• Event Report

日本のスタートアップエコシステムの課題と展望

2022/09/28

Enablerとは、成功と目的達成を可能にする人や組織、手段のことを指します。
日本のスタートアップエコシステムの成長を担うEnablerとして、01Booster Inc.の合田ジョージ氏、CIC Japanの加々美綾乃氏、Plug and Play Japanの内木遼、またモデレーターにHEART CATCH Inc.の西村氏をお迎えし、日本のスタートアップエコシステムの現状の課題点、今後さらに拡大していくために必要な取り組みと心構えについてお話いただきました。
(本内容は2022年3月2日に開催したWinter/Spring 2022 Summit内で実施したEnabler Panel Sessionの内容をもとに作成しています)


Moderator:西村 真里子氏

株式会社HEART CATCH 代表取締役 / プロデューサー

国際基督教大学卒。日本アイ・ビー・エムでITエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、アドビシステムズでフィールドマーケティングマネージャー、バスキュールでプロデューサーを経て2014年に株式会社HEART CATCH設立。ビジネス・クリエイティブ・テクノロジーをつなぐ“分野を越境するプロデューサー”として自社、スタートアップ、企業、官公庁プロジェクトを生み出している。 J-Startupサポート企業、Art Thinking Improbable Workshop Executive Producer 、内閣府第一回日本オープンイノベーション大賞専門委員会委員、経産省第4次産業革命クリエイティブ研究会委員、武蔵野美術大学 大学院 クリエイティブイノベーション学科研究室 非常勤講師。2022年4月よりJapan Innovation Network フェローに就任。


Speaker:合田 ジョージ氏

株式会社ゼロワンブースター 代表取締役

MBA、理工学修士。東芝の重電系研究所・設計を経て、同社で国際アライアンスや海外製造によるデザイン家電の商品企画を実施。村田製作所にて、北米およびMotorolaの通信デバイス技術営業後、同社の通信分野のコーポレートマーケティングにて全社戦略に携わる。スマートフォン広告のNobot社のマーケティングや海外展開を指揮、KDDIグループによる買収後には、M&Aの調整を行い、海外戦略部部長としてKDDIグループ子会社の海外展開計画を策定。現在は01Boosterにて事業創造アクセラレーターを運用すると共にアジアにおけるグローバルアクセラレーションプラットフォーム構築を目指す。


Speaker:加々美 綾乃氏

CIC Japan, コミュニティ・デベロップメント・リード

博士(理学)。専門は分子生物学・遺伝学。博士号取得後、文部科学省に入省しライフサイエンス分野の研究開発政策や日本医療研究開発機構(AMED)の設立、初等中等教育のICT化などに携わる。2017年にマサチューセッツ工科大学に留学し、スタートアップ・エコシステムの研究に取り組む。2019年に帰国し、科学技術・イノベーション政策全般や核融合研究開発の担当を経て、2021年7月より現職。ライフサイエンス分野のスタートアップ企業支援プログラム等を担当。


Speaker:内木 遼 

Plug and Play Japan株式会社 執行役員 COO

エネルギー会社での海外プロジェクト、総合商社での事業開発・事業投資を経験。コロンビア大学でMBAを取得。デロイトトーマツベンチャーサポートのシリコンバレー事務所の事業開発統括として、金融、製造業等における新規事業開発コンサルティングに従事。事業開発戦略策定、ビジネスモデル考案、ベンチャー評価・交渉・提携支援、複数の実証実験の設計・実行等に携わる。シリコンバレーのアクセラレーター/VC、イノベーションセンターであるPlug and Playの日本オフィスの立ち上げに参画し、東京に次いで京都・大阪に拠点を開設するなど、イノベーションプラットフォームの拡大を執行役員COOとして牽引している。


Writer:Ai Fujii

Marketing & Communications Intern


西村氏:まず、今の日本のスタートアップエコシステムがさらに伸びるために足りていないものについてお聞きしたいと思います。

合田氏:

必要なことは3つあると考えています。1つ目は、雇用の流動性を高めることです。具体的には、大手企業や行政の方にとにかく転職いただくことです。全員が退職するとなると暴論になってしまいますが、大手企業と役所で退職する人の数が少ないと、いくら大手企業に優れた技術があっても流動や転用が全く起こりません。海外では中国やフィンランドの企業が人材放出をした際に、その国のスタートアップ・エコシステムが急速に立ち上がった実例もあります。

2つ目は、大手企業によるM&Aを増やすことです。日本は他国と比較してM&Aが非常に低く、現在の10倍から100倍くらいまでM&Aを増やすことができるとシリアルアントレプレナーができ、スタートアップ・エコシステムは大きく変化すると考えています。

3つ目は投資総額を増やすことです。アメリカ・中国に匹敵するまでとは言いませんが、今スタートアップを集めるには資金が必要になります。日本は現在1兆円程ですので5兆円を目指し、さらにその後10兆円まで上げることができれば変わっていくと思います。

加々美氏:

