次世代の発電事業者と共に、持続可能な電力の未来を創るーTensor Energy
2024/07/17
持続可能なエネルギーの重要性が増し、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の普及が進む一方で、発電の安定性とコスト効率が課題となっています。Tensor Energyは「テクノロジーとパートナーシップで持続可能なエネルギーの未来を創る」をミッションに、再エネの発電事業者をテクノロジーの面からサポートする、事業運用最適化プラットフォームを開発しています。Plug and Playは、再エネ業界の課題を解決し、未来のエネルギー社会に大きな影響を与えるサービスを提供するTensor Energyに可能性を感じ、2024年1月に出資をいたしました。今回、Tensor Energy代表である堀氏に、Tensor Energyが提供するサービスの特徴や事業立ち上げの背景、将来の展望などについて伺いました。
Megumi Shoei
Marketing Manager
プロフィール
Interviewee: 堀 ナナ氏
Tensor Energy株式会社 代表取締役Tensor Energyは「人に寄り添うデザイン、テクノロジーとパートナーシップによって、持続可能なエネルギーの未来を創る」をミッションとして、再生可能エネルギー発電事業向けのオーケストレーションプラットフォーム、「Tensor Cloud」を運営する会社です。再生可能エネルギーと蓄電池の発電所の計画から、30年にも及ぶ運転期間において、スピーディーにスケーラブルに発電事業の財務と電力の管理を支えることで、持続可能なエネルギーを必要なときに必要なところへ届ける世界の実現を目指しています。
Interviewer: 松井 陽菜
Plug and Play Japan Ventures Analyst京都府出身。ロンドン大学シティ校会計金融学部にて学士号、慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科にて修士号を取得。外資系消費財メーカーでセールスアカウントマネージャー、国立環境研究所地球環境研究センターでリサーチアシスタントを経験し、2022年よりPlug and Play Venturesに参画。主な関心領域はSustainability, Smart Cities, Health等。
ーー事業概要を教えてください。
再エネ発電所の開発、資産管理、そして運用の最適化を支援するクラウドプラットフォーム「Tensor Cloud」を展開しています。AI技術を活用することで、発電所と蓄電池の運用を最適化し、発電量の予測精度を向上させ、収益性を高めることが可能です。
現在は太陽光発電や蓄電池などの再エネ発電所を運営する事業者向けにサービスを提供していますが、今後は風力発電など他のエネルギー発電事業者にも対応を拡大していきたいと考えています。
ーー「Tensor Cloud」の特徴について詳しく教えていただけますか。
Tensor Cloundには高速な財務モデルの自動生成機能もあり、発電所やPPA(電力販売契約)のシナリオ比較も簡単にできます。例えば、発電所の情報やPPAを入力するだけで、わずか1分で財務モデルを作成することができますし、最大50年分の予測損益計算書や貸借対照表、キャッシュフロー計算書を1分程度で作成でき、変更があった場合にも、リアルタイムで反映されます。
Tensor Cloudでは、AIを駆使して発電所と蓄電池の充電・放電スケジュールを最適化することで、電力市場や支援制度を最大限に活用し、利益を最大化することができます。
また、各発電所に個別最適化されたAIモデルを用いることで、数日前からゲート閉鎖の直前まで30分単位で発電量予測を更新したり、7日後までのJEPXのスポット価格をエリアごとに予測したりするなど、高精度な発電および価格予測が可能です。これにより、発電所の運用効率を最大限に引き上げられるだけではなく、収益を最大化したり、需給不一致リスクを低減したりすることができます。
さらに、Tensor Cloud上で財務会計から運用、売電まで、すべてのデータを一元管理でき、かつリアルタイムでデータが更新されるため、管理の手間を大幅に削減できる他、データの透明性や信頼性も確保できます。例えば、事業計画や月次の予実管理など、できるだけ自動化することで、大きく業務コストを削減しながら、より精緻に財務管理ができるため、銀行や投資家の方々などがより安心して投資や出資、融資を決断することが可能になります。
ーーエネルギー業界に携わる前は映画プロモーターだったとか。エネルギー業界に関心を持つきっかけは何だったのでしょうか。
2011年の東日本大震災で福島第一原子力発電所が停止し、その影響で関東では電力が不足し、東京電力管内で輪番停電*2が実施され、当時住んでいた地域は対象外でしたが、道を挟んで向こう側の街の灯が消え、電車の本数も減り、異常な状況でした。この経験から、人々の暮らしを支える水や食べ物、家、そして生活のインフラとなるエネルギーの供給が滞ることで、人々は不安と恐怖に陥り、資源を巡る争奪戦が起こりうると痛感したことがきっかけです。今後何十年、何百年先も人々へ平等に持続可能なエネルギーを提供することに貢献していきたいと強く思いました。
その後、再エネを専門とする米国の戦略系コンサルティングファーム(以下、戦略系コンサル)に蓄電池業界のアナリストとして入社しました。
突撃でアポを取り、中国の蓄電池工場に視察に行きしらみつぶしに調べたり、蓄電池のコストロードマップを作成し、膨大なデータを分析したりと、新しい業界でのチャレンジが楽しく、毎日無我夢中で働きました。
ーー戦略系コンサルを経て、なぜTensor Energyを起業しようと思ったのでしょうか。
