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宇宙産業エコシステムの現在地とこれから

2023/04/25

スタートアップの大型資金調達や異業種大手による新規参入で話題を集める宇宙市場。その最前線で市場を切り拓くプレイヤー、そしてそれを盛り上げるイネーブラーの視点から、日本国内における宇宙産業エコシステムの現在地と、この先の目指すべき姿について語っていただきました。
(本コンテンツは、2023年3月に行われたJapan Summit Winter/Spring 2023 Batchで行われたパネルディスカッションをもとに構成・編集しています。)


[Panelists]


中村 友哉氏

株式会社アクセルスペース 代表取締役CEO

1979年、三重県生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。在学中に3機の超小型衛星の開発に携わり卒業後、同専攻での特任研究員を経て2008年にアクセルスペースを設立、代表取締役に就任。同社は”Space within Your Reach〜宇宙を普通の場所に〜”をビジョンに掲げ小型衛星を活用した地球観測プラットフォーム”AxelGlobe”ならびに小型衛星のワンストップサービス”AxelLiner”を展開する。2015年より宇宙政策委員会部会委員を歴任。2022年Japan Venture Awardsの最高賞である経済産業大臣賞を受賞。
https://www.axelspace.com


佐藤 将史氏

一般社団法人SPACETIDE 共同設立者 兼 理事 兼 COO

野村総合研究所にて16年間、スタートアップ支援、オープン・イノベーション関連のコンサルティング等、政策立案から企業戦略まで幅広く従事。2019年、宇宙ベンチャーに参画。東京大学理学部卒(地球惑星物理学)・同大学院理学系研究科修了(地球惑星科学)、UCLA大学院MPP(公共政策学修士)。内閣府「みちびき(準天頂衛星)エバンジェリスト」。総務省「宇宙利用の将来像に関する懇話会」構成員。気象庁「静止気象衛星に関する懇談会」委員。
https://spacetide.jp/


伊達木 香子氏

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA) 新事業促進部長

法学部を卒業し、宇宙開発事業団に入社。宇宙輸送や地球観測に係る海外契約等を担当後、衛星開発プロジェクトにおいて契約法務を担当。有人宇宙技術部門では「きぼう(JEM)」の民間利用制度や「こうのとり(HTV)」の運用に必要となる法務に関する国内外の機関との調整に携わる。海外留学によりMBA取得(2005年)。調達部プロジェクト調達室長(2018-2020年)。
https://www.jaxa.jp/


[Moderator]


Yoshitake Sohma

Plug and Play Japan株式会社 Program Lead, Food & Beverage / Ventures Analyst

東北大学大学院工学研究科にて修士号取得。野村総合研究所の経営コンサルタントとしてキャリアをスタートし、官民にわたり農食事業、宇宙事業やスタートアップ・エコシステムに関するプロジェクトに従事。Plug and Play JapanではVenturesメンバーとしての投資活動およびFood&Beverageプログラムにおけるコーポレートイノベーション支援活動の両軸で活動。


[目次]

・宇宙産業への関わり方の広がり
・宇宙は「ふりかけ」? 既存事業に応用するコツ
・宇宙へ踏み出すための最初の一歩とは

宇宙産業への関わり方の広がり

ーーPlug and PlayではカナダのKeplerや日本のElevation Spaceといったスタートアップへの投資をはじめ、イタリアのトリノでTake Off Programというスペーステックをテーマとしたアクセラレータープログラムを展開しており、宇宙領域を盛り上げていこうとしています。本日は「宇宙産業エコシステムの現在地とこれから」というテーマで、3人のゲストの方をお招きしています。まずはそれぞれご自身がどのように宇宙産業に取り組んでおられるのか、自己紹介をお願いします。

中村氏:

私は大学で自分たちで人工衛星を開発する研究室に出会い、面白そうだなと思ったのが宇宙に関わったきっかけです。その研究室で在学中に人工衛星を開発し、小型人工衛星を通じて宇宙を活用して人の役に立つことを自分の仕事にしたいなと思いました。ただそういった会社が当時はどこにもなかったので、自分で会社を始めることになりました。アクセルスペースを設立して以来、衛星開発を主軸としたビジネスを展開しています。こちらが現在主力で作っている、100キログラム級の人工衛星になります。


(画像提供:AXELSPACE)

