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海外のスタートアップエコシステムに学ぶ、イノベーションへの姿勢 - Plug and Play CEO サイード・アミディ

2023/06/16

「今は日本の起業家にとって千載一遇のチャンス」。Plug and Playの創業者・CEOであるサイード・アミディはそう語る。15年以上にわたり、グローバル市場における日本企業の変遷を目にしてきた経験から、ユニコーンを生み出すスタートアップエコシステムのあり方について語った。

(本記事は2023年3月2日に実施された「Japan Summit – Winter/Spring 2023 Batch」Keynote Sessionの内容をもとに作成しています)


Speaker:Saeed Amidi(サイード・アミディ)

CEO

1996年にシード、アーリーステージ企業の投資機関であるAmidzad を共同設立。15年以上に渡り、PayPal、Powerset、Danger、Bix、Powerset、DropBox、Lending Club、Zooskなど70以上のテクノロジー企業へ投資を実施。2006年に世界の大企業とスタートアップを支援するVC兼アクセラレーターのPlug and Play を設立。現在世界14カ国50以上の拠点に拡大し、投資家や企業がプレシードから公開企業まで様々なステージのスタートアップにアクセスできる多国籍企業プラットフォームを確立。現在、ファイナンス、ブランド&リテール、IoT、ヘルスケア、旅行&ホスピタリティ、保険テックなど様々な業界の大手企業500社以上と共にスタートアップへの投資を行っている。世界の若手経営者が集うYPO (Young Presidents’ Organization) のメンバー。


Interviewer:Phillip Vincent(ヴィンセント・フィリップ)

マネージングパートナー・イーストアジア / 日本代表取締役社長

アメリカサンディエゴ州立大学卒。新卒で日本の大手商社KISCO株式会社の米国支社であるユニグローブ・キスコに入社し、日米間のビジネス開発を担当。2014年シリコンバレーのPlug and Play本社に入社し、IoT部門とMobility部門のプログラムディレクター、および日本企業のアカウントマネージャーを兼務。2017年にPlug and Play Japanを立ち上げ、現在はCEO & Managing Partner, Japanを務める。Plug and Play Japanは現在、東京、京都、大阪に拠点を構え、スタートアップと業界のリーディングカンパニーをつなぐ日本最大のイノベーションプラットフォームの構築を目指している。


ヨーロッパにおけるモビリティ業界の変化

Phillip

日本に来るのは3年半ぶりですね。海外拠点を訪れてみていかがですか。

Saeed

私たちのビジネスは、投資家やスタートアップとの関係を築くことが重要です。実際に会って、いろいろなアイデアや課題について話し合わない限り、関係や信頼を築くことは難しい。
ですから、こうして直接お会いできることをとても嬉しく思います。

Phillip

ここ数年、世界はパンデミックという前代未聞の危機に直面し、日本にいる私たちは外と隔絶された状態にありました。グローバルなスタートアップエコシステムではどのような変化があったのでしょうか?

Saeed

モビリティ分野は、自動運転やコネクテッド化*等、この3年で大きく成長しました。この業界は構造が変化しつつあり、アメリカだけでもテスラのような新しい企業が続々と生まれています。テスラは非常に短期間で急成長し、フォード・モーターやゼネラルモーターズ、クライスラー、メルセデスベンツなどに衝撃を与えました。

*自動車に通信機器を搭載させることで、映像コンテンツなどが社内で利用可能になること。

Phillip

世界のモビリティ領域ではどのようなイノベーションが起こっているのでしょうか?

Saeed

私たちはこれまで14のOEM(完成車メーカー)、多くのティア1サプライヤーと協働してきました。メルセデスベンツやポルシェ、フォルクスワーゲン、日産、デンソーに加え、最近ではジャガー、ランドローバー、ボルボなどもPlug and Playのプラットフォームに参画しています。6年前、メルセデス・ベンツやポルシェが私達のポートフォリオであるSoundHoundの音声認識技術に関心を持ち、5年を経て実装にたどり着く事ができました。今では連携先も増え、より短期間でさまざまな技術実装に向けたパイロットテストが実施できるようになっています。この5年半の間に、Plug and Play Germanyのオフィスが所在するシュトゥットガルトに10以上の国から400以上のスタートアップを誘致する事ができました。

[Startup Autobahnの動画]

企業パートナーから技術評価や共同技術開発、パイロットテストを行いたいという意向があった際には、その時々のニーズに沿ってスタートアップを紹介してきました。メルセデス・ベンツが実施した約150件のパイロットテストのうち、65件の技術が実装され、45件については実装に向けて契約を終えたところです。メルセデス・ベンツはSoundHoundと10年のライセンス契約を結んだだけでなく、2,000万ドルの投資を行なっています。

メルセデスは過去テスラも5,000万ドルを投資しています。この決定は他の投資家を後押しし、4億ドル以上の投資に繋がったことから、テスラの事業拡大のきっかけとなりました。日本から次なるトヨタ、次なる日産のような企業を生み出すためには、今こそイノベーションを促進し、私達の生活をより豊かにするための新たなスターとなるスタートアップを生み出すきっかけ作りが重要だと実感しています。

イノベーションを生む、社内全体での意識改革

Phillip

大手企業のコーポレートイノベーションやスタートアップとの協働は必ずしも成功するとは限りません。メルセデス・ベンツはどのようにしてオープンイノベーションにおけるゲームチェンジャーになれたのでしょうか?

Saeed

マインドセットとカルチャーが何よりも重要です。新しいCEOのOla Källenius(オラ・ケレニウス)は、社会の変革スピードの速さから自社だけでは成長に限界があり、外部資源を活用しながらイノベーションを起こしていくことが成長の鍵となると考えています。そのためには、経営層がオープンイノベーションに対して柔軟であることに加え、CTOやDX関連部署にとどまらず、社内全体で意識の変革を図っていく事が重要です。

メルセデス・ベンツのイノベーションプラットフォームの実現に寄与したのは、MITでオープンイノベーションの研究をしているPhilipp Robbelでした。彼はメルセデス・ベンツのみならず、複数の自動車企業に対し、イノベーションに対する心構えや起業家精神、社内構想を実現に繋げるためのアドバイスをしてくれました。これらの実績は、外部技術の導入のみならず、社内のイノベーションを創出していく際にも生かす事ができます。

カナダの州政府が進めるエネルギー政策

Phillip

これまでオープンイノベーションを達成するための企業の役割に焦点を当てて話をしてきましたが、政府や自治体の役割についても聞きたいと思います。昨年、政府は「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、大規模な予算投資を行うこと、世界の多様な機関との連携により海外展開を後押しすることを発表しました。今後日本でスタートアップエコシステムをより活性化させるためにはどのようにすれば良いでしょうか?

Saeed

AIや機械学習等、革新的な技術は私達の生活を変える大きなインパクトがあり、これらの技術を活用しながら他の国に先駆けて困難な問題に対処していく姿勢が重要です。

カナダの石油・ガス産出地域の一つであるアルバータ州では、クリーンエネルギー資源の多様化に課題を抱えていました。そのような中、私たちは州政府からクリーンエネルギー資源やサステナビリティの充実、異業種へのAI活用という面でアクセラレータープログラムの委託を受けました。日本においても、スタートアップが思い描く未来を実現するために、政府や自治体がVCや大手企業等、多様な機関と連携し、エコシステムを充実させていく必要があると思います。

Googleは年に1,000社以上のスタートアップに投資し、数年後買収しています。彼らは、起業家精神やイノベーションの限界に挑戦しているのです。 企業だけでなく政府や自治体においても、起業家精神やイノベーションの風土が広まり、常識を覆すような優れたスタートアップが活躍できるよう、あらゆる挑戦をしていく事が重要だと思います。

Phillip

まさにその通りだと思います。今後の日本にどのようなことを期待していますか?

Saeed

今は、起業家やスタートアップにとって千載一遇のチャンスです。私達はこの機会を逃さず、スタートアップを全面的に支援していきたいと思っています。

Googleはかつて社員が3人しかおらず、厳しい状況に直面していました。技術開発が順調に進んでいるにも関わらず、資金調達に苦しんでいる状況にあったのです。しかしそれは、”ダウンサイクル”ではなく、良い準備期間だったと私は思います。その期間で優秀なメンバーを雇用する事ができますし、PMFを達成するための準備をすることもできるからです。もし既に、PMFを達成するための解決策を持っているのであれば、Plug and Playはその実現を後押しする事ができます。例えば、Plug and Playの企業パートナーにデモをする機会を提供し、協業を通じてPFMを実現させ、事業拡大に繋げていくことが可能です。

このチャンスを活かし、日本中の産学官が一丸となって、年1,000社のスタートアップを支援し、その中から次世代のパナソニック、トヨタ、三菱UFJ銀行となる企業が生まれてくることを願っています。

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