私も人材の流動性はすごく大切だと考えています。スタートアップは成長過程で専門性のある優秀な人材が必要なのですが、そういった方は現在の日本では大手企業の中に多く、なかなかスタートアップがアクセスできないことが多いです。例えば私はバイオ系を中心に見ているのですが、規制や特許の話になると、専門的な知見のある方は企製薬企業に多いので、そのような方達に外に出てきていただくことで、スタートアップの成長が促進されるのではないかと考えています。

内木:

人材流動性の高さを担保することについては完全に同意です。加々美さんのおっしゃる通り、大企業からスタートアップへの転職を加速させるには、大企業で勤めること、スタートアップで勤めることのリスクリターンを正しく普及させていくこと、また大手企業の社内起業や、外に出る起業を促進する環境づくりをすることは非常に重要だと思っています。
もう1つは、産業クラスターを作るべきだと考えています。今後日本の経済成長をドライブするのは、特定の産業におけるイノベーション創出であり、これを実現するためにはグローバルな多様性を持つプレイヤーを一つの都市に集中させ、その中で偶然の出会いやインタラクションを頻繁に発生させていくことによって、イノベーションを創出していくことが必要だと考えています。
その観点から言うと、CICさんのように一つの拠点にいろんなプレイヤーを集めて産官学の出会いの機会を作り出したり、創発するような環境づくりをしていくことはすごく重要だと思っていますし、Plug and Playとしてもそういった仕掛け作りが大事だと考えています。

西村氏:日本でスタートアップ・エコシステムに参加している大手企業の割合はどれくらいあるのでしょうか。

合田氏:

前提として現状日本社会は、流動性が高いIT企業と流動性が低い老舗企業による二分化が起きています。ただ、老舗企業が全て暗いわけではなく、資金力と優秀な人材を活かしたリープフロッグ(蛙飛び)が起きている企業もあるため、3つの階層が形成されています。

加々美氏:

明確に割合を出すのは難しいのですが、大手企業はオープンイノベーションに非常に積極的だと感じています。一方で、実際に活動している企業と、活動する必要性は認識しているものの進め方がわからない企業や、活動はしているものの古いやり方が今のスタートアップと合わない事例もあるので、交流を促すことによって大手企業を変えていきたいと考えています。

内木:

大手企業も感受性が高まっており、スタートアップ・エコシステムへの参画は100%に近いのではないかと考えています。ただ取り組みの濃淡の差は激しいと感じています。現在、シリコンバレーではディスラプティブ*なスタートアップが増加しています。例えば自動運転の普及によって収益に大きな影響が出る損害保険業界では危機感を持っている企業が多く、スタートアップへの投資が活発になったり海外スタートアップとのジョイント・ベンチャーが作られたりしています。このように、業界によってディスラプションを目の前にしている企業もあれば、既存のビジネスモデルで30年、40年先は事業を続けられるような企業もあり、かなり濃淡があるという印象があります。



(*ディスラプティブ:破壊的技術。製品、サービス、プロセス、テクノロジーに予期せぬ創造的な変化をもたらすことにより、新たな市場を生み出す、あるいは既存のマーケットを根本から変えてしまうイノベーションのこと。
出典:​​https://jp.planisware.com/glossary/disruptive-innovation

西村氏:次に日本のスタートアップについてお聞きしたいと思います。シリコンバレーだとディスラプティブな新しいソリューションも出ているというお話がありましたが、皆さんからみて日本のスタートアップの現状をどのように評価されますか。

加々美氏:

日本のスタートアップは増えてきていますが、2つ思うことがあります。1つ目はスタートアップに対して成長できるような環境があるのかどうかです。例えばアクセラレータープログラムは数多くありますが、まだクオリティやメンター不足といった課題があります。一方でこれまで指摘されていた資金面は改善傾向ではあり、今後はそれを元に育成を強化することが必要だと思います。
 2つ目は、スタートアップは初めからグローバルを目指す必要があると考えています。特にディープテック分野では、グローバルを目指す際につながりを生み出せる人材やネットワークが少ないので、それをどのようにスタートアップに対して開いていき、ネットワークを我々が作っていくかということがポイントだと考えています。

西村氏:どうすれば日本のスタートアップがさらにグローバルの視点を持って、初期段階からそのスケールでできるようになるとお考えでしょうか。

加々美氏:

現在CICはJETROの提供する日本のスタートアップを海外のアクセラレーターとつなぐプログラムを採用しています。プログラムを通じて、スタートアップが日本とアメリカのビジネスの違いについて、現地のメンターからメンタリングを受け、ビジネスモデルの磨き上げや、ネットワーキングを行うとみなさん変わっていきます。実際に現地でネットワークを見つけて、アメリカにオフィスを作るという事例もあるので、きっかけとしてそのようなプログラムを積極的に活用するべきだと思いますし、プログラム自体も拡大していけばいいなと考えています。

合田氏:

以前私が部品メーカーにいた際に、グローