大阪・関西エリアのイノベーションエコシステムの発展に向けて 「大阪拠点3周年記念イベント」開催レポート
2023/08/28
Plug and Play Japanは大阪拠点の設立から3年を迎えた2023年7月、大阪・関西エリアのイノベーションエコシステムを支える自治体や企業の皆様とともに記念イベントを開催しました。大阪・関西万博を2年後に控えるなか、今後どのようにスタートアップを支援し、大阪ならではの”イノベーションエコシステム”や”まちづくり”を推進していくべきかについて、ディスカッションしました。
Writer: Risa Taniguchi
Marketing Associate
大阪・関西におけるイノベーション支援
本セッションでは、さまざまな成長段階にあるスタートアップを支援する自治体・企業の皆様とともに今後のスタートアップ支援について検討しました。
(写真左から:藤本、石飛氏、市橋氏、津田氏)
Panelists
- 石飛 恵美氏: 公益財団法人 大阪産業局(OSAKA INNOVATION HUB)スタートアップ支援事業部 グローバルチーム リーダー
- 市橋 直樹氏: NTT西日本 イノベーション戦略室長
- 津田 知華子氏: 阪急阪神不動産株式会社 開発事業本部 都市マネジメント事業部 梅田事業創造グループ / GVH#5 コミュニティマネージャー
Moderator
藤本 あゆみ: Plug and Play Japan株式会社 執行役員CMO
- 大阪から生まれ、大阪で育つ
大阪では、新たなイノベーションを生み出す場・スタートアップを支援する場として、2013年から2014年にかけてナレッジキャピタル*1やGVH5#が設立されましたが、その頃には、アントレプレナーという言葉が十分に浸透しておらず、起業の重要性が世間に認知されていませんでした。それから10年の時を経て、国や各自治体がイノベーションの重要性を世に打ち出すようになり、徐々に起業の機運が高まりつつあります。大阪の経済を活性化させ、更なる発展へと導いていくためには、より多くのスタートアップが大阪から生まれ、大阪・関西エリアのエコシステムの中で成長をとげ、世界に羽ばたいていく、そしてさまざまな場所を経験した上で大阪の良さを実感し、ふるさとに帰ってくるといった風土が根付いていくことが重要です。
- 対話から生まれる顔が見える信頼関係
イノベーションへの機運が高まる中で、各企業や自治体がさまざまな取り組みを始めています。支援機関・団体が個々に独自の色を出し、差別化を図っていくことも重要ですが、支援者同士の横の繋がりを強化することで足りないピースを補い合い、より強固なエコシステムを形成していくことも重要です。各支援者が自組織のメリットのみを追求してしまうと、エコシステムが「エゴシステム」化してしまい、真に求められている支援がスタートアップに届かないという本末転倒な事態を招いてしまいます。昨年開業したQUINTBRIDGEも強くそのことを意識し、運営されており、適切な共創を促し、大阪全体の成長へと導いていくためには、支援者同士が組織の枠組を超えて顔の見える関係を構築していくことが不可欠だと考えています。それは、大阪独自のフレンドリーな県民性があるからこそ実現しうることでもあります。支援者それぞれの経験から得た知見をベースに対話を重ねることで、新たなアイデアが生まれ、支援策にも深みが増していきます。そうすることで、イノベーション機運が一過性のものではなく、継続的なものとなり、大阪独自の強みを活かしたエコシステムの発展へと繋がります。
*1 大阪市は、うめきたナレッジキャピタル内に「大阪イノベーションハブ(OIH)」を開設し、大阪・関西のポテンシャルを最大限に活用した、イノベーションの創出・支援を行っている。
大阪・関西から世界へ
(写真左から:ヴィンセント、村橋氏、堺井氏)
Panelists
- 村橋 靖之氏: 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ) 大阪本部長(関西・北陸地域統括)
- 堺井 啓公氏: 公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 担当局長(中小企業・地域連携)
Moderator
ヴィンセント・フィリップ: Plug and Play Japan株式会社CEO & Managing Partner, Japan
- 万博を契機に世界へ羽ばたく やってみなはれ、大阪で
近年、大阪ではさまざまな課題意識を持ったスタートアップが生まれ、それを取り巻く支援者の動きも活発化しています。一方で、ジェトロが毎年行っている国内スタートアップ向け海外展開支援プログラムでは、日本全国から200社を超える応募があった中で、大阪を拠点に活動する企業は1桁にとどまっており、大阪から世界に羽ばたくスタートアップを増やしていくための支援が喫緊の課題となっています。
開催を2年後に控えた大阪・関西万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、人間一人一人が、自らの望む生き方を考え、それぞれの可能性を最大限に発揮できるようにするとともに、こうした生き方を支える持続可能な社会を、国際社会が共創していくことを推し進めることを目的としています。社会課題を解決するには、解決に貢献しうる製品やサービスを世に送り出していく必要があります。万博は、これらの新たな製品やサービスの価値を関西に、日本に、そして世界に知ってもらえる絶好のチャンスです。この機会を最大限活用するためには、スタートアップだけではなく、エコシステム全体でイノベーションに取り組むことで、開発スピードを加速させていく必要があります。
