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スタートアップ連携による社会イノベーション事業創生 -日立製作所

2024/02/08

「社会イノベーション事業」を成長の原動力と位置付けている日立製作所。Plug and Play の企業パートナーとして、2018年からオープンイノベーションに向けた活動をおこなっています。110年以上の歴史を通して常に革新を続けてきた同社が、どのような観点でスタートアップへの投資や協業に取り組んでいるか話を聞きました。


Interviewee


ハン チャンホウ氏

(写真中央右)

デジタルシステム&サービス統括本部 経営戦略統括本部 事業開発本部 主任


北野 盛子氏

(写真中央左)

デジタルシステム&サービス統括本部 経営戦略統括本部 事業開発本部 主任


熊谷 貴禎氏

(写真右から2人目)

イノベーション成長戦略本部 コーポレートベンチャリング室 イノベーションマーケティング部 部長


柳下 大輔氏

(写真右)

イノベーション成長戦略本部 コーポレートベンチャリング室 イノベーションマーケティング部 主任


コーポレートベンチャリングと事業開発の両輪

ーーオープンイノベーションに取り組むことになった経緯はどのようなものですか?

熊谷氏:

現代社会が抱える課題に対して、従来の産業構造に依拠したアプローチは有効ではなく、また日立単体で解決策を見出すことは困難です。多様かつ複雑な社会課題の解決には、スタートアップとの協業を含めた多面的なアプローチが必要不可欠であるという認識が、オープンイノベーションに取り組むことになったきっかけです。

(熊谷 貴禎氏)

ーーオープンイノベーション推進におけるミッションと社内体制について教えてください。

熊谷氏:

コーポレートベンチャリング室と日立ベンチャーズが日立グループの CVC の役割を担っています。コーポレートベンチャリング室は、日本 10 名、海外 3 名の体制で、イノベーション成長戦略本部として、スタートアップとのコラボレーションを通じたイノベーションの創出に挑戦しています。また日立ベンチャーズはスタートアップへの出資を担当しており、グローバルで 20 名弱ほどが在籍しています。

北野氏:

経営戦略統括本部のオープンイノベーション推進チームでは、デジタルシステム&サービスセクターの事業開発の役割を担っており、イノベーションの起点となっているスタートアップとの協業を通じて、テクノロジーやビジネスモデルなど新事業の芽を自社に取り込むことをミッションとしています。スタートアップやトレンド情報の収集、社内への情報発信やイベントを通じたマインド醸成、事業部と連携した具体的なスタートアップ協業プロジェクトの推進、以上3つを活動の柱に掲げ、メンバーは日本 5 名、シリコンバレー2 名の体制で、双方が密に連携しながら活動を推進しています。

(北野 盛子氏)

ーーそれぞれどのような目標を設定しているのでしょうか?

熊谷氏:

社会課題解決をめざした中長期的な事業創生は、コーポレートベンチャリング室が担当し、より直近で事業課題の解決は経営戦略統括本部が担当する形になっています。また各事業部内で、スタートアップとの窓口を独自に持っている部署もあります。

組織として集約はしていないですが、日立グループ全体としての情報連携と意思統一は図れています。例えば、有望なスタートアップの情報を社内で共有し、適切な部署がコラボレーションしていくことのできる体制を敷いています。

ーーPlug and Play設立当初から弊社のイノベーション・プラットフォームにご参画いただいています。どういったことを期待して参画されたのでしょうか?

北野氏:

日立の事業領域は、デジタル、モビリティ、エネルギーなど多岐に渡っています。そのため、様々な分野の業界トレンドや関連技術、各業界にどのようなスタートアップがいるのか等の情報が集約されていて、実際にスタートアップとの繋ぎ込みまでしていただけるPlug and Play のイノベーション・プラットフォームはとても魅力的でした。加えて、Plug and Play が持つ、企業のオープンイノベーション活動を支援する各種サービスは弊社にとって大変効果があり、実際に多くの取り組みで活用しています。

1つの例として、事業部門の若手層に対して、新規事業創生のノウハウ獲得やマインド向上を目的としたワークショップを Plug and Play と共同で開催しました。Plug and Playの渋谷のオフィスをお借りし、普段と違う環境で実施したことで、自由闊達な意見交換の場にもなりました。同じ事業部門においても、普段の仕事が異なるとなかなか横の連携が無い事も悩みの一つであり、このようなワークショップイベントを開催することで、事業部門全体としてイノベーションマインド醸成の底上げに繋がるイベントになったと感じています。

(Plug and Play Japan渋谷オフィスにて行われた日立製作所社員に向けたワークショップの様子)

メンバーの自発性をうながすグループを組成

ーーSIG(Special Interest Group)とはどのような取り組みですか?

熊谷氏:

日立グループ横断でイノベーションの機会を特定する取り組みです。毎年テーマを変えて、関心のあるメンバーが横断的に集まります。昨年はメタバース/web3、今年は生成AIをテーマとしており、27 部門から約 200 名が集まっています。スタートアップとの対話を通じて Outside-in (*1)で学びを獲得しながら新しい事業機会を獲得していく取り組みを、半年程度実施しました。その一環としてピッチイベントを Plug and Play と共同で開催させていただいており、これがスタートアップとのコラボレーションにあたって有効に働いていると考えています。

*1) アウトサイドイン:問題解決などに対する「外側から内側」のアプローチ

ーーリバースピッチ (*2)イベントにおいて、工夫された点と苦労された点はどのようなところでしょう?

