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日本のエネルギー業界を改革する海外のスタートアップ4社

2024/01/29

脱炭素時代のいま、環境やエネルギー分野のスタートアップやベンチャー企業は、最も勢いのある領域のひとつと言えます。なかでも、世界にはエネルギー関連産業・サプライチェーン全体にイノベーションを起こすことを目指すスタートアップが数多く存在し、その影響は日本にも及びつつあります。

今回は、2023年にグローバルなエネルギー業界で注目を集めた主なスタートアップの資金調達や、2024年の重要キーワード、そしてグローバル進出を積極的に目指している最先端のスタートアップ4社をご紹介します。


Seoyeong Lee

Marketing Intern


2023年エネルギー系スタートアップの資金調達

再生可能なエネルギーへの変換と持続可能なエネルギー戦略への関心が高まる中で、2023年はグローバル市場でエネルギー産業のスタートアップへの資金調達が多かった1年でした。その中でも、今年特に注目を集めたスタートアップをいくつか紹介します。

グリーン水素(Green Hydrogen)

多くのVCや投資家が注目しているテーマに「グリーン水素」があります。グリーン水素とは、再生エネルギーから製造するためCO2を排出せず作られる水素です。脱炭素の必要性と関心が高まる中で、2023年はグリーン水素関連のスタートアップへの大きな資金調達が目立ちました。

代表的な例として、TPG Rise Climateの主導によるOhmium Internationalへの2億5000万ドルのシリーズC資金調達がありました。米国スタートアップのOhmium Internationalは、100%再生可能エネルギーを使用するプロトン交換膜(PEM)電解槽を開発・製造しています。

また、2023年10月に3億8000万ドルのシリーズC資金調達を完了したElectric Hydrogenも、水素電解装置を製造する米国拠点のスタートアップです。同社は低コストで大量のグリーン水素を製造できる設備と技術を研究し、グリーン水素製造のコスト削減に注力しています。

エネルギー貯蔵(Energy Storage)

クリーンエネルギーに対する投資が活発化する中で、エネルギー貯蔵システムを開発するスタートアップへの資金調達も多く行われました。エネルギー貯蔵技術を開発するOur Next Energyは、2023年2月に3億ドルのシリーズB資金調達を完了しました。同社はEVなどに使われる高性能のバッテリーセルなど、エネルギーを低コストで効率的に貯蔵できる技術を開発しています。

カーボンニュートラル燃料(Carbon-Neutral Fuel)

脱炭素の必要性に伴い、製造から使用までの過程において温室効果ガスやCO2を排出しない燃料である「カーボンニュートラル燃料」も注目を集めています。輸送の脱炭素化に特化したAmogyは、高効率のアンモニア発電技術を開発するスタートアップです。Amogyは2023年3月に139億ドルのシリーズB資金調達をクローズしました。

Plug and Playが選ぶ2024年注目のキーワードとスタートアップ

それでは、Plug and Playでエネルギー領域を担当するチームが選定した2024年のキーワードと、それぞれの分野に取り組む海外スタートアップを紹介します。

・エネルギー管理(Energy Management)

再生可能なエネルギーの多様化、CO2排出削減などの環境目標に対応することは、最も重要なエネルギー戦略の一つです。エネルギー戦略を立てるための基盤となるのが、エネルギー利用状況を把握し、需給を最適化することで、エネルギーを効率的に使用できるようにする「エネルギー管理(マネジメント)」です。近年は、IOTやブロックチェーンを活用した仮想発電所(バーチャルパワープラント、VPP)、デマンドレスポンス、P2Pトレーディングなど、多様なエネルギー管理技術が注目を集めています。これらの技術は、電力需給のバランスをよくすることで、社会のエネルギーの効率化と安定化、そして環境課題の解決にも貢献します。

 

SunContract:ブロックチェーンベースの個人向けP2P電力取引プラットフォーム

#ブロックチェーン #P2P電力取引 

現在のエネルギー市場は、少数の企業に依存する従来の中央集中型の構造で形成されています。そのため、遠距離での高いエネルギー伝送コストが必要で、今後大きく増加する電力需要に十分に対応できないなどの課題を抱えています。このような課題に対処するためには、地産地消の分散型のエネルギー需給モデルへの転換が必要です。

