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Startup x Partner Interview | 電源開発株式会社 x 株式会社ACES

2021/11/16

電源開発株式会社と東大松尾研発AIスタートアップ 株式会社ACESとの協業事例

2020年3月に、Plug and Play Japanが提供するアクセラレータープログラムを通して出会った電源開発株式会社 (以下、J-POWER)と株式会社ACES (以下、ACES)。J-POWERでは発電所などの作業現場の労働災害リスクを軽減するための「安全」を中長期のテーマとして掲げています。そこでJ-POWER内での取り組みとACESの画像処理AI技術の掛け合わせにより、作業現場における危険箇所と作業員の検知、不安全な状態や行動の判定を目的とした協業プロジェクトを発足。コロナ禍のため現場訪問ができない状況下でのプロジェクトの進め方や、現場の巻き込み方など、PoCに至るまでの背景やプロジェクトを進めるうえで心掛けていることについてお話を伺いました。


森田和敏 氏(写真左)

電源開発株式会社 デジタルイノベーション部


遠藤二郎 氏(写真中央)

電源開発株式会社 経営企画部


與島仙太郎 氏(写真右)

株式会社ACES COO


ニコル沙織(モデレーター)

Plug and Play Japan Program Management Lead


プロジェクトに至るきっかけ

--今回の協業にいたるきっかけは何だったのでしょうか。

森田氏:

Plug and PlayさんにACESさんとの面談をセッティングしてもらったのがきっかけです。以前から画像認識を用いたプロジェクトを進めており、より専門的な技術、知見をもった会社に話を伺いたいと考えていたところ、アクセラレータープログラムに採択されたACESさんを紹介してもらいました。

遠藤氏:

振り返ると、ACESさんとの初回面談で、J-POWER社内で既に進めていた取り組みや課題を具体的にお伝えできたのは良かったと思います。
ACESさん側も我々がやりたいことを汲み取ってくださり、次の打ち合わせでどうすれば実現に近づくかの道筋を資料として準備いただいたことで、お互い協業のイメージをすり合わせられました。以前プレゼンで「PoCで終わらせない」と仰っていたのが印象に残っていて、説得力を感じました。

與島氏:

2回目の面談では、我々がJ-POWERさんのオフィスを訪問し、「具体的にどういうことをどんなタイムラインでしていきたいか」「中計的にどういう項目が重要であるか」などを議論しました。その過程で、画像認識や*ヒューマンセンシングの領域に強いという点に加え、「社会で実装していくためのプロセスやバリューデザイン設計が大事」という点に強く共感いただけたと感じています。

また、J-POWERさんは既に自社独自でAIを用いた技術検証をされていたことに加え、商談時には「自社でできること」「他社の協力が必要なこと」を明確にされた上でスケジュールも考えていらっしゃったことに感銘を受けました。ここまでできる企業さんはなかなかいないので、代表の田村も驚いていたと記憶しています。

*ヒューマンセンシング:人の動き全般を検出する技術。顔であれば表情、視線の向き、まばたきなどの検知や、身体全体の姿勢、動きからどういう行動をしているかなどの推定を可能にする。

--2回目のミーティングを行った時期はコロナ真っ只中ですね。現場を視察できない中、現場の解像度を上げるためにどういった工夫をされたのでしょうか。

森田氏:

2020年夏から冬にかけて関係部門に理解してもらうという活動に取り組んでいました。チームメンバーと一緒に、作業管理部門に向けて簡単なAIを使って「画像からこういう情報が取れるので、現場業務と組み合わせるとこういうことができますよ」というようなプレゼンを作って関連部署に提案して回りました。
並行してACESさんと一緒に、自社の技術力では実現が難しい領域に関する実現可能性を定期的にディスカッションしていました。

與島氏:

J-POWERさん社内で実現が難しいと感じている部分、例えば「リアルタイムに何かを検知したいが既存のモデルでは速度が出ない」だったり「カスタマイズ性をいかに担保するか」などの個別の課題に対して、我々がより強みを発揮できる領域について方法を深掘りしていきました。

協業領域の模索と目線合わせ

--現場からの理解やスコープの設計が非常に重要で、ここにしっかり時間をかけられたことが成功要因だったようですね。このプロセスの中で見えてきた課題、ACESが自分たちを活かせると思ったポイントを教えていただけますか。

與島氏:

J-POWERさんの長期的なビジョンは、「作業現場における安全性の担保や現場を管理する人手の効率化により、いきいきと働ける現場を実現する」と明確に掲げられており、弊社のミッションとも重なり、共感しました。ただしそれを達成するには越えなければならない壁があります。そもそもの技術的な難しさや、検証設計の難しさ、現場へのカスタマイズの必要性など、J-POWERさん単体で実施するには困難な部分があり、弊社の技術力やプロジェクトデザインの経験が活かされると判断しました。

森田氏:

まさにそうですね。
我々が実現したい価値に共感いただいたところと、そこを目指して一緒にやっていくための技術をお持ちであること。また、技術の高度化に終始せず、その技術を実際に使っていくこと、価値を作っていくことに注力していけるという点で方向性が一致していました。

--そこからもう少し具体的な話に入っていったと思うのですが、ACESの強みである「PoCで終わらせない」ためには、どのような進め方をされたのでしょうか。

與島氏:

まず確実に次に繋げていくために、実際にAIが使われている理想状態をイメージすることから始めました。具体的にいえばJ-POWERさんのグループ会社にはシステム開発会社さんがいらっしゃるのですが、彼らを交えて実際のユースケースを詳細検討しました。

