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新規事業担当者なら知っておきたい 「オープンイノベーション促進税制」の上手な活用法

2023/12/15

事業会社によるスタートアップ投資を促進する施策として2020年にスタートしたオープンイノベーション促進税制。2023年4月には上限金額などの条件が一部改正されるとともに、M&Aも新たに適用の対象となりました。上手に活用すれば大きな財務的メリットが受けられる本制度のしくみと、具体的な申請方法について解説します。

(Photo by Sora Shimazaki from Pexels)


Hideaki Fukui

Writer


オープンイノベーション促進税制とは?

制度の概要

オープンイノベーション促進税制は、国内の事業会社やそのCVCがスタートアップへ投資した場合、株式の取得価額の25%を所得控除できる制度です。事業会社とスタートアップとの共創によるイノベーションを促す施策として2020年度の税制改正に盛り込まれました。当初は新規発行株式の取得を対象とした「新規出資型」のみでしたが、その後の改正によって2023年4月より発行済み株式の過半数の取得を対象とした「M&A型」も新設され、活用の選択肢が広がっています。

投資後の「成長」がポイント

この税制の適用を受ける上で重要なポイントとなるのが、出資後の双方の事業展開です。単に株式を取得すれば適用されるわけではない点に注意してください。出資によって事業会社、スタートアップそれぞれにビジネス上のメリットが生まれ、新規事業の創出や課題のブレイクスルーによる「成長」が見込めることが要件となります。

例えば、新規出資型の場合には以下の3点が要件に定められています。

 ●事業会社(出資側)の既存事業の生産性向上や新規事業の創出につながること
 ●スタートアップ側の経営資源が事業会社に不足するものであり、かつ革新的であること
 ●事業会社がスタートアップ側に必要な協力を行い、成長に貢献すること

また、M&A型には売上高や研究開発費の増加率など、より具体的なKPIを定めた「成長要件」が設けられています。これらの要件をクリアできるかどうかは判断に迷う場面も出てくるため、本制度の申請にあたっては事前相談を行う必要があります。こちらは「申請の流れ」の項目で詳述します。

なぜオープンイノベーション“促進”なのか

大手企業とスタートアップ双方にメリット

社外から技術やアイデアを取り入れて事業に変革を生むオープンイノベーション。概念そのものは2003年に提唱されたものですが、ビジネス環境が急速かつ複雑に変化する中で、近年は特に重要視されています。また政府の「成長戦略ポータルサイト」によると、新型コロナウイルス感染症によって生じた産官学交流の停滞を打開し、急激に変化した社会に対応するためにもオープンイノベーションによる変革が必要だと謳われています。

かつては技術やノウハウの流出を防ぎ、利益を独占するため、自社内で研究開発を行うクローズドイノベーションが主流でした。しかし市場の変化が激しい「VUCA時代」と言われる現在においては、コストを抑えながら短期間でプロダクトを開発し続ける必要があります。このとき、大企業の豊富なリソースとスタートアップの斬新なアイデアをかけ合わせることで、人的・金銭的なコストを抑えながらもスピーディーな開発が可能となるのです。そして自社にはない革新的な技術やアイデアに触れることで、その知見が社内に蓄積され、その後のさらなるイノベーションにつながるという循環を生むきっかけにもなります。

なお、オープンイノベーションは、スタートアップにとっても事業をドライブさせるためのPoCや資金調達のチャンスとなるなど、大きなメリットがあります。

成功事例

実際にオープンイノベーションによって事業会社にメリットが生まれた事例をご紹介します。

◆ウェブサイト上でオンライン接客を実現

(スズキ×SELF)
自動車メーカーのスズキはAI開発スタートアップのSELFとの協業により、自社の四輪車のサイトに情報検索をサポートするAIを導入。もともとスズキには「車選びが初めての方にもわかりやすく案内したい」という課題がありました。そこで、ユーザー個別のニーズに応じた案内を可能にするコミュニケーションAIを開発しているSELFのノウハウを活用し、案内係のキャラクターがユーザーと会話しながら車選びをサポートするUIを実装しました。

◆小型ロボットで小売業DXの実証実験

(近鉄グループ×PLEN Robotics)
近鉄百貨店ではAIを用いた百貨店の未来像を創る実証実験イベント「ミライデパート」を開催。小型ロボット「PLEN Cube」を開発するPLEN Roboticsとコラボし、店内に体温測定や商品レコメンド、ゲームや自動注文などを体験できる接客ロボットを設置しました。

新規出資型の要件

対象企業と出資要件

新規出資型については、設立10年未満のスタートアップ(研究開発型は15年未満)への出資に対し、1件あたり12億5000万円までの所得控除が受けられます。年間の合計では、M&A型との合算で125億円までの控除が可能です。その他、細かい条件は以下の通りです。


※参照:経済産業省ホームページ「オープンイノベーション促進税制申請ガイドライン(C)」にもとづきPlug and Play Japan作成

2023年4月の改正ポイント

毎年、この税制は少しずつ改正が行われますが、直近の2023年4月に変更されたポイントをご紹介します。

●追加出資の対象を一部見直し

この税制では、既に株式を保有するスタートアップへの追加出資も一部対象となります。しかし、過去に本制度の適用を受けている場合、同じ出資先への追加出資は対象外となりました。ただし、その追加出資によって議決権の過半数を有することになる場合は対象となります。

