生成AIで産業を革新する海外の注目スタートアップ10社
2024/11/22
現在のビジネス潮流を語る上で「生成AI」はもっとも重要なトレンドのひとつといえます。生成AIで革新的なサービスを生み出すスタートアップも数多く誕生し、その動向にあらゆる業界が注目。イノベーションを模索する大手企業においても、これらのスタートアップとのパートナーシップが戦略的に重要な選択肢となることは間違いありません。
この記事では生成AIを取り巻く最新のトレンドを、Plug and Playシリコンバレー本社のベンチャーキャピタリストのコメントとともに解説し、世界をリードする生成AI系スタートアップ12社を紹介します。
[Photo by BoliviaInteligente on Unsplash]
Writer: Fukui Hideaki
1. 生成AIとは?
生成AIとは学習した膨大なデータをパターン化することで、テキストや画像・音楽・動画などのコンテンツを生み出す技術です。2022年11月のChat GPT公開を機に、瞬く間にビジネストレンドとして浸透しました。同時期にはMidjourneyやStable Diffusionなどの画像生成AIも話題となり、ビジネスシーンだけでなく一般ユーザーの間でも生成AIは注目を集めました。
ここ数年で一気にトレンド化した生成AIですが、意外にもその歴史は古く、初期の研究は1950年代にさかのぼります。当時は古典的な統計モデル(自己回帰モデル)が、過去のデータを使った未来予測に利用されていました。1980年代に入ると人間の脳の働きを模したニューラルネットワークの研究が進み、2000年代には機械学習手法としてディープラーニングが発展。その後、2014年に登場した敵対的生成ネットワーク(GAN)や、2017年頃に登場して言語モデル開発の基礎となったトランスフォーマーなど、さまざまなアーキテクチャが誕生[*1]。しかし、この頃はまだ研究開発の域を出ず、ビジネスツールとしての利用は一般的ではありませんでした。
転機となったのは、やはりChat GPTの公開です。高精度な自然言語処理を実現したGPTモデルをアプリケーションやサービスの開発に利用できるようになったことで、多くのプレーヤーが参入。2023年には生成AI系スタートアップの資金調達額が前年比60%増と急拡大する結果となりました[*2]。
2. 生成AIビジネスのストラクチャー
活況を呈する生成AIビジネスですが、自社とのシナジーを探るには業界の構造をしっかりと理解しておく必要があります。現在の生成AIビジネスの構造は「インフラレイヤー」「モデルレイヤー」「アプリケーションレイヤー」「セキュリティ」と大きく4つのカテゴリに分かれています。
① インフラレイヤー
サービスの構築に必要なハードウェアやサーバーなどのインフラを提供する基盤設備や技術で、主に以下のようなサービスがあります。
- クラウドプラットフォーム
- マイクロチップ(GPU・TPU)
- ネットワーク
- データストレージ
② モデルレイヤー
AIにおける「モデル」とは、インプットした大量のデータを基に機械学習を行うための解析プロセスや計算方法を指します。このモデルとなるプログラムを開発するのがモデルレイヤーのプレーヤーで、主に以下のジャンルに分かれます。
- 自然言語生成
- 画像生成
- 音声生成
- 動画生成
- コード生成
- データ生成
- マルチモーダル生成
また、これらのモデルを構築するためには学習用のデータセットが必要となりますが、そのためのデータを学習前後に調整するビジネスもモデルレイヤーに含まれます。モデルには一般ユーザーに公開されていないクローズドソースと、自由に活用できるオープンソースに分けられます。Open AIのGPTモデルは代表的なクローズドソースのひとつで、Metaが提供する大規模言語モデルのLlaMaはオープンソースの代表例です。
③ アプリケーションレイヤー
モデルを利用して、実際にエンドユーザーが使うプロダクトを開発するレイヤーです。既に世界中で数多くのプロダクトがリリースされていますが、特定の業種や分野に特化した「垂直型」と、幅広い業種で汎用的に利用できる「水平型」に大きく分けることができます。
- 3-1. 垂直型(特化型)
ターゲットとする業種・分野に特化した教師データから学習し、その業種特有の課題に対するソリューションを提供するプロダクトです。代表的な例として、以下のようなものが挙げられます。
- 医療
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- 診断支援: バイタルデータやX線・MRIなどの画像を解析し、診断や治療プランを生成。
- 医療文書生成: 医師が記録する症例報告やカルテを生成・要約。
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- 金融
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- ファイナンスレポート生成: 財務報告書や投資分析レポートを生成。
- リスクアセスメント: クレジットスコアやリスクプロファイルを生成。
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- エネルギー
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- エネルギー需要予測:エネルギー消費データや気象データから電力消費を予測。
- 再生可能エネルギーの発電予測:風速や日照量、降水量データを基に、風力タービンやソーラーパネル、ダムの発電量を計画。
- エネルギー取引と価格予測:価格変動を予測し、最適なタイミングでエネルギーを取引。
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- 防衛
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- 戦場シミュレーション:さまざまな戦闘状況や環境条件を想定し、条件に応じた訓練を計画。
- サイバーセキュリティ強化:サイバー攻撃のパターンを予測し、防御システムを自動生成。
