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新規事業の立ち上げに必要な組織体制の作り方

2025/01/14

新規事業開発に取り組む企業の多くが直面する「組織づくり」の問題。既存事業との両立、適切な人材の選定と確保、部署間の利害調整など、プロジェクトが走り出すまでに乗り越えるべき壁は少なくありません。本記事では、自社に最適な進め方を知っていただくために、新規事業における組織体制の考え方や構築の流れについて解説します。


Writer: Fukui Hideaki, Megumi Shoei


1.なぜ新規事業において組織体制が重要なのか

市場環境の変化が激しさを増す中、新規事業の開発手法も多様化しています。かつてはカリスマ経営者のトップダウンで事業開発が進むケースも見られましたが、先の読めないVUCAと呼ばれる現在においてはそれも難しくなっています。このような環境の中で新規事業を成功へ導くには、多様な視点を生かせるメンバー構成や、高速でトライ&エラーを繰り返すためのチャレンジ精神、失敗を許容するカルチャーなど、従来とは異なる環境を整える必要があります。

ここでポイントとなるのが、既存事業の延長で考えないこと。0から1を生む新規事業は、既存事業とはまったく異なる考えで事業評価や進捗管理をする必要があります。よくある失敗例が「既存事業と同じ進め方をした結果、すぐにトーンダウンしてしまった」というもの。このような事態を防ぐためにも、リーダーシップ人材の選定から承認フローの設計、KPI設定にいたるまで、新規事業に適した組織体制を構築することが重要なのです。

2.新規事業の立ち上げに必要な会社が具備すべき4つの機能

では、新規事業のための組織づくりにおいて考えるべきことは何でしょうか。まずは事業開発を進める上で必要となる4つの機能をご紹介します。なお、これらの機能は必ずしも別々の担当者が担う必要はなく、1人が複数の役割を兼務する場合もあります。

①方針策定・全体取りまとめ

新規事業は、不確実性が高く、計画通りに進むことの方が稀です。そのため、プロジェクト全体を統括し、柔軟に方向転換を行える仕組みを構築する役割が重要です。この役割では、以下のミッションを担います:

  • ビジョンの明確化
    新規事業の方向性や意義を共有し、関係者間で共通の理解を醸成します。加えて、事業方針やKPIなどの戦略を策定します。
  • 進捗管理
    プロジェクトの進捗状況を常に把握し、状況に応じて計画を調整し、課題を解決しながら柔軟にプロジェクトを進めます。
  • リソース配分と調整
    やスタートアップとの協業では、法務や知財の専門人材も必要になってきます。また、グローバル展開を視野に入れる場合は、海外部署との緊密な連携が欠かせません。事業が進行中にリソース不足に陥らないよう、スタート段階で必要なリソース(人材・資金・時間)を明確にし、準備を整えておくことが成功の鍵となります。
  • リスクマネジメント
    プロジェクトの進行状況に応じたリスク評価を行い、必要に応じてプロジェクトを縮小または撤退する判断をします。その際、事前に考えられるリスクを洗い出し、影響度や発生可能性を評価したうえで対応計画を策定することが重要です。また、リスクはプロジェクトの進行に応じて変化するため、定期的なモニタリングと更新を行い、新たなリスクに備えます。

これらの機能を通じて、不確実性を受け入れつつも、プロジェクト全体を効率的に管理し、目標達成へと導きます。

 

②出口探索・事業開発

新規事業を成功に導くには、プロジェクトの成果に応じた最適な出口を見つけることが重要です。
市場の変化やニーズを見極めながら、適切なビジネスモデルを構築する役割を担います。この役割には以下のミッションが含まれます:

  • 市場調査と分析
    市場動向、顧客ニーズ、競合他社の動きを調査し、事業開発の方向性を見極めます。
  • 事業計画の策定
    収支計画や財務計画、マーケティング計画などを盛り込んだ事業計画を策定。それを基に事業目標やKPI、ゴールから逆算した事業スケジュールも策定します。
  • 製品・サービス開発
    まずは、ユーザーニーズを探るためにMVP(最小限の実行可能な製品)を開発。 必要であれば、外部リソースを取り入れることで開発のスピードを高めることもポイントの1つです。次に、PoCを通じて市場適合性や技術的課題を検証し、改善を進めます。
  • 事業化とスケーリング
    プロダクトの改良や仮説検証を繰り返し、十分な売上が見込めるキラーアプリケーションを見つけ、PMF(プロダクトマーケットフィット)が確認できたら、営業や生産、サポートの拡充など、生産産体制を整え、収益化を目指します。これには市場拡大や価格設定の最適化も含まれます。