●所得控除上限額の引き下げ

1件あたりの所得控除上限額が、改正によって12億5000万円に引き下げられました(昨年度までは25億円)。単年度あたりの上限額はM&A型と合わせて125億円で、こちらは昨年度から変更ありません。

そして、もうひとつの大きな改正が「M&A型」の新設です。こちらは次項で詳しく解説します。

新設されたM&A型

なぜM&A型が生まれたのか

2023年4月より、発行済み株式の過半数を取得する出資も新たに適用対象となりました。これが「M&A型」です。この改正が行われた背景には、M&Aによるイグジットを増やすことでスタートアップ・エコシステムを活性化させる狙いがあります。かねてから日本のスタートアップによるイグジットはIPOに偏る傾向がありました。これはイグジットに至るまでの期間の長期化や、IPO後の成長の難しさなど、さまざまな課題を生む要因となっています。

一方でM&Aには比較的短期間でのイグジットを可能にし、その後に起業家がエンジェル投資家やシリアルアントレプレナーとなる可能性も高くなる、というメリットがあります。出資する事業会社にも、短期間でのイノベーティブな事業開発を可能にし、将来的な成長エンジンを取り込めるという利点があります。

しかし日本では投資リスクやカルチャーフィットへの懸念からM&Aに消極的な風潮もあり、結果的にIPOが多数を占める状況が続いています。この状況を変えたいという政府の意図もあり、M&Aに対する優遇税制が生まれました。


出所:経済産業省「令和5年度(2023年度)経済産業関係 税制改正について」にもとづきPlug and Play Japan作成

対象企業と出資要件

出資対象となるスタートアップの要件は新規出資型と同じですが、海外法人は対象外となります。また、出資金額の上限と下限が異なるほか、5年以内に達成しないといけない「成長要件」が具体的に設定されています。


※参照:経済産業省ホームページ「オープンイノベーション促進税制申請ガイドラインM&A型」もとづきPlug and Play Japan作成


※参照:経済産業省ホームページ「オープンイノベーション促進税制(M&A型)の概要」にもとづきPlug and Play Japan作成

上記の成長要件に関しては、類型ごとに記載の要件をすべて満たす必要があります。ただし、最初の申請時に類型を選ぶ必要はなく、後に行う「成長発展証明申請」の際にどの類型を達成したか示すことができれば大丈夫です。

申請の流れ

ここからは具体的な申請の流れを紹介します。

<STEP 1>事前相談

申請を希望する企業はまず経済産業省に事前相談を行い、適用対象となるかどうかの回答を得る必要があります。事前相談は出資の前後どちらでもかまいません。事前相談を行うには、出資行為の詳細をまとめた「案件概要スライド」と「案件登録票」をgBizFORMで提出します。それぞれのフォーマットはこちらからダウンロードできます。

<STEP 2>本申請

事前相談の結果、要件をクリアすれば本申請を行います。本申請は該当する事業年度末の60日前から30日後までの期間に行います。本申請では事前相談で提出した書類に加え、取得した株式の詳細を記した別表の提出を求められます。また、出資先のスタートアップ側にも経済産業省から確認作業を行いますので、出資先もgBizFORMへの対応が必要です。本申請が完了すると経済産業省から証明書が交付されますので、それを確定申告書等に添付することで税制を受けることができます。

<STEP 3>継続証明申請

適用を受けた年度の翌年以降は、継続して株式を保有していることを確認するため、継続証明申請を行います。各年度末の60日前から30日後の間に、株式の保有状況を記載した別表を提出することで申請します。株式の売却など、取崩し事由に該当する行為を行った場合は、益金参入する必要があります。「オープンイノベーションを継続していない」と判断された場合も同様の措置となる可能性がありますので注意しましょう。

<STEP 4>成長発展証明申請(M&A型のみ)

先述の通り、M&A型には成長要件があります。5年以内に要件を達成した場合は、その証明を受けるための申請が必要です。申請は要件達成後に随時可能で、こちらも別表を提出する形になります。この申請時に、3つの類型のうちどれを適用するか決めることができます。

Plug and Play のオープンイノベーション支援

ここまでオープンイノベーション促進税制のメリットと活用方法について解説してきました。Plug and Playでは優秀なスタートアップとのオープンイノベーションを検討している大手企業向けに、さまざまな支援サービスを提供しています。業界テーマを超えたクロスマッチングや、新規事業創出のためのワークショップ、幅広い分野のスタートアップと出会えるピッチイベントの開催など、企業パートナーの課題に合わせ、伴走しながらサポートいたします

特に海外スタートアップとの協業をめざす大手企業の皆さまには、当社のグローバルネットワークを生かしたマッチング支援も可能です。本制度は外国法人への出資も所得控除の対象となるため、この機会にぜひ、海外スタートアップとの協業を検討してみましょう。ご興味のある方は、こちらよりお気軽にご相談ください。

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