ソフトウェアでモビリティ業界を改革する海外スタートアップ5社
2025/01/08
自動車業界は技術革新や持続可能性の追求、地政学的リスクによるサプライチェーンへの影響など、急速に変化するニーズやリスクへの対応が求められています。今回は、ソフトウェアを駆使してこのような課題を解決している注目のスタートアップ5社を紹介します。
Togo Tateishi
Marketing Intern
変化し続ける現代のモビリティ業界
数々の業界トレンドやビジネスリスクに揺れ動くモビリティ業界では、現代の変化に合わせたイノベーションが求められつつあります。特に新型コロナウイルス感染症の流行は、製造業やサプライチェーンに大きな影響と混乱を与えました。従来の企業活動が見直される中で、業務の効率化やデジタル化は重要な課題として浮上しています。また、気候変動の解決や持続可能な社会の達成など、社会的価値の創出という新たなニーズも企業に求められています。
業界が自動車販売を超えて「移動」にまつわる新しい価値創造へと転換するにあたり、モビリティとソフトウェアの連携は不可欠な要素とされています。特にMaaS(Mobility as a Service)や物流・人流データの活用は、社会課題の解決や交通の効率化において重要な役割を果たすと注目されています。また、電気自動車(EV)、自動運転、コネクテッドカー、人工知能(AI)などの技術革新は、ソフトウェアとハードウェアの密接な連携の必要性を示唆するものでもありました。
以下では、モビリティ業界が抱える課題とニーズに対して、ソフトウェアを使ったアプローチで注目を集めているPlug and Playの投資先スタートアップを5社紹介します。(調達額は2025年1月5日のレートを元に日本円換算)
1. About:Energy – バッテリー開発を効率化するソフトウェアツール
本社: ロンドン、イギリス | 創業年: 2021年 | 調達総額: £1.7M (約¥331M) | ステージ: シード
温室効果ガス(GHG)排出の削減は世界の最重要課題の一つであり、モビリティ業界ではEVの生産や製造業の電動化が求められています。しかし、EVや新しいバッテリーセルの導入は時間や費用などにおいて予想以上にコストがかかってしまいます。この様な課題は電動化を目指す企業にとって大きな課題です。
About:Energyのソフトウェアソリューションはバッテリーのライフサイクルの予測と可視化を可能にしました。同社独自のプラットフォームである「The Voltt」は、最先端の測定技術とバーチャルデザインを用いたバッテリー開発のデジタルシミュレーションツールです。バッテリー開発を必要とするEVや航空機、製造業に位置する企業にとって、About: Energyのソリューションによる開発初期段階のコスト削減は大きなメリットです。
2024年6月にAbout: EnergyはSTMicroelectronicsとの共同事業で同Plug and Play Expo2024のGlobal Innovation Awardを受賞しています。ヨーロッパでの事業拡大も目標としており、同年10月にはロンドンに新しい研究施設を設立しています。
2. Flip – フロントラインワーカーの働き方を革新するオールインワンアプリ
本社: シュトゥットガルト、ドイツ | 創業年: 2018年 | 調達総額: $34M (約¥5,340M) | ステージ: シリーズA
新型コロナウイルス感染症の流行は製造業にも大きな影響を与え、製造現場で作業にあたるフロントラインワーカーの業務に関わるビジネスリスクが浮き彫りになりました。その一例が作業員への連絡網です。掲示板やペン、紙などを用いた伝統的な手法に加え、電話やEメール、ショートメッセージでも従業員全員と適切に連絡が取れないと気づいた企業も多いでしょう。
Flipは企業の連絡網を一新するだけでなく、作業員の働き方の改革を目指したソフトウェアプラットフォームを提供しています。日々の業務に必要となる作業員のシフト管理、ニュースや情報の伝達、タスク管理、休暇申請までもを統一化したものがFlipのアプリです。連絡網のデジタル化により、世界中の企業が作業員との連携を効率的に行うことができ、業務の効率化と生産性の向上を期待することができます。
