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リアルタイムでアレル物質の検出を可能にする最先端技術を活用し、新しい空気価値の創造を目指す|Sensio Air x ダイキン工業株式会社 協業事例インタビュー

2022/11/15

ダイキン工業株式会社(以下、ダイキン)では、戦略経営計画「FUSION25」で重点戦略として「顧客と繋がるソリューション事業の推進」や「空気価値の創造」を掲げ、安全・安心な空気・空間を実現する空調ソリューション事業の創出を目指しています。

ダイキンでは協創パートナーを広く探索すべく、2018年にPlug and Playのシリコンバレー本社とともに協創パートナー募集プログラム「Daikin Challenge」を開催。AI・IoTを活用してリアルタイムで室内環境中のアレル物質をモニタリングし、種類別に検知・特定ができるセンサーや、ユーザー向けアプリケーションを提供しているWlab Ltd.(以下、Sensio Air)を選出し、協業をスタートしました。

今回、協業背景やSensio Airが提供するサービスの特徴、今後の展望などについてダイキンテクノロジー・イノベーションセンター 分析・評価技術高度化グループの並川氏、前田氏、片山氏、 テクノロジー・イノベーション戦略室の南郷氏、そしてSensio AirのCEOのNajjar氏とCo-FounderでありChief Scientific OfficerのTamraz氏にお話を伺いました。

(資料提供:ダイキン工業株式会社)


Writer: Megumi Shoei

Communications Manager


並川 敬氏
テクノロジー・イノベーションセンター 分析・評価技術高度化グループ グループリーダー主任技師
※Wlab社への出資を公表した2022年5月時点

 2006年ダイキン工業入社。化学研究開発センターにて、製品開発に従事。2018年、グループリーダー主任技師として、空調・化学・環境などの分析評価解析技術の高度化を牽引。2021年、先端システム技術研究組合(RaaS)主幹研究員を兼任。

 

片山 秀夫氏
テクノロジー・イノベーションセンター 分析・評価技術高度化グループ
※Wlab社への出資を公表した2022年5月時点

1983年ダイキン工業入社。滋賀製作所にて新規事業として過酸化水素電極式血糖計の製品化に従事。2011年には日本無機に出向し、空気環境中のアレルゲン量分布の測定やフィルタによる除去効果の測定を実施。現在は産学連携での共同研究の推進に注力している。

 

前田 祥太郎氏
テクノロジー・イノベーションセンター 分析・評価技術高度化グループ
※Wlab社への出資を公表した2022年5月時点

2018年ダイキン工業入社。テクノロジー・イノベーションセンターにて、空調・化学・環境などの分析評価解析技術の高度化の一環として、カビ・花粉・ウイルスの計測技術やセンシング技術の開発に従事。Sensio Air社との取組みでは、技術のブリッジパーソンとしてプロジェクトを推進している。

 

南郷 侑氏
テクノロジー・イノベーションセンター テクノロジー・イノベーション戦略室
※Wlab社への出資を公表した2022年5月時点

2008年ダイキン工業入社。空調機の遠隔監視システムやデマンドレスポンス等、先行的なエネルギー管理システムの技術開発・実証試験に携わる。2015年に米シリコンバレーへ赴任し、技術スカウトやスタートアップの協創支援(ブリッジ)を担当。2022年6月に帰任。

Cyrille Najjar
Sensio Air, Inc. CEO

ヘルスケア分析・バイオテクノロジーを専門とした企業Sensio Air (Wlab Ltd.)のCEO。粒子・アレルゲン特定、症状予防・予測に特化しており、AI、ハードウェア、ヘルスケアにフォーカスした高い技術力で複数の賞を受賞している。CambridgeのCarbon 13、Nearcast、Click NFT、Tresor Track、Pixie Foundationでは顧問委員会メンバーとして活躍。14年以上にわたりUCLの大学院特別奨学生、ケンブリッジ大学の名誉研究員として、プロトタイピング、製品開発、イノベーション、空間デザインについて教えている。Google Launchpad、Techstars、Conception Xの元インストラクターとして、現在はStartXでワークショップなどを行っている。

 

