新規事業立ち上げを成功させる7つのステップと重要ポイント
2024/11/13
新規事業開発の重要性が叫ばれて久しく、イノベーション創出を経営の重点施策に掲げる大手企業も増えています。
しかし新規事業を軌道に乗せるまでには多くの壁が立ちはだかり、途中でトーンダウンしてしまうケースも少なくありません。本記事では新規事業を模索する大手企業に向けて、プロジェクトを軌道に乗せるまでのステップや、新規事業立ち上げを成功に導くための重要ポイントについて解説します。
Writer: Hideaki Fukui
1.新規事業の立ち上げプロセス
(1)事業アイデアを考える
新規事業の種となるビジネスアイデアを考えるためには、市場の動向や技術トレンド、今後予想される社会の動きなど、外部環境に関する情報を幅広く集める必要があります。その上で自社のアセットや強み、競合優位性などを整理し、経営理念とも照らし合わせてアイデアを絞り込んでいきます。具体的なメソッドとして、以下のような手法があります。
- 社内ワークショップ
外部のファシリテーターを起用するなどしてブレインストーミングのワークショップを行います。この時、参加メンバーは社内の異なる部門から横断的に募ることで、多様な視点を取り入れることが重要です。
- 社内コンテスト
ポピュラーな手法として、コンテスト形式で社員からアイデアを募り、経営陣の審査によって事業化する案を選定する方法です。応募する社員は顧客ターゲットや採算性なども精査してプランを作成するため、経営視点を身に付ける良い機会となり、モチベーションの向上も期待できます。
- パートナー探索
オープンイノベーションが注目されている近年、自社にはない技術やノウハウ、ネットワークを持つ外部パートナーやスタートアップとうまく連携することで、自社だけでは解決できなかった課題に突破口を見出すことができたり、社内では思いつかない斬新なアイデアの創出や、外部連携によるスピーディーな事業開発が期待できます。
- トレンド調査
国内外の市場動向や他業界の成功事例を調査し、新たなトレンドや技術の動向を把握することも重要です。デスクトップリサーチとしてインターネット検索を活用するだけでなく、有識者や顧客へのヒアリングを通じたフィールドリサーチも効果的です。異なる視点からのアプローチが新たなアイデア創出につながる可能性があります。
いずれの手法においても、社内の慣例や部署の利害などを取り払い、自由な発想を促す環境を整えることが大切です。なかなかアイデアが生まれない場合には、既存のアイデアに7つの疑問をぶつける「SCAMPER法」、アイデアの解像度を上げる「5W2H」、目標達成に必要な要素を洗い出す「マンダラート」などのフレームワークを活用すると良いでしょう。具体化できそうなアイデアが集まったら、経営目線で有力候補を絞り込んでいきます。
(2)プロジェクト・チーム組成
絞り込んだアイデアを具現化するためにプロジェクト化し、最適なチームを組成します。できるだけ部門横断的に人材を集め、多様な視点と専門性を持ったプロジェクトチームを構築しましょう。
新規事業の立ち上げでは、潤沢なリソースがない中で少数精鋭で進めることが多いため、関わるメンバー全員にリーダーシップが求められます。そのため、最適な人材を起用できるかどうかが成功の鍵となります。
とはいえ、立ち上げ当初から完璧なチーム体制を構築することは難しいため、初期は最小限の人員でスタートし、必要に応じてリソースを追加していくような柔軟なアプローチが好ましいと言えます。
チームの形態においても、本業と並行しながらプロジェクトを進めるのか、新規事業専門のチームとして進めるのかは、各企業の状況に応じて慎重に検討しましょう。本業と並行するなら「新規事業に割く時間は業務全体の20%」などのルール設定も重要です。
人選が固まればプロジェクトリーダーの選定、各メンバーのタスクと責任の明確化、レポートラインの検討などを行い、プロジェクトを始動する環境を整えます。
(3) 事業計画の仮説構築
体制が整ったら、いよいよ事業化に向けて仮説検証などの具体的な作業に着手します。このフェーズでの主なミッションは次の5点です。
- 1. 市場調査
