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携帯型レントゲンの主流化を目指す - KA Imaging

2022/02/10

かつてX線画像の発明は、非侵襲的診断・モニタリング手段の開発に繋がり、医療業界に革命をもたらしました。カナダのウォータールーを拠点とするKA Imaging Inc.(以下、KA Imaging(ケーエーイメージング))は携帯型デュアルエナジーレントゲン技術を開発し、21世紀の今、X線分野に再び革命を起こしています。


Interviewer: Suzu Kitamura


会社概要: KA Imaging

KA Imaging は、ウォータールー大学発のスタートアップであり、革新的なX線画像技術およびシステムの開発に取り組んでいます。デュアルエナジーX線イメージングをあらゆる場所で利用できるようにすることをビジョンとしています。


アモル・カーニック Amol Karnick (写真右)

社長兼CEO

ウォータールー大学で工学の学士号、マギル大学で電気工学の修士号を取得。医療用画像処理業界に参入して以来、数々の新興企業や大手医療法人で20年にわたる経験を積み重ねてきた。


カリム・S・カリム博士 Dr. Karim S. Karim (写真左)

CTO

ウォータールー大学の教授で、20年以上にわたって革新的なX線画像技術の開発に取り組んできた。250以上の出版物と80以上の特許の共著者である。また、2社の起業を支援し、2社を創業した経験を持つシリアルアントレプレナーでもある。


−−起業のきっかけと経緯を教えてください。

Amol:

私は2011年にカリムさんと出会いました。当時、私はコミュニテック社のエグゼクティブ・イン・レジデンスとして働いていて、カリムさんは所属大学のトランスファープログラムで当社を訪問していました。その後、私は退職し、彼はサバティカル(研究休暇)で不在になりましたが、彼が戻ってきた際にまた話す機会がありました。彼は、研究室で素晴らしい技術を開発しており、私はそれに興味を持ち、一緒にその技術を開発していくことを承諾しました。最初はウォータールー大学でその技術をインキュベートしていましたが、2015年に資本金調達を行い、KA Imagingを設立しました。

Karim:

KA Imagingは、ウォータールー大学と深いつながりがあります。ウォータールー大学はカナダ最大の工学系大学であり、携帯電話「ブラックベリー」の発祥地でもあります。実は、この大学では、20〜30年にわたってX線センサーの製造と開発が行われてきました。弊社の研究者の大半がこの大学の出身です。技術的に非常に強力なスタッフが揃っています。

−− どのような事業をされていますか?

Amol:

弊社のビジョンは、より良い診断法を主流化することであり、2つのX線検出器技術を保有しています。一つは、多層膜検出器である「Reveal」技術。もう一つはBrillianSEと呼ばれる検出器です。これは非常に高い解像度を持つCMOS*セレン検出器で、InsightというマイクロCTを使用しています。

*CMOSはMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)の製造プロセスの一種で、高速伝送を可能にしながら消費電力量を削減します。

Karim:

弊社は、分光X線、位相コントラストX線、デュアルエナジーX線など、X線の先端技術を駆使しています。弊社の製品は携帯性に優れており、携帯型のデュアルエナジーX線撮影が可能な世界初かつ唯一の検出器です。80件の世界特許で保護されており、そのうち22件は独自のものです。検出器の分野で特許を取得しているのは非常に稀なことです。ハードウェアだけでなく、X線技術を活用するための独自アルゴリズムも多数保有しています。これらのアルゴリズムは、ソフトウェアプラットフォームの基盤となっており、ハードウェアプラットフォームと合わせて最高の画質を実現します。

−− 貴社独自の技術の競争優位性を教えてください。貴社が提供している技術と従来のX線技術を比較すると、どこが異なるのでしょうか?

Karim:

弊社の主な競争優位性は、弊社独自のデュアルエナジー技術です。デュアルエナジーのX線はすでに30年前から出回っていますが、それは従来のX線より優れているとは限りません。例えば、より多くの放射線を使用したり、別の撮影技術を必要とし、持ち運びができず、横方向の画像を撮影することができないといった課題があります。従来のデュアルエナジー技術を既存のX線技術と統合することは非常に難しいのです。

しかし、弊社は、X線と同じ機能を持つデュアルエナジー技術を提供する唯一の企業です。従来のレントゲンが持つ機能を全て持ち、それ以上のことも提供可能です。同じ放射線量を使い、同じ臨床技術を必要とし、持ち運びができ、横方向と斜め方向の画像を撮影することができます。1枚のレントゲン画像につき、通常画像、軟組織画像、骨画像の3つの画像を得ることができます。デュアルエナジーをニッチな分野から主流にしたのは、弊社の強みです。胸部、頭部、腹部、四肢など、すべてのスキャンでデュアルエナジーを使用することができるようになりました。