Eve Tamraz
Sensio Air, Inc. Co Founder/Chief Scientific Officer

Ecole Normale Supérieure de Parisを卒業し、初期発生における神経細胞の相互作用に関する論文を執筆。また、毒性学、健康、環境の分野でも研究を行ってきた。最先端技術への関心から、化学、生物学、コンピュータサイエンス、工学の発展が融合した新たな研究分野である合成生物学を専門とするようになった。MITテクノロジーレビューでトップイノベーターとして認められ、Forbes 30 under 30 Europeに選出された。現在はAllergy UKのアンバサダーとして、アレルギーや喘息の予防をより簡単にするために、最先端の実験機器をエンドユーザーに届けることに尽力している。

リアルタイムでアレル物質の検出・分析が可能になる独自技術との出会い

ーー今回の協業背景について教えていただけますでしょうか。

南郷氏:

2018年にPlug and Playのシリコンバレー本社とともに開催した「Daikin Challenge」では、当社が将来的に獲得したい技術や探索していきたい領域に対するパートナーを選出することを目標に掲げ、商品開発部隊である空調生産本部や、テクノロジー・イノベーションセンター、幹部層も巻き込み実施しました。

ゴールとして、今後の空調の新規・更新需要を獲得するために、お客さまとより一層つながって困りごとを解決する手段として、これまで業界でも実現できていないアレル物質の検出に挑戦したいと考え、第1回Daikin ChallengeでSensio Airを選出しました。通常、アレル物質の検証には検査機関に提出後、1〜2週間ほど分析に時間がかかりますが、当社が探索した中ではSensio Airのみがリアルタイムで計測できる独自の技術を有しており、非常に魅力を感じました。

前田氏:

一方当社としては、Sensio Airがもっている先進技術が当社の製品に適応できるか確かめる必要があり、まずは技術検証を行いました。
具体的にはアレルギーの原因になっているスギやヒノキなどの花粉、カビなどに対し、Sensio Airの技術が実際に日本独自のアレル物質を検出できるのか検証していきました。
その結果、当社が推進する安全・安心な空気の実現に重要な技術だと判断し、今後さらに協業を加速させるべく今回の出資に至りました。
Wlab社に出資し、安全・安心な空気環境を実現する空調ソリューション事業創出を加速

ーー他に類を見ない独自の技術ということですが、具体的にどのような製品なのでしょうか。

Najjar氏:

大気中に浮遊している粒子をリアルタイムで区別できる技術を持っており、世界320都市の汚染情報、例えば花粉、カビ、ほこり、ダニ、フケはもちろん、日本のスギ花粉とアメリカのスギ花粉、犬と猫のフケというサブカテゴリーまで見分けることができます。このアレル物質の検出・解析機能はさまざまな製品に適用できるほか、ユーザーはアプリを通してセンサーにより検出・収集した各種データをどこでも確認でき、空気質の改善に役立つ情報をユーザーに提供しています。

その他にも最大で3部屋分をカバーでき、自宅またはオフィスなどで簡単に利用ができるAir Careキットもあり、サンプルを当社のラボに返送することで、分析結果と専門家からのアドバイスがもらえます。
また当社のメイン製品であるSensio Airでは24時間365日連続的に空気を分析し、20分に1回にわたり粒子、4分に1回はガスやCO2、温度や湿度など、1日で72回の分析を行っています。現在、家電製品への組み込みを想定したバージョン4も開発中です。

(画像提供:Sensio Air)

ーーなぜリアルタイムでアレル物質の検証が可能になるのでしょうか。

Najjar氏:

検知のための技術的な負荷をクラウドにオフセットしているからです。つまり、基本的にデバイスがデータを利用し、クラウドが分析を行います。例えば現在行われている従来のアレルゲン分析では研究者がテープを1週間放置し、そのテープを顕微鏡で確認・比較した結果、測定値を出します。そのため結果がでるまでに2週間ほどかかり、非常に時代遅れなやり方となっています。当社は、科学技術とクラウドコンピューティング、ハードウェアを融合させることで数秒以内に分析結果を出すことができるのです。

協業の過程や見えてきた課題への乗り越え方

ーーSensio Airとの出会いから技術検証、出資にいたるまでの過程について教えてください。

前田氏:

