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Startup x Partner Interview | Resonai, Inc. x 東海旅客鉄道株式会社

2021/11/01

イスラエル発スタートアップのコラボから見えてきた可能性。JR東海とARプラットフォームを提供するResonaiの挑戦

東海旅客鉄道株式会社(以下、JR東海)は、2020年7月にイノベーション推進室を立上げ、初の海外スタートアップとの共創事例として、2021年3月にリニア・鉄道館にAR(拡張現実)技術を用いた鉄道車両説明ツアーや、VR(仮想現実)技術を活用した
体験コーナーを期間限定で設置しました。その1つとしてイスラエル発のスタートアップであるResonai, Inc.(以下、Resonai)と協業し、AR技術を活用した「鉄道車両説明ツアー」を実現。今回のインタビューでは、協業の背景や、Resonaiが有するテクノロジーの特徴、今後の展望などについてJR東海 イノベーション推進室の本小輝晃氏とResonai CEOのEmil Alon氏、エンジニアのShai Ghelberg氏にお話を伺いました。


本小輝晃 氏

東海旅客鉄道株式会社 総合技術本部 技術開発部 イノベーション推進室

2009年、新卒でJR東海に入社。入社以来、在来線・新幹線・リニア中央新幹線の各部署で機械設備の設計・建設・保守業務に従事する。その後、2020年1月から「イノベーション推進室」の立ち上げに携わり、2020年7月の立ち上げ後からは、様々な企業とのコラボレーションや長期ビジョンづくりといったイノベーション活動を推進している。


Emil Alon 氏

Resonai, Inc. 創業者 兼 代表取締役

2005年に検索および自動広告エンジンとコンテンツ推薦プラットフォームを提供する Collarityを創業し、創設者 兼 CTOを務める。その後、2015年にFacebookが買収した、VR/ARセンシングプラットフォームPebbles InterfacesのCEOを務めた後、Resonaiを創業。検索と3Dの分野で18件の特許を取得。


Shai Ghelberg 氏

Resonai, Inc. テクニカルプロダクトマネージャー

エルサレムのブライ大学とベザレル大学の共同プログラムでコンピュータサイエンスと写真を専攻。Resonaiの創業期に入社し、フロントエンドの開発者としてスタートし、現在はVera製品の開発を担当。ソフトウェアエンジニアとして、パフォーマンスの高いアプリや拡張性の高いソリューションを実現するための3Dビジュアライゼーションツールや管理者用ツールの開発をリードしている。お客様と近い距離でニーズを汲み取り、長年培った技術力を活かしVeraの開発に携わっている。


ーーJR東海にとって初の海外スタートアップとの協業ですが、協業に至った背景について教えてください。

本小氏:

「20~30年後の未来への種探し」をミッションに掲げ、2020年7月にイノベーション推進室が立ち上がりました。バックキャスティングとして長期的な視点で考えつつも小さく始めるために、これまでのような大手企業との協業に加えて、スタートアップとの協業も必要だと考えました。
さまざまな企業と協議する中で、デジタルツインやその構成要素である点群データに可能性を感じ、当社が運営するリニア・鉄道館で点群データを活用した実証実験を進めていくことになりました。

とはいえ、これまでスタートアップと協業する機会がほとんどなかったため、アプローチ方法が分からず困っていた時に、Plug and Play JapanでMobility Directorをされている江原さんにセミナーで出会い、ご相談させてもらったことがきっかけです。
その後数回の打ち合わせを重ね、2021年3月上旬にお客様や関係役員向けに体験会を実施することを目標に掲げ、スタートアップソーシングを行ってもらい、Resonaiと出会いました。Resonaiは容量の重い点群データをリアルタイムで処理しつつ、ARナビゲーションができる技術を有しており、まさに私たちが求めていた技術であったため一緒にプロジェクトを進めていくことになりました。

ResonaiのAR技術を活用した「鉄道車両説明ツアー」では、専用のアプリをダウンロードしたスマートフォンを使用することで、展示場所までのARナビゲーションや展示物の説明などを楽しめる。 ※本体験ツアーは既に終了しております。

ーーResonaiで提供しているデジタルツインテクノロジーとは、どのようなものなのでしょうか。

Alon氏:

デジタルツインとは、リアル空間にある情報をIoTなどを活用し、仮想空間に再現する技術です。
Resonaiは画像データ処理を行うことで、人間の視覚情報と同じ世界をコンピューターで実現する「コンピュータービジョン技術」に特化しており、コンテキスト分析を可能にするAIや、3Dや点群データを活用することで人や物事の状況を認識し、ユーザーに合った付加価値の高いコンテンツを提供することを強みとしています。

