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良い眠りをすべての人に届けたい - Sleep Shepherd

2022/11/09

睡眠トラッキングやIoTベッドなど、スリープテックはヘルステックスタートアップの中でも特に注目されている領域の一つだ。安眠へと導くウェアラブルデバイス「Sleep Shepherd」。不眠症に苦しむ家族を助けたいとの思いから製品の開発を始めたMichael Larson(マイケル・ラーソン)氏は、睡眠の重要さを本当に理解している現代人はごく少ないと語る。


Chiyo Kamino

Communications Associate, Kyoto


Sleep Shepherdのアイデアはどのようにして生まれたのですか?

Sleep Shephardを設立する前は、縫合糸やステープルを使用する代わりにレーザーを使用した手術システムを商品化する会社を立ち上げようとしていました。その頃私の娘が睡眠障害であると診断されたのですが、処方された薬のせいで、彼女の体はひどいダメージを受けてしまったのです。
薬を服用した結果、彼女は緊急治療室に搬送され、2週間ものあいだ入院しました。病院のベッドに横たわっている娘を見て、人々が医薬品に頼ることなく、必要な睡眠をとれるようなテクノロジーを見つける必要があると思いました。そこで自然に睡眠をもたらす方法を研究し始めたのです。睡眠は脳活動の速度によって定義されるので、脳が遅くなるのを促す方法を見つける必要がありました。視覚入力による光学的方法などいろいろ試した結果、バイノーラルトーンと呼ばれる聴覚刺激にたどりついたのです。というわけで、この会社をたちあげた動機としては、もともとは私の娘を助けるためでしたが、そこから不眠に苦しんでいる人が多くいることを知って、彼らを助けたいと思うようになりました。

ピッチでは、不眠症でない人にも睡眠は重要であると言われてましたね。

長い間、科学者たちは人々がなぜ眠る必要があるのかについて答えを出せず悩んできました。 なぜそんなに多くの時間を無意識に費やすべきなのか? その意味がわからなかったのです。しかし最近になって、深い睡眠中にとある大切なことが起こることがわかりました。 最も重要なのは、睡眠中に脳が自分自身をきれいに掃除することなのです*。

*2019年に「Science」誌に発表された研究結果では、深い睡眠中に脳脊髄液(CSF)が放出されることにより、アルツハイマー病を引き起こす原因となるニューロン間の接続を損なうタンパク質が除去されることが示されています。

Sleep Shepherdを始めてから直面した課題について教えてください。

Sleep Shepherdはデバイスなので、スタートアップ界隈でよく言われている「ハードウェアはハード(難しい)」というのはその通りだと感じています。
課題は山積みです。まず、きちんと機能するテクノロジーを開発することに加えて、それをコスト効率よく提供できなければなりません。製品が高品質であることを証明するために様々な検査試験を受けなくてはならず、必然的にタイムラインは長くなります。また、このデバイスはファームウェアを実行するので、ソフトウェアのコードを書いてアプリも作らないといけません。製品の認知度を高めたり、適切な流通経路を把握したりという課題もあります。これらすべては、売上から収益を生み出す前に資本を必要とします。課題はたくさんありますね。

電通やフジクラとのプロジェクトがスタートしたそうですが、進捗はいかがですか?

とても順調でワクワクしていますよ。協業を開始した背景は、フジクラが製造労働者の睡眠を改善する必要があると感じていたためです。夜間シフトで働く人たちが、昼間働く人たちに比べてより多くのエラーを起こしがちであることに着目したそうです。
現実問題として製造業では、機械を夜間ずっと遊ばせておくことはできません。そこで彼らは、夜間のスケジュールでも従業員が抵抗なく働けるよう対策を講じたいと考えていました。 彼らは実際に現在利用可能なスリープテック製品を調査し、いくつか試してみた中でSleep Shepherdを気に入ってくれたのです。 私たちは何度もミーティングを行い、製造工場で働く84人にSleep Shepherdを着用してもらうPoCプロジェクトを行いました。研究データを監督するためにUCLAに関与してもらったのですが、睡眠薬を使用した場合と遜色ない程度にまで人々の睡眠が大幅に改善されていることがわかりました。
フジクラはこの製品を気に入っており、従業員が利用できるようにしたいと考えてくれています。 ただいくつかの変更がまだ必要です。Sleep Shapherdの洗濯は手洗いですが、洗濯機で洗えることが日本市場にとって重要であると説得されました。 そのため、私たちは協力してプロジェクトを再設計し、洗濯機で洗えるようにしたりその他いくつかの小さな機能変更を加えたりしています。 またありがたいことに、Plug and Play Kyotoの他のパートナー企業も睡眠の重要性を認識しており、日本市場でも良い製品になるだろうと言ってくれています。

日本市場への進出は初めてですね。どう感じておられますか?

やはり、アメリカとは企業文化が大きく異なるのは事実ですね。良い点もありますが、少し複雑すぎると感じる部分も正直あります。 スタートアップが迅速に動く必要があるということを多くの米国企業は理解しているので、低いレベルでの意思決定を可能にしています。 しかし日本では、多くの人が起業家を応援しイノベーションを望んでいるとは言いつつも、速く動く準備はまだできていないようですね。 小さな決断であっても、多くの人々が関与する必要があるようです。
しかし良い点の1つは、時間がかかるとはいえ、几帳面なアプローチをとっていることですね。データに注意を払い、この製品が本当に機能することを証明してくれています。この睡眠デバイスに使用されているテクノロジーが実際に睡眠促進に役立つことを示す研究もあります。

残念なことに、スリープテック製品の中には、睡眠を助けるとうたいながら実際には何もしないものも存在しています。 誰かがそれらに投資し、スピードを重視するあまり確認に時間をかけなかったために、そういった製品が市場に出てしまっているのです。 ですから、今のスリープテック分野のためには、日本の文化のほうがいいのかもしれませんね。 こういった製品の多くは、人々の不眠解消にはつながらず、スリープテックに対する信頼を傷つけていますから。 人々は、手首につける睡眠トラッカーやベッドサイドに置くボックスなどを試しても、役に立たないと感じてしまっている。睡眠トラッキングの場合でも、多くの製品が収集しているデータは単なる睡眠時間のみなんです。手首の動きは、睡眠段階や睡眠の質とは直接相関していないのですが。

Sleep Shepherdを運営していくうえで、大切にしていることは何ですか。

人々の生活を向上させるためのビジネスにおいては、大胆であることが重要ではないでしょうか。単なるビジネスパーソンではなく起業家を定義するとき、リスク管理に精通していることがあげられます。リスク管理がすべてです。リスクを冒すことだけが重要なのではありません。 成功した起業家はリスクを軽減する方法を知っています。 それが成功に必要な才能だと思います。 自分が取っているリスクを理解し、問題が発生する可能性のあるさまざまな方法について前もって考えておく。リスクは通常のビジネスでも発生しますが、起業家がとらなくてはならないほどのリスクを迫られることはありません。

年をとるにつれて、お金を稼ぐことよりも、人々の生活を改善できる、長く続く価値のある何かをしたいと思うようになりました。 よく言われるように、あの世にお金を持っていくことはできませんからね。


Sleep Shepherd
創立:2016
代表:Michael Larson

Sleep Shepherd Blue

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