- 監視・偵察支援:衛星画像、ドローン映像、センサー情報などを自動解析し、敵の動きや潜在的な脅威を特定。
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- 農業
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- 生育予測と収穫最適化:気象データや土壌データを基に、最適な収穫時期を提案。
- ロボットとの連携:収穫ロボットや耕作ロボットと連携し、作物の状態に応じて作業計画や収量管理表を自動生成。
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- 建設
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- 設計の自動生成と最適化:天候データ、資材供給状況、人員配置などを分析し、効率的な施工計画を生成。
- 安全管理とリスク予測:作業員の動きや使用機材をモニタリングし、危険な状況が発生する前にアラートを発出。
- メンテナンスと予知保全:センサーからのデータを解析し、建物やインフラの故障や劣化の兆候を予測。
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- 医療
- 3-2. 水平型
さまざまな業界で分野横断的に利用できるよう、広範な教師データをベースに開発されます。代表的なアプリケーションとして以下のようなものが挙げられます。
- 法務
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- 契約書などのリーガルチェックや新規事業開発における法務・知財チェック。
- 法律文書を自動作成。
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- セールス・マーケティング
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- メールや営業資料、会議の議事録などを自動生成。
- 顧客や競合データを分析し、ターゲットに応じたマーケティング戦略やPRコンテンツを生成。
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- カスタマーサポート
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- チャットボットや自動音声でコールセンター業務を自動化。
- 自動翻訳による多言語対応をサポート。
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- コーディング
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- 目的に応じたソースコードを自動で生成・補完しソフトウェア開発をサポート。
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- デザイン
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- 会社資料やブランディングに使用するビジュアルデザインを生成。
- バナー広告やソーシャルメディア広告など、プロモーション素材の生成
- 商品のプロダクトデザイン案を作成。
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- 法務
④ セキュリティ
生成AIは新しい技術であり、市場もまだ発展途上にあります。法規制も整備段階にあるため、利用に際してさまざまなリスクが伴うのも事実です。よく知られたものとしては、誤った情報(ハルシネーション)の拡散や著作権侵害、ディープフェイクなどの犯罪利用が挙げられます。それ以外にも、生成AIサービスの利用履歴が外部に漏れるリスクや、プロンプトによって制限を意図的に解除するプロンプトインジェクション、サービス提供者のデータソースへの侵入・攻撃など、さまざまな課題があります。
これらのリスクに対してセキュリティを提供するサービスも数多く生まれています。そのアプローチには大きく分けて2つのタイプがあり、ひとつは生成AIのユーザーやサービス提供企業のインフラに対してセキュリティ対策を講じるものです。システムへのアクセスを常時モニタリングして、不審なIPアドレスやドメインからのアクセスを検知するようなサービスが一例です。
もうひとつのアプローチは、セキュリティ対策そのものに生成AIを活用するものです。ユーザーの利用ログを解析してセキュリティリスクを可視化したり、悪意のあるプロンプトを自動検出したり、画像や動画がAIで生成されたものかどうかを判別したりするサービスなどが挙げられます。2023年にはOpenAIがAIを利用したサイバーセキュリティ強化に最大100万ドルを助成する「OpenAI Cybersecurity Grant Program」を発表して話題を呼びました[*3]。
3. 投資状況とグローバルトレンド
生成AI系スタートアップの資金調達動向
2023年は生成AIへの投資が一気に加速した年でした。生成AI系スタートアップのグローバルの資金調達額は218億ドルで、前年から約5倍に急増。投資件数も66%増と大幅に増加し、市場がこの分野に熱い視線を注いでいることが窺えます。アメリカの市場調査会社CB Insightsによると、生成AIの分野で既に36社のユニコーン企業が誕生しています(*4)。
シリコンバレーの最新トレンド
これから生成AIの活用または投資を考える上で、知っておくべきトレンドは何でしょうか。Plug and Playシリコンバレー本社のキャピタリスト、Amit Patelは、特に注目すべきテーマとして次の3つを挙げています。
- ① 人材戦略の見直し・リスキリング
AIの活用における最大の課題は、技術よりも人材です。適切なスキルを持った人材を適切なポジションで採用することが求められており、多くの企業が戦略の見直しに着手しています。IBMはAIで代替可能な職種の採用を停止。社員のアップスキリングやリスキリングに注力する企業も増えています。この分野で成功するのは、5年~10年後を見すえた採用戦略のアップデートを行う企業です。