当社が提供するエンタープライズ向けARプラットフォーム「Vera」は、AI技術とリアルタイムデータ処理を介して、商業施設などのビルをデジタルツインとして再現し、人やデバイスが円滑に繋がる環境を創り上げることができます。
コンテキストアウェアネス機能を搭載したアプリで、オフィスビルや小売、ヘルスケア施設の運用管理を大幅に効率化することに加え、ARナビゲーションやユーザーの状況に合わせた情報を提供することが可能です。

例えば商業施設でデジタルコンシェルジュを使うと、買い物客はARナビゲーションで目的地まで誘導してもらえるほか、移動過程でクーポン情報や周辺環境の最新情報を取得できます。

日本は施設の利便性を上げるために、自律エージェント、ロボット工学や関連技術などに多くの投資をしています。
さらに新型コロナウィルスが蔓延したことで、デジタル化や自動化のニーズが高まり、特に駅や電車内、空港など人々が往来する施設において、人々の関わりを補助する自律エージェントが広まってきています。
このような状況から、私たちが提供するARプラットフォームは日本市場で価値を提供できると確信しています。

ーーResonaiは以前から日本進出を考えていたのでしょうか。

Alon氏:

2014年の設立当時は、リアルタイムで3Dデータを処理するために必要な数学的アルゴリズムの開発に多額の投資を行っており、技術開発に約2年半かかりました。その後、空港や病院などの大型施設で導入されていき、複雑な環境下でも動作できるようにデータベースの性能を向上させたり、携帯でリアルタイムかつ正確な対話ができるようにする機能を備えたり、開発精度を上げてきました。ターゲットとして日本市場を見据えるようになったのは、さまざまな種類の不動産にも適応するプラットフォームとしてVeraが完成してからです。

Ghelberg氏:

我々にとって日本市場への参入は重要でした。日本において必要とされている価値に我々が持つ技術がフィットしていると考えていたためです。Plug and Play Japanにはミーティングサポートから顧客の紹介まで幅広く支援してもらい、特に今回のプロジェクトにおいてはコロナ渦で日本への渡航がままならない中、Plug and Play Japanが入ることでJR東海と繋がることができ、非常に感謝しています。

ーーJR東海では、海外スタートアップと協業するうえで難しさはあったのでしょうか。

本小氏:

打ち合わせを行う前段階として、Plug and Play Japanが日本企業の考え方などを事前にインプットしてくれるなど、非常に臨機応変に対応いただいたおかげでストレスフリーで進められました。
一方で通訳を交えながら契約交渉や打ち合わせを行うため、通常よりも倍の時間がかかり、ある程度時間に余裕を持たせたうえで進めていくことが重要だと感じました。

また社外関係者との連携スピードに合わせつつ、社内手続きを滞りなく進めていく難しさもありました。イノベーション推進室の社内承認は、比較的リードタイムが短くできるように制度設計しているものの、大手企業である以上ひとつの判断や関係部署との連携など、契約一つ取っても段取りがあります。さらに決裁者も多忙なため、決裁を得るためのアレンジメントなどリードタイムを考慮する必要があります。これらを鑑みたうえで、進行スピードを落とすことなく進めていく工夫が必要でした。

ーー今回の取り組みを通してどのような効果を感じていらっしゃいますか。

本小氏:

当社としてスタートアップやアクセラレーターとの連携自体がほとんど経験のないものだったので、Plug and Play Japanとの連携、そして今回の実証実験を社内で体験してもらうことを成果の1つと考えておりました。そのため、滞りなく具現化できた時点で大きな効果があったと感じています。
当初スタートアップとの連携はシーズベースで挑戦することを想定していましたが、今回の成果を受けて実際に社内やグループ会社からも要望をもらっており、今後はニーズベースでも取り組んでいく必要があると感じています。
これまでオープンイノベーションやスタートアップとの連携事例がほとんどなかったからこそ、活動を通じて新たな風を入れ込むことも我々のミッションだと捉えています。今回のような機会を通じて、徐々に社内へオープンイノベーションの活動が浸透していくことを期待しています。

ーーResonaiにとって、今回のプロジェクトを進める上で難しいと感じたのはどのような点ですか。

Alon氏:

これまで18年近く日本企業と仕事をしてきた経験がありますが、技術面の議論をする際に言語が障壁になることがよくありました。必要なアクションをお互いにしっかりと理解するために、何がどのように認識しているかのかを正確に把握し合うことが必要です。
また文化によって”正確”の定義も異なります。言語や文化が異なる状況下で、正確かつ詳細にテクノロジーに関する情報を伝えようとすると、一定の時間がかかります。
そこはPlug and Play Japanが入ったことで、コミュニケーションギャップを減らせ、相互理解が深まると共に、抽象的なアイデアも高次元で議論を行うことができ、効率的にプロジェクトを進められました。

Ghelberg氏:

コロナ感染拡大の影響もあり、実際にユーザーに会えず、通常現地で行う作業すらままならない状況の中、数週間〜1か月ほどで実装まで持っていけたうえに、数百人のユーザーにアプリを楽しんでいただくことができ、JR東海と素晴らしいコラボレーションができたと思います。
またユーザーアンケートなどから多くのフィードバックも得られ、全体的にデータドリブンで進めることができたと思います。
時差の関係で関係者全員が揃ってミーティングを行う難しさはありましたが、JR東海とPlug and Play Japanの両チームが融通をきかせてくれたり、毎週会議を行うことで全員で共通理解を持てるようにするなど、柔軟に対応してくれたことで乗り越えられました。

ーーコミュニケーションギャップを乗り越えるためにResonaiとして工夫した点はありますか。

Ghelberg氏:

アイデアが整理されておらず抽象度が高い段階から具体に落とし込んでいく中で、お互いにイメージしやすくなるようにグラフや図、絵などを使いビジュアルで見せることは非常に効果的でした。またアイデアが素案段階だったとしても、提案・説明する際にはプレゼンテーションの用意をしっかり行うことも重要だと感じました。実際に私も社内外へプレゼンテーションを行う際には、非常に多くのビジュアル資料を用意しました。
UI・UXデザインにおいても、大まかな骨子を決めてから詳細なデザインへと落とし込んでいったわけですが、開発の段階ごとにアプリの見え方やユーザーの使用感など具体的なイメージを共有しながら話を進めることで、プロジェクトがスムーズに進みやすくなったように思います。

Alon氏:

時に起業家やエンジニアは、複雑さに走ってしまうことがありますが、シンプルで分かりやすいことが重要です。
非常に複雑なテクノロジーを使っている場合でも、全てのステークホルダーが理解できるように努めるのは、スタートアップ側の責任です。「そのアプリの価値は何なのか」「利用者はどのような体験を得られるのか」「アプリがどのように作動するのか」など、我々もシンプルに伝えるために常に試行錯誤しています。

ーー今後のビジョンについて教えてください。

本小氏:

冒頭にお話したように、我々のミッションは20~30年後の長期的な種探しをすると共に、我々の活動を通してオープンイノベーション活動の活性化や理解促進を目指すことです。今回のPoCは、イノベーション推進室の合言葉にもある「やってみなはれ、やってみよう精神」のもと、シーズベースで一気に進めてきました。スタートアップとの連携を通して、新たな取り組みも十分広げられる可能性があると感じているため、イノベーション推進室が社内のニーズを拾い上げ、スタートアップと他事業部との連携をある程度の段階まで支援をしながら、推進役として取り組みを進めていきたいと思っています。
これによりオープンな開発手法や、社内の業務改革、活性化なども含めて意識の醸成に繋がっていければと思っています。

一方で社内全体が挑戦してみようという雰囲気になる必要はない、なるべきではないとも考えています。やはり当社の主幹事業の一つである鉄道事業においては、安全・安定がモットーですので、その信頼を損なわないために慎重に業務を進めることは重要です。そのうえでサービス改善や業務の効率化においては、挑戦を続けながら新しい技術を取り入れていくことが必要だと考えています。
今回のPoCを通して、新たなテクノロジーや取り組みを資料ではなく、社内でも体験・体感してもらうことで、そこから内なるものを感じてもらうことが重要だと考えています。そのために今後も短期間でサイクルを回しながら、継続的に活動を続けていきたいと考えています。

Alon氏:

我々にとってヘルスケアや輸送業界は、施設内の道案内や、診察予約案内、交通における人流の可視化や利便性向上の観点で、Veraの価値を高く提供できる重要な領域です。
そのうえで、さらに今後は多くのビル施設において、設計から建設、メンテナンスから運用フェーズにいたる建物のライフサイクル全体にVeraを導入することで、空間知能化された環境がより認知され、それを利用することが一般的になっていくことに期待しています。

現在徐々に市場に参入してきているスマートグラスやヘッドデバイスなどの新しいハードウェアがより一般的に利用されれば、施設に導入されているアプリや機能と連携することはあたりまえになってくるでしょう。現在さまざまな大手企業がハードウェア面で、情報のインデックス化や拡張空間に埋め込むコンテンツ創りに力を入れていますが、そのためにはプラットフォームが必要です。

ユーザーが異なるハードウェアを使用していたとしても、Veraを組み込めば共通で利用できるアプリを構築でき、同じ場所にいるユーザーと体験や環境をシームレスに共有することが可能です。同じリアリティにいてこそ、人々は同じストーリーや文脈で交流ができ、そこから生まれる会話や議論から新しいものを生み出すことができるのです。
私たちはこれからのAR時代において、1つの物理的な現実に無限の現実が埋め込まれ、果てしない情報量の中で仮想現実におけるコンテンツを再定義するために開発を続けていきます。

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