3. Mercanis – 調達業務をAIで自動化
本社: ベルリン、ドイツ | 創業年: 2020年 | 調達総額: $10M (約¥1,570M) | ステージ: シード
新型コロナウイルス感染症の流行は製造現場だけでなく、サプライチェーン全体にも混乱をもたらしました。電話や手入力による作業に依存していた企業の調達チームにとって、この混乱は業務に多大なる影響を与えました。
モビリティ業界においても、車両部品などの調達は重要です。サプライチェーンにおけるリスクを軽減するためには、調達プロセスの自動化とデジタル化が必要だと考えたのがMercanisです。同社はデータとAIを活用した調達管理ソフトウェアスイートを提供しています。このAIは、サプライヤーの推薦や価格比較、契約業務の一部自動化、リスク分析を行い、調達プロセスを効率化することができます。現在、調達業務にAIを導入している企業は全体の36%ですが、導入企業は調達にかかるコストを40%以上削減しています。
Mercanisは2023年に1000万ドルのシード資金調達を終えており、成長を続けている注目のスタートアップです。
4. Sparetech – 製造業のスペアパーツ管理を自動化
本社: シュトゥットガルト、ドイツ | 創業年: 2018年 | 調達総額: €15M (約¥2,430M) | ステージ: シリーズA
環境に関係する世界規模の課題は温室効果ガス(GHG)排出の削減に限らず、産業廃棄物の削減も挙げられます。これらの課題を解決するためには、電動化や生産活動の効率化、そして廃棄物を減らすゼロ・ウェースト施策など、多角的なアプローチが必要です。
Sparetechは、製造業向けにスペアパーツの識別から発注までの管理プロセスを自動化するSaaSプラットフォームを提供しています。このプラットフォームの利用企業は平均して調達コストを13%、在庫を21%削減することができ、生産活動の効率化を促進しています。これはコストの面で企業にメリットを与えるだけでなく、廃棄物や余分な生産を抑えることで前述のGHG排出の削減やゼロ・ウェーストにも貢献し、社会的価値の創出にも一役買っています。
Sparetechは2023年6月に1000万ユーロのシリーズA資金調達を完了したと発表しました。同社は世界展開を通じて、業界全体の生産活動の効率化と持続可能な社会の実現を目指しています。
5. Veecle – 自動車のプログラミングを革新するソフトウェア
本社: ベルリン、ドイツ | 創業年: 2021年 | 調達総額: €4.6M (約¥745M) | ステージ: シード
急速な技術革新が起こる現代において、消費者は車両にもスマートフォンのようなテクノロジーを期待しつつあります。最新のインターフェイスやアプリケーション、そしてそれらの定期的な更新は自動車メーカーにとって悩みの種でした。自動車の生産はサプライヤーネットワークに依存するため、新技術への期待に早急に対応することが困難だからです。
Veecleは、従来の車両にクラウドサービス、タッチスクリーン、スマートフォン接続を統合するソフトウェアスタックを提供しています。既存の車両電子制御ユニット(ECU)との互換性を保ちつつ、最新の機能を簡単に追加できるため、自動車メーカーは消費者の期待に応える機能を迅速に開発し、展開することが可能になりました。
まとめ
「100年に一度の変革期」と言われる自動車業界。これまでの「クルマ」という製品から「モビリティ」というサービスへと進化するうえで、ソフトウェアの活用が鍵になります。
Plug and Playがドイツで運営しているコンソーシアム「STARTUP AUTOBAHN(スタートアップ・オートバーン)」では、自動車業界の大手企業が集まり、スタートアップの新しい技術をテストしスピーディな研究開発がおこなわれています。メルセデス・ベンツなどの企業を筆頭に、モビリティ業界におけるデータ連携を通じた産業の底上げに期待が集まっています。詳しくは以下のeBookをぜひダウンロードください。
Plug and Play Japanでは、今後もモビリティベンチャー関連の情報や協業事例を多数紹介してまいります。