また、今回のように、協業案件の際には現場にも認められるような小さな成功を早めに作っていくことを意識しています。

プロジェクトの進め方とチーム体制

-ーまさにアジャイルに動いてクイックウィンをたくさん作っていくやり方ですね。どんなチーム体制でこのプロジェクトは動かれているんでしょうか。

森田氏:

J-POWER側の体制としては、デジタルイノベーション部の私がプロジェクトマネジャーとして取りまとめ、システム開発グループ会社のアプリケーション開発を担当するエンジニア2名、データサイエンス担当のエンジニア1名の計4名がコアメンバーとしてプロジェクトを推進しています。私がこの不安全検知プロジェクトのPMとして行った最初の一手は現場をよく知る相談相手を確保し、「身近によく起こる『危険』が何か」を深く理解することに注力しました。

コロナ禍でリモートワーク中心であったこともあり、出張も極端に制限されている時期だったのでACESさんをはじめとする関係者にはオンラインで動画を見せたり、意見交換するよう努めました。

與島氏:

ACES側はメインで私のようなプロジェクトデザインを担うメンバーと、プロジェクトのタスクを設計し遂行するプロジェクトマネジャー、アルゴリズム開発を行うエンジニアをコアに、必要に応じてソフトウェア開発メンバーをアサインする体制で進めました。

J-POWERさんとの議論は月一ペースで実施し、都度発生する課題をいかに両社で解決するかを話しています。J-POWERさんは我々を単なる委託先ではなくパートナーとして受け入れてくださっていたので、円滑なコミュニケーションが取れたと感じています。

--本当にワンチームといった体制ですね。J-POWER社内の現場の巻き込みについてどのような工夫をされたのでしょうか。

遠藤氏:

デモ動画はキーでしたね。実はデジタルイノベーション部が発足してから現場の巻き込みでは結構苦労したのですが、先を急ぐのではなくまず自分たちでAIを使ったデモ動画を作って理解を得ることに時間を割きました。ACESさんをお待たせする時期もありましたが、結果的にそれが社内導入へと繋がったと思います。

また、全社の安全の取りまとめをやっているのは人事労務部なのですが、彼らがデジタルイノベーション部とACESさんの取り組みを社内に向けて発信をしてくれました。私たちの活動を他の部署を通して社内共有しているという流れは、社内への応援者を増やす意味でも効果的だったと感じています。実際に他の部署がそのプレゼン資料を見て、問い合わせをしてくれるケースもありました。

森田氏:

その話を聞いて、社内へのPRも自信を持って進めることができました。

--現在どういった進め方をしているのかご共有いただけますか。

森田氏:

まずはクイックウィンを出すために、発電所の作業現場を広範囲カメラで撮影し、AIが自動的に危険な状態を検知できる状態を目指しています。危険な動き、危険な場所のパターンはものすごい数が存在するので、ACESさんとの相談を経て影響の大きい重大な怪我に繋がるもの、かつ現場で得られる画像や今ある技術で実現できるものにターゲットを絞っています。ACESさんには、危険行動を検知するアルゴリズムを開発してもらいつつ、我々ではドメイン知識が必要な検証作業を粛々と進めています。

與島氏:

本プロジェクトに限らず、現場で使えるようにするためには、単なる研究開発から何段階もの障壁があります。
今回のプロジェクトの肝は「安全」「危険」の定義を定めるところです。人間がなんとなく認識している「危ない」「危なくない」を言語できちんと分類定義をすることが必要であり、さらに「致命的であるもの」「頻繁に発生するもの」など重要度を評価する必要があります。
これらを 定義するプロセスは我々の力の見せ所でもあり、J-POWERさんにも適宜ご協力いただいて進めている箇所でもあります。

AI導入は「まずはここから」

--素晴らしいですね。他の事業会社とAIスタートアップとのディスカッションを見ていると、事業会社側が過度に高い精度を求めるあまりプロジェクトが頓挫する事例を見聞きしています。このケースはお互いの歩み寄りが見受けられる良い事例ですね。

與島氏:

J-POWERさんは現場業務に対する深い理解に加え、AIの現場実装における障壁や躓きやすいポイントをご理解いただいた上で、「まずはここから」という進め方ができてありがたかったです。
AI導入を検討している企業もこの前提を認識いただけるとDX推進、AI活用が進めやすくなると思っています。

--最後に今後のビジョンを教えてください。

與島氏:

本件で言うと「安全を担保する」という高度な目的を達成すべく、「危険」を質高く検知できる状態の実現を目指しています。
さらに5年後、10年後の理想的な運営の形態を定義してワクワクするような未来の状態を作っていくことも重要です。ACESはエキスパートの知見を再現性のある形にすることで、働く現場に余白を生み、人をより創造的にするというビジョンを持っているのですが、本件では「安全を担保する」という目標が達成された時に人間はさらに新しいことをしているはずで、そういった状態を実現するためにJ-POWERさんと協業を続けていきたいと思っています。

森田氏:

「安全」をテーマとした画像AIに加え、過去の事例から学ぶなどJ-POWERとして作業から発生する労働災害のリスクを減らしていくために、いろいろな技術や画像データ分析を組み合わせて現場の安全性を高めていきたいと考えています。今回のプロジェクトはこれを実現するための重要な布石となるでしょう。
DX推進の面では、新しい技術を取り入れて働き方をよりよく変えていきたいです。そのためにまずは人間にしかできないところとテクノロジーで代替できるところの役割分担をしていきたいですね。

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