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ニューロモジュレーションを活用して神経刺激をおこなうスタートアップ13社

2023/01/23

電気や磁気を使い、神経に刺激を与えることで身体の不調を改善するニューロモジュレーション。古代ギリシャ時代からさまざまな方法が試されてきたアプローチですが、近年はデジタルデバイスや機械学習を利用したニューロモジュレーションテクノロジーがアメリカを中心に医療機器・治療法として認められつつあります。多様なニューロモジュレーションを提供する海外のスタートアップを紹介します。


Writer: Maia Godonoga, Ph.D


Translator: Yin-Chi Wu


二ューロモジュレーションの定義と歴史

ニューロモジュレーションとは、疼痛緩和や疾病管理を目的として、電気・磁気刺激や薬物投与により神経細胞活動を集中的に刺激する治療法です。

ニューロモジュレーションの歴史は古く、古代ギリシャ時代にシビレエイやデンキウナギなどの発電魚を使って患者を感電させ、痛風や頭痛などの痛みを和らげたのが始まりとされています。

 

その後、電気化学と神経系の研究の進歩により、痛みの病態生理と神経刺激が感覚受容に与える影響についての認識が深まりました。1965年にMelzackとWallによって提唱されたゲートコントロール理論*により、この認識は大きく発展しました。正確な作用機序はまだ完全には解明されていませんが、ニューロモジュレーションは神経回路の中で、抑制性神経伝達物質の放出を引き起こし、ニューロンのシナプス応答特性を変化させると考えられています。

*ゲートコントロール理論:痛みを感じている部位の周囲にある神経を刺激することによって、疼痛が抑制されるという理論。

 

現在までにニューロモジュレーションは、神経科学、電子工学、生体分子工学の境界領域にある学際的な分野として学術界と産業界の両方で研究が行われており、FDA(米国食品医薬品局)の規制のもと、スタートアップから数多くの技術的ブレークスルーが生まれています。

 

現代の技術は、慢性疼痛緩和のための脊髄刺激から脳障害治療に向けた迷走神経刺激まで、侵襲的および非侵襲的技術が含まれます。ニューロモジュレーションは、精神疾患や認知障害、感覚機能・運動機能低下、さらには糖尿病や消化管機能障害など、さまざまな疾患の治療法として広がりを見せています

ニューロモジュレーションの種類①:埋め込み型デバイス

侵襲的ニューロモジュレーションは、標的神経の近くに電極を埋め込み、そこに低電圧の電流を流すことが必要となります。脊髄、仙骨神経、迷走神経、脳深部刺激装置などは、その性質から植え込み型が主流となっています。Medtronic(メドトロニック)社は1960年代後半に最初の埋め込み型デバイスを開発し、その後の電気刺激技術の進歩に伴って発展を続けています。

 

現在、数多くのスタートアップがFDAの承認やFDAのBreakthrough Device Designation(BDD:画期的医療機器指定)を受けています。例としては以下のようなスタートアップが挙げられます。

 

  • Setpoint Medical: 関節リウマチの生体電子デバイスを開発
  • Saluda Medical: Evoke Spinal Cord Stimulation Systemを使用した慢性難治性疼痛の治療
  • Wavegate Stimulation: 脊髄刺激の閉ループ適応変調を行う光反射率測定システム
  • Vivistim: 脳卒中のリハビリテーションを改善する迷走神経刺激システム
  • Functional Neuromodulation: アルツハイマー病に対するVercise Deep Brain Stimulation
  • Blackrock Neurotech: MoveAgain Brain-Computer Interface System

 

一方で埋め込み型デバイスの欠点は、処置が侵襲的であることと、電極と一緒にパルス発生器、電源、ワイヤーなどの追加部品を埋め込まなければならない点が挙げられます。

ニューロモジュレーションの種類②:非侵襲的な治療法

非侵襲的なニューロモジュレーションは、電気刺激や磁気刺激によって行われます。代表的な治療法としては、経皮的電気神経刺激(TENS)療法と反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法の2つがあり、どちらも神経障害性疼痛の治療に応用されています。

 

TENS療法は、皮膚表面に接触させた電極から低電圧の電流を流すものです。これに対し、rTMS療法は電気を直接流すのではなく、磁気の透過性を利用した治療法です。透磁率と電磁誘導の原理を使い、磁界を集束して脳内に電流を発生させます。

