SNS型投資アプリで、Z世代の金融リテラシーを高めるーWoodstock
2025/02/14
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令和6年より新NISAがスタートし、積極的に「貯蓄から投資へ」のシフトを推し進めている日本。しかし、日本の家計における現金・預金の保有比率は依然として高く、国民の多くがアクセスできる安価で売買可能な投資サービスや、金融教育を受けていない層が安心して投資できる環境を整備する必要性が考えられます。
そんな中、Woodstock株式会社(以下、Woodstock)では、個別銘柄からETF(上場投資信託)まで、200円から米国株を売買できる、SNS型投資アプリ『woodstock.club』を開発・運営。投資家やユーザー同士で情報交換ができるソーシャル機能や生成AIのサポート機能など、初心者も上級者も楽しめるサービスになっています。誰もが少額から資産形成ができることで豊かな社会の実現を目指すWoodstockに共感し、Plug and Playは2024年5月に出資をいたしました。
今回、Woodstock代表取締役/創業者であるブライアン・ユン氏に、同社が提供するサービスの特徴や事業立ち上げの背景、将来の展望などについて伺いました。
関口朗子
Writer
Haruka Ichikawa
Editor
プロフィール
Interviewee: ブライアン ユン氏
Woodstock株式会社 代表取締役/創業者
モルガン・スタンレーMUFG証券, バークレイズ証券などの金融機関において、取引システム開発エンジニア及びアルゴリズム・トレーダーとして約10年間勤務。
その後Twitterにて約3年間、デジタルマーケティング・経営戦略・ファイナンス業務に従事し、事業の急成長に貢献。2019年より米国最大手の暗号資産取引所Coinbaseにてアジア地域のディレクターを務め、日本市場の立ち上げに従事。2021年Woodstock株式会社共同創業。
Interviewer: Shin Ota
Plug and Play Japan株式会社
南メソジスト大学にて経済学士号取得後、同大学にて経営学の修士課程を修了。外資系証券会社の資産運用部、日系証券会社の投資銀行を経て、2022年よりPlug and Play Japan Ventureに参画。主な関心領域はFintech、Insurtech、Smart Cities等。
起業の背景:日本の金融リテラシーを向上したい
——他の国ではなく日本で起業した背景について教えてください。
私は日本で18年ほど生活し、金融業界やテック業界でキャリアを積んできました。
ルーツは韓国にあり、現在はカナダ国籍ですが、大学4年生のインターンシップをきっかけに日本の金融機関で働くことになりました。
機関投資家向けのトレーダーとして働いてみて、日本の株式市場における取引の大半が海外の機関投資家によるものであることや、日本の個人投資家の取引量が非常に少ないという課題に触れました。バブル崩壊の経験や、あまりインフレが起きないといった時代背景も影響していると思いますが、他国と比べると日本の金融リテラシーが圧倒的に低いことも要因だと考えました。「タンス貯金」に見られるような資産運用に関する姿勢を変えていきたい、解決していきたいという思いが芽生え、日本での起業を決意しました。
Twitter(現X)で働いていた時に、日本人はソーシャルメディアを日常生活で活発に利用していることを実感し、これを活用するアイデアが浮かんだのです。さらにCoinbaseなど個人投資に関連するリテール業界でのビジネス経験を掛け合わせて、ソーシャルメディアを活用したSNS型投資アプリ「woodstock.club」を開発しました。
匿名発信で初心者も学びやすいSNS型投資
——海外と日本の違いで感じられることはありますか?
アメリカでは金融リテラシーも関心度も高いので、友人と株の話をすることがよくありますが、日本ではなかなか話題に上がらないですよね。
ユーザーインタビューでは、「他の人にどう見られるか怖いからお金の話はしない」という声があり、投資について話すことの難しさや社会的なハードルの高さを実感しました。
他国では本名で使うケースが多い一方、日本では複数のアイデンティティを選びながら発信するスタイルが特徴的です。Twitter(現X)での経験からも、日本では匿名化された発信に対しては前向きであることが分かりました。
そのため、Woodstockでは匿名で自由に発信できる仕組みにしており、実際にユーザーの多くが匿名かニックネームで利用しています。まずは、「投資について話したくも話せない」という課題をソーシャルの力で解決する必要があると考えています。
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Z世代の学びたい意欲に応える
——どのような方がwoodstock.clubを利用していますか?
