Meet the Startups: 保険領域で注目のスタートアップ9社
2023/08/15
Plug and Play Japanでは、2023年6月〜2023年9月期のアクセラレータープログラムSummer/Fall 2023 Batchが進行中です。今回は、Insurtech分野*1で採択された国内外のスタートアップ9社を紹介します。フェムテック関連の企業1社を含む、健康管理・生活習慣改善に取り組む4社、高齢者の社会進出を促すエイジテックが1社、保険業界における新商品の開発や新規顧客の獲得・リテンションに繋がるサービスを展開する4社となっています。
*1 Plug and Play Japanのアクセラレータープログラムでは、企業パートナーの注力分野や技術ニーズに基づいて、「バーティカル」と呼ばれる業界テーマごとにスタートアップを採択している。2023年7月現在ではFintech(金融サービス), Insurtech(保険), Mobility(自動車・運輸・物流), Health(医療・製薬), Smart Cities(建設・不動産), New Materials(素材・化学), Energy(エネルギー), Food & Beverage(食品・飲料)の8バーティカルを運営。
Writer: Seoyeong Lee
Marketing & Communications Intern
Co-Writer: Risa Taniguchi
Marketing Associate
Insurtechプログラムとは?
Insurtech分野は保険業界におけるDXや時代に合わせた新商品開発などに貢献してきました。急速に進行する高齢化や女性の社会進出など、社会の状況が刻々と変化する中において、今後一層ニーズが多様化していくことが予想されています。
Plug and Play JapanのInsurtechプログラムでは新しいデータやテクノロジーを活用し、時代に合わせた新しい商品開発やより高度なアンダーライティングに貢献するソリューション、保険販売や保険会社と顧客間のエンゲージメントをデジタル化したソリューション、保険会社のオペレーション全般の自動化・高度化に繋がるソリューションに取り組む世界各国の優れたスタートアップに焦点を当て、支援を行ってきました。加えて、時代の変化とともに生まれる保険ではカバーしきれない新しいリスクや、予防医療、健康管理、妊娠・出産、介護といった分野にも注力しています。
採択スタートアップ紹介
1. ザ・ファージ:AIによる血糖値自動予測機能を搭載した糖尿病治療用アプリの開発
会社概要
企業名:株式会社ザ・ファージ
所在地:東京都渋谷区
代表者名:德永 翔平氏
Website:https://thephage.life/
Keyword:#糖尿病 #デジタル治療
ザ・ファージは、生活習慣病の個別化医療を実現することを目標に、糖尿病治療用アプリを開発し重症化予防のソリューションを提供しています。糖尿病患者にとって最も重要とされるのが食事療法です。食事療法の大きな目的は、食事の量や摂り方に気をつけ、インスリンを分泌する膵臓の負担を軽くすることですが、食事制限がストレスとなり、何らかの抑うつ症状を有する人が糖尿病でない人の約2倍程度にのぼると言われています。同社はこの要因を「医学や栄養学等の専門性が非常に高い為、患者の理解が追い付かないこと」「血糖コントロールにおいて、延々と食事の悩みが続くこと」の2点にあると仮定し、その解決策として、AIにより血糖値を自動で予測し、それを基にどのような食事が最適かをアドバイスするアプリの開発を行なっています。毎食後の血糖値の波形をスコアリングし、目標との乖離状況や改善点を提案することで血糖値コントロールを行います。糖尿病の治療方法の一つである教育入院は、2週間で10万円を超える場合が多く、患者の負担が大きいとされています。同社の技術を活用すると、医師による遠隔診療/服薬指導や、栄養管理士による食事指導等を、全てオンラインの同一プラットフォーム上で完結させることができるため、コストが抑えられるメリットがあります。2023年7月現在、上記の技術に加え、「妊娠糖尿病ヘルスケアアプリ」も開発中であり、妊娠発覚から出産までの間、糖尿病の症状に悩む方が多いことを踏まえ、合併症などを引き起こさないように妊婦を支援しています。
2. ファーストスクリーニング:未病領域における各種検査キット/健康プログラムの提供により人々の健康促進に貢献
会社概要
企業名:株式会社ファーストスクリーニング
所在地:東京都渋谷区
代表者名:金澤 洋平氏
Website:http://first-screening.com/
Keyword:#早期発見 #毎日の健康チェック #プラットフォーム
ファーストスクリーニングは社会の健康増進のために、未病領域における健康指標を毎日手軽にできる検査できる各種検査キットと、そのデータに基づいた健康改善プログラムを提供する会社です。
尿検査は糖尿、高血圧、痛風などの生活習慣病の重要な健康指標になる検査ですが、多くの場合は年に数回しかない健康診断や病気になった後にしか行わないのが現状です。また、生活習慣に何かの変化があった時、それが健康にどのような影響を与えているのかを知るには、短いスパンで定期的に検査を行う必要があります。
同社はこのような課題を解決し、人々の健康促進に貢献するために、毎日自ら手軽に検査できる検査キットを開発しました。センサー付きの使い捨てスティックを測定器に差し込んで、先端に尿をかけて20秒程度を待つと、スマホのアプリにバイタルデータが自動で送信されます。クラウドで分析・管理された検査データにより尿酸・尿糖・クレアチニンなどを測定できるだけでなく、日々の健康状態の変化をセルフモニタリングすることができます。また、収集されたデータを基に、個々の利用者に応じた健康改善のための食事・運動プログラムも提供しています。この技術は人間だけでなく、ペットにも活用できます。新型コロナウイルスをきっかけにPCR検査が普及し、個人の健康意識も高まるなかで、病気の予防や早期発見を可能とする同社の技術に要注目です!
