無駄になる企画案はない。企画立案〜PoCをスムーズに進めるために気をつけるべき10のこと
2021/11/15
予測不可能な現代において業界変化に適応しながら持続的な企業成長を目指し、スタートアップとの協業や新規事業創出に取り組む企業が増加しています。一方、新規ビジネスの”アイデアの種”を探し、実証実験(PoC:Proof of Concept)までたどり着いたとしても、その後のスタートアップ共創が進まないなどの課題を抱えている企業は多く見受けられます。
今回、アビームコンサルティングにて業界横断的に新規事業創出やスタートアップ×大手企業の共創支援などに取り組まれ、Plug and Play Japanのメンターとしても活動している吉田知広氏に、企画立案の方法やPoCをスムーズに進めるノウハウについて伺いました。(前回のインタビューはこちら)
吉田知広(Kazuhiro Yoshida)
アビームコンサルティング株式会社 NewTechアドバイザー(新規事業開発・共創領域担当)
大手信託銀行(金融教育・FinTech活用等の新サービス企画・開発の経験等)を経て、2018年から現職。 ①スタートアップ企業との実証実験、②新たなテクノロジーの活用による新規サービス・事業創出、③大企業同士の共創支援、④自社アイデア創出による新規事業提案等、新規事業開発・共創企画に従事(プロジェクト/アドバイザー経験多数)
自分ごと化し、あらゆる角度から物事を捉えた先に”アイデアの種”が見つかる
ーー吉田さんはどのように企画アイデアを作っているのでしょうか。
“アイデアの種”、いわゆる0→1を作り出すことは本当に難しい作業ですが、私は些細なことでも気付いた事はこまめにノートに書き溜めています。スタートアップのメンタリング中にも、色々な気付きを得られ、「彼らとならこんな事ができるかな」などアイデアを膨らませることや、日頃生活する中でも「これが20〜30年後に流行るのではないか」「こういう事をやったら便利なのではないか」など、よく外を歩きながら考えています。コロナ禍で外に出る機会が減ったこともあり、アイデアを発散させていく過程で家にばかりいると感覚が研ぎ澄まされなくなります。
そのため外を歩き回る、世の中の変化を感じる、直接人とあって話す、イベント参加によるネットワーク拡充など外部環境から刺激を受けつつ、ユーザーやサービス提供側の立場から物事を考えるなど、1つの事象を多角的な視点で考え思考を深めています。
“一人アイデアソン”みたいなことも時間を見つけて実施しています。例えば、「空飛ぶ車」というキーワードで考えた時に、「交通網はどうなるのだろうか」「信号のルールは変わるのだろうか」「自分が今感じている疑問を既に実証し始めている人はいるのだろうか」など、1つのテーマから数珠つなぎのように考えると面白いかと思います。
ーー企画を作り出していく中で、留意すべきことはありますか。
アイデアを発散させることは重要ですが、やはり実現性は考えなければなりません。
企画内容と類似のサービスや競合相手はいるのか、競合相手と協力関係を結ぶことで高い成果が望めるのか、もしくは勝負して市場シェアを取りにいくのかなどの戦略立ても必要です。仮に市場調査の結果、参入が見込めそうであれば、顧客ターゲティングや事業構造の設計、戦略立案などを考え、企画の精度をあげていきます。もし検討した企画案が自社で実現が難しい場合、スタートアップと協業の可能性を探ってみるなど外部の力を頼ったり、企画を一旦引き出しに閉まっておき頃合いを見て再検討してみるなど、優先順位をつけて、1つずつ着実に行動に移していけば良いと思います。
(アビームコンサルティングによる「アイディアの”種”発掘」と「ビジネス案作成」における課題と解決策に焦点をあてたインサイト記事は以下よりご覧いただけます。)
前編:「スタートアップとの真の「共創」を実現するために ~出会いからPoCに至るまで~」
後編:「スタートアップとの真の「共創」を実現するために ~出会いからPoCに至るまで~」
ーー企画立案の際に自社で抱える課題を起点に考えられる方もいるかと思います。一方、課題定義に困っている方々向けにアドバイスはありますか。
企画アイデアを出す際にも活かせることですが、自分事に置き換えてみるとスムーズに検討が進むことがあります。BtoCサービスだとエンドユーザーのイメージがつきやすいですし、BtoBであってもサービス提供先企業のさらに先に存在する顧客までイメージし、自分がお客様になったつもりであらゆる角度から考察してみます。