若い世代から市場を変えていくという戦略でこのビジネスを始めましたが、今まさに18歳から25歳のZ世代を中心に利用者が増えており、それが本当に嬉しいですね。
Z世代は「若い時に株式投資で少し損をしても、金融リテラシーが上がるのであれば損ではない」と考えている世代です。NISAも良い選択肢ですが、放置しておけるほどの資産を持っていない方も多く、それよりは少額投資を通してまず金融知識をつけたいという気持ちで使ってくださっているユーザーが圧倒的に多いと感じます。口座開設済ユーザーの内訳は48%が29歳以下、71%が投資経験1年未満の初心者となっています。
将来的には、年齢的にも、金融知識や資産の面でも、今のZ世代が次のライフステージに進んだ段階で利用できるような、長期投資家向けのプロダクトも開発していきたいです。
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——事業を進めてきた中で、日本のZ世代の資産運用に対する考えには、どのような変化が起きていると感じますか?
2024年1月に新NISAが始まったことで、woodstock.clubでも一気に口座開設数が伸びました。最初は「よくわからないけれど、みんながやっているから自分もやらなきゃ」という感覚で始めた方が多くいましたが、そこから「きちんと学んで本格的にやりたい」という意識に変わっていったと感じています。
NISAは非課税とはいえ、損をする可能性もあります。やはり知識がないままだと不安で怖いと考える人が多いのではないでしょうか。特に最近は、円安や日経株の変動などといったさまざまな出来事が重なり、金融知識が低いままではいけないと感じた方が増えたのではないかと思います。
Woodstockの大きな特徴のひとつは、コミュニティの存在によって情報伝達が非常に早い点です。誰がどの株を買ったり売ったりしているかが瞬時に分かるため、それを自分の判断材料にすることができます。他のソーシャルメディアや掲示板でも情報を得ることはできますが、情報発信者の立場や信頼性に対する不安がありますよね。
woodstock.clubでは実際の取引データに基づく情報を確認できるため、情報の信頼度が圧倒的に高いと考えています。
それほど大きなリスクを負わずに学べる若いうちに、しっかりと知識を身につけておくことが大事です。そういう意味でも、私たちが提供しているサービスには正当性があり、社会的な意義があると自負しています。
今後の展望:金融商品のセレクトショップへ
——今後のマイルストーンについて教えてください。
現在、Woodstockでは米国株やETFを中心に扱っていますが、今後は日本株や若い世代にマッチするオルタナティブ・アセットを組み合わせた金融サービスの提供を目指しています。目標は、Woodstockにアクセスするだけで気になる金融商品が小口から購入できるせセレクトショップのような存在になることです。
現段階では、主にZ世代をターゲットにしたビジネスを展開していますが、今後はターゲットを少し広げ、もう少し上の世代やZ世代のその後に繋がるようなサービス開発を進める予定です。例えば、長期投資向けのおまかせプランなどを検討してます。
Woodstockには「Woodstock Index」という仕組みがあります。これはユーザーが保有する株式のトップ30銘柄で構成された指標で、これまで非常に高いパフォーマンスを示してきました。一般的に長期投資ではオルカン(全世界株式)やS&P500などへの投資が主流ですが、現状ではどの金融サービスも大きな差別化ができていないのが課題です。そのため、若いユーザー層の取引や傾向に基づいて商品を開発し、長期投資でも差別化を図りたいと考えています。
——今回、Plug and Play Japanからの投資を受け入れた決め手と、今後の期待について教えてください。
将来的に私たちも海外展開を視野に入れています。
国を超えてシームレスなコミュニケーションができるようになった今、グローバルに展開し、素晴らしいネットワークを持っているPlug and Playの力をぜひお借りしたいと考えたことがきっかけです。特に、若い世代が増えているエリアでは大きなチャンスがあると考えています。そのため、今後はPlug and Playのネットワークを活用してマーケットリサーチや新たな市場への進出の足がかりを作りたいと考えています。