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セルロースで作る環境負荷の少ないプラスチック - Filler Bankインタビュー

2022/03/18

プラスチックは環境に悪影響を与えるとして多くの企業が代替品に目を向けています。フィラーバンクは、プラスチックの利便性を保持しつつも、より環境にやさしいプラスチック代替品の開発に取り組んでいます。


Interviewer: Suzu Kitamura


有田 稔彦 氏

Founder

東北大学で助教を務め、2017年の9月にフイラーバンク株式会社を設立。


会社概要: フィラーバンク株式会社

フィラーバンク株式会社は、綿産業廃棄物由来のセルロースナノクリスタル(CNC)を活 用したプラスチック代替品を提供している大学発のスタートアップです。CNC粉末をプラス チック代替材料の主材やフィラー材料として利用し、入口から出口まで追求した循環型サプ ライチェーンの実現を目指しています。


起業の経緯と事業内容

ーー御社の事業内容や技術についてお聞かせください。

当社の会社名は「フイラーバンク」ですが、「フィラー」は英語で「詰め物」と言う意味です。実はプラスチックの中には、たくさんのフィラーが含まれています。

私は研究者として、フィラーを添加することでポリマーやプラスチックの性能をいかに向上させるか、という研究を行ってきました。以前から現在に至るまで、フィラーとしては無機素材が使われることが一般的です。更に21世紀に入ってからは、フィラー材料の微細化が顕著になり有機材料と無機材料のハイブリッド材料という考え方が普及しました。

しかし、高性能な有機物と無機物のハイブリッド材料ができたところで、廃棄時にどう処理するのかは問題となったままですし、むしろ微細化の影響でより分別や除去が困難となっています。有機物の大部分は燃やすと二酸化炭素になりますが、無機物は煤煙として空気中に放出されるか、灰として残されるからです。

焼却炉から出る煙の中から金属イオンを回収する技術があまねく普及していれば、有機・無機のハイブリッド材料を使用しても問題ないと思いますが、現時点では一部の焼却炉にしか装着されておりません。金属イオンを取り除く高価な装置がない以上、金属やセラミックなどの鉱物の代わりになる有機フィラーにはどのようなものがあるかと考え始めた結果、セルロースを思いつきました。セルロースは自然界に一番大量に存在する有機物で、焼却炉で燃やしても二酸化炭素と水になり、上の問題の解決には格好の材料といえます。

ーーCNCとCNFの違い*、そして御社はなぜCNCの開発に取り組んだのか理由を教えてください。

*CNCとCNF
セルロースナノクリスタル(CNC)は、セルロースを一定の温度・時間の条件下で酸加水分解後、解繊することで得られるセルロースの結晶である。CNCは石油化学製品の代替材料として、また他の高性能ナノ材料よりも安価になりうることから注目されている。
一方、セルロースナノファイバー(CNF)は、CNCとは異なり、非晶質部分と結晶質部分の両方を持つ繊維である。

多くの企業がCNFのフィラー化に取り組んでいますが、CNFはフィラーとして使うのは容易ではないと思います。CNFを電子顕微鏡で見ると、繊維状になっているのがわかります。それに比べて、CNCは棒状です。そのため、CNCは粉末化しやすく、フィラーとして使いやすいと考えています。

また、CNCとCNFの保水性も考慮する必要があります。プラスチックの多くは疎水性で水とは混ざらないものです。その中にフィラーとして混ぜる利用法を考えた場合、水と混ざりやすく、水分を含みやすいものを入れるには多くの困難を伴います。CNCの疎水性はガラスや鉱物と同程度とは言えませんが、CNFに比べて保水性に劣る(自然吸着水量はガラスと同等である)ため、利用しやすいと考えました。

ーー 研究者としてセルロースのフィラーの研究を続けるだけではなく、なぜ起業したのでしょうか?