我々のビジョンは、「Space within Your Reach〜宇宙を普通の場所に〜」です。宇宙というと「夢があっていいね」とか「ロマンですよね」と言われることが多いですが、そういったイメージを変えていきたいと考えています。宇宙はもはや、暮らしのさまざまな面で役に立つインフラになりつつあります。この小型衛星の技術を使って、あらゆる人の宇宙進出を推進していきたいというのが、アクセルスペースが目指していることです。

弊社は今年で15年目を迎えますがここ数年で急速に成長しており、現在130名以上のメンバーが在籍しています。これまでに9機の人工衛星を開発、製造、打ち上げ、運用をしています。


(画像提供:AXELSPACE)

創業のきっかけは、ウェザーニュースという会社の北極海の海氷を観測する衛星のプロジェクトから始まっています。加えて、『AxelGlobe』という自社独自のプロジェクトがあり、高頻度で地球観測ができるプラットフォームを構築しています。

事業モデルは大きく2つあります。1つが先ほどのAxelGlobe。コンステレーションといいますが、複数の人工衛星を連携させて地球観測をする事業で、我々が日本で初めてスタートさせました。衛星を使って撮影した画像を提供したり、その画像を解析した情報をソリューションとして提供するビジネスです。

2つ目は『AxelLiner』という、衛星プロジェクトをDXする試みです。衛星は重たいハードウェアというイメージがあると思うのですが、それを”Space Project as a Service”としてソフトウェアライクなサービスに変えて、より多くの案件を短い期間で回していくことを目指したビジネスです。


(画像提供:AXELSPACE)

伊達木氏:

JAXAは政府の宇宙開発利用を技術で支える中核的実施機関と位置づけられております。ご存知の通り、ロケットや人工衛星、航空技術、基盤的な技術全般、それに宇宙科学、探査も含めた大きな技術分野を持っています。それだけでなく、安全保障、産業振興、減災・防災などの分野もあります。


(画像提供:JAXA)

かつては大手企業と一緒に、立派で頑丈で信頼性の高いハードウェアを作ることが中心でしたが、この10年ぐらいの間に多くの宇宙スタートアップがでてきました。『ニュースペース』と呼ばれたりもしますが、スタートアップが宇宙を開発利用していく、あるいは今まで宇宙に関わりのなかった事業者が宇宙コミュニティに入ってくることが多くなりました。そのため政府でも、宇宙事業のための人材や専門家を育てて、流動化させて取り込んでいく活動をしています。

企業が成長するために技術力をつけることは必須ですが、宇宙事業の場合は宇宙空間での実証機会も重要です。「どうやって宇宙技術を使うか」「JAXAがどんな技術開発をしていくと宇宙産業全体に役立つのか」ということを、政府と相談しながら国の政策に連動したプログラムを打っています。

佐藤氏:

SPACETIDEは一言で言うと、宇宙業界のPlug and Playの立ち位置かなと思っています。

宇宙ベンチャーの数は世界的にみると1000〜2000社ぐらい、日本で70社ぐらいと言われています。我々は業界、国、個人、組織といった垣根を越えて宇宙ビジネス産業全体を大きく広げて、みんなの役に立つビジネスにすることを目指して活動しています。

エコシステムのステークホルダーとして6つの業界セグメントのそれぞれの人たちを繋げていくことが重要だと考えています。宇宙ってそもそもは国を超えた概念で、国内と海外のプレイヤーがシームレスに繋がっていくべきだと思っています。もちろん政策などでの関わりは必要ですが、根本的にはグローバルにやっていくべきだと思っています。


(画像提供:SPACETIDE)

イベント登壇者やスポンサー、戦略的パートナーという形でさまざまなスタートアップ、投資機関、政府関連、アカデミア、宇宙関連企業と連携しています。特に最近重要になってきているのは異業種の企業ですね。新しい事業領域として宇宙を見ていただけている感触を得ています。

宇宙事業のエコシステムを強化していくにはいろんな課題があり、繋がりの強化とか、業界外のビジネスチャンスとか、裾野の拡大など、それぞれの課題に対してイベントを開催したり、レポートを出したり、アクセラレーションプログラムを始めたりとさまざまなアクティビティを展開しています。


(画像提供:SPACETIDE)

我々の知名度を一番支えているのは、2015年に始めた『メインカンファレンス』というイベントです。最初は日本初の民間発ビジネスカンファレンスという形で始めたのですが、今では毎回230カ国から参加いただき、昨年の夏は100人弱のスピーカーと800人弱の参加者という規模にまで成長してきています。


(画像提供:SPACETIDE)

ーーまず始めに、宇宙ビジネスの現在地はどういうところなのか。最前線のプレイヤーとして活躍されている中村さんのご意見をお聞かせいただけますか?