上記で絞り込んだビジネスアイデアの実現性を計るために市場調査を行います。既に類似する商品・サービスが存在するかどうか、その市場規模はどのくらいかなど、アイデアの実現性を判断するための情報を集めます。この段階での調査は、後のプロダクト検討や競合分析において非常に重要です。
- 2. 顧客ニーズの明確化
市場調査を踏まえ、具体的な顧客のニーズの仮説を定義します。ターゲットとすべき顧客は誰か、顧客のどのようなニーズを満たすべきかを検討します。ユーザーヒアリングなどを通して顧客のインサイトを可視化し、ニーズとして顕在化していながら満たされていない「アンメットニーズ」を見つけることが重要です。
- 3. プロダクトの検討
顧客ニーズが明らかになったら、それを基にどのようなプロダクト(ソリューション)を提供するのかを検討します。この段階では、アイデアを具体化し、ターゲット市場に対する価値を明確にすることが重要です。プロダクトの特徴や機能、提供価値を整理し、初期のプロトタイプやコンセプトモデルを作成します。
- 4. 競合分析
プロダクトの方向性が決まったら、そのプロダクトに対する競合分析を行います。既に類似する商品・サービスが存在するかどうか、その市場規模はどのくらいかなど、アイデアの実現性を判断するための情報を集めます。競合する先行事業者がいる場合はその事業内容を分析し、差別化ポイントを探ります。
- 5. 事業計画の策定
新規事業の方向性が見えてきたら、収支計画、財務計画、マーケティング計画などを盛り込んだ事業計画を策定します。それを基に事業目標やKPI、ゴールから逆算した事業スケジュールも策定。自社に不足しているリソースを整理し、必要に応じて外部との協業計画も整えましょう。
(1)〜(3)のプロセスは、必ずしも順番通りに進める必要はありません。企業の状況によっては、新規事業立ち上げのチームや部門が先に組成され、その後でアイデア創出や市場調査、競合分析などのリサーチが行われるケースも考えられます。また、市場や顧客ニーズの調査結果をもとにアイデアをまとめ、プロジェクトとして進めるパターンもあります。
(4) 製品・サービス開発
チームと事業計画が整ったら、スケジュールに沿って製品・サービスの開発を進めます。まずは、ユーザーニーズとの親和性や市場の反応を探るためのMVP(最小限の実行可能な製品)の開発をめざしましょう。この時、オープンイノベーションによって外部の専門的なリソースを取り入れることが、開発をスピードアップさせるポイントのひとつです。
その後の重要なステップとしては、MVPへのフィードバックを基にさらなる検証を行うためのPoC(概念実証)があります。PoCでは製品・サービスの市場適合性や技術的課題、運用上の問題点を洗い出し、市場投入に向けて改良をくり返します。
(5) 事業化
プロダクトの改良と仮説検証を繰り返し、顧客への提供や改善、新たな市場探索を行った結果、十分な売上が見込めるキラーアプリケーションが見つかり、PMF(プロダクトマーケットフィット)の状態が確認できれば、次のスケーリングに進む準備が整います。量産および流通の体制を整え、カスタマーサポートやクレーム対応などの人員も確保しておきましょう。当然ながら、マーケティングや広報も非常に重要です。市場投入のタイミングに合わせて話題化できるよう、入念に計画を練っておきましょう。
市場投入後は、顧客からの反応をチェックしながらプロダクトのブラッシュアップや必要な追加施策の検討を重ねます。スピード感を持ってPDCAサイクルを回し続けることで、市場での優位性を確立しましょう。
(6) スケーリング
プロダクトのローンチはゴールではなく、あくまでスタート。市場投入後に求められるのは継続的な事業拡大です。営業人員の拡充や生産体制の拡大、カスタマーサクセスなどサポート体制の充実など、事業拡大に必要な施策を進めていきましょう。
事業が軌道に乗ってきたら、製品・サービスの横展開による新たな市場の獲得や、海外を含めた他地域への展開も視野に、さらなる拡大戦略を進めます。既存事業と並ぶ収益の柱に成長させることを目標に、市場との対話を続けましょう。
(7) パフォーマンス評価と最適化
継続的な事業拡大を図るためにも、定期的に進捗のレビューや事業実績を検証し、事業戦略の見直しやビジネスプランを改善していく必要があります。KPIの管理と市場動向の分析を徹底し、チーム全体が常に最適なパフォーマンスを維持できる環境を整えましょう。