プロジェクトの柔軟性を維持しつつ、成果に合った出口戦略を探る姿勢が求められます。

 

③テーマ創出・社内変革

新規事業のテーマ創出では、内部リソースに限らず、外部の知見や技術を活用するオープンイノベーションの観点が重要です。この役割では、次のようなミッションを担います:

  • イノベーションテーマの設定
    社内の強みや市場ニーズに基づいて、取り組むべき課題や新たな事業テーマを特定します。
  • 事業アイデアの創出
    市場の変化や技術革新、将来の社会的な変化など、外部環境に関する多角的な情報を収集し、さらには自社が保有する資産や強み、競争上の優位性を整理したうえで、それらを経営理念と照らし合わせながら、具体的なアイデアを創出・選定していきます。
  • リーダー人材の育成
    新規事業の推進には、高い熱意や粘り強さを持つ人材が不可欠です。変革を推進できるリーダーを育成し、組織を動かす原動力とします。
  • 社内部門との調整
    R&D部門や営業部門、管理部門などとの協力体制を整えます。
  • 柔軟な組織文化の醸成:失敗を恐れず挑戦できる風土を作り、イノベーションを推進します。

これらの活動を通じて、新しい価値を生み出すための土壌を整備します。

 

④パートナー探索

自社だけでは補えない技術やノウハウを外部機関と連携して取得することで、リスクを抑えながら開発を加速する「オープンイノベーション」の考え方が重要な鍵となります。この役割に含まれるミッションは次の通りです:

  • パートナー候補の発掘
    他業界の企業やスタートアップ、研究機関など、協業先となる可能性のある外部組織を探索します。
  • 関係構築
    長期的な信頼関係を築き、双方に利益をもたらす協業体制を整えます。
  • 共創の推進
    外部パートナーと連携し、新製品やサービスの共同開発や、事業モデルの構築、市場開拓や社会課題の解決など、幅広い領域で連携を推進します。

これらの活動により、自社の不足部分を補完しつつ、競争優位性を高めることができます。

 

3.大手企業3社の事例

ここまで事業開発を進める上で必要となる4つの機能について説明してきましたが、本章では実際に新規事業開発に取り組む3社の大手企業の事例を見ていきたいと思います。

日立製作所:27部門から200名以上が参画した全社横断プロジェクトを実施

デジタル、モビリティ、エネルギーなど多岐にわたる事業を展開する日立製作所では、コーポレートベンチャリング室と日立ベンチャーズが日立グループのCVCの役割を担っています。
コーポレートベンチャリング室は、イノベーション成長戦略本部として、中長期的な視点で社会課題の解決を目指し、スタートアップとのコラボレーションを通じたイノベーションの創出に挑戦しています。

また、デジタルシステム&サービス統括本部 経営戦略統括本部内にオープンイノベーション推進チームも設置。より直近での事業課題の解決を視野に、スタートアップやトレンド情報の収集、社内への情報発信やイベントを通じたマインド醸成、事業部と連携した具体的なスタートアップ協業プロジェクトの推進を活動の柱に掲げ、スタートアップとの協業を通じて、テクノロジーやビジネスモデルなど新事業の芽を自社に取り込むことをミッションとしています。

2022年には、新規事業開発に向けた全社横断的な活動として「SIG(Special Interest Group)」を開始し、コーポレートベンチャリング室が中心となり、グループ横断でメンバーを募集(*1)。
デザイナーや研究者、エンジニア、営業など、部署を越えた人材が集まり、2023年には27部門から200名以上が参画しました(*2)。社外のイノベーターによるディスカッションやワークショップ、ピッチイベントを通じたオープンイノベーション活動などを行い、同社が次に挑戦すべきイノベーション領域の発見につなげている他、活動の中ではPlug and Playのイノベーション・プラットフォームを活用したスタートアップとの協業検討も数多く行われています。