3. YStory:更年期のパーソナライズされた包括的ヘルスケアを提供するプラットフォーム
会社概要
企業名:株式会社YStory
所在地:東京都港区
代表者名:Janet Yu氏
Website:https://www.ystoryfemtech.com/
Keyword:#フェムテック #パーソナライズケア #デジタル治療
YStoryは、女性のヘルスリテラシー向上を目的とし、最先端技術とポジティブ・エイジングの解決策を提供するプラットフォームを開発しています。更年期とは、女性ホルモンが減少し、生理がなくなる閉経の前後10年間を指し、一般的には、45歳から55歳ごろとされています。女性の心や体のバランスを保つ女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減るため、不快な症状が現れます。一方で、早い人では30代後半から症状が現れますが、自覚している女性は少なく、婦人科を受診していない女性は6割以上にのぼると言われています。適切な診断を受けず、インターネットの情報や市販薬などを使い自己流で治療をすると、症状が重くなり生活習慣が乱れ、さらに状況を悪化させてしまうケースも少なくありません。同社の技術は、更年期と上手に付き合っていくためのアプリを開発しています。症状を入力すると、アプリが分析し、個々の状況に最適なセルフケアを提案します。人によって症状が異なるため、「月経の状況」「体の症状」「見た目の症状」「体内の症状」などの更年期症状に特化した項目を設け、詳細に体調を記録できるようになっているほか、シンプルな作りにすることで高いUI/UXを実現しています。海外と比較し、更年期障害に対する治療が遅れている日本において、今後の活躍が期待できる企業です。経済産業省令和5年度「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」採択事業者で、京都大学との共同研究で探索的研究介入試験でエビデンス構築に進めています。
4. issin:多様なライフステージにおける、体重測定・管理が可能なスマートバスマット
会社概要
企業名:issin株式会社
所在地:東京都文京区
代表者名:程 涛氏
Website:https://issin.cc/
Keyword:#スマートデバイス #健康管理 #体重管理
issinは人々の健康な体重管理をサポートするために、お風呂上がりに、バスマットに乗るだけで体重を測定でき、計測したデータを自動的にスマホアプリに連携することができるバスマット型の体重計を提供しています。
体重は健康指標の重要な要素ですが、「同じ時間に測るのが面倒くさい」、「自身の体重を目の当たりにしたくない」などの理由で、毎日体重を計測しない人が大半です。同社はこのような課題を解決するために、数字が直接見えないスマートバスマットの体重計を開発しました。入浴後に3秒間マットに乗るだけで、Wi-Fi経由で体重データがスマホに自動的に記録されます。体重に大幅な変化があった際にのみ通知する仕組みであるため、ストレスを感じることなく体重を継続的に測ることができます。また、アプリには健康維持モード、ダイエットモード、チャイルドモード、マタニティモードなど、さまざまなモードが搭載されているため、家族で共有することも可能です。ダイエットモードではAIで体重リバウンド傾向を予測したり、マタニティモードでは妊娠中の体重増加曲線の情報を提供し、外部と連携して授乳中や妊娠中の女性のための薬を無料で提供したりするなど、それぞれの使用目的に合うサポートを提供しています。バスマットは、速乾性に優れ、消臭効果も人気の珪藻土入りのソフトマットを採用しており、洗濯機で丸洗いすることができるため、管理が容易でユーザーに優しい仕様です。
5. Helte:海外の若者と日本のシニアを繋げるグローバルコミュニケーションサービス
会社概要
企業名:株式会社Helte
所在地:千葉県柏市
代表者名:後藤 学氏
Website:https://helte.jp/
Keyword:#エイジテック #MCI #SDGs
Helteは日本社会の大きな課題である人手不足と高齢化社会の両方の解決に貢献できるグローバル・コミュニケーション・サービスを提供する会社です。
急速な少子高齢化は労働人口の減少を招いており、労働力の確保が喫緊の課題となっています。そのような中、シニア層の社会参加や外国人労働者の誘致は人手不足を補う上で重要な要因となっています。