私は高分子科学を研究していますが、高分子科学は実用が先行して興った学問です。実は、私は博士号を取得した後に物理化学から高分子化学に分野替えしたのですが、それは実用に近いところでものづくり的なことをしたいという思いが強かったからです。ですから、自分の研究を実用化し、社会実装につなげることは自分の中で自然な流れだと感じました。

また、ドイツで研究した経験も起業に大きな影響を与えました。博士号を取得した後にドイツに行き、2年半滞在しました。ドイツでは、日本よりも企業が大学の研究室とより深く連携して共同研究をおこなっている事や、学生が就学中から自ら新しいことに挑戦している姿を多く目にしました。博士号を取得してそのまま就職せず、そのような環境で過ごしたことが、起業や自分の研究を自分で完結させることに対する考え方に影響したと思います。

プラスチック問題について

ーーどういった問題解決に取り組んでいるのか、お聞かせください。

プラスチックの悪いところはよくニュースなどで紹介されますが、プラスチックの良いところは比較的取り上げられていないと感じます。例えば、数年前、鼻にストローが刺されたウミガメの写真が話題になり、大騒ぎになりました。これを受けて、例えばプラスチック製のストローを紙製のものに変えるような動きがありました。

私自身は、プラスチックは素晴らしい素材だと思います。現在、新型コロナウィルスのワクチンが速やかに配布されているのは、ポリエチレン製の注射器やシリコーンやニトリルゴムのような医療グレードのゴムのおかげです。プラスチックは高性能であるのに安価で生産できるため、様々な用途で使われ、我々の生活を便利にしています。いわば不可欠な存在になっています。

プラスチックを完全に無くすのは難しい。ですから、より良い代替品に置き換えていくことを目指すべきだと思います。当社のセルロースフィラーを活用して代替品を作ることで、環境適合性という新たな物性が加わり、新しいビジネスが創出される可能性があります。

ーー環境にやさしいプラスチックをつくるトレンドの中、PLAやPVAなど*がよく導入されるケースがあります。プラスチックの専門家からみると、これらはどのように思われますか?

*PLAとPVA
ポリ乳酸(Poly-Lactic Acid、 PLA)の樹脂は、トウモロコシやジャガイモなどから得ることのできる乳酸から製造される植物由来のプラスチック樹脂であり、生分解性やカーボンニュートラルな樹脂として注目されている。

ポリビニールアルコール(Poly-Vinyl Alcohol、 PVA)は、水溶性プラスチックの一種であり、接着剤や乳化安定剤などとして古くから用いられている。

生分解性があるといった理由でプロピレンの代わりにPLAを使い始めた会社がた
くさんあります。PLAは堆肥の中ではそれなりの生分解性はありますが、通常の環境では容易に分解されるわけではありません。例えば海中ではほとんど分解されないため、他の問題となっているプラスチック同様、海洋汚染を招きます。

PVAもまた、今も昔も良く使われているが疑問のあるプラスチックの一種です。確かに生分解性プラスチックで毒性も小さいと言われていますが、PLA同様環境分解速度は十分とは言い難く、経口摂取では中程度の毒性があるとされています。
さらにPVAは、河川や用水路に蓄積されると分解されないヘドロを作り水質汚染を引き起こします。水に溶けるカプセルや旧来の水に溶いた状態の製品が多く、大量に使われているため、河川から海に流れ出やすいことと併せて心配です。

バイオプラスチックはますます人気が高まっていますが、「バイオプラスチック」とは、トウモロコシから製造されたPET樹脂なども含みます。トウモロコシPET樹脂はカーボンニュートラルの観点からは、大変有効な材料であると思います。確かにトウモロコシPET樹脂は、植物由来の材料で作られているかもしれない。しかし化学的には、石油から作られたPET樹脂もトウモロコシから作られたPET樹脂も同じPET樹脂であり、生分解性は結局ないのです。しっかりリサイクルをしないと、海洋汚染の問題解決にはつながりません。