参考記事:スタートアップ連携による社会イノベーション事業創生 -日立製作所 | Plug and Play Japan

明治安田:未来共創投資とmoccを活用したスタートアップ連携の強化

2024年に発足20周年を迎えた明治安田生命保険相互会社では、顧客の健康づくりをサポートする「みんなの健活プロジェクト」や地域社会の活性化に貢献する「地元の元気プロジェクト」を推進。社外との協業・提携を通じて、新しいビジネスモデルを調査・探索する「企画部新規ビジネス開発グループ」に加え、人とデジタルの効果的な融合をめざすDX戦略を全社横断的に推進する「IT・デジタル戦略部」、ヘルスケア領域での事業開発に取り組む「企画部ヘルスケア事業企画室」があり、3つの組織が柔軟に連携しながら新規事業を模索する体制を敷いています(*3)。

また、2022年には社外との連携・協業を通じた新たな価値創造を目指し、スタートアップ企業を中心とした100億円の投資枠として、「未来共創投資」を新たに設立。また、オープンイノベーション拠点「Meijiyasuda Open-innovation Co-create Center(以下、mocc)」も開設しています(*4)。 

上述のCVC活動やmoccの運営協業を通じて、お客さまに提供する新たな価値として、スタートアップのサービスを組み込むなど、顧客体験の向上につながる成果が生まれており、生命保険の枠を超えた価値提供に向けて、部門横断的な活動を展開しています。

参考記事:組織の垣根を超え、協力して顧客への提供価値を向上。明治安田のオープンイノベーション

旭化成:全社で多層的にオープンイノベーションを推進

化学メーカーとして100年以上の歴史を持ち、「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」と大きく3つの領域で事業を展開する旭化成。当該3事業領域において、社内外と広く協働しながら、開かれた事業開発や研究開発を推進しています。

オープンイノベーションの推進にあたっては、研究開発部門に設置した「オープンイノベーション推進グループ」が各事業部門・研究部門や社外パートナーとの連携・調整を担当。長期視点で次世代の事業を創出するため、グループ横断で中長期テーマを開拓しています(*5)。また、研究開発本部だけではなく、事業本部においても当該事業本部の課題に応じたオープンイノベーション活動を実施しています。

さらに、経営企画部の傘下にはCVC室を設置しています。同社は2008年から、新規事業を生み出す目的でCVCの活動を展開しており、スタートアップとの連携や投資を進めてきました。2011年には米国シリコンバレーに拠点を構え、これまでに米国、欧州、中国、日本を含む50社以上のスタートアップに投資を実施(*6)。2023年にはサステナブル領域に特化した「Care for Earth」投資枠を立ち上げ、温室効果ガス削減など社会課題の解決も視野に入れた取り組みに注力しています。同社はCVC活動を3段階に分けて取り組んでおり、既存事業の技術強化(1.0)、既存事業の少し先を見据えた中長期投資(2.0)、そして財務的なリターンを重視した投資(3.0)といった目標を段階ごとに明確化しながら活動を進めています(*7)。このように、柔軟な組織間連携や技術交流、投資を通じて、新規事業の開発に取り組んでいます(*8)。

4.組織体制づくりのポイント

前章では、新規事業の立ち上げに必要となる4つの機能の具体例として大手企業3社の事例をご紹介しましたが、リソースが限られる中で最初からすべて整えるのは簡単ではありません。最小限の機能でスモールスタートし、フェーズが進むごとに拡充させていくのが望ましいといえます。そこで、各フェーズにおける組織づくりのポイントをご紹介します。

①立ち上げ期

ビジョンと目標の明確化

まずは社内の意識を統一し、新規事業の成功に向けた機運を高めるビジョンを策定しましょう。「何のために新規事業を行うのか」「社会にどのような価値を提供するのか」といった理念に加え、短期・長期の目標設定、事業成功の基準となるKPIの設定などを行います。ただし、初期段階では計画通りに進むことが難しい場合も多いため、完璧さを追求するよりも柔軟な姿勢で取り組むことが重要です。

適切な人材の確保

新規事業には既存事業とはまったく異なるスキルセットが求められます。失敗するケースとして挙がるのが「社内で余っている人材を集めて新規事業に取り組んだものの、何も進まなかった」というもの。新規事業の推進に必要なのは挑戦意欲が高く、周囲を巻き込む力のある人。そして何より、正解の見えない「カオス」な状況でのトライ&エラーを楽しめる人です。初期フェーズでは、1人が複数の役割を兼任する「なんでも屋」として動く柔軟性が求められることも少なくありません。