中村氏:

宇宙ビジネスの黎明期は、衛星やロケットを開発するというハードウェアに注力してしまうフェーズがあるのですが、それが完成して宇宙に打ち上げられて、実際にデータを提供し始めるサイクルがようやく回り始めた時期かなと思っています。

地上でのビジネスであれば、スタートアップならば数ヵ月でプロジェクトを1サイクル回すのが普通ですが、宇宙だと何年もかかります。けれどそうした新しい宇宙を活用したプロダクトが実際にPoCを経て本格的に使われる事例が出始めています。これから数年は、利用が爆発的に広がっていくタイミングになるのではないかと思っています。

ーー盛り上がりを見せているフェーズということですが、政府としてエコシステム強化に対する考え方やアクションは変わってきているのでしょうか?

伊達木氏:

そうですね、政府も数々の政策を打っています。予算も取られていますし、関係する省庁も多いです。古くから関係の深い文部科学省や内閣府に加えて、経済産業省、総務省、最近は国土交通省や農林水産省も宇宙利用を掲げています。JAXAは政府を支える機関として、宇宙技術を作る人と利用する人の裾野を広げ成長させる、両方に貢献できるようなプログラム政策を打っています。


(画像提供:JAXA)

ーーいろいろなステークホルダーと接する機会が多い佐藤さんから見て、エコシステムに変化はありましたか?

佐藤氏:

中村さんがおっしゃったように、「サイクルが回り始めた」というところが大きいと思っています。日本で宇宙ビジネスが盛んになり始めたのは2010年以降でしたが、2023年の今ようやくスタートアップが衛星やロケットを宇宙に飛ばすようになって、日本のプレイヤーも事業化していけるようになりました。これまで宇宙スタートアップは「かっこいいCG描いているよね」みたいなことを言われがちだったんですけど、CGではなくリアルな実態を提供できるようになったのはとても大きいです。

それによる波及影響はいろいろありますが、1つは出来上がりつつある宇宙インフラを使う動きがあります。これまでは中村さんみたいな宇宙技術の専門家が先鞭をとって宇宙事業を推進してきたのですが、これから宇宙技術を使う人は宇宙に詳しい必要は全くありません。1回できたインフラを改善し効率化するために、ITインフラや通信系、データ系など宇宙系とは異なるエンジニアも入ってくるでしょう。あとは宇宙業界での会社と会社の間の交渉事が整理されていないことも多いので、法律家や商社、コーディネーターのニーズが出てきています。大手企業の方々にも力を借りるべきフェーズに来ています。スタートアップが作った要素技術を量産化する部分に、大手企業のアセットを貸してもらうなどの話は出てくると思います。

宇宙は「ふりかけ」? 既存事業に応用するコツ

ーー今日のオーディエンスは、大手企業の中で外部連携や新規事業をリードされている方が多いのですが、「宇宙」という業界名を聞くと「異業種の参入」がキーワードとして上がってくると思います。宇宙産業から見た異業種参入の重要性について伺えればと思います。

佐藤氏:

重要も何も、絶対必要だと思っています。宇宙業界ができるのは、バリューチェーンの途中までなんですよね。最後はそれぞれの業界の中で宇宙技術を使ってもらうことになるんです。いま宇宙業界は転換期にあり、地球の周回軌道400〜600キロメートルぐらいには衛星のインフラができ始めているのですが、それより遠くを開発しようという流れが大きいです。また国際宇宙ステーションを商業化したり、民間企業に運営してもらったり、軌道上でのゴミ処理だったり、宇宙機関だけではできないことがたくさんあります。例えば月面では地面や重力もあるため、軌道上とは全然違う技術が必要になるので、JAXAさんだけでやることは難しいです。そういう意味でも、地上の技術を持っているさまざまな業界の力を借りるのはとても重要で、これは日本だけでなくアメリカでも同じような状況です。

中村氏:

AxelGlobeの例で言いますと、衛星が撮影した写真やそれを解析したインサイトをソリューションとして提供するので、データを買うのは宇宙業界の人ではないんですよね。異業種の人に使っていただくのはマストです。

SPACETIDEが始まった頃からずっと言っているのですが、「宇宙ビジネス」という言葉が変で、場所の名前に「ビジネス」という言葉がついている。「海ビジネス」とか聞かないですよね。「宇宙ビジネス」と一言で言っても、地球観測であったり、通信であったり、月に行ってみたり、デブリ回収したり、エンタメやってみたり、本当にいろんなことをやっています。「宇宙ビジネス」と一括りにするのが本来はおかしな話で、もっと業界が成熟してくると「地球観測ビジネス」「通信ビジネス」というふうに細分化していくと思っています。