万博は、184日間開催されます。会場を「People’s Living Lab(未来社会の実験場)」と位置付け、新たな技術やシステムを実証し、多様なプレーヤーによるイノベーションを誘発、それらを社会実装していくための、Society5.0 実現型会場を目指しています。スタートアップが活躍できる場面は多く、そして何よりも、新しい技術に対する人々のマインドを変革する良い機会です。さまざまなバックグラウンドを持つ人々が世界中から集まることで、ビジネスアイデアが生まれたり、新たな製品やサービスが実現することが期待されています。スタートアップのみならず、エコシステムを形成する関係者全員が一堂に会し、知識と技術を結集させることで、成長途上である大阪を”アクセラレート”していくことが求められています。
大阪には、「まずやってみる」チャレンジ精神を応援するポジティブな風土があります。また、多様な文化を創出し、歓迎する懐の深さも特徴的です。大阪ならではの良さを存分に生かして、多国籍で多様なバックグラウンドな人が集まり、新しいモノを生み出していく”まち”を作っていくことが重要です。万博をきっかけにプレゼンスを高め、ビジネスの中心地・イノベーションの中心地として更なる発展を遂げていくことが期待されています。
ひと中心のまちづくりと地域の関わり
-
(写真左から:劉、小嶋氏、巨輪氏、瞳南氏)
Panelists
- 三輪 敦氏: 鹿島建設株式会社 関西支店 開発部 事業推進グループ 担当部長
- 小嶋 隆文氏: 勝尾寺 執事
- 嶂南 達貴氏: scheme verge株式会社 代表取締役CEO
Moderator
劉 倩(キャシー・リウ): Plug and Play Japan株式会社 Director, Energy / Smart Cities
本セッションでは、さまざまな立場から人々の生活に根付いた”くらし”を実現している3者にご登壇いただき、「大阪で暮らす人々の幸せを実現する街の在り方」について見つめ直しました。
- テクノロジーと地域の価値が生み出すヒト中心のまち
人々が自らが望む場所で快適に暮らしていくためには、そこで暮らす人のニーズに対応した”まち”を形成することが必要です。一方で、急速に社会が変化する中において、人々のニーズも多様化し、個々の課題全てに100%対応することは難しくなっています。全体最適なまちづくりが進む中、テクノロジーを活用してその地域で起きていること、求められていることを適切に把握し、一人一人のニーズに寄り添う形で都市開発を行っているのがscheme vergeです。
一方鹿島建設は、建設、開発事業の立場で長年まちづくりに携わってきました。同社を含め、多くの企業が地域のまちづくりに取り組んでいますが、数ある産業課題の解決の糸口を見つけるのは容易いことではありません。同社は、長年の経験からまちづくりで今後必要とされるのは、地域と都市の間に存在する産業の課題を見つめ直すことではないかと考えています。近年、データ活用により、都市に付加価値をつけることが注目されていますが、地域で育まれた「日本の産業」そのものの価値を高めることも重要です。例えば、同社は建築を通じて地域の生産者と都市の消費者を繋ぎ合わせ、農業という産業への理解を高めるプロジェクトに取り組んでいます。企業には、自社が強みとする産業のみにフォーカスを当てるだけではなく、自社の強みを活かして他産業の課題にもアプローチしていくことが求められています。企業が持つケーパビリティやネットワークの活用、異なる産業視点からのアプローチが、多種多様な産業課題の解決に繋がっていきます。地域の資源、産業の本質を改めて見つめ直すことで、新たな発見が生まれ、イノベーションの創出、ひいてはまちと企業、人と人が繋がり、幸せを感じられるヒト中心のまちの実現が期待できます。
- デジタル × アナログで人と人とが繋がるまちへ
1300年の歴史を持つ勝尾寺は、大自然に囲まれた箕面市で古くから人々の憩いの場として存在してきました。デジタルは不可能なことを可能にしますが、依然としてデジタルでも変えられないことも多々あります。例えば、人間は無限に生き続けることはできません。明日終わりを迎えるかもしれない人生において、今現在をどれだけ楽しむことができるかが、最終的な充足感に繋がります。急速に進むデジタル化により世の中には情報が溢れていますが、時にそれは人を傷つけてしまうこともあります。また、情報が精緻になればなるほど、人間にはそれが正しい情報かを見極める能力が求められ、疲れてしまいます。だからこそ、適切かつ適度に情報を活用するとともに、デジタルから離れてデトックスする時間も必要です。
今後、世の中は最新技術により益々便利になり、さまざまな地域がデータで繋がれていくことが予想されます。多くの人は、インターネットで得た情報を自らの目で確認しにいきたいと思うようになります。一方で、その場でしか得られないリアルな人と人との繋がりを大切にしていくことこそが、その人の1日を輝かせることに繋がります。デジタルを介して実現し得た未来に最大限の幸せを付加し得るのは「人間の心」です。大阪に住む人々が今日という1日を輝かしい日にする、今日という1日を”LIVE”できる、それが真のスマートシティです。
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Plug and Play Japanは「コンソーシアム型プログラムの提供」「グローバルネットワークを活かしたアクセラレータープログラムの提供」、そして「ベンチャーキャピタル投資によるスタートアップ支援」を強みとしており、革新的な技術やアイデアを持ち合わせるスタートアップと大手企業との共創を支援することで、イノベーションプラットフォームの構築を目指しています。『イノベーションをどこでも、誰にでも』のミッションのもと、今後も、こういったイベントを通じた大手企業とスタートアップの協業支援を行ってまいります。