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人工知能がもたらす食料生産活動の変革

2024/07/03

2020年6月のGPT-3のリリースを機に、世界では生成AIに対して大きな注目が集まるようになりました。ここ数年で急速に普及した生成AIに代表されるように、人工知能は日常生活のあらゆるところに入り込み、時には我々の気づかぬところで力を発揮することで、我々の生活を支えてくれています。本記事ではこの人工知能が、いかにしてフードバリューチェーンの中でもその根幹となる生産フェーズにおいて変革をもたらすのか、最新のトレンドとともに考察します。


Yoshitake Sohma

Director, Food & Beverage / Ventures Associate


はじめに:食料生産におけるAIの活用

フードサプライチェーン全体においてはすでに多くの場面で人工知能が活用されています。消費者に対するパーソナライズされた食事やプロダクトの推奨、冷蔵庫の中にある食材からのレシピ提案や、サプライチェーン全体での流通量の最適化などがその主な例です。これらは、消費者に対して更なる健康的な価値を提供したり、食料廃棄問題の解決に貢献したりするアプローチとして話題を集めています。

一方で現在、食品業界において最もスタートアップ投資の金額が大きいのは、より川上の生産フェーズです。これまで執筆してきた精密発酵代替食品に関連する記事で触れたように、このような技術は既存のサプライチェーンを根本から書き換えるポテンシャルを持っています。食料生産のためのこれらの新たなアプローチは、その手法柄、元来は研究開発に膨大な時間を要するものが大部分を占めていました。そこで活躍するのが人工知能であり、プロセスの効率化等に対して大きな役割を担っています。

また、人工知能は新たな生産手法の開発のみならず、従来の生産手法の精度を高めていくことにも重要な役割を果たしています。これまで人間が「なんとなく」下していた判断に代えて、データを見える化し、可能な限り生産プロセスの精度を高めていくための活用が、普及しています。

食料生産におけるAI活用

パターン探索のための人工知能活用

細胞農業は動物細胞を体外で培養・増殖させることにより、本来の生産方法で作られる肉や乳製品などと、全く同じものを作り出すことができる新しい生産方法と表現されることがあります。いわゆる培養肉や精密発酵、分子農業などのアプローチがこれらに該当します。これらのアプローチはそのプロセスの中で膨大な変数が存在し、最終的なアウトプットに対して強い影響を与えます。そもそもどのような物質が欲しいのか、それはどのような分子構造であれば実現できるのか、そういった検証すべきパターンも膨大に存在しています。

例えば、精密発酵や分子農業のような合成生物学的なアプローチであれば、目的の生成物を最も効率よく生成できる遺伝子配列や代謝経路の設計を行う必要がありますが、想定されるパターンは数多あります。一方で、リソースが限られているスタートアップからすると、全てのパターンを網羅的に試験する人的・時間的リソースはもちろんありません。そこで登場するのが人工知能です。仮想的に多くのパターンをシミュレーションし、現時点で考えうる優先的に検証すべきパターンを仮説的に提示してくれます。近年のR&Dプロセスの飛躍的な効率化に貢献している要因の一つであり、その重要性がわかります。このようなアプローチを採用する企業は、いずれもインフォマティシャンという役割でエンジニアを採用しチームに入れ込み、さらなる効率化による競争優位性の強化を図っています。

米国のShiruやドイツのCambriumは、こういったペインポイントを機会と捉えタンパク質の構造シミュレーションを行うAIアルゴリズムを開発・提供しています。タンパク質は生命維持に必須の栄養素であり、その機能はアミノ酸の配列や全体的な形状などさまざまな構造によって決まっています。目的とする機能を持ったタンパク質をピンポイントで特定することは困難であり、非常に多くの実験を通じたPDCAサイクルが回されていたところ、これらのスタートアップが提供するアルゴリズムにより、このプロセスが大きく効率化されています。特に2019年に創立された先行プレーヤーであるShiruは、これまで合計で約$40Mを調達しており、彼ら自身で保有するデータベースにもすでに3,300万種類以上の分子が蓄積されています。CPG(消費財)や原料系の企業からは大きな関心が寄せられており、その注目度の高さが伺えます。

このように、何かしらの機能を提供したいときに、それを実現するためにどのような物質をターゲットとすべきなのか、それを生物合成で生産するときにはどのような生合成経路とすべきなのか、など数多あるパターンから効率的な探索を行うために、人工知能は強力なツールとなっています。これまでとは異なる食料生産を行うことがサプライチェーンの設計上求められるようになる大手企業としては、このような領域の専門性を持ち合わせていないことからもスタートアップとの連携を必要とする部分も大きいと推測されます。AIソリューションを提供するスタートアップの競合優位性に対して強く影響を与えるのが、独自データと言われている中、食品業界においてもそれは変わりません。実需とその対応のための検討を通じてより多くのデータを蓄積したプレーヤーが、より高い価値提供が可能になり、徐々に参入障壁を築いていくのです。

伝統的農業アプローチにおける条件最適化

上記のような新たなアプローチにおいて、人工知能により膨大な変数の最適化がなされていることを述べましたが、今後しばらくの期間にわたり食料生産のメインストリームとなり続ける伝統的な手法においてもその活用がなされています。特に一次産業となる農業や漁業において近年のその動きは非常に活発です。

農業においてはカナダのFarmer’s Edge社が代表例として上げられますが、衛星データと地上データを組み合わせたうえで、作物の成長予測等から大規模農場のオペレーションを最適化、またアクションをレコメンドし農家の生産活動を包括的に最適化できるソリューションを提供しています。水産業、特に水産養殖の領域においても同様に、さまざまなデータを収集し作成したモデルにインプットすることでより効率的な生産活動を行うことができるUMITORON社のようなソリューションが提供されています。

このような一次産業の生産活動における人工知能活用の効果は単なる効率化にとどまりません。例えば農業では、過度な水利用や土壌に影響を与える化学肥料の多用、水産養殖では過量給餌による水質汚染などが問題となっていたところ、人工知能の導入により環境への影響も同時に抑えられる利点に対しても注目が集まってきました。これがある種の付加価値的な決め手となり、導入が進んでいる側面もあります。

日本においても従事者の高齢化が顕著な一次産業ではありますが、海外と比較したときに相対的に小規模生産者が多いことなどの前提条件の違いはあれど、このようなソリューションによって熟練の技術や感覚が可視化されることで、日本国内の生産活動がより盛んになる未来も想像できるのではないでしょうか。気候変動の影響が無視できなくなってくる中で、十分な品質の生産を継続するためには必要な考え方であるとの見方もできると考えます。

AIスタートアップと大手企業による食料生産の展望

食×人工知能というと、バリューチェーンの川中や川下のプロセスが注目されることが現在は多いように感じます。一方で、現在起きているフードテックの盛り上がりは主に最上流である生産のフェーズで発生しているものであり、この分野の新技術への注力は今後も継続することが予測されます。AI活用のノウハウは伝統的な手法を磨いてきた大手企業が保有していないもののため、スタートアップによる解決の必然性が強い領域となります。いかにして効率化し探索を進めていくのか、実証の成功、生産スケールアップの成功、規制承認獲得、マーケット投入と各マイルストーンをクリアするスピード感がより重要になった今、本業界においても、人工知能は食料生産と切っても切り離せない重要な技術となりつつあります。

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フードテックのトレンド概況と、その中でも注目される代替原料について考察しています。

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