設事業の実現方法を探りました。本記事では2022年9月6日(火)に実施されたイベント内容を振り返りお届けします。


日村健二氏

経済産業省近畿経済産業局 資源エネルギー環境部新エネルギー推進室 室長


北川喜夫氏

住友林業株式会社 木材建材事業本部 国内営業部長


Christine Guinebretière氏

Upcyclea Co-founder & CEO


井原俊一氏

株式会社大林組 設計本部カーボンニュートラル設計推進部 部長


小宮信彦氏

株式会社電通 ソリューション・デザイン局 事業共創グループ統括 チーフ・ビジネス共創ディレクター(兼)事業構想大学院大学 特任教授


Writer: Ai Fujii

Marketing & Communications Intern


カーボンニュートラルに向けた動きと企業への期待~経済と環境の好循環に向けて~ (経済産業省近畿経済産業局 日村氏)

環境問題への意識は、京都議定書とパリ協定を経て、先進国や発展途上国にかかわらず全てのCO2を排出する国々の責任へと拡大し、中小企業や小売事業者、個人の生活でもCO2の排出を減らしていくという方向にシフトしてきました。2020年には日本もカーボンニュートラル宣言を表明し、国内の舵が切られたことで、グリーン成長戦略の策定や第6次エネルギー基本計画の策定が進められてきました。

サーキュラーエコノミー実現に向けて必要な観点の一つに、廃棄物をどのように有価なものに置き換えるかを考えるデザイン設計の思考があります。いくら環境に配慮して考えられたビジネスでも、利益を生み出せないのであれば持続可能なビジネスにはなりません。製品を使用し、焼却し、廃棄するまでの流れ(ライフサイクルアセスメント)を見定めながら製品開発に置き換えていくこと、また市場や社会から受ける適正な評価に基づいて循環性の高いビジネスを作っていくことが必要です。しかし、このフローにおけるルールが十分に整備されていないのも現状です。今後は、そのビジネスが世の中から理解を得られる設計やコストなのか、またそれらを利活用する消費者の意識が醸成されているか、というポイントを考慮していくことの必要性もさらに高まると考えています。

(資料提供:経済産業省

CO2排出量を定量的に「見える化」する仕組みをCFP(カーボンフットプリント)といいます。このCFPを開示できていない大手企業や業界はまだ多いですが、これが進むことによって、それに連なる中小企業にもその動きが伝わります。今後の課題は、このムーブメントをうまく組み立て、ライフサイクルアセスメントを築いていくことです。これについて現在先行して取り組みが行われているのは自動車業界です。消費者は自動車を購入する際により環境負荷係数の少ない自動車の購入を検討しますし、自動車産業は輸出入も活発に行われるので、より良い製品を世の中に出していくために、環境負荷データの算出に関するガイドラインの策定が進められています。日本鉄鋼連盟においてもこれらの情報を開示していく動きが見られます。

(資料提供:経済産業省近畿経済産業局

サーキュラーエコノミー実現に向けて課題は多く残されていますが、今後はこれらを一つずつ解決していくことが必要になります。現在日本を取り巻く背景や状況の中で、国としてどのように欧米諸国に対峙しながら経済を成長させつつ、環境に寄り添っていく産業を作っていくかについて、経済産業省のみならず政府全体で取り組んでいきます。

One Click LCAで実現する建築業界におけるCO2排出量の「見える化」(住友林業株式会社 北川氏)

現在全世界における建設業界のCO2排出量のうち37%を建築セクターが占めており、2050年には50%に到達すると想定されています。建築セクターにおけるCO2は、建築物の居住時・使用時に発生するオペレーショナルカーボンと、建設プロセスで発生するエンボディードカーボンの2種類に分けることができます。建設セクターでは約7割がオペレーショナルカーボンにあたると言われ、現在の日本市場においては、ゼロ・エネルギー・ビルディング(ZEB)やゼロエネルギー住宅(ZEH)の設置や普及を通して、オペレーショナルカーボン削減への取り組みが活発化しています。そして今後は、建設プロセスで発生するエンボディードカーボンの算定や削減の重要性がさらに高まると考えています。