自分の中に閉じ籠ってしまうと最適解が見つからないことも多く、良いアイデアにも出会えません。突然の人事異動でイノベーション推進担当を担うことになり、右も左も分からなかったとしても、まず第一歩として外部とのコミュニケーションを増やしていくことで自社を客観的に見ることができ、課題が浮き上がってくることもあります。社外の人に自分の会社がどう見えているのか聞いてみるのも気づきの手となります。
ーー吉田さんはアイデアを現実的な段階まで落とし込むまでに、どのくらい時間をかけているのでしょうか。
ケースバイケースですね。数週間で練り上げ形作ることもありますが、2〜3年前に考えたアイデアを温め続けている企画もあります。不思議なもので寝かせていたアイデアは、いつかどこかで花開く時が来るものです。仮に周りの賛同を得られなかったとしても、決して諦めることなくアイデアを温存し、時代やニーズに合わせてアレンジし続けることが大切です。
もちろん組織に属している以上、早々に結果を問われる状況もあるかと思いますが、何でも話せる環境作りがキーポイントとなります。例えば、最初の創案に対してオープンディスカッションする機会を設け、現在考えている企画案に対して多方面から意見を募りやすい場とすることなど、日頃からよく話せる環境を作ることも1つの方法です。このような場では、参加する側として重要なことは、アイディエーションの段階で否定しないことです。決して言ってはいけない言葉は「これって意味あるの?」です。何が正解になるかなんて、そう簡単に分からないですからね。
ーー実行フェーズに入る場合、賛同者が必要になってくるかと思います。共創に必要な”仲間集め”はどのようにすれば良いのでしょうか。
頼まれごとを聞く、少し無理をしても相手が困っている時に助けるなど、相手に真摯に向き合うことで徐々に自分との信頼関係が生まれ、ゆくゆくは自分を助ける財産になります。
私が常々「ご縁」と言うのは、そういうところなのです。自分一人では何も解決できませんし、サービスを作ることもできません。それぞれの出逢いから得られることは非常に多く、「◯◯さんに聞けば何かヒントをもらえるかも」と思ってもらえる関係になると信頼関係が強固になります。またスタートアップ協業などの素案を話して、あまり反応を得られない時はユースケースイメージなど、情報を付加して説明すると相手も理解しやすくなります。スタートアップについて得られる情報源は企業HPや資料に記載されている内容など汎用的な情報となることが多く、彼らの熱い思いやビジョン、テクノロジーの先進性に気付けず共感しづらいことがあります。その”温度感”を伝えるために情報を一度調理してから説明することで周りの反応を得られやすくなります。それでも相手が動かないのであれば、本当に興味がないというバロメーターにもなるでしょう。
スタートアップの技術検証に注力し、PoC以降の戦略が考え抜かれていない
ーー具体的にPoCに移っていく際のノウハウについて伺っていきたいと思います。まず、PoCの意義や目的は何でしょうか?
大手企業側はスタートアップが提供するサービス・製品と自社企画との親和性や、サービス・製品自体の信憑性の確認など、本格的な協業前に検証すべき項目がいくつか存在するため、PoCは協業可能性の有無を見極める目的があります。
一方スタートアップ側は、大手企業との協業実績を得られるのに加え、自社の技術を大手企業のサービス・製品にアジャストする場合、PoCを通じて現実的に使用可能性がある領域を確認する目的もあります。実運用に移っていく段階では、より大きなシステムに入れ込めるのか、エラーが起きた場合に24時間対応できる体制を整えられるかなど、大手企業のルールに合わせ細かく検証していくことが必要です
ーーPoCを進めていくうえで気をつけるべき点はありますか。
よくある課題としてPoC以降の戦略を考え抜かれていない点があげられます。
大手企業側はスタートアップが有する技術のエビデンス確認に注力してしまうあまり、PoCで得られた結果をもとに、自社サービス・製品にどのように反映していくのか、もしくは新事業としてどのように打ち出していくかなどの戦略が見えておらず、PoC以降のネクストステップに進むまでに半年以上の時間を要する企業もあります。このような状況を踏まえたうえで、スタートアップとの協業ではPoC後のステップイメージを早めに検討し、共有していくことが大事だと考えています。双方が共通認識を持てると、スタートアップ側も状況に応じた体制づくりやスコープ調整が可能になると思います。例えば、PoCを段階に分けて実施することもありますが、その際も方向性や流れにおいて認識齟齬が起きないように、スタートアップ側と丁寧にコミュニケーションを取っていくことが重要です。