SunContractは、追加ハードウェアなく簡単に利用できるP2P取引プラットフォームを提供します。地域バランシンググループを結成することで、発電者から電力を調達し、需要者に安定供給するシステムを実現しました。

このシステムの需要者側のメリットは、ブロックチェーン技術で発電情報・受電情報の紐付けを可能にしたため、ユーザー間で直接価格を設定し、電気代を最大20%削減できることです。発電者側のメリットは、余剰電力を同社に売るか、他のユーザーと直接価格協定で売るかを選ぶことができ、エネルギー収入を最大20%増加できることです。

効率的で公平なエネルギー流通モデルの確立に貢献するSunContractは、アジア等のグローバル展開も積極的に目指しています。

 

・循環経済(Circular Economy)

急速に進行する世界の人口の増加と都市化に対応するためには、生活のあらゆる場面で発生する廃棄物をより効率的で持続可能に処理できる廃棄物管理システムが必要不可欠です。ここで注目すべきなのが、再生可能な経済システムを実現する「循環経済」の仕組みです。循環経済では、製品や材料を再利用することで、廃棄物と炭素排出を削減します。エネルギー業界では、エネルギーサプライチェーンから排出される様々な副産物・廃棄物を最大限に再利用し、より持続可能に処理できる工夫が活発に行われています。循環経済に関するより詳しい情報は、こちらの記事をご覧ください。

 

SGH2 Energy:廃棄物類を原料に低コストの持続可能な水素を製造

#グリーン水素製造 #脱炭素

水素は使用過程においてCO2を排出しない点で、脱炭素に向けた次世代のエネルギーとして注目されています。その中でも、既存の水素製造技術水電解は再生可能エネルギーを使うため、環境に優しい製造過程で作られたグリーン水素が、特に重要になっています。製鉄や輸送などの産業の脱炭素のために必要不可欠なグリーン水素ですが、普及するにはコスト低減と安定かつ持続性の確保が必要です。

SGH2 Energyは、NASAの科学者と共同開発したプラズマ強化ガス化技術(SPEG)を活用して、廃棄物類を原料に低コストで安定した持続可能な水素を製造する技術とソリューションを提供するスタートアップです。対象となる廃棄物には、森林バイオマス、農業残渣、都市廃棄物 (MSW)、紙類、布製品、プラスチック等があります。同社の水素製造ソリューションは、ガス化によって生成される熱を利用するためエネルギー効率が高く、安定的に原料調達ができて、製造コストが低いなどの利点があります。

 

・エネルギー貯蔵(Energy Storage)

再生可能エネルギーは、天気や原材料の調達などの外部の要因に大きく影響されるため、生産の安定化におけるエネルギー貯蔵の役割が非常に重要です。そのため、近年では長時間の貯蔵が可能なエネルギー貯蔵技術やソリューションの開発が世界的に活発化しています。エネルギーを効率よく、安定的に、低コストで貯蔵することは、再生可能なエネルギーの利用効率と普及率を高めるために欠かせないエネルギー戦略になっているのです。

Noon Energy:CO2を材料とする次世代蓄電池「炭素-酸素電池」を開発

#エネルギー貯蔵 #蓄電池

現在、再生可能なエネルギー貯蔵の主流になっているのはリチウムイオン電池ですが、大規模導入におけるコストや安全面の課題があり、環境破壊の恐れも残っています。このようなコスト・安全・効率面の課題を解決できる蓄エネルギーソリューションを提供するのが、NASAのスピンオフスタートアップであるNoon Energyです。

Noon Energyは、CO2を材料とする次世代蓄電池である「炭素-酸素電池(carbon-oxygen battery)」を開発しています。この電池は原材料が安価のCO2であるため、脱炭素に貢献すると同時に、従来のリチウムイオン電池の1/10までコストを低減できます。また、小型の電池で100時間以上の長時間貯蔵が可能なのも大きな特徴です。

米国の政府機関や多くのサポーターから注目されているNoon Energyは、一緒にエネルギー貯蔵の変革をもたらすグローバルのビジネスパートナーを積極的に模索しています。

 

Brill Power:バッテリーパック中のセルの電流制御技術と独自のBMSでバッテリー長寿命化を実現

#バッテリー長寿命化 #バッテリーマネジメントシステム(BMS)