以上みてきた理由からもわかるように、ビジネス的な観点から考えると、すべてのプラスチックを置き換えることは非常に難しいことだと思います。生分解性の樹脂は価格が高いうえ、当然ながら劣化が早く、ポリエチレンなどの従来の素材に比べると強度等の信頼性が劣ります。

それに伴い、プラスチックを置き換えようとする企業には、保証期間や製品の物性など、様々な問題が発生します。企業は売上を確保しなければならないし、不良品を作れば責任を問われるため、信頼性の高い素材をつかわざるをえない。そのためサステナビリティを目指して、生分解性の素材と分解しない素材を混ぜることを選択し、結果として価格が高いのに自然界で分解しない製品を作り出します。これは企業だけでなく、我々にとって大きなジレンマです。

現状の課題と今後のビジョン

ーーナノセルロース関連のスタートアップが増えている中で、御社の競合優位性は何でしょうか?また、その競合優位性は今後どのように活かしていかれるのでしょうか?

弊社の競合優位性に関して、製品の可食性や「入口」から「出口」までサステイナブルであるといった点が挙げられると思います。弊社はこれらを活かして、食品の包材やパッケージ材料、医用材料、我々が日々触れる繊維製品等々を中心として先端材料から汎用に至るまで、弊社CNCの特質に会う分野で、応用開発を行いたいと考えています。

例えば大きなところでは、セルロースをビニール袋、食材のラップやトレー、コンビニのパンやおにぎり、お菓子などの包材に応用できないかと考えています。食材や医療など、身近で使われているワンユースのプラスチックを天然素材の環境分解可能なものに置き換えて行くことが目標です。そうすると低環境負荷で無駄の少ない資源循環サイクルを構築できます(上図参照)。

また、テキスタイルなどのBtoBのアプリケーションへの展開にも取り組んでいます。今着ているこのシャツは、当社で作ったCNCをアイロン糊として吹きかけ、アイロンをかけています。夏や梅雨の時期にたくさん汗をかいてもベタベタしないので、いい代替品だということがわかりました。硬く糊付けをしてシャツが硬くなっても、CNCなので着用直後から肌からの蒸気や水蒸気を吸収して、柔らかい着心地になります。パリッとアイロンをかけたシャツも、ふんわりとした着心地になるんです。

CNCは環境にも優しく、アレルギーやアトピー性皮膚炎の方にも安心して使っていただけます。このような用途は、洗濯の多いホテル業界などでの使用が考えられます。BtoBの用途を広げることで、BtoCに移行したときの成功につなげたいと考えています。アイデアはたくさんあるのですが、まだ規模が小さいので弊社単独で進めるのが難しいですね。

ーー海外進出はお考えですか?

海外進出には興味があります。CNCの研究内容については、日本で話すよりも海外の学会で話したほうが反応がいいことが多いですね。海外の学会で実際、協業の可能性について非常に熱心になった人に出会いました。その方はヘンプ(麻)を栽培してCDBを米国に輸出するポーランドのベンチャー企業の経営者でした。

現在、当社は綿からCNCを製造していますが、麻も古来から使われてきている天然繊維で、彼らの廃棄繊維を使ってCNCを作るというジョイントベンチャーを提案されました。残念ながら、直後からコロナ禍に見舞われてその話は頓挫していますが、海外の企業とのコラボレーションは熱量も大きく面白いものが多いので、海外展開をしていきたいですね。

ーー今後のビジョンについて教えてください。

前にも言いましたが、私はプラスチックは本当に素晴らしい素材だと思っています。安価で大量に生産することができ、成形精度も高い。私たちの生活を便利にしてくれる物性を持っています。私たちの現代生活は、プラスチックに依存しています。
しかしプラスチックは丈夫であるが故に、自然に分解されないという矛盾があります。私は自分の研究を社会に還元するためにできることをしていきたいと思っています。今はセルロースを研究していますが、もしかしたら将来は様々な素材を手がけることになるかもしれません。今後も、プラスチックの特性や利便性を保った環境負荷の少ない素材や製品を開発し、その事業で日本一・世界一と言われることを目指します。

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