まずは小さくPoCをスタートするためにチーム内だけ、もしくはある一定規模の従業員を対象に実証することも可能です。PoCの目的やスコープとする目標値の設定など、実証実験の内容をしっかり決めていかなければなりません。
ーーPoCの目標設定はどのように行えば良いのでしょうか。
本来PoCをスタートする段階で、スタートアップの技術やサービスを使った新たなソリューション案のイメージが持てれば良いのですが、それが難しい場合はスタートアップとの共創を通じて何を生み出せるのかを考えるアイディエーションのフェーズとして位置づけることも良いと考えています。
PoCを通して良い協業アイデアが生まれない場合は、一旦中断する判断もできるかと思います。しかし、”PoCが上手くいかなかった=ミス”と捉えて打ち切りにするのではなく、他部署で別のアプローチで継続するなど選択肢は広く持っておくことが自社へのメリットにもなりますし、スタートアップに対しても友好的となります。
ーー成果を出しやすいスタートアップの傾向はあるのでしょうか。
幅広く引き出しを持っていて企画力や創造力のある方は、PoCをうまく進めやすいように思います。大手企業側の話を聞きながら「こんな進め方はどうですか?」「こんなスキームはどうでしょう?」など、柔軟にあらゆる角度から提案し、円滑にコミュニケーションができる方々はスムーズに話が進んでいます。
アイデア探索のフェーズであれば、PoCではなく打ち合わせでの解決を考える大手企業の担当者もいますが、スタートアップは打ち合わせに半年以上も要している余裕はないため、PoCという場を使って新規事業案となる種を探すと共に、大手企業側として案件の進退の判断軸を決めておくことも求められます。
ーーPoCを経て本格的な協業が視野に見えてきた際に踏むべきステップはあるのでしょうか。
実際に新サービスや事業、本格導入が視野に入ってきたら、次のフェーズはそのサービス・事業の原案を考え、プロダクト・サービスローンチへと移行していきます。
しかし具現化する過程では、大手企業では踏むべき社内手続きが多数存在し、慎重性も求められます。社内承認や関係部署との調整後にやっと開発へ入ることができても、製品・サービステスト、プレマーケティング、マーケティングを経てのローンチとなることもあり、この全ての工程をクリアするためには”推進力”だけではなく”忍耐力”も必要です。またお互いの期待値が高くなりすぎると、このようなプロセスの複雑さから双方のギャップが埋まりにくいことも良くあると聞きます。最近、在学中や大学卒業後すぐに起業する人も増えているため、大手企業なりの進め方や時間軸が分からないスタートアップもある程度おり、期待値ギャップからくるミスコミュニケーションが起こりやすくなっているように思います。このような背景から、スタートアップは大手企業から短期間で期待しているような解答を得難いということ、そして案件が意図したスピードで進まないことを念頭にプランニングするべきでしょう。
企画立案〜PoCにおける10のTakeaway
- ①1つのテーマや事象に対して、ユーザー視点やサービス提供側の視点など、多角的な視点で思考を深め、アイデアを発散させていく。
- ②些細なことでも気付いた事はこまめにノートに書き溜めていく。
- ③外部とのコミュニケーション量を増やすことで、自社を客観視でき自然と課題が浮かび上がって見えてくる。
- ④企画案が現実性に乏しい場合、一度企画を寝かせてみる。寝かせていたアイデアはいつかどこかで花開くことを信じる。
- ⑤周りの賛同がなかなか得られない時は、スタートアップと協業した場合のユースケースイメージなど、情報を付加したうえで説明することで相手も自分ごと化しやすくなる。
- ⑥PoC後の戦略を描いたうえでPoCを計画・実行していくことが重要。
- ⑦PoC後の検討・開発の進め方についてスタートアップとイメージを共有することが大事。
- ⑧PoCを小さくスタートするためにチーム内や、ある一定規模の従業員を対象に実証することも可能。
- ⑨”PoCが上手くいかなかった=ミス”と捉えて打ち切りにするのではなく、他部署で別のアプローチで継続するなど選択肢は広く持っておく。
- ⑩ 事業化フェーズに入っていく場合も、大手企業には社内手続きが多数存在する。スタートアップは案件が意図したスピードで進まないことを念頭にプランニングすべき。