リソース管理

多くの場合、新規事業には一定の投資が必要です。既存事業とのバランスを考えながら、新規事業にどの程度の資金を投入し、どの程度の人材や設備を配分するのか計画を策定します。また、資金調達が必要な場合の調達方法や、予算の管理方法なども検討が必要です。限られたリソースの中で動き出し、課題を見つけながら修正していく「走りながら考える」アプローチを実践することが、新規事業のスピード感を維持する鍵となります。

②定着期

クロスファンクショナルチームの組成

各部門から全社横断的にメンバーを集め、事業開発を加速させるためのチームを編成します。異なる専門知識を持つ人材を結集することで、多様な視点からのアプローチが可能となり、開発プロセスのスピードを一層高めることが期待されます。

組織文化の醸成

事業の形がある程度整ってきた段階で、成果を社内で共有し、関心を高める取り組みを行いましょう。新規事業によって会社全体が活気づいている様子を伝えることで、協力者を増やすだけでなく、新たな挑戦が次々と生まれる組織文化の醸成にもつながります。

キーマンの配置

不確定要素が多く、想定外の課題に直面しがちな新規事業では、従来の慣行にとらわれない柔軟かつ迅速な対応が求められる場面があります。そのような事態に備え、個人的な繋がりを活用しながら、各部署から協力者となるキーマンと連携を図ることで、いざというときの対応を円滑に進めることが可能です。

 

③拡大期

スケーラビリティ

新規事業が軌道に乗り始めたら、需要に対応するための生産体制やカスタマーサポートなどの機能を強化する必要があります。その際には、人材採用を含め、柔軟にリソースを拡充できる仕組みを事前に整備しておくことが重要です。

組織の再編・適応

新規事業の規模次第では、新たな事業部門としての再編を検討する必要が生じる場合があります。さらに、状況によってはグループ会社として独立させることで、事業の一層の成長を目指すことも可能です。こうした複雑化するビジネスニーズに対応するためにも、状況に応じて柔軟かつ戦略的に組織構造を見直すことが重要です。

公式体制の構築に向けたキーマンの配置

新規事業への協力者となるキーマンを、公式な形で既存の各部門に配置します。不測の事態に備え、新規事業を全社的に支援できる体制を事前に整備しておくことが求められます。

5.まとめ~Plug and Playのイノベーション・プラットフォーム~

新規事業を成功させるための組織づくりについて解説してきましたが、より効果的な取り組みにするためには外部のノウハウを活用するオープンイノベーションの視点も重要です。そのため、外部との協業を円滑に進めるための体制づくりも忘れてはなりません。

Plug and Playでは、これまで培った豊富な事例や知見を基に、新規事業創出支援や社内文化の醸成支援、事業化への伴走支援など、今回ご紹介した4つの機能に対応した包括的なサポートを提供しています。

また、シリコンバレー本社を中心とするグローバルネットワークを活用し、優秀なスタートアップとのマッチングはもちろん、社内ベンチャーの組成やメンタリングといった実践的なプログラムもご用意しています。理想的なパートナーと出会えるPlug and Playのイノベーション・プラットフォームをぜひご活用ください。

 

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参照資料:

*1)  日立製作所「社会イノベーションのグローバルリーダーをめざして(SIGの挑戦)

*2) Plug and Play「スタートアップ連携による社会イノベーション事業創生 -日立製作所」2024年2月8日

*3) Plug and Play「組織の垣根を超え、協力して顧客への提供価値を向上。明治安田のオープンイノベーション」2024年2月13日

*4)明治安田生命保険プレスリリース「chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/社外との連携・協業を通じた新たな価値創造に向けた取組みについて ~スタートアップ企業等」2022年9月28日

*5)  旭化成ホームページ「オープンイノベーション

*6)  旭化成プレスリリース「カーボンニュートラルに特化したCVC投資枠を設定 | 2023年度 | ニュース | 」旭化成株式会社 2023年4月10日

*7)  TECHBLITZ「【旭化成に学ぶ】日本企業的CVCから「CVC3.0」への進化論 – TECHBLITZ」2024年7月2日

*8) 旭化成ホームページ「研究開発体制

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