One Click LCA は、フィンランド発のエンボディードカーボンの算定ソフトウェアを提供する企業です。同社が提供するOne Click LCAは、建物のCO2排出量だけでなく、木材などの炭素固定量も合わせて算定できるのが特徴の一つです。現在、このソフトウェアは130か国以上で導入されており、ISO認証の他にLEEDなど世界の50以上のグリーンビルディング認証と連携しています。環境対策に関する取り組みを先導する欧州では広く普及しており、世界グリーンビルディング協会の推奨を受けている世界標準のソフトウェアです。日本では住友林業株式会社が昨年11月に販売代理店となり、日本語訳など必要なカスタマイズを進め、2022年8月に日本語版ソフトウェアをリリースしました。


(資料提供:
住友林業株式会社

建築LCAとは、建物の一生涯における環境負荷を評価する手法を指します。エンボディードカーボンの算定では、資材調達や輸送、建設、施工、改修、解体の各段階で発生するCO2などの環境負荷を算定する必要があるため非常に煩雑な業務になりますが、One click LCAはEPD(製品の環境負荷を定量的に算定した結果)とも連動しながら、一連の算定業務を効率的に行うことを可能にします。輸送や施工に関する炭素計算も実態値に合わせて追加修正することができ、企業努力を算定結果に反映することができます。

(資料提供:住友林業株式会社

今後日本の建設セクターでは、①建設プロセスで発生するエンボディードカーボンの「見える化」の普及、②建物の付加価値向上に向けたLEEDなどグリーンビルディング認証の拡大、③EPD取得の低炭素建材をベースとした精緻なCO2排出量の算定といったニーズの高まりが予想されています。その様なニーズに対応する為に、当社は日本のユーザーが効率的にCO2排出量を算定できる様にOne Click LCAのカスタマイズと普及に取り組み、脱炭素設計の実現によるサーキュラーエコノミーの達成に貢献して参りたいと思います。

エコデザインとサーキュラー・オペレーションから捉える循環型経済 (Upcyclea Christine氏)

多くの人が循環型経済を目的であり、目標であると考えていますが、循環型経済とは2050年までにカーボンニュートラルを達成するための手段です。また、それは同時に資源を保護することでもあり、環境規制を遵守することでもあります。さらに、ほとんどのグローバル企業が求めている財務報告のための測定可能な指標を作成することに役立ちます。そして最後に、廃棄物でなく収益を生み出すという転換の意味も持っているのです。

循環型経済に取り組むにあたってエコデザインを欠かすことはできません。購買、消費、エコデザイン製品の引き取り、そして資源を循環させるために製造した製品や使用した製品がそのループを閉じることについて考える必要があります。循環型建築をエコデザインするためにまず重要なことは、建物をできるだけ取り外し可能に設計すること、そして建物で使用する全ての部品を把握することです。これらの部品の情報の管理を実現するのが、Upcycleaが開発する「サーキュラーパスポート」と呼ばれるIDカードです。サーキュラーパスポートでは、すべての製品がカテゴリーに分類されています。評価されるのは、非毒性、循環性、再生可能エネルギー、水の管理、社会的公正の5つのカテゴリーです。不動産業界で認定されている製品は何千何万とありますが、これらの情報と建物のために購入した製品の総量を測定し一覧を作成することによって、サーキュラービルディングに必要なすべての情報を得ることができます。

(資料提供:Upcyclea

サーキュラーエコノミーを実現する上で重要なもう一つのポイントは、各指標を「見える化」することです。建物の使用済み資源をどの程度販売し、提供するたびにどれだけ廃棄物を削減したか、他にもCO2の削減量、水の節約量、そしてその建物の資産価値について試算する必要があります。また、サーキュラーエコノミーを達成するためには、建物のライフサイクルにおける全ての工程を「見える化」する必要があり、そのために解体から中古資源や製品、新製品を取り入れたエコデザインや建物の循環指標を測定しなければなりません。それほど難しいプロセスではありませんが、このような工程を全て行うことにより、サーキュラー・オペレーションが達成可能となります。

(資料提供:Upcyclea

私たちにとって循環型建設事業への挑戦は、新しいビジネスを生み出す機会なのです。しかし、これを実現するためには自分たちの活動の中に確実にサーキュラーエコノミーのプロセスを導入する必要があり、同じ資源を共有できる他のプレーヤーと競争するのではなく、協力することが必要です。つまり、循環型建設事業への挑戦に立ち向かうためには、これから使う物すべてを特徴づけ、地域化し、可能な限り分解して、他の人と共有し、新しいビジネスのあり方を模索することが求められているのです。