同社が展開するグローバル・コミュニケーション・サービス「Sail(セイル)」は、日本に関心を持ち日本語を学ぶ海外の若者と日本のシニアを繋ぎ、ビデオチャットで交流できるサービスです。ビデオチャットの会話データを分析することで認知症の前のグレーゾーンであるMCIを検知する仕組みを「Sail」に実装する準備を進めており、シニアの健康に寄与したいと考えています。現在170の国と地域から「Sail」にアクセスがあり、約3万人の日本語を母語としない海外のユーザー、約1万人の日本人ユーザーが「Sail」に登録しています。
本サービスを利用した高齢者の社会貢献意欲は49.5%から66.7%へと向上していることから、心の健康を増進し、活力を向上させることが確認できています。そのため、近年深刻化している高齢者の孤独問題の解決にも寄与することが期待されます。海外の若者も、日本語や日本各地の固有の文化を学ぶことができるほか、同社が行う人材斡旋サービスにより日本企業での就労機会を得ることが可能となっています。
60歳以上のインターネット利用率も拡大が見込まれる中、タブレットやスマートフォンを通じて手軽に利用できる同社のサービスに要注目です。
6. Smash:あらゆるサービスの解約防止・保険の見積もりサポートを実現するAIチャットボット
会社概要
企業名:株式会社Smash
所在地:東京都渋谷区
代表者名:石山 真也氏
Website:https://smash.ne.jp/
Keyword:#解約防止 #見積もり
Smashは契約やサブスクリプションの解約を希望する顧客に対し、利用状況や解約理由を引き出すことで行動変容を誘い、リテンションに繋げるAIボットを提供しています。
会社の売り上げは新規顧客の獲得と既存顧客のリテンションから成り立っていますが、新規顧客の獲得は難易度が高く、いかに既存顧客を維持するかが売り上げを維持・拡大していく上での重要な要素となっています。
同社の技術には3つの大きな特徴があります。
1.音声分析
コールセンターや営業マンの音声データをAI分析にかけ、顧客から断られない会話(言葉や文節など)を数値化し、学習させることで、人間に近いコミュニケーションを実現するAIやボットシステムを構築しています。
2.解約抑止
解約理由を分析して別のオプションを提案して行動の変容を誘導します。解約理由を選択するとチャットボットが他の提案をします。
3.新規顧客獲得
顧客がインターネット上で検討している見積もり内容や金額を、ボットがリアルタイムで拾い、需要に沿う商品やプランを案内可能にしています。
従来のボットとは異なり、顧客の状況に応じた回答を行うボットを実現したことで、導入後には契約率が約20%上がるなどの成果も出ており、今後の活躍が期待できます。
7. ライフシオン:がん診断を受けた保険契約者向けの生命保険買取サービス
会社概要
企業名:株式会社ライフシオン
所在地:東京都中央区
代表者名:我妻 佳祐氏
Website:https://lifesion.co.jp/
Keyword:#保険買収サービス #がん診断 #解約返戻金の救済
ライフシオンは、がんと診断された方がやむを得ない理由で生命保険の解約を検討する際に、解約返戻金・解約返還金よりも高い金額で、保険契約を生前に買い取るサービスを提供しています。保険契約が満了を迎えていないタイミングでがんと診断された場合、治療費を捻出するために保険金を解約する家庭は少なくありません。一方、死亡保険の契約者が契約途中で解約をした場合、保険商品が提供できる選択肢は原則「解約返戻金」の支払いに限られますが、解約返戻金は死亡時の保険金と比べて額面が少なく、支払った金額のごく一部しか手元に残らないのが現状です。
同社はそのような状況に置かれた人々をサポートし、救済するための生命保険買収サービスを提供しています。医師の診断書を元にした”契約者の健康状態”から死亡保険の価値を評価し、評価額に基づき保険を買い取っています。重症度が高いほど、短期間で保険金が支払われる可能性が高いため、買い取り価格が高くなる傾向にあります。保険契約者は返戻金より大きい金額を受領することができ、同社は存続する保険契約の保険金を受け取るという仕組みになっています。日本では認知度が低いサービスですが、欧米では普及しつつあるビジネスモデルで、買い取った保険を証券化するなどの様々な収益構造があります。ライフシオンは日本でも保険買収サービスの社会的意義を共有し、普及のために協業を推進したいという目標を持っています。
8. Akur8.:保険料算出業務の自動化/最適化を実現するSaaSプラットフォーム
会社概要
企業名:Akur88 SAS.
