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シリコンバレーに挑戦する日本のスタートアップ:Global Preparationコース視察レポート

2023/05/08

日本のスタートアップが海外市場に進出するためには、言語の壁や時差、文化的差異や法規制など、国内市場とは異なる多くの課題を乗り越える必要があり、そのハードルの高さから海外展開を先延ばしにしてしまうスタートアップも少なくありません。

そのような状況に対し、独立行政法人日本貿易振興機構(以下JETRO)は、国内スタートアップ・エコシステムの発展を目的に、内閣府、経済産業省とともにスタートアップ向け海外展開支援プログラム「スタートアップシティ・アクセラレーションプログラム」を展開しています。

海外のトップアクセラレーターと連携する本プログラムにおいて、2021年に引き続きPlug and Play Japanはグローバル展開の基礎知識習得や海外市場展開の意欲向上を目的とする「Global Preparationコース」を受託し、50社の採択スタートアップを支援してまいりました。

支援の一環として、Plug and Play Japanは海外進出を目指すスタートアップ7社とともに、Plug and Play 本社のあるシリコンバレーへ赴き、現地講師による英語でのピッチコーチング、アメリカ市場進出に向けたワークショップ、ネットワーキングイベントなどを行いました。このレポートでは、プログラムの内容と参加したスタートアップからの声を紹介します。


Writer: You Cheng

Program Manager, Government Partnerships


[目次]
  1. プログラム概要
  2. 視察1日目:ピッチコーチング
  3. 視察2日目:ピッチイベントとネットワーキング
  4. 視察3日目:メンタリングセッション
  5. おわりに

1. プログラム概要

「海外進出するスタートアップ」と言えば、既に日本国内で強固な基盤を持ち、大手企業も含めトラクションや顧客を多く持つスタートアップというイメージがあるかもしれません。海外進出に当たっては英語に堪能で現地の状況をよく知るスタッフを抱え、海外のクライアントと契約できる状態が理想でしょう。

しかしそうでない場合、海外進出にあたってまず何から始めれば良いのか、必要な要素は何なのか、そもそも情報に触れる機会がないという状況のスタートアップが多いことも事実です。今回の視察プログラムには、上記のような海外進出計画をすでに持つスタートアップも、一切持たないスタートアップも参加しました。参加されたスタートアップ7社はプレシード〜シリーズAステージが多く、事業内容はDX、ヘルスケア、モビリティなどさまざまです。

橋・ダム・プラントなどのインフラメンテナンス現場最前線のDXを実現するアプリ・クラウドサービス

育児介護休業制度の運用・管理ツール。多様化した制度に対応した企業向け業務効率化ツールを提供

リモートワイヤレス電力伝送技術で必要な時に、必要な電力を、必要な場所へ届ける

血液デジタル検査プラットホーム、UBiSSを規格化、ブランド化し、国内、海外展開

顔の形に合わせて変形することによって快適なフィットと皮膚傷害を予防する人工呼吸器用マスクを提供

自動運転技術を活用した、工場向けの自動搬送サービスを提供

スノーリゾートとスキーヤー・スノーボーダーをつなぐグローバルなマッチングプラットフォームの提供

 

参加スタートアップのステージ分布

 

Plug and Play本社に到着

 

2. 視察1日目:英語ピッチトレーニング

海外進出におけるハードルの中でも特に言語の問題は避けて通れません。グローバル市場では出身国や母国語に関わらず英語でのコミュニケーションが求められます。似たようなプロダクトやサービスがある中で、競合優位性をアピールし、質問に的確に解答できる能力が必須です。

今回のプログラムでは、「ピッチ」「ネットワーキング」「メンタリング」という3つの場面で現地の企業やメンターと英語で商談を行う機会を設定しました。

視察2週間前より、参加スタートアップはPlug and Play社員の指導のもと英語ピッチを猛特訓し、ビジネスコミュニケーション力を磨きあげました。また、海外顧客を想定して、ピッチ資料をポイントを絞った伝わりやすい内容へと改善しました。

