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スタートアップと大手企業が取り組む地方創生とは?

2024/03/06

社会資本、資源、経済活動が首都圏へ一極集中する中、コロナの影響により一部の地方では人口増加が見られる一方、依然として多くの地方では人口減少に歯止めがかからず、経済成長鈍化、超高齢化といった問題が加速しています。そこで、地方経済・産業の活性化を図るアプローチとして近年期待されているのが、大手企業とスタートアップ間での地方における協業です。この記事では、大手企業が地方創生に携わる意義と課題、そして地方で実施されたスタートアップと大手企業の協業事例についてご紹介します。


Haruhito Suzuki

Marketing & Communications Intern


[目次]

  1. 地方創生とは何か?
  2. 地方創生の施策
  3. 大手企業がなぜ地方創生に関わるべきか
  4. 企業による地方創生の課題
  5. 大手企業とスタートアップの連携による地方創生事例

地方創生とは何か?

2014年に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生法」が地方創生政策の基礎となっており、内閣府を中心に関係各省庁、自治体、企業が一体となった地方における人口減少・高齢化対策と経済活性化への取り組みを指しています。2020年からは「まち・ひと・しごと創生総合戦略」へと改変され、さまざまな施策が実施されており、以下の4つの基本目標が設定されています。

  1. 稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする
  2. 地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる
  3. 結婚・出産・子育ての希望をかなえる
  4. ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる

同時に、横断目標として以下の2つも掲げられています。

  1.  多様な人材の活躍を推進する
  2. 新しい時代の流れを力にする

地方が抱える社会課題を克服する上で、各地方が持つ特徴を活かした自律・持続的な社会の創生と、それに伴う日本全体の成長力確保や活力の維持が重要視されています。

地方創生の施策

政策面においては、人口減少、高齢化、地方社会・経済基盤弱体化の歯止めを主軸とすると同時に、ジェンダーバリア是正、平等な労働環境の促進、Society 5.0の社会実装を含む地方におけるデジタル化、新規技術による地方課題の解決・改善なども目標としています。

「まち・ひと・しごと創生基本方針 2021」では、都市部から地方への人の流れを創出する「ヒューマン」領域とともに、地方における経済・社会基盤のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進を掲げる「デジタル」と、再生可能エネルギーの普及・脱炭素化を主眼とする「グリーン」を地方創生実現において必須となるアプローチであるとしています。

これらのアプローチを通じた持続可能な地域社会・経済の新興こそが、地方創生の最終的な達成目標であると考察できます。

大手企業がなぜ地方創生に関わるべきか

地方創生は政府・内閣府を中核とする関係各省庁と地方自治体が主体である一方、民間セクターの積極的関与も必要不可欠な要素となります。特に、資本、技術力、マンパワーを持つ大手企業による地方関連事業の推進は、地方のDX・GX化、そして人材活用による地方産業の活性化という面で大きな役割を担っていると言えるでしょう。ヒト(労働人口)、モノ(インフラ・産業基盤)、カネ(企業資本等)の循環を促す上でも、民間企業の貢献が地方創生が掲げる目標を達成する上で大きなファクターとなります。

また、企業側にも地方創生に関与するうえで、以下のようなメリットを享受できると考えられます。

  1. 投資家・顧客に対するコーポレートブランドイメージの向上
  2. 社員の業務形態の多様化と社会貢献事業に関わっているという意識づけによる働きがいの向上
  3. 大規模災害・トラブル・障害発生時における第二拠点の確保と事業継続計画(BCP)の実施円滑化
  4. DX・GX事業推進による新たなビジネスチャンスの創出と新技術の社会実装・実証の実施
  5. 地方に存在する人的・天然資源と各地域特有の地場産業基盤の活用による新規事業とビジネスの発掘

このように、民間側にも事業、コーポレートブランド、ビジネスチャンス、そして新規技術の実装・実験といった面で大きな実利を得ることが期待できます。

首都圏一極集中による地方経済の相対的な沈下とそれに伴う少子高齢化・人口減は、日本企業の国際的な競争力を将来的に減退させかねない問題と捉えることができます。このような長期的な経済・事業的不利益をリスクヘッジする手段としても、地方創生への積極的関与は大手企業を始めとする民間セクターの理に叶う施策であると考えられます。

企業による地方創生の課題

上述のように、民間企業が地方創生に関与するメリットは多くありますが、以下のような課題も挙げられます。

1. 長期的な戦略視点の欠如

人口流出抑止・高齢化鈍化を目的としている地方創生では、必然的に長期的な戦略ビジョンと事業継続が求められます、一方、企業側は短期間で具体的な成果を望むインセンティブが大きく、企業側のニーズと地方事業のギャップが生じる可能性があるでしょう。

2. 各地方特有の社会・経済・環境ニーズの把握不足

各地方においてはその地理・環境や人的・天然資源、そして社会・経済基盤などの条件が異なるため、各地域のニーズと条件に合わせた個別的・具体的な事業計画の策定・実施が求められます。しかし、これら地域ごとに異なる条件と地元のニーズを把握する上で人的・時間的コストが生じる可能性、あるいはそれらを正確に把握できないリスクなどが懸念されます。

大手企業とスタートアップの連携による地方創生事例

大手企業による地方創生と課題克服の上で注目すべき要素が「スタートアップとの協業・協力」でしょう。地方のニーズ把握、地場企業と大手企業のマッチング、広範な社会レベルにおける新規技術の社会実装・実証を実施するうえで、独自のビジネスモデル、高度な技術力、そしてすぐれたアイデア・課題解決能力を持つスタートアップは大きな役割を果たすことが期待されます。

