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なぜ今、「共創の時代」と呼ばれるのか?

2024/02/01

驚異的な速度で技術が進歩する一方、多くの社会課題が複雑に絡みあう現在。ひとつの企業が単独で市場を開拓し、経営課題を乗り越えるのは難しくなっています。そんな中、産官学のあらゆる分野で「共創」による課題解決が求められているのは言うまでもありません。企業と企業、企業と生活者、自治体と市民など、多種多様な共創の形が生まれている中、改めてその意義や効果的な取り組み方、参考にすべき事例についてご紹介します。


Hideaki Fukui

Writer


1.「共創」とは何か

「共創」は読んで字のごとく、「共に創る」ことを表しています。元の英語「co-creation」から「コ・クリエーション」と表現されることもあります。この概念は、ミシガン大学ビジネススクールの教授であったC.K.プラハラードとベンカト・ラマスワミの共著『価値共創の未来へ―顧客と企業のCo-Creation』(2004年)によって広く知られるようになりました(*1)。

この著書では主に企業と顧客による共創の必要性が説かれていますが、現在では企業と顧客だけでなく、政府・自治体、市民、教育・研究機関など幅広いプレーヤーによる共創が展開されています。さまざまな知見やネットワークを持つプレーヤーが交わることで、壁を突破するためのアイデアが生まれ、課題解決への動きが加速します。それこそが「共創」の意義と言えるでしょう。

近年、企業が外部の技術やノウハウを取り入れて事業開発を行う「オープンイノベーション」が注目されていますが、これは共創を実現するための手段のひとつと捉えるのが一般的です。他に「協業」や「協働」などの言葉も使われますが、複数のプレーヤーが知見やアイデアを交換しながら課題解決をめざすという意味では、すべて共創のひとつと言えます。

2. なぜ今、共創が必要なのか

では、なぜ今「共創」が求められているのでしょうか。ここでは現在のビジネス環境や時代背景から、その理由を探っていきます。

市場の成熟

1960年代の高度経済成長期、そして1980年代のバブル期を経て、市場が右肩上がりで成長する時代は過去のものとなりました。今や人々が必要とする商品やサービスはひと通りそろっており、「モノを作れば売れる」という時代ではありません。加えて日本は人口減少の局面にあり、国内消費がこの先大きく拡大する見込みは薄いと言わざるを得ません。

このような環境において新たな市場を生み出すには、既存のビジネスモデルからの変革が不可欠です。そのためにも、新しい技術やノウハウはもちろん、従来とは異なる文化や考え方を社外から取り入れることが肝要なのです。

市場変化の速さ

インターネットの登場以降、IT技術は驚異的なスピードで進化してきました。加えて、革新的なサービスを提供するスタートアップがアメリカを中心に次々と誕生し、市場環境の変化を加速させています。この様子は、かつてNetscapeを生んだソフトウェア開発者、マーク・アンドリーセンが2011年の伝説的なコラムで唱えた「Software is eating the world.(ソフトウェアが世界を飲み込む)」という言葉が物語っています(*2)。

このような時代にユーザーのニーズや生活スタイルの変化をタイムリーに捉え、新たなビジネスにつなげるには、外部の知見を積極的に取り入れる姿勢が必要です。特に革新的な技術やサービスで急成長をめざすスタートアップとの共創は、ユーザーの隠れたニーズを発見し、その解決の糸口を知るための大きなヒントになります。

複雑な社会環境

「課題先進国」とも呼ばれる日本には、少子高齢化や地方の衰退、インフラの老朽化、人材不足など、解決すべき課題が山積しています。一方で世界に目を向けると、気候変動や紛争、人口爆発、食糧危機などの問題が影を落としています。これらの問題が複雑に絡み合う現在、未来の社会がどのような姿になっているかを予測するのは簡単ではありません。

この状況を自社の経験とノウハウだけで乗り越えるのは困難かつハイリスクと言えるでしょう。異なる視点を持つプレーヤーと積極的に交流し、柔軟に視点を変えながら事業に取り組むことがこの難局を乗り切る鍵となります。