視察初日には、まず「北米における投資環境」「アメリカ企業との協業におけるコツ」「VCや投資家へのアプローチ方法」といった海外進出にあたっての基礎知識をPlug and Play社員からセミナー形式で受講しました。その後、シリコンバレーを中心に多くの大手企業のデモデイでプレゼンテーション講師を務める、Nathan Gold氏によるピッチコーチングを受けました。

スタートアップは英語ピッチを本番さながらにロールプレイ。事業内容のアピール方法のみならず、アメリカでビジネスを行うにあたってのマインドセットやネットワーキングのコツなども学ぶ機会となりました。

Gold氏からの指導は非常に細かく、ピッチする際の姿勢・立ち方・目線や注目を引く商品の見せ方、ピッチ資料の適切なページ数や強調すべきポイント、キーメッセージの効果的なフレーズといった細部まで1社ずつ指導が行われました。

ワークショップを終え、参加者からは「アメリカで好まれるピッチのコツや要素が分かり、何をブラッシュアップしないといけないか明確になった」「ストーリーテリングについて悩んでいたが、今日受けたアドバイスは、いままでのどのアドバイスより的確で雲が晴れるような感覚があった」などの声が聞かれました。

 

Nathan Gold氏(写真右)によるピッチメンタリング

 

3. 視察2日目:ピッチイベントとネットワーキング

視察の2日目にはPlug and Play本社において投資家や大手企業をターゲットとしたピッチイベントが行われました。母国語ではない言語で自社事業を説明し、興味を持ってもらうべく観客を説得するのは誰でも緊張することでしょう。イベント開始前に、スタートアップの方々がランチを取る時間も惜しみ、廊下で何度もピッチを練習している姿が印象的でした。

イベントでは、60名ほどの参加者の前でステージに立ち、5分間の制限時間内にピッチを行いました。

参加スタートアップは、前日のピッチコーチングでのアドバイスを踏まえ、自社のビジョンに共感してもらえるよう熱意を込めてピッチしていました。イベント後半のネットワーキングセッションは大いに盛り上がり、予定終了時間より1時間ほど長引くこととなりました。登壇スタートアップは自社事業に関心を持ってくれた多くの参加者とアメリカでのネットワーク構築をスタートさせ、アメリカ進出の第一歩を踏み出しました。

 

ピッチイベントの様子

 

4. 視察3日目:北米市場進出に向けたワークショップとメンタリングセッション

3日目は、現地の起業家である真田諒氏をお招きして、ワークショップを実施しました。スタートアップ各社の自社価値を効果的にアピールし、顧客像やスタートアップが解決できる問題を把握するためのワークシートを作成しました。

その後、ワークシートの内容に関して真田氏より1on1でフィードバックがあり、各社と一緒に分析が行われました。「ワークショップ+1on1メンタリング」のセッションに対して、参加スタートアップからは「どのように効果的に自社価値をアピールすべきか、指導を受けることができ有意義だった」、「自社価値について改めて考えることで、うまくストーリーとしてアピールできていない部分が分かった」などのコメントが寄せられました。

 

真田諒氏によるワークショップ

 

続くメンタリングセッションも今回のプログラムのハイライトとなりました。参加スタートアップの個別ニーズに対して、日本企業の米国進出を支援してきたさまざまな専門家たちからシリコンバレーで成功するためのメンタリングが提供されました。例をあげると、SaaS事業のスタートアップは顧客獲得や営業戦略の専門家より販路開拓戦略についてアドバイスを受けたほか、潜在顧客の紹介を受け、その後実際に紹介された顧客と協業に向けた面談が進行しています。

こうして3日間に渡り、ピッチトレーニングやイベント登壇、自社価値向上ワークショップ、専門家からのメンタリング、現地ネットワークの構築と、充実したプログラム内容となりました。参加したスタートアップ1社1社が、海外進出という目標に向かって懸命に努力している姿が深く私の印象に残っています。

シリコンバレーでは、出身国を問わず多くのスタートアップが成功している中、日本のスタートアップが同じように輝く日も近いのではないかと思わせられる視察プログラムでした。

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