入社して2年が経とうとしていたタイミングに、日本で再エネの固定買取制度*1が始まり、再エネの需要が急増しました。ニーズの高まりをうけ、コンサルとして事業者向けに国内の太陽光発電の市場調査や新規事業参入戦略、事業開発など上流から下流まで一気通貫で入らせてもらう仕事に携わることが増えました。その数年後に、クライアントと共に日本で事業会社を作ろうという話になり、コンサルからスピンアウトする形で、再エネの発電事業会社を立ち上げました。
プレイヤーとマネジメントの役割の狭間に悩みながらも、創業メンバーとして泥臭く働いていましたが、立ち上げて数年後に会社が100人を超えて大きくなり、一区切りついたことで退社を決め、一年ほどエネルギー業界からは離れていました。ただ、離れたことで再エネへの湧き上がる情熱を再確認することができ、また民間企業による、再エネ電力を調達したいという意欲の高まり、制度改正の動きを目の当たりにして、もう一度チャレンジしようと思い、コンサル時代からの仲間と一緒に、Tensor Energyを立ち上げました。
ーー10年以上にわたりエネルギー業界に携わってきた中で、なぜ日本における再エネの普及は欧州よりも遅れているのでしょうか。
欧州は1990〜2000年あたりから新自由主義の流れで様々な国営企業の民営化や規制緩和が行われる中で、電力の自由化にも力を入れており、電力市場は洗練されていき、さまざまな取り組みが日本に比べて先行しています。特に電力市場の取引や電力オペレーションに関しては、現時点では日本ではあまり知見が蓄積されていないため、大幅なキャッチアップが必要だと感じています。
欧州に追いつかなければいけない部分が多い一方で、この10年での日本の成長は目覚ましいものでした。ここからさらに日本が成長していくためには、ファイナンス面でいかに精緻に予測をし、丁寧に財務面を管理し、そして継続的にお金が流れる仕組みを作っていけるかだと思います。
また、日本の再エネが普及・発展していくうえでは、国内で競い合っていくのではなく、エネルギー業界にいるプレイヤー全員で新しい市場を作り、盛り上げ、海外に一緒に進出させていくことが重要だと考えています。
ーー海外マーケットへの展開など、今後の展望について教えてください。
現在、国内では大手リース会社や電力小売業者によるPPA(電力販売契約)モデルでTensor Cloudを採用した例では、12カ月で発電所の数を6カ所から107カ所に増加しており、サービス全体では158カ所の発電所に採用されています。今年度末までには、400カ所への展開を目指しています。
また、2024年6月には、熊本で太陽光発電に併設された蓄電池の運転がスタートし、Tensor Cloudが運用プラットフォームとして採用されています。特に、太陽光発電の導入量が多い九州エリアでは、昼間には発電量が需要を上回ってしまうため、発電所を止める出力抑制が頻発しています。そこで蓄電池を併設し、充放電を最適化することにより、出力制御の影響を抑制し、需給バランスの安定化に貢献するとともに、再生可能エネルギーを最大限活用することを目指しています。今も多数お問合せを頂いており、引き続きこういった取り組みを支援し、一年で10件、20件と運用プラットフォームとしての採用例を増やしていきたいです。
また海外展開に向けた取り組みも始めています。Plug and Play APACと連携して、東南アジアを中心に少しずつ事前調査を始めているところです。依然として規制が強い国もあるため、しっかりと市場調査を実施し、事業戦略をたてながら、現地企業に少しずつ提案をしていきたいと考えています。さらにアメリカでもカリフォルニアやテキサスは太陽光発電の導入が増えてきており、九州に近い課題が出てきています。この2-3年の蓄電池の導入量も毎年倍になってきているので、進出の機会を伺っているところです。
規制関係の動きにもよるので一概には言えませんが、来年末くらいには海外拠点を設立できると良いなと考えています。
ーー今回なぜPlug and Playからの出資を受けていただけたのでしょうか。
Plug and Playとの出会いは、アクセラレータープログラムWinter/Spring 2023 Batchで採択されたことがきっかけです。プログラムでは、参加されている大手企業と事業面で被る可能性もあったのですが、スムーズに橋渡しをしてくださり、そこで出会った企業の皆様とは今でも良い関係が続いています。また、弊社が進出しようとしているマレーシア含め、Plug and Playさんは、グローバルでの幅広いネットワーク力があるので、パートナーシップを組むうえで強い魅力を感じました。
ーー現在、採用にも注力されていると伺いました。どんなメンバーと一緒に働きたいですか。
コミュニケーション能力が高く、幅広いステークホルダーの方々と均衡を取りながら話を進めていける、かつ自分でプロジェクトをドライブしていける力がある方を求めています。電力オペレーション事業を展開している企業は、自社内でデータ管理などのアセットを抱えがちであり、事業内容も弊社のサービスと一部被る場合もあります。一方で、弊社としてはエネルギー業界全体を一緒に盛り上げていきたい気持ちがあるので、事業会社との協業ストーリーを自ら描ける人だとフィットするように思います。
また、エネルギー業界は高い専門知識が求められる印象を持たれ、応募を躊躇してしまう方もいるかと思いますが、知識やスキルに関しては入社後にキャッチアップできますので、まずはエネルギーに対して情熱を持っている人と一緒に働きたいですね。
エネルギーという社会・経済・そして人々の生活を支えている大きな産業が、100年に一度の大きな節目を迎えています。このダイナミズムを感じながらチャレンジできる、エキサイティングな時期だと思いますので、ぜひ一緒に挑戦していただける方をお待ちしています。
*1固定買取制度:再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを. 国が約束する制度(引用:固定価格買取制度 – 資源エネルギー庁)
*2輪番停電:地域ごとに順番を決め、計画的に停電させること(引用:輪番停電とは – 日本経済新聞)