技術検証の結果、技術的な改善が必要だと考え、共同開発で一緒に技術を磨き上げていき、段階的に試験規模を広げて検証していきました。
並行してアレル物質の人体への健康影響を調査すべく、Sensio Airの既存商材であるAir Careキットを活用しながらフィールドデータも取得していきました。

並川氏:

技術を高めていく際には、当社の本社側では技術開発担当のメンバーとSensio Airのメンバーで1〜2週間に1回はWEB会議を実施し、密にディスカッションをするようにしていました。また製品化するうえで事業部の存在はなくてはならないため、空調生産本部のメンバーやさまざまなセクションのキーマンも巻き込み、技術開発を進めていきました。

Tamraz氏:

これまでも当社は大手企業との共同開発やコラボレーションを実施してきましたが、日本企業との協業は初めてでした。その中でダイキンはスタートアップ文化を理解する唯一の、そして最高の企業だと考えています。当社では、エンジニア、機械学習チーム、サイエンスチームなど10~12人くらいのチーム規模で、ダイキンと対話しながら非常に柔軟かつスムーズにコミュニケーションを取ることができ、二社が一体化しながらプロジェクトを進めてこられました。

(資料:Plug and Play Japan作成)

ーーダイキンでは協業を進めていく中で、どのように社内を巻き込んでいったのでしょうか。

並川氏:

当社の社風が大きく影響していると思います。当社では部門を超えて人を巻き込むことで成果を早く出している会社です。私の場合は事業部を超えて直接連絡をし、「少し話を聞いてほしいんだけど」という感じで打診をしながら協力を仰ぎました。企業によるかと思いますが、セクションごとに分かれており、お互いに干渉しないような企業であれば社内を巻き込むハードルが高くなることはあるかと思います。
また、早い段階で他事業部を巻き込むには、幹部の関与も大切だと考えます。四半期~半年に1回など定期的に役員へのインプットを行い、将来的な可能性を感じてもらえるように工夫しました。

ーー協業過程で感じた難しさや課題などはありましたか。またその課題にどのように取り組まれましたか。

前田氏:

私自身、少人数でやっているようなスタートアップとの連携は初めてだったので、ダイキン内での開発の進め方との違いを認識するまでが難しかったです。従来のアプローチである「要求」ベースから「Sensio Airと一緒に技術を作っていく」というマインドや動きに変えました。Sensio Airのチームメンバーのことも考えながら、定期ミーティングの中で一つひとつ話し合っていくことで、前に進むようになりました。

南郷氏:

コミュニケーション面では、当社とSensio Airのお互いの主張や意見を明瞭化することに気をつけ、双方が意図することや伝えたいことをブリッジして、両社をつなぐようにしました。

並川氏:

相手任せにしないことは常に意識していました。協業となると両社の立場があるのでお互いに尊重しつつ、定期的なミーティングも欠かさないようにしていました。コミュニケーションを密にするために、議題のあるなしに限らず、2週間に1回のペースでリアルタイムで話をする機会を持つことが非常に重要だったと感じています。

ーー Sensio Airにとって初の日本企業との協業ですが、言葉の壁や時差、スピード感の違いなどを乗り越えるために留意していた点はありますか。

Najjar氏::

全てにおいて「忍耐」はキーワードだと思います。
言語が違えばアメリカやイギリス、日本における考え方も根本的に異なるため、物事を構造化し同じアイデアを多角的に表現しながら、相互理解を促すために十分に何度もコミュニケーションを取ることが、自分の主張を伝えるうえで重要だと思います。コミュニケーションの難しさという点では、当社では製品のプレゼンテーションにチャートを多用したり、多くのビジュアルデータを使うなどして情報を提示しました。だからこそ科学的な研究や協業がスムーズに進んだように思います。

スピードに関しては常に大きな課題ではありますが、スピード、再現性、信頼性の3つが揃った時に、スピードは再現性や信頼性よりも重要ではなくなる時がきます。たしかにスタートアップのスピード感は速く、大手企業よりも速くスケールするサービスやプロダクトを作り始めることもあるでしょう。しかし20〜30年、もしくはそれ以上にわたり成長する会社にしようとすれば、重要視すべき基準が変わりスピードよりも品質を優先する必要があります。大手企業は長年にわたり信頼を積み重ねてきた中で、信頼性の低い製品を作るわけにはいきません。ダイキンと仕事を一緒にする中で、そのようなやり方を当社にも取り入れられたことは非常に実りあることでした。