熊谷氏:

7か国から15社のスタートアップに参加いただいて、リバースピッチやネットワーキングを開催しました。対面イベントはスタートアップとの協業を探るにあたって相互理解を深める重要な機会となりました。

苦労した部分は、進行中のプロジェクトについてどこまで踏み込んで話せるかを事業部と調整する点です。新規事業プロジェクトはその多くがトップシークレットです。スタートアップの皆さんに新規事業の魅力を伝えるために、可能な限り細部まで話すことに心を砕きました。

ピッチ後のネットワーキングではスタートアップとの直接の対話で、より踏み込んだ具体的な議論ができました。リバースピッチの 1 ヶ月後に、スタートアップから協業の提案をいただきました。事業部からは「自分たちが考えもしなかった角度から新しいアプローチの解決策を提案いただき、非常に学びになった」という感想を聞くことができました。またスタートアップからも、「日立は組織が大きくてどんな事業をやっているのか分からなかったが、個別事業の担当者と直接会話することで、事業イメージや協業の可能性について理解できた」というコメントを頂きました。

*2) リバースピッチ:スタートアップが協業パートナー候補となる大手企業に対して自社をアピールする通常のピッチ形態とは逆に、大手企業側が自社の事業内容や新規事業として取り組みたい興味・関心領域をプレゼンし、スタートアップ側から提案を募るピッチ。

スタートアップと事業部との仲介役として

ーー経営戦略統括本部の方ではどのような取り組みがありますか?

ハン:フランスに拠点をおくスタートアップ、EverImpact社との協業を推進しています。日立のグループ会社である日立システムズが「グリーン×デジタル」というテーマで協業できるスタートアップを探していた際にPlug and PlayからEverImpact社を紹介していただきました。

EverImpact社は衛星データ・地上センサーデータを活用し、温室効果ガス排出量の可視化、CO2クレジット認証・取引のプラットフォームを提供しています。経営戦略統括本部では EverImpact社と日立システムズの双方と連携しながら、両者による協業の議論を進めてきました。具体的には技術検証のスケジュールや事業プランの策定、実証実験の進め方や役割分担などについて、隔週でのオンラインミーティングを3か月間にわたって実施しました。EverImpact社と日立システムズは、森林のCO2吸収量を可視化し、森林計画と組み合わせることで、カーボンクレジットの創出量を算出する実証実験を行いました。

今後は実証実験の結果をもとに、自治体、森林組合、森林保有企業を対象に、カーボンクレジットの創出から取引まで一括して支援する新規事業構想を策定していく予定です。

ーー協業を促進する立場として、事業部へはどのような働きかけをおこなっていますか?

柳下氏:

これまで開催してきたイベントにおいて、参加スタートアップの半数は海外からの参加となりました。彼らの日本市場に対する期待や事業計画については、CVCとしてきちんと分析しなければいけません。また、言語の壁を感じさせないよう社内のメンバーのサポートもしています。

さらに、スピード感の調整も大事です。スタートアップの多くは非常にスピードが早いので、数週間、あるいは 1 ヶ月も日立社内でのディスカッションに時間がかかってしまうケースに不満や不安を抱かれることがあります。その間はCVCがこまめにスタートアップと連絡を取り、状況を伝えることに努めています。これはスタートアップとの信頼関係を維持していく上で最も重要なファクターだと思います。

(柳下 大輔氏)

ハン氏:

わずか数年前までは自社で開発したプロダクトをできる限り活用する、という文化が根強く残っていました。しかし現在、弊社のような企業よりもスタートアップの方が、ある特定分野においては投資規模が大きい場合も多々あります。また、現在、どの業界であっても市場の変化が非常に早く、日立のような巨大な組織では中々対応しきれていない部分も多くあります。このような環境の変化に対応するためには、市場の最先端で試行錯誤を繰り返しているスタートアップとの協業が必ず必要であると考えております。ですので、事業部側にはスタートアップとの協業の必要性も含め、協業の流れなどを丁寧に説明し、スタートアップを受け入れやすくするようサポートしています。

(ハン チャンホウ氏)

柳下氏:

社内でおこなっている研究や開発に対して、同じ技術を持つスタートアップを紹介してもバッティングしてしまうので、社内の技術とのシナジーを説明することを心がけています。「このような場面でこういう風に使えるのではないか」と具体的なアイデアを提示することが大事です。複数のスタートアップが似たような技術を持っている場合は、少なくとも3 回は事業部とディスカッションを実施し、各社の技術の違いについて理解を深めていくことを意識しています。

ーーこれから日立製作所との協業を希望するスタートアップに対して、メッセージをお願いします。

熊谷氏:

日立は、社会課題の解決をめざした社会イノベーション事業に注力しています。そこでは、スタートアップが持っている将来ビジョンや課題解決のアイデアが重要となります。社会課題に挑戦する先進地域や分野での知見や先端技術を持つスタートアップの皆さんとの協創で社会に新たな価値を提供するイノベーションの創出にチャレンジしていきたいと考えています。

ハン氏:

日立も100年前には5馬力モータの製造から始まった、元はというと小さなスタートアップでした。現在同じ立場で市場の最先端で活躍されているスタートアップの皆さんをいろんな角度で応援しながら、新しいことに一緒にチャレンジしていきたいと考えています。お互いを学び、尊重しながらwin-winの関係を構築することをめざしていきたいです。

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