以下では、Plug and Playのアクセラレータープログラムで過去に採択されたスタートアップと、大手企業の間で行われた地方創生の取り組み事例を紹介します。

株式会社おてつたび × ANAあきんど株式会社

ANA航空セールス事業以外に地方創生事業も手掛けるANAあきんど株式会社と、人手不足に悩む地方の宿泊施設・農業施設等での労働を「お手伝い」という形で利用者が無料宿泊・報酬をうけながら行うことができる、ユニークなトラベル・マッチングプラットフォームを展開する株式会社おてつたび の協業事例です。

2023年2月22〜25日の間に実施された大分県宇佐市でのトライアルでは、おてつたび利用者に対して、ANAあきんどが「ANAトラベラーズダイナミックパッケージ(航空券+宿泊)」の2万円割引クーポンを配布し、さらなる「お手伝い」を促進する実証実験を実施しました。これらの取り組みを通じて、都市部からの観光・労働支援人流増加を促すと同時に、地方の魅力に触れ、地方の新たな「ファン」創出を目指しています。

株式会社Laspy × 第一生命保険株式会社

第一生命保険株式会社と防災用備蓄サービスを展開する株式会社Laspyの間で行われた協業事例では、第一生命グループが保有・運用・管理する5つの物件にてLaspyが提供する「あんしんストック co-operation」が導入されました。

2023年5〜6月に実施された同協業事例は、札幌市における地域防災力の向上と、安心・安全なオフィス・生活環境の提供を通じた地域住民のウェルビーイング向上を主眼としています。SDGs目標 11「住み続けるまちづくりを」とも合致するLaspyと第一生命保険の協業は、社会課題である地域の防災力・レジリエンスの改善を可能とすると同時に、地方における持続可能社会の実現を促進する取り組みであるでしょう。

株式会社AgeWellJapan × 仙台市 × 株式会社NTTドコモ × NTTコミュニケーションズ株式会社

シニア世代のウェルビーイングを実現する孫世代サポーターによるお手伝いサービス、「もっとメイト」を運営するAgeWellJapan。宮城県仙台市太白区八木山エリアにおいて、同社と仙台市、株式会社NTTドコモ、NTTコミュニケーションズは高齢者支援支援・サポートサービスの協業をおこなっています。

自治体、大手企業、スタートアップの3者間にて実施された実証実験は、AgeWellJapanが提供するウェルビーイングサービスを活用して、実施エリアにおけるシニア世代の孫世代にあたる若年層サポーターによる支援(趣味の相手、外出手伝い、料理補助、掃除、電子機器操作支援)を検証する協業事例となります。地方にて加速する高齢化問題の軽減、そしてシニア世代が住みやすい、かつ若年層と協力して暮らすことのできる持続的な地域創出を可能とする実証実験として期待されます。

株式会社アクアビットスパイラルズ × KDDI株式会社

スマホをかざすだけで、WebやSNS、地図など情報を開くICチップ内蔵デバイスである「スマートプレート」の社会実装を進める株式会社アクアビットスパイラルズとKDDI株式会社による地域公共交通でのキャッシュレス・デジタル化を促進する協業事例

2022年11月16日から2023年2月15日まで徳島交通のバスにて実施された実証実験では「スマートプレート」とKDDIスマートフォンデバイスからのリアルタイム位置情報を用いた乗り換え対応のスマホタッチ型キャッシュレス決済システムの実用化について検証しました。同事例は地方公共交通機関のデジタル化・業務効率化促進を可能とさせると同時に、地域住民・インバウンド利用者の利便性向上にも繋がり、MaaS (Mobility as a Service)を通じた地方創生加速に寄与するでしょう。

ライフログテクノロジー株式会社 × 東日本旅客鉄道株式会社

食事・運動・体重管理アプリケーション、「カロミル」を提供するライフログテクノロジー株式会社と、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)が埼玉県熊谷市、熊谷駅で実施しているシニア世代の健康維持・促進支援「すこやかライフ応援ステーション」の協業事例です。

2022年11月3〜26日にて実施された実証実験では熊谷駅を利用するシニア世代に対してカロミル健康管理アプリの使い方レクチャー・講座を提供し、健康・栄養管理の促進と講座開催に伴う行動変容の影響などについて検証しています。カロミルの提供によるシニア世代の健康促進と利用者の存在から健康維持活動支援拠点となり得る駅の活用は、「駅 x 健康」という新たなアプローチを通じた持続的な地方社会の実現と高齢化社会におけるシニア世代のウェルビーイング向上を促すことが期待されます。

大手企業とスタートアップが協力して進める地方創生ビジネス

日本経済復活の鍵とも言える地方創生ですが、すでに多くの大手企業が地方課題の解決に寄与する技術、アイデア、事業モデルを持つスタートアップとの協業などを通じて積極的な関与を進めています。社会・事業的メリットが得られる地方創生事業は大手企業にとっても参画する意義は高く、今後もその流れは加速していくことが予想されます。そして、大手企業が地方におけるニーズ、ローカル課題、必要技術を把握・解決・実装し、オープンイノベーションを加速していく上で、スタートアップとの協業は極めて有用なアプローチであるでしょう。

Plug and Playでは、大手企業とスタートアップとの出会いをお手伝いするとともに、新規事業創出のためのワークショップといった実践的なプログラムもご用意しています。さらに、地方自治体とも連携してローカルスタートアップの成長支援などを推進しています。ご興味のある方は、こちらよりお気軽にご相談ください。

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