2. 新規事業タイプとオープンイノベーションの役割
(1) 新規事業タイプ
ひと言で「新規事業」といっても、もともと手がけている事業との関係や、開発に向けた考え方によっていくつかのタイプに分けられます。
- ①【新製品・サービス開発型】
市場ニーズに対応した新製品・サービスの開発
企業がこれまでに手がけてきた製品・サービス、蓄積してきた技術やノウハウを基に、新たな機能やセールスポイントを持つプロダクトを開発するタイプです。既存市場に向けて、より魅力的なプロダクトを投入することで、買い替え需要の創出や、競合メーカーからのシェア奪取を図ります。
- ②【新規市場開拓型】
既存製品・技術の多角化・応用
蓄積された技術やノウハウを応用し、異業種での市場開拓を狙うものです。社内に眠る技術・ノウハウの定期的な棚卸しと、それらを市場のニーズに結び付けるマーケティング力が成功の鍵を握ります。製造業の企業が技術力を生かして一般消費者向けの商品を開発したり、化学メーカーが研究成果を活用して食品や化粧品に参入したりする例が挙げられます。
- ③【事業転換型】
イノベーションによる業界再定義
既存のビジネスを根底から変えるような革新的な新規事業です。ビジネスモデルを“再定義”することで業界全体に変革をもたらし、まったく新しい市場の開拓を狙います。成功すれば企業価値が一気に向上する可能性もありますが、成果が出るまでに多くの期間とリソースを費やします。事例としてはトヨタ自動車が打ち出した「e-palette構想」(*3)など、通信会社やモビリティ企業、ディベロッパーなどによるスマートシティに向けた取り組みなどが一例です。
(2) オープンイノベーションの役割
上記3タイプのいずれにおいても、事業開発を成功させる上で有効なアプローチとなるのがオープンイノベーションです。先進的な技術を持つスタートアップや研究機関など、外部のリソースを取り入れることで自社に不足するピースを補完し、開発のスピードアップやリスク軽減を図るものです。
開発を進める上で不足している要素を明確化して協業先を探すケースや、リバースピッチなどで大まかな課題感を伝えて協業アイデアを広く募集するケースなど、戦略によって取るべきアプローチは変わってきます。協業先が決まったら、同じゴールをめざすパートナーとして対等な協力関係を築くことが成功の秘訣です。
3. 新規事業を成功に導く7つのポイント
成功すれば企業価値の向上や社員のモチベーションアップなど、さまざまなメリットがある新規事業ですが、成長軌道に乗せるまでには多くの壁が立ちはだかります。「最初は盛り上がっていたのに、動き始めるとトーンダウンしてしまう」という声も少なくありません。そこで、新規事業を成功に導くためのポイントをご紹介します。
(1) 経営陣のコミット力
前述した現場の理解を得るためにも、重要なのが経営陣のコミット力です。トップメッセージで新規事業の意義を浸透させ、社員一人ひとりに協力意識を持たせましょう。また、部門ごとの利害を超えて協力体制を築くためにも、トップによる鶴の一声は欠かせません。
(2) ドライブ力の高い推進人材のアサイン
新規事業の推進には、高い熱意や粘り強さを持つ人材が不可欠です。極めて不確実な環境では、手戻りや逆境に直面することが多いため、困難に負けずに取り組む姿勢が求められます。また、社内外のキーパーソンを巻き込み、協力を得る能力も重要です。このようなスキルやプロセスは、既存事業で必要とされるものとは異なる性質を持ち、特に新規事業においては大きな影響を与えます。
(3) 新規事業用のステージゲート設定
事業開発で一般的に利用される管理手法のひとつに「ステージゲート法」があります。これは、アイデア創出から市場投入までを複数のステージに分け、ステージごとに次へ進めるかどうかを判断する「ゲート」を設定する手法です。(*4)
一般的には「アイデア創出→初期調査→ビジネスプランの作成→開発→テスト→市場投入」という6つのステージを設け、各ゲートで次へ進むかどうかを判断します。新規事業の場合、既存の製品開発やR&Dのステージゲートとは異な点に留意が必要ですが、このように細かく検証のステップを入れることで不確実性を軽減し、着実に解像度を高めながら開発を進める点で、有効なアプローチとなります。