Tamraz氏:

このプロジェクトを成功に導いた非常に大きな要因として、ダイキンの皆さんが時間をかけてスタートアップの視点を理解し、両社を結びつけてくれたことが非常に大きかったと思います。そして、南郷さんが双方のニーズを理解し、両社をつないでくれたおかげで、現場でのコラボレーションを非常にスムーズに進めることができたと考えています。

ーー両社にとって今回の協業を通して得られた、今後に繋がる学びは何でしょうか。

片山氏:

共同開発契約を通じて技術が向上してきた中で、当社としては効果検証を進めていきたいと考えています。実際の生活環境で空気中のアレル物質が当社の製品である空気清浄機を使用することでどう変わっていくのか、当社が持っている技術や製品を組み合わせることで生まれる新しい空気の価値を探索するフェーズに入っていきたいと考えています。

Tamraz氏:

創業初期において、当社では50種類ほどのアレル物質を検出するデータベースを持っていました。ダイキンとの共同開発プロジェクトは、日本特有のアレル物質を当社のデータベースに追加することであり、結果的にスギやヒノキをはじめ、さまざまな地域特有のアレル物質を検出することができるようになりました。また現在進行中のプロジェクトでは、日本の家庭におけるアレル物質の量の調査を進めており、ダイキンの協力のもと当社のキットを日本の家庭で使用し、年間を通して空気中にどのようなアレル物質があるのかを調べています。私の知る限り、このような大きなデータを観測したのは初めてです。これは、当社とダイキンの間で非常に大きなマイルストーンになると思いますし、科学的なレベルでは論文を発表する予定です。これはダイキンとの共同開発なしには成し得なかったことです。

Najjar氏:

ダイキンのチームは、並外れた集中力と意志の強さを持ち合わせているチームだと思います。100年近くも続いている伝統企業とスタートアップでは異なる2社のように思えますが、非常に似たようなものがあると感じました。伝統企業としての信頼性を守るために長期的視点で物事を捉え、「カイゼン精神」のもと決して改善を止めない姿勢は、私たちにとても合っていると感じました。そのためダイキンとともに開発を行う中で、継続的な改善とイノベーションへの深い理解が感じられ、とても嬉しかったです。また数兆円規模の企業と協力し、当社のソリューションを統合して大手企業のサービスを強化することは大きな収穫であり、当社のようなスタートアップにとって大きな成功へのマイルストーンになると考えています。

ーー今後のビジョンについて教えてください。

並川氏:

これまでの取り組みで、Sensio Airがもつ独自のアレル物質センシング技術をダイキンでの実用化にむけて、一緒に作り上げていくことができました。今後は、作り上げた技術を市場に問うフェーズに入っていき、フィールド評価やビジネスPoCに向かっていきたいと考えています。

これからもSensio Airとの連携をより強固にし、新しい空調ソリューション事業の創出にむけて加速し、当社が掲げている「顧客と繋がるソリューション事業の推進」「空気価値の創造」の実現のため、空気質の診断と換気・除菌などの技術を組み合わせた安全・安心な空気空間づくりを強化していきたいと考えています。
当社としてはここからがスタートになると思っています。Sensio Airと一緒にもっと高みを目指してやっていきたいと考えています。

Cyrille氏:

ダイキンとは他の部署も含め、複数の分野で本格的にコラボレーションをしていきたいと考えています。当社は独自性の高い技術を有し、 アレル物質を正確に特定できるのは今のところ当社だけです。そのため、大きなチャンスが市場にあると考えています。ダイキンは毎年多くの機器を展開しており、それらの機器に適合させるには高い信頼性を担保する製品を提供することが求められています。今後も私たちは、一緒に何ができるかを考えていきたいと思います。

また大手企業との連携は、「すべての家庭、すべてのオフィス、すべての空間で空気の質を理解し、お客様が必要としている提案を行うだけでなく、生活の質を高めるための行動を促すことで、多くの予防や症状の管理を行うこと」という当社のビジョンの実現に確実につながると信じています。

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