バッテリーパックは複数のセル(モジュール)の集合体であるため、セルごとに劣化する速度が異なります。そのため、実は寿命が終わったバッテリーパックの中の50%以上のセルがまだ使用可能な状態で、その分の資源浪費が発生しています。

Brill Powerは、オックスフォード大学の研究成果を元にスピンオフしたスタートアップです。特許取得済みのセルレベル電流制御技術独自アルゴリズムを通じて、バッテリー長寿命化を60%まで向上させるバッテリーマネジメントシステム(以下BMS)を開発しました。同社の技術は化学的性質に捉われないため、EVバッテリーや定置型バッテリーにも適用可能です。セル間のエネルギー配分を等しく維持する均等化技術や、独自のモニタリング・アルゴリズムを利用したバッテリー用OS(オペレーティング・システム)は、同社の圧倒的な強みだと言えるでしょう。

独自の技術とBMSでバッテリー寿命の新しい可能性を示すBrill Powerの今後の活躍に要注目です。

エネルギー分野のグローバル協業事例

1. 東急不動産 & SolarDuck:都市のエネルギー問題を解決する国内初の洋上浮体式太陽光発電

脱炭素化に積極的に取り組む国際企業連合「RE100*」に加盟している東急不動産は、CO2排出量削減のために陸と海の両方での再生エネルギー事業に取り組んでいます。東急不動産はPlug and Playの企業パートナーとしてEnergy領域のアクセラレータープログラムに参加し、オランダのスタートアップであるSolarDuck B.V.と出会いました。

SolarDuckは、「洋上浮体式太陽光発電で世界を電化する」というビジョンに向け、独自の最先端技術を駆使して地域の要件に合わせた洋上太陽光発電を行っている企業です。両社が協業して提案した技術実証実験は、東京都政策企画局が主導する『東京ベイeSGプロジェクト』の先行プロジェクトに採択されました。

・関連リンク: 東急不動産×SolarDuck 協業事例インタビュー

*RE100: 使用する電力の100%を再生可能エネルギーにすることに取り組んでいる企業が加盟している国際的な企業連合

2. Simply Energy & Sapient

ニュージーランドの主要なエネルギー会社であるContact Energy。再生可能エネルギーの大手発電事業者である同社の子会社Simply Energyは、Plug and PlayのDealflow(ディールフロー:個別紹介)を介して、エネルギー管理システムを開発するSapient Industriesと出会いました。

Sapientの数千台のスマート・コンセント・デバイスをビル全体に配備し、スマートプラグに差し込まれた機器の電力消費データをライブで収集し、電力使用状況を追跡・管理します。接続機器の種類や使用状況を機械学習によって検出し、データをもとに使用量を予測することができます。ビルのオーナーは使用されていない機器を特定し、ビルの光熱費総額を8~12%削減し、環境負荷の低減を実現します。スマートプラグを介して収集されたエネルギー使用データは、コストを大幅に削減・最適化するためのインサイトを生成します。

・関連リンク: The Success Story of Simply Energy & Sapient(英語)

3. Vienna Airport & Sitemark:ソーラーパネルの運用評価を向上させるドローンとソフトウェアプラットフォーム

オーストリアの最大空港であるウィーン国際空港は、エネルギー効率を向上させるためにソーラーパネルを空港に設置しました。これらのソーラーパネルは、手動式の赤外線カメラで不定期に管理されてきましたが、この方法では7万個以上のソーラーパネルの運用状況を把握するには不十分でした。

Plug and Playの紹介を受けたウィーン空港のテクノロジーチームは、Sitemarkと協業してプロジェクトを行いました。Sitemarkは、太陽光発電のあらゆるプロセスをデジタル化するソフトウェア・プラットフォームを開発するスタートアップです。

Sitemarkはドローンを用いてウィーン空港のソーラーパネルの運用データを収集。その情報を独自のソフトウェアで分析し、ソーラーパネルの運用状況や発電時のエネルギーロスの費用を計算することができました。

太陽光発電の効率性を向上させるための両社の共同の取り組みは、現在もより拡大して進行しています。

・関連リンク: The Success Story of Vienna Airport and Sitemark(英語)

まとめ

本記事では、エネルギー業界のスタートアップ/ベンチャーのトレンドを紹介しました。Plug and Play Japanでは、これ以外にもエネルギーベンチャー関連のトレンドや情報、協業事例を多数紹介しています。詳しくは下記をご覧ください。

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