パネルディスカッション(一部要約/抜粋)

パネルディスカッションの様子(写真左から:モデレーター小宮氏(株式会社電通)、パネリスト井原氏(株式会社大林組)、北川氏(経済産業省近畿経済産業局)、日村氏(住友林業株式会社)

ーーサーキュラーコンストラクションにおける”ツール活用の課題”

北川氏:

昨年9月にOne Click LCAプロジェクトが始動しました。オペレーショナルカーボンには日本でもすでに注目が集まっていますが、エンボディードカーボンに関しては算定ツール等その普及が遅れておりました。さらに、海外事業を行う中で提携先や調達先が当たり前のようにエンボディードカーボンの算定ツールを使っていたこと、One Click LCAの導入に至ったきっかけになりました。

日村氏:

COP3開催時に環境庁(現:環境省)と経済産業省で日本国内での環境問題への取り組み方に対して意見が食い違っていた時期がありました。欧米が掲げる基準や標準に国内産業も追随しなければならないという環境庁のスタンスに対して、経済産業省は欧米の意見を鵜呑みにすることの危険性を提起し、市場のニーズに寄り添うことを意識していました。その際に家電や自動車は欧米の基準にかなり引っ張られましたが、建設業界は欧米とはまだ距離があると考えています。サーキュラーエコノミー実現に向けて取り入れられている建設物資、工法、製品がまだ評価されていない、追いついていないことが課題に挙げられます。今後はエネルギー問題に関する国内の資源を守りながら、消費者を取り込んだ上で環境製品をどのように作っていくのか、その中で日本が経済成長を勝ち取れるのかについて踏み込んでいかなければいけないと思います。

井原氏:

かつて建築業界は経験則に基づいて建物の良し悪しの評価をしてきましたが、そこにコスト評価を加えた際に、全体評価が変わることもありました。今後建物の計画をするにあたっても、CO2排出量の評価が加わってくることになると思います。その評価方法が確立されることでどの材料を使うべき使うべきかの判断が更に変わって、建物形状や「良い建物」の基準自体が変わることがありうると思います。

また、今現在で提供されているCO2排出量の原単位が正しいのかどうかという点が重要な疑問点になっており今後更に精度の高い根拠を持った原単位情報がもっと欲しいと思っています。一方で、今現在はデフォルト的に使うデータ運用しなければならない場合もあると思いますが、その点については運用しながら(走りながら)改善されていくことを期待しています。

ーー2025年大阪・関西万博への期待

北川氏:

国内で環境配慮型の建物が一般マーケットに広がることで、関係者の意識が変わり、建設業界でサーキュラーエコノミーが実現していくことに非常に期待感を持っています。サーキュラーコンストラクション義務付けることはまだ難しいかもしれませんが、方向性としては間違いなく進んでいくと思っています。

日村氏:

会場やその周辺に寄り添う「SDGs万博」を実現するためには、サーキュラーエコノミーや建設について情報開示をして、地球に優しい万博であることを数値化しながら見せていくことが必要だと思います。また、会期終了後利活用せずに壊す建物については、会期前に建設時における環境負荷係数を事前に開示していければと考えています。他の業界とも一緒にデータを開示したり、そこから得られるフィードバックをもとに今回の万博を共創していきたいです。建築業界のみなさまには、新しい自然環境に配慮した素材・工法などいろんな視点でSDGs万博を盛り上げていただくことを期待しています。

井原氏:

自社建築で部品を全て外して再利用するように、今回の万博で使われる資材も使い終わった後の使い道が明確に見えるようにできたら良いなと妄想しています。他にも会場に来られた際に、資材のCO2排出量を換算して見える、わかる、そして実感できる形にする良い仕掛けがあれば来場の皆様の認知を高めていくことにつながるかもしれないと思います。

小宮氏:

万博に向けて勇気が出るお話をありがとうございました。全ての建材にIDが付与され、消費者にとって選択の一つの基準になる世界が万博をきっかけに生まれれば、現実の世界でもサーキュラーエコノミーが進むと思います。また、サーキュラーエコノミーの実現には、作り手使い手どちらにも発想の転換が必要だと感じさせられました。2025年の万博は、皆がライバルとして競争するのではなく、協調していく休戦協定のいい機会にもなるのではないでしょうか。

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