(4) 現場の理解
新規事業の立ち上げでは、社内の各部門や社員との連携は不可欠であり、企業が新たな挑戦をする上で現場の理解は欠かせません。また、不確定要素の多い立ち上げ初期おいては、既存事業のように組織体制や権限の明確化が難しいことも多く、属人的かつゲリラ的な対応を求められる場合もあります。
さらに、始動したばかりで「結果」を示すことが困難な新規事業では、周囲からの理解を得るのが難しいことも少なくありません。そんな中で、協力してくれるキーマンを見つけ、巻き込んでいくことが重要です。同時に、新規事業の意義や必要性をしっかりと社内に浸透させ、全社一丸となって取り組める環境を整えることが肝要です。
(5) 必要なリソースの把握・確保
リソース(ヒト・モノ・カネ)を確保するためには、必要なリソースを正しく把握しておく必要があります。特に、未知の領域に事業を広げる場合やスタートアップと協業する際には、法務や知財の専門人材も必要になってきます。グローバル展開を考えるなら、海外部署との連携も必要です。事業が進み出してからリソース不足にならないよう、スタート時点で必要なリソースを洗い出しておきましょう。
(6) 先端テクノロジーの活用
市場の変化が急速で、既存の技術や手法では対応が難しいニーズや課題に対して、人工知能やバイオテクノロジー、量子コンピューターなどの先端テクノロジーを活用することで、効率的な業務プロセスの実現に加え、企業の競争力を高める新しいサービスの創出が可能となります。また、データ活用により顧客ニーズを的確に把握し、迅速な意思決定ができるため、柔軟な事業展開が期待でき、競合他社に対して優位に立つことができるでしょう。また、最新のテクノロジーやサービスにアンテナを張っておくことは、将来の市場環境を予測する上でも有益といえます。
(7) 補助金や助成金の活用
事業開発には多くの投資が必要です。特にハードの開発を伴う事業の場合は、試作品の材料費や製造コストなどが重くのしかかってきます。知財を取得するなら、その出願や事前のクリアランス調査にも一定の費用がかかります。
これらのコストをまかなう上で、公的な補助金・助成金を活用しない手はありません。国や地方自治体が募集している補助事業は定期的にチェックし、活用できる事業には積極的に応募しましょう。コストを抑えることができれば、その分プロダクトの改良に費用をかけることができます。
補助金・助成金の一部ご紹介
4. まとめ ~他社の成功事例から学び、外部リソースも活用することが成功の鍵~
ここまで新規事業を立ち上げるうえでの具体的なステップや考え方、成功のポイントについて解説してきました。最近は事例やフレームワークなどに関する有益な情報に加え、事業開発を支援するサービスも増えているため、新規事業の第一歩を踏み出すハードルは下がっていると言えます。しかし、成果を生むまでには依然として多くのハードルを越える必要があります。
このような中で、まず重要なのは「外に目を向けること」です。海外のトレンドや他業界の成功事例から学ぶことで、自社の事業に新たな視点を取り入れることが可能です。また、ステージゲート法などのフレームワークを参考にし、他社の取り組みを学ぶことも有効です。
次に、その中で「外部連携を視野に入れること」は新規事業の成功において非常に効果的です。自社だけで開発を進めようとせず、外部リソースを活用することでリスクを抑え、取り組みの効果を最大化させることができます。Plug and Playでは、大手企業とスタートアップとの協業を促すさまざまな支援サービスを提供しています。優秀なスタートアップとのマッチングはもちろん、社内ベンチャーの組成やメンタリング、新規事業創出のためのワークショップといった実践的なプログラムもご用意しています。さらに、グローバルネットワークを活用した海外スタートアップとのマッチング支援も可能です。ご興味のある方は、こちらよりお気軽にご相談ください。
- 参照資料
*1) KIRINの研究開発「免疫研究を通じて人々の健康に貢献する」
*2) 富士フイルムの独自技術「なぜ、フィルムメーカーがコラーゲン?」
*3) トヨタイムズ「開発責任者に聞いた『e-Palette』の現在地とは?」2024年8月1日
*4) 日本の人事部「ステージゲート法」