私は宇宙は”ふりかけ”みたいな存在だと思っているのです。つまり、宇宙技術を使うことによって自社製品の品質がよくなるとか、新しい価値が付加できるとか、そういう既存ビジネスにプラスする”ふりかけ”的に気軽に捉えてもらう。どの業界でも宇宙を活用できるチャンスはあると思います。気軽にいろんな宇宙スタートアップのドアを叩いていただけるといいんじゃないかなと思ってます。

ーー”ふりかけ”というのは宇宙を身近に感じていただける素敵なキーワードですね。そのような転換期にあってリスクマネーの供給が進んでいく中で、今後エコシステムを強化していくために、どういう要素が必要になるのでしょうか。

伊達木氏:

今ある事業内容の中に宇宙要素をどう取り込むと付加価値がつくか、中村さんの”ふりかけ”のような発想が必要ですね。地上の事業をどう宇宙に持っていったら、より早く確実な技術開発になるのか、もしくは逆に、宇宙から得られる技術をどう地上に送り込むのか、双方向の観点が重要になってきます。JAXAの活動では、例えば、衣食住が関係する分野で多くの企業と一緒に取り組むことによって、宇宙技術を広め、参加される企業の価値を高めていければと考えています。

佐藤氏:

最近課題に感じているのはエンジニア人材の不足です。宇宙スタートアップはクライアントのニーズに応えるためにスピード感を持ってサービスを回せる人を求めている。ただ、いわゆるリクルーティング会社の方々にとっては宇宙業界はマイナーで知られていない分野です。エンジニアと言っても、どんな人材が必要か要件もちゃんと分解しないといけない。ロケットのエンジンを作る人、ミッションの通信をやる人、衛星データを解析する人、全然違います。「宇宙ビジネスのエンジニア」と一括りにして募集をかけてもマッチングしないので、そういったところを分解して、コミュニケートする場が重要だと思っています。

これまではビジネスよりもテクノロジーに詳しい人が勢いで事業を作ってきていましたが、そこにビジネスパーソンが入ってどんどんコーディネートして、ビジネス化していくフェーズに来ていると思います。

宇宙へ踏み出すための最初の一歩とは

ーー大手企業としては、長期的なプログラムになりがちですし、社内で説明するのも難しいし、最初の一歩が踏み出せない方は多いと思います。そういった方々が最初に宇宙に関わろうと思った時、どういうアクションを取るべきでしょうか。

中村氏:

衛星やロケットを作るって話になってしまうと、ものすごいお金も必要になりますし、時間も何年もかかってしまいますが、インフラができつつあるのでそれを活用することを考えていただければいいと思います。宇宙を特別視せずに「ちょっとこの画像を使ってなんかやってみよう」とか、PoCからでもトライしてもらいたいですね。最近多いのが、衛星画像を分析して、情報を抽出して、特定の業界のニーズに対してサービスをつくるスタートアップです。JAXAやスタートアップが作ったインフラを使って、まだリーチできていないお客さんにサービスを提供していくのはすぐにでもできます。宇宙領域以外のスタートアップと同じような感じで、どんどんトライしていただけたらと思っています。

伊達木氏:

ジグゾーパズルに描かれた絵を考えた時に、どういったピースを持ってくればいいか、いろんな工夫があると思います。既存の形もあれば、自分たちでピースを切り出すという発想もあります。先ほどご紹介したような制度や、知的財産、設備、いろいろな形でJAXAのアセットを利用していただくことも可能です。JAXAだけでなく、中村さんや佐藤さんのような方々と一緒に組み合わせていくことで、未来の姿が描けると思います。

佐藤氏:

宇宙ビジネスは、総合格闘技のようなところが面白いんです。科学という側面もあるし、夢のあるコンテンツとしての魅力もあるし、安全保障や国際外交にも密接に関わっていて、さまざまなビジネスチャンスがあります。単発の宇宙事業や1社の話だけを聞いているとその魅力がなかなかわからないかと思います。いろんなところに顔を出して多面的に知っていただくと、「この分野ならできるかも」と解像度が高められると思います。

ーー非常に盛り上がりを見せている宇宙産業ですが、Plug and Playとしても投資やアクセラレータープログラムを通して、サポートを強化していきたいと考えております。今日はどうもありがとうございました。

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