また、他社が低エネルギー露光と高エネルギー露光の2つの露光を使用しているのに対し、私たちは3層センサーを使用しているため競合優位性があります。2層式では、画質と線量効率は常にトレードオフの関係にあります。弊社の技術設計の利点は、3層目によって、既存のデジタルX線検出器と比較して最高の線量効率が得られることです。また、エネルギースペクトルの分離はすべて検出器内部で行われるため、このX線検出器は携帯可能なのです。X線の線源にこだわる必要がなく、フィルターの追加や変更も必要ありません。

−− 貴社の技術はどこで導入されていますか?また、導入のプロセスについて教えてください。

Karim:

カナダとアメリカでは、一般撮影用X線検出器としてFDAの認可を取得しました。また、オーストラリア、フィリピン、マレーシア、インドネシア、パキスタンでも認可を受けています。弊社の技術はすでに臨床用途で使用されています。

Amol:

トロントのユニバーシティ・ヘルス・ネットワークで肺炎と新型コロナウイルスの臨床試験と、グランドリバー病院で肺癌の臨床試験を行っています。弊社のX線検出器は、既存のシステムを何も変えずにアップグレードができるため、病院への導入は半日もかかりません。現場を訪問し、検出器を交換するだけで、作業自体は1時間もかかりません。使い方は従来とほとんど変わらないため、画像取得のためのトレーニングも速やかに行えます。一方、競合他社では、導入先のX線診療室の全面的なアップグレードが必要となるため、完了までに1週間ほどかかることもあります。

−− 貴社の技術は、医療以外にどのような用途が考えられますか?

Karim:

医療以外の用途としては、セキュリティ、産業、獣医、電子機器などがあります。セキュリティ面では、空港や駅などで手荷物用のポータブルスキャナーとして使用することができます。弊社のデュアルエナジー画像技術を導入すると金属とプラスチックの識別をより良くすることができます。また、航空機の翼の検査のための非破壊検査にも応用することが可能です。飛行機の翼は、チタンを含む複合材料で作られていることが多く、時には慎重な検査が必要です。弊社の技術を使えば、複合材料からチタンを識別することができます。また、競走馬の脚を見て骨に傷がないか、犬や猫の腹中に異物を見つけるなど、獣医療への応用も考えられます。そして、エレクトロニクスへの応用も可能です。デュアルエナジーは、例えば二重回路基板で金属とプラスチックを識別するのに非常に有効であるため、テレビ、タブレット、パソコンなどの検査に使うことができます。

−− 今後の課題・チャレンジについてお聞かせください。

Karim:
弊社が解決し続けている技術的な課題には、よりフレキシブルな検出器を開発することなどがあります。また、世界初のデュアルエナジーを用いた1回照射のトモシンセシス※用画像を開発しましたが、トモシンセシスと共に持ち運べるデュアルエナジーデバイスの実現も目指しています。弊社の3層構造デザインには、興味深いチャレンジとポテンシャルがたくさんあります。胸部X線以外の用途、例えばマンモグラフィーや透視検査、そしてもちろん小児科での使用も考えています。

*トモシンセシスは、乳房組織の2Dおよび3D画像を作成する新たなデジタルX線マンモグラフィーです。早期乳がんを発見するマンモグラフィーの機能を向上させます。

Amol:

シリーズBの資金調達に向けて、積極的に投資を募っています。現在ラウンドを開始しており、2,500万米ドルを調達することを目標としています。

−− 日本の企業や市場に何を期待しますか?

Amol: 

弊社は、システムインテグレーターやトモシンセシス装置を市場で販売しているパートナーを探しています。検出器を統合させ、トモシンセシスを改善することで、患者さんに最高の結果をもたらすことができるよう、協力していただきたいのです。

さらに、日本の病院と協力する機会も大歓迎です。ディストリビューターやインテグレーターの前に必要なのは、病院へ弊社の技術を導入し、現地で実際使用し、データを収集する機会です。

また、私の理解では、日本の成人のほとんどは毎年胸部X線検査を受けています。医療という側面から見ると、弊社の技術は胸部X線画像を改善するものですから、これは我々にとって強みを発揮できる機会だと考えています。肺がんや肺炎、心疾患などを早期発見することができます。そして、石灰化した冠動脈の特定などは、従来のX線検査では不可能なことですが、弊社の技術では可能です。日本では一人当たりのレントゲン利用率が高く、毎年多くの成人が検診を受けているため、日本は弊社にとって可能性が豊かな市場だと考えています。長い目で見れば、私たちの技術は病気の早期発見能力の向上を支援するでしょう。

KA Imaging Inc.についてもっと知りたいという方は、ぜひWEBサイトをご確認ください。

https://www.kaimaging.com/

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