3. 共創によって生まれる効果

では、共創によって具体的にどのような効果が期待できるのでしょうか。また、企業がどのようなことに取り組む時、共創が力を発揮するのでしょうか。

新商品・新規事業の開発

特に共創が大きな効果を発揮するのが、新商品や新規事業の開発です。斬新なビジネスアイデアを持つスタートアップや、先進的な研究を行っている大学・研究機関との共創により、開発が一気に加速する可能性があります。また、消費者との共創を通じて新たなニーズを発見し、商品・サービスのブラッシュアップにつながるかもしれません。

トライ&エラーをくり返し、さまざまな困難を乗り越える必要のある新商品開発や新規事業においては、自社にないノウハウやアイデアを取り入れることで期間の短縮と成功率のアップが期待できるのです。

人材育成

企業の発展には人材育成が欠かせません。かつて多くの企業は自前で社員に研修を施し、忠誠心と愛社心を持った人材に育て上げるのが主流でした。しかし変化の激しい現在では、広い視野と柔軟な考えを持たせるために、外部の育成プログラムを活用するケースも増えています。

また社員を一定期間、別組織の活動に従事させ、異なる視点とスキルを習得させることでイノベーション人材を育てる動きも増えています。株式会社ローンディールが手がけるような大企業からスタートアップへのレンタル移籍や、本業と並行してNPO法人などのボランティアに参画する「プロボノ」などが一例です。その他、さまざまな形で企業間の人材交流が行われていますが、これらは外部組織との共創がリーダー人材・イノベーション人材の育成につながることを物語っています。

販路開拓・顧客獲得

あらゆる企業にとって、販路開拓と顧客獲得は事業の根幹に関わる重要なミッションです。そこで有効なのが、自社にはないネットワークを持つ企業と手を組むこと。商社や代理店を通じた販路開拓は古くから行われてきましたが、これも顧客獲得のための共創と言えるでしょう。自社でゼロからネットワークを構築するには膨大な時間と労力が必要です。既に各方面へのパイプを持つ企業の力を借りることで、ビジネスチャンスが一気に広がる可能性もあるのです。

リソースの補完

企業が事業展開する中で、どうしても社内のリソースだけではクリアできない課題にぶつかることがあります。そのような「ミッシングピース」を埋める時にも、他社との共創が効果を発揮します。

例えば、現在多くの自動車メーカーがEV(電気自動車)へのシフトを迫られていますが、自動車メーカーはEVに欠かせない車載電池を量産することが得意ではありません。そのミッシングピースを埋めているのが、パナソニックなどの電機メーカーです。このような業界を超えた新たな共創によって、各社は迫りくる変革の波を乗り越えようとしているのです。

事業の効率化

他社との共創が効率化につながる代表的な例としては、小売業界における仕入れの共同化や、物流業界における共同配送が挙げられます。いずれも複数のプレーヤーが手を組んで新たなルートや業務フローを開発することで、コストや時間の削減効果が生まれます。

組織改革

変化の激しい時代を生き抜くには、個々の人材が多様なアイデアを出し合える風通しの良い組織風土を作る必要があります。ここでも外部組織との共創が突破口になるケースがあります。他社との交流を通じて新たなマネジメントの視点を取り入れたり、社外取締役や経営コンサルを活用して企業文化を変えたりするのも共創による効果と言えるでしょう。

4. 共創の種類

近年、ビジネスシーンはもちろん、行政や市民活動など多くの場面で共創が生まれていますが、それらの動きは大きく3種類のタイプに分かれます。

双方向タイプ

企業が消費者と対等な立場でコミュニケーションを図り、共に新たな価値を生み出していくモデルです。アンバサダーマーケティングや、ファンコミュニティを活用した商品企画などが代表的な例です。ソーシャルメディアの登場によって企業と消費者との双方向コミュニケーションが容易になった今、多くのBtoC企業が取り入れている共創の形です。

共有タイプ

同じビジョンを持つ複数の企業、公的機関、団体などが集まってコンソーシアムを形成し、最新情報やアイデア、ノウハウを共有するモデルです。都市の再開発やスマートシティ構想、スタートアップエコシステム形成など、大型で長期にわたるプロジェクトを進める際に多く活用されます。コンソーシアムに関わるプレーヤーが対等な立場で知恵を出し合い、団結してビジョンの達成をめざすのが成功の秘訣です。

提携タイプ

企業・団体どうしが対等な関係性の下で協力し、お互いに不足する技術やノウハウ、リソースを補完しながら価値創出をめざすモデルです。「発注者・受注者」という関係ではなく、対等なパートナーとしてWin-Winの関係を築けるかどうかが成否を分けるポイントです。オープンイノベーションにおいては、お互いに補完的な強みを持つ大企業とスタートアップの事業提携が近年注目されています。