- ② 質の高いデータへのアクセス
大規模言語モデル(LLM)はコンテンツを生み出すシステムであり、決して“真実”を導き出してくれるわけではありません。質の悪いデータからは、質の悪いアウトプットしか出てこないのです。また、バイアスのかかったデータを使用すれば、アウトプットもバイアスがかかったものになることを認識しておかなければなりません。生成AIに使用するデータのソースを適切に選別し、バイアスやノイズを排除し、クレンジングやラベルづけをおこなうスタートアップにも注目しています。
- ③ AIおよびデータのセキュリティ
セキュリティには2つの考え方があります。まずは、AIをセキュリティのために利用すること。現在、AIによってフィッシングなどによるハッキングの手口が巧妙化しているため、企業側も顧客との関わり方をAIによって進化させる必要があります。
もうひとつは、AIのセキュリティを向上させること。インターネットの登場はウイルスという新たな脅威を生み、SymantecやMcAfeeなどのセキュリティサービスが誕生しました。オンラインサービスのクラウド化が進むと、クラウドセキュリティが求められるようになりました。そして今、多くの人々がAIを利用するようになったことで、新たな脆弱性と攻撃手法が生まれています。企業はAIモデルへの直接的な攻撃に対し、検証と対策を迫られているのです。
以上、生成AIを巡る3つの課題とトレンドについて解説してきましたが、AIの活用が新たなビジネスチャンスにつながることは間違いありません。人材のリスキリングを通して新たなミッションを生み出すことで、持続的な成長を実現することができるのです。
【参照】
Upskilling and Reskilling, AI Data Access & Security Against Attack Vectors | AI Trends Shaping 2024
4. 海外で注目の生成AI系スタートアップ10社
成長著しい生成AIの領域において、特に注目度の高い海外スタートアップ10社をご紹介します。
インフラレイヤー
Groq (米国)
生成AIに特化した独自設計の高性能チップ「LPU(言語処理ユニット)」を開発するスタートアップ。高速かつ省エネルギーでのAI推論を可能にするプロセッサとして2024年8月に約934億円(6億4000万米ドル)を調達し、注目を集めています。
モデルレイヤー
hirundo (イスラエル)
学習済みのAIモデルから不要なデータを排除する「マシン・アンラーニング(機械非学習)」を提供しています。データ・ラベリング(注釈付け)の工程を効率化するほか、意図せず混入してしまった機密情報や個人情報などのコンプライアンス対策としても有用なソリューションです。
Architype AI (米国)
さまざまな種類のセンサーデータを処理し、建造物や車両、機械などの現実世界の物理的な動きを解析・説明するフィジカルAIモデル「Newton」を開発しています。2024年4月に約20億円(1300万米ドル)の資金調達を完了しています。
Terra AI (米国)
地球表面下の状態をシミュレーションし、鉱物などの地下資源の存在を予測したり、気象条件などのデータを基に再生可能エネルギーの産出量を予測したりするモデルを開発しています。
アプリケーションレイヤー
Digital First AI (ポーランド)
自社の事業内容やターゲット顧客などを入力するだけで、最適なマーケティング戦略をAIが立案。プロモーション戦略に基づいたコンテンツ制作や分析まで行う汎用性の高いSaaSです。
Paxton AI (米国)
リーガルサービスに特化したLLMを使用し、契約書チェックや法律文書のレビュー、リーガルリサーチを自動化するアプリケーション。法改正や判例をリアルタイムで反映して検索に対応するほか、AI分析によってリスクのある契約条項を抽出します。
Cosign AI (米国)
医師と患者の会話を自動でドキュメント化し、EHR(電子カルテ)に入力。診断から治療までのワークフローを効率化するとともに、患者データを元に治療の意思決定を提案・支援します。
Clarative AI (米国)
取引先との受発注書類や契約書などのビジネス文書を解析し、管理業務やレポート作成を自動化するAIツールを提供しています。主なユースケースとしては調達やM&A、ベンダーマネジメント、eコマースなどで活用されています。
Workera (米国)
AI時代に対応できる人材育成にフォーカスした従業員リスキリングプラットフォーム。従業員のスキルをAIが評価・分析し、必要なリスキリングプログラムを提供します。
セキュリティ
Acutivy (米国)
組織内の生成AIアプリおよびプラグインに対する従業員のアクセス行為をモニタリングし、攻撃やデータ流出のリスクを検知するサービスを提供しています。安全性を担保しつつ、従業員が生成AIを活用できるようにするサービスです。
5. Plug and Playを通じた最先端スタートアップとの出会い
生成AIは今後も最重要のビジネストレンドとして進化を続け、新たなプレーヤーが絶えず参入することが予想されます。このトレンドを自社の事業成長に取り入れるためには、常に最新の情報をキャッチして有望なスタートアップとのマッチング機会を逃さないことが重要です。
Plug and Playではシリコンバレー本社を中心とするグローバルネットワークを通じて、最先端の生成AI系スタートアップと大手企業のマッチングや共創を支援しています。理想的なパートナーと出会えるPlug and Playのイノベーション・プラットフォームをぜひご活用ください。
- 参考資料
*1) AI総合研究所「生成AIの歴史をわかりやすく解説!技術の進化と今後の展望を紹介」2024年8月20日
*2) 日経新聞「生成AIスタートアップ、23年調達額6割増 430社市場地図」2024年6月7日
*3) OpenAI「OpenAI Cybersecurity Grant Program」2023年6月1日
*4) CB INSIGHTS「The generative AI boom in 6 charts」2024年2月27日