 

様々な治療法が登場する中で、自宅で使用するニューロモジュレーションデバイスがトレンドになりつつあります。以下では、最新のFDA Breakthrough Device Designation(BDD:画期的医療機器指定)とFDAが承認したデバイスについて詳述します。

 

  • Theranica社のウェアラブル治療デバイス「Nerivio」は、上腕の末梢神経に経皮的電気神経刺激を与え、片頭痛の症状を緩和させます。デバイスを45分間装着し、脳幹の痛みを抑制する神経伝達物質の放出を誘発する神経を刺激しながら、治療した筋肉から筋電信号を収集します。Nerivioは、2019年にTIME誌が選ぶ「Best Inventions of 2019(2019年最高の発明)」の1つに選ばれ、12歳以上の片頭痛の急性期治療用として初めてFDAに認可されたスマートフォン制御のウェアラブルデバイスです。

 

  • Neurolief社の「Relivion(レリビオン)」デバイスは、後頭神経と三叉神経の6本の神経索に電気刺激を与え、急性片頭痛を治療します。このヘッドセットデバイスは、3つの適応出力チャンネルを持ち、片頭痛に関連した2つの主要脳神経経路を同時に刺激する、最初で唯一の非侵襲的ニューロモジュレーションデバイスです。また、Relivionシステムは、片頭痛、治療、ライフスタイル、環境などの患者情報をクラウドデータベースで医師につなぎ、分析データを共有することで、治療の最適化に貢献します。 Neurolief社は、2021年にRelivionシステムのFDA認可を取得しました。

 

  • Cala Health社は、「Cala Trio」という手首に装着するデバイスを通じて末梢神経を刺激して一時的な手足の震えを緩和します。一回40分の治療セッションは、患者固有の脳信号パターンに合わせて個別に調整されます。Cala Trioは、本態性振戦(原因不明の身体の震え)による外部上肢振戦刺激装置としてFDAに認可された、非侵襲的かつ医薬品を使わない唯一の手首装着型処方箋療法です。また、成人のパーキンソン病患者の手の震えに対する治療法として、FDA breakthroughの認証も受けています。

 

  • Magnus Medical社は、経頭蓋磁気刺激とデジタル画像スキャンを組み合わせ、脳の特定部位に狙いを定めて刺激を与え、神経回路を調節します。これにより、患者の脳内ネットワークに基づいて刺激量を調整し、迅速な症状緩和のためにより高い刺激量を投与することも可能です。2022年9月、Magnus Medical社のSAINT Neuromodulation Systemは大うつ病性障害(一般に臨床うつ病と呼ばれる)の治療用としてFDAの認可を受けました。

 

  • BrainQ社は、非常に低い周波数と強度の電磁場を用いて、脳卒中やその他の神経障害を持つ患者者の障害を軽減し、回復可能性を最大化します。この治療法は、デバイスを通じて、神経回路をターゲットとした電磁場療法(network targeting electromagnetic field therapy)を脳と脊髄に提供します。この技術は、説明可能な機械学習を利用して健康な脳から特徴を抽出し、それに応じて周波数を調整した電磁場療法を用いて、損傷した脳神経回路に適切な標的を定めます。この技術は、脳卒中後の障害を軽減するものとして、FDA breakthroughの認証を受けています。

 

 

  • Sana Health社は、視聴覚を刺激するウェアラブルデバイスを提供しています。16分間の治療セッション中、使用者の心拍変動に基づいて、光と音の協調パルスがマスクとヘッドフォンを通して配信され、深いリラックス状態を誘発します。このバイオ治療機器は、一般的な健康増進デバイスとしてFDAの承認を受けており、痛み、不安、睡眠、抑うつを改善するデータに基づき、線維筋痛症治療用デバイスとしてFDA breakthroughの認証も受けています。Sana Health社は、今後18カ月以内に線維筋痛症、神経障害性疼痛、不安神経症、PTSDの分野でFDAの承認を取得することを目指しています。

 

神経調節の未来は、神経科学、生体分子工学、電子工学のさらなる進歩にかかっています。無線・無電源電極や生体インターフェースの開発、機器のさらなる小型化、神経信号処理へのAIや機械学習の導入により、ターゲットを絞ってカスタマイズした治療を実現する上で大きな飛躍が期待されています。

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