5. ケーススタディ

ここまで、共創の意義や効果、タイプなどをご紹介してきましたが、実際に企業が共創に取り組んだ事例を見てみましょう。

サッポロビールと一般ユーザーによる新たなビール体験

2018年、ビール大手のサッポロビールは「HOPPIN’ GARAGE」というサービスを始動し、業界を驚かせました(*3)。これは一般ユーザーから募ったアイデアをもとに新たなクラフトビールを開発するというもの。ビール好きのコミュニティを通じてブラッシュアップし、最終的には商品として世に送り出します。

自分のアイデアから生まれたビールの味を、ビール好きの仲間と共有しながら楽しむ。そんな新しいビール体験を提供するこのサービスは、双方向タイプの共創プロジェクトの好事例と言えるでしょう。

トヨタ自動車とソフトバンクが取り組むMaaSプロジェクト

Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared&Services(シェアリングとサービス)、Electric(電動化)の頭文字から「CASE」と呼ばれる自動車業界の大変革や、地方公共交通の課題に挑むべく、IT大手のソフトバンクと自動車大手のトヨタが手を組んで生まれたのがMONET Technologies株式会社です。2019年の設立当初は2社による合弁事業でしたが、その後、自動車各社が次々と参画し、メーカー横断の一大プロジェクトに発展しました。

同社が手がけているのは移動の不便を解消するMaaS事業で、過疎化が進む地方で住民の足となるオンデマンドバスや、地方の医師不足問題を解消する移動診療車などの社会実装に取り組んでいます。また、それら以外にも幅広い課題解決に挑む共創プラットフォームとして「MONETコンソーシアム」を発足。現在、加盟企業は800社に迫る勢いで、業種の垣根を超えた共創が繰り広げられています。

渋谷区の新たな魅力発信に向け行政と民間企業がタッグ

KDDIと一般社団法人渋谷未来デザイン、一般財団法人渋谷区観光協会は、第5世代移動通信システム(5G)を活用した都市文化創造に向け、2020年に「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」を始動しました(*4)。同プロジェクトには東急やパルコなど渋谷を象徴する企業のほか、IT、メディア、インフラなど幅広い業種のプレーヤーが参画。デジタルツインやメタバースなどを駆使した新しい渋谷の楽しみ方を発信し、区が掲げる「創造文化都市」の実現を共にめざしています。

ヤマト運輸と西東京バスが物流と地方交通の課題を同時に解決

配送ドライバー不足が一段と深刻になる「2024年問題」に揺れる物流業界。一方、赤字に苦しみながらも住民の足として廃止が難しい地方公共交通。現在、両社が手を組むことでそれぞれの課題を同時に解決する動きが広がっています。

その一例として、物流大手のヤマト運輸と東京の地方部で路線バスを運行する西東京バスは「客貨混載」による配送の効率化に取り組んでいます(*5)。集荷センターから遠く離れた山間部への荷物の配送には時間がかかり、ドライバーの業務効率が下がる要因となっていました。そこで、配送先の近くのバス停まで路線バスで運び、そこからヤマトのドライバーが各家庭に届ける、というフローを構築。ヤマト運輸にとっては配送の効率化、西東京バスにとっては新たな収益源の確保、と双方にメリットが生まれる結果となりました。

6. 最後に ~共創を成功させるポイント~

複数のプレーヤーが知恵とアイデアを出し合い、単独では生み出せない価値を創出する「共創」についてご紹介してきました。共創を成功させる鍵は、自社にはない視点やノウハウを持ち、不足するリソースの補完につながるプレーヤーとの“出会い”にあります。

特に昨今は優秀なスタートアップとの出会いが事業課題を解決する突破口となり、イノベーションの創出につながるケースも増えています。従って日頃から国内外のスタートアップをリサーチしておくことも、共創を成功させるポイントです。

Plug and Playでは、大手企業とスタートアップとの出会いをお手伝いするとともに、新規事業創出のためのワークショップといった実践的なプログラムもご用意しています。さらに、グローバルネットワークを活用した海外スタートアップとのマッチング支援も可能です。ご興味のある方は、こちらよりお気軽にご相談ください。

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