所在地:フランス パリ
代表者名:Samuel Falmagne氏
Website:https://akur8.com/
Keyword: #プライシング #商品開発 #AI #アクチュアリー
Akur8は、保険会社におけるプライシング業務の自動化/最適化を実現するAI駆動型の保険プライシングプラットフォームを開発・提供し、40カ国以上で100社以上のお客さまにサービスを提供しています。
ビジネス環境が急速に変化する中、プライシングとアンダーライティングの高度化は持続可能なビジネスに必要不可欠です。将来の損害率を予測し、変化に迅速に対応する仕組みを整備すること、および堅牢なリスクモデルを構築し、付加価値を創出していくことは現在の保険業界に求められている重要な要素です。一方で、日本は料率規制が強く、料率改定にも手間と時間を要することに加え、高度な保険数理分析に対応しうる人材が不足していることなどを理由に、海外と比較するとプライシングとアンダーライティングの高度化に課題があります。
同社は、透明性の高い機械学習と予測モデリングを組み合わせることで、将来のリスクと需要を適切に把握し、保険会社がより高度な(予測力の高い)プライシングモデルを簡単に構築することを可能にしています。規制の制約内で高い精度を保持させたままプライシングを改善するとともに、自動提案により保険料算出を行うことで、多大なリソースを投入することなく料率改定プロセスの大幅なスピードアップを実現しています。保険業界の業務効率化と収益性改善への貢献が期待できる企業です
9. Contentsquare:オンライン顧客行動の原因分析に強みを有するサイト内顧客体験分析ソリューション
会社概要
企業名:Contentsquare
所在地:フランス パリ
代表者名:Jonathan Cherki氏
Website:https://contentsquare.com/jp-jp/
Keyword:#ユーザー行動分析 #カスタマーエクスペリエンス(CX)
Contentsquareは、Webサイト内でのユーザー行動を再現可能なレベルまで細かく記録することで、顧客行動の原因を多角的に分析できるツールと、それを基に顧客体験を改善するためのソリューションを提供する会社です。
既存のサイト内におけるWeb分析ツールではユーザーが離脱したタイミングしか把握できず、「何が起こっているのか」「どのコンテンツが正負の影響を及ぼしているのか」「なぜ顧客が離脱するのか」「何を最適化すれば良いのか」「変更事項の影響予測」などについてはデータが取れないことが多いです。このように既存のソリューションで課題となっている原因分析を手厚くサポートし、ROI改善を促すのが特徴です。
同社の技術は、軽量化タグをサイトやアプリに追加するだけで、自動的に各ページの解析項目を特定し、ユーザーインタラクション(画面上の座標の動き)に関する情報を匿名で記録します。細かく収集された情報を基に各ページの顧客行動を再現することで、様々な原因分析が可能となっています。例えば、カーソルの動きでよくクリックされる場所を分析することや、商品をクリックするまでにかかる時間、顧客がページのどの部分で離脱したのかなどを分析することが出来ます。一度導入すると、サイトやアプリ自体に変更があったとしても、自動的に解析項目を特定するため、手動での再整備の手間がかからないという点も大きな強みです。
同社の分析ツールは世界的に認められており、既に多くの世界中の企業が活用し、顧客体験の改善を図っています。日本の企業にもぜひこの有効なツールを活用していただきたいです!
Summitのご案内
Summer/Fall 2023 Batchの採択スタートアップを含む、業界のイノベーターが多数参加する「Japan Summit Summer/Fall 2023」は、2023年9月14日〜15日にかけて虎ノ門ヒルズにて開催予定です。どなたでもご参加いただけるイベントとなっておりますので、ぜひご来場ください。
Summer/Fall 2023 Batchに採択された他のスタートアップ詳細については、こちらのブログで随時掲載していきます。お楽しみに!