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Startup School #6 | 事業アイデアの見つけ方

2021/11/11


Zak Murase

Executive Advisor, Plug and Play Japan


前回のブログで「起業家に向いていない人はいない」という話をしました。そうは言っても実際にどんな事業をやればいいのかわからない人もいるでしょう。あるいは既に「自分はこれがやりたい」というのを持っている人でも、それを実際に事業として成功させられるか自信が持てない人もいるかと思います。

今回はどのように事業アイデアを見つけたらいいのか、あるいは既に持っているアイデアを事業化させるにあたって考えるべきことについて、投資家の視点から書いてみようと思います。

パッションを追求する

「自分が好きなことをやろう」「パッションを追求しよう」というのはよく聞くアドバイスかもしれません。でもこのアドバイスは半分正しくて、半分間違っています。

まずなぜ正しいのかというと、スタートアップをやっていくのは本当に大変なことだからです。きっとあなたが想像することもできないような困難にぶち当たります。しかも何回も。そんな時にどうやってその困難を乗り越えるのか?それはあなたが本当にやりたいことだから、どんな困難も乗り越えられるだけのエネルギーをあなたが持っているからです。投資家が創業してから間もないスタートアップを見るとき、まだプロダクトもない段階では起業家としての人物、そしてその人がどれくらい本気でそこに情熱を傾けているのか、が最も重要な判断材料の一つになります。スタートアップが死ぬ時は、資金が尽きた時でも競合に負けた時でもありません。起業家が諦めた時、それがスタートアップが死ぬ時です。なので「この人ならどんな困難があってもきっと乗り越えてやってくれるに違いない」と思える起業家なら、成功の確率も高くなると考えるのです。

ではなぜ半分間違っているのか?それは事業のアイデアが間違った方向に行ってしまった時に、強すぎるパッションがあると方向転換が効かなくなりがちだからです。前回のブログにも書きましたが、事業として成功するにはあなたが提供するプロダクトに対して、顧客が価値を感じてお金を払ってくれることが必要です。あなた自身がそのプロダクトがどれほど好きで、価値を感じているかは関係ありません。成功している起業家は必ずしも自分のパッションを追求して成功した人たちだけではありません。事業アイデアやプロダクトに対してパッションを持っているわけではなくても、事業を成功させるそのものに対して、ものすごい熱量を持っている人たちだったりします。そういう起業家たちは、何が顧客に対しての価値なのか、そしてそれをいかにスケールさせることができるか、に真剣に向き合うので自分が好きなものに対するこだわりに邪魔されることなく、アイデアが間違っていると判断すれば即座にピボットして事業の成功確率が高い方向に進めるのです。

もちろん自分が全くパッションを持っていないようなことを事業にするのはナンセンスですが、パッションを追求するにしても常に顧客視線でビジネスを考えられるかどうかが大事です。

タイムマシンモデルは有効

タイムマシンモデルというのは、他の地域でうまくいった事業の成功事例を真似ることです。筆者はソニーに19年勤めていましたが、ソニーは「人の真似をしない」というカルチャーが強く、他でうまくいっているからといってそれを真似てプロダクトを作ることを嫌う傾向がありました。オリジナルなものにこそ価値があると。もちろんそれはそれで一理あります。ユニークなプロダクトを出し続けるからこそ消費者に支持されるブランドが作られるわけです。

しかしスタートアップのように限られた時間とリソースの中で事業を成功させようとする時、成功事例を真似ることはものすごく理にかなっているのです。大抵の場合、先行事例はいくつかの試行錯誤を経て成功に辿り着いているわけですが、その試行錯誤の時間と手間をかなり省いてくれます。もちろん全く同じことをすれば成功するわけではありませんが、事例をちょっと研究するだけで、かなりの部分で何がうまくいって何がうまくいかなかったのかがわかります。

シリコンバレーや中国など海外で急成長して成功を収めたスタートアップの事例を研究してみてください。そのスタートアップがいつ始まったのか、成功を収めたと言えるまでにどれくらい時間がかかったのか、そしてそのスタートアップは日本にも進出してきたのか、あるいは同様のことをやるスタートアップが日本にも出現しているのか。

最近は日本でもスタートアップが増えてきたこともあり、海外での成功事例が日本に来るまでのタイムラグは縮まってきているように思いますが、それでも業態によっては数年から5年以上も遅れることはあります。さらには海外で成功したスタートアップが日本に進出してきてからでも遅くないケースもあります。特にプロダクトがその地域の市場に特化された形で最適化されていればいるほど、日本の市場特有の事情に適応しにくくなっているケースもあります。そのためアイデアはもらいつつも、最初から日本市場に最適化された形でプロダクトを作ってしまえば、本家よりも早く成長することだって可能です。もし国内で同じようなスタートアップが既にあって、かなりの勢いで成長してしまっているのであれば遅いかもしれませんが、アイデアに拘らなければ他にも自分が良いと思えるものを探すことはできるでしょう。

今や海外のスタートアップの情報はリアルタイムで溢れています。特に最近はメルマガやポッドキャストなどメディアも多様化してきているので、できるだけ英語の一次情報に触れてトレンドを把握しましょう。日本の投資家も海外の情報は見ています。海外で急成長していてまだ日本にはない事業を始めることができれば、資金も集めやすくなります。「二番煎じ」や「猿真似」といったネガティブな言葉が使われがちなタイムマシンモデルですが、ことスタートアップに限ってみれば良いことばかりです。

あなたしか知らないこと

サラリーマンをやっていても身の回りにスタートアップのアイデアはあるかもしれません。もしあなたが今やっている仕事が非常に特殊な、あるいは閉鎖的な領域で、そこに特有の商習慣や過去のしがらみなどで非効率なことになっているのを身を持って体験している立場にあるのなら、それは非常に大きなビジネスチャンスです。誰にでも見える問題であればそれだけ解決しようとする人もたくさんいますが、その問題があまり知られていないものなのであれば、それをよく知っている立場にいるあなたは非常に有利な立場にあることになります。その問題が解決困難であればあるほど、またあなたが問題の根幹を深く理解していればいるほど有利です。

投資家が起業家によくする質問の一つに「What is your secret sauce?」というのがあります。すなわち、あなたしか知らない隠された秘密は何なのかが知りたいのです。目の前にあなたにしか解決できない問題がある、そしてそこに大きな市場があるのであれば投資家は飛びついてきます。

なぜ今なのか?

スタートアップは タイミングが重要です。どんなにいいアイデアでも、タイミングが早すぎたり遅すぎたりすればうまくいきません。タイミングが遅すぎるのはちょっと市場や競合を調べればわかることが多いですが、タイミングが早すぎるかどうかは経験豊富な投資家でも見極めるのは困難です。投資家と話をするとほぼ間違いなく「なぜ今なのか」という質問はされるので、少なくともこの質問に答えられる準備はしておきましょう。

「なぜ今か」というのはテクノロジーの変化点であったり、何かが一定数以上普及したタイミングであったり、あるいは法律や規制が変わるなどのきっかけがあったり、さまざまな理由がありえます。ただ、もしあなたがこの質問に対して明確な答えを用意できないのであれば、一度アイデアそのものを考え直してみるのもいいかもしれません。あなたが今持っているアイデアが、なぜ過去に実現されることがなかったのか、あるいは今から数年以内に何が起こればそのアイデアが現実的になるのか、その仮説はどうすれば検証可能なのか、こうした問いに答えられるようになることで事業の進むべき方向が定まります。仮にうまくいかなった時にもどんな仮説が間違っていたのかがわかるので、方向転換もしやすくなるでしょう。

最後に

最後に、アイデアそのものには価値はないとよく言われるのはその通りだと思います。スタートアップはアイデアコンテストではありません。事業の成否を左右するのはアイデアの良し悪しよりも、それを形にする行動力です。逆に言えば、行動力さえあればアイデアはどんなものでもいいのです。起業した時のアイデアがそのまま大きな成功につながったケースというのは、実はそれほど多くはありません。多かれ少なかれ、成功したビジネスは試行錯誤を重ねながらビジネスの形態を変えていっているのです。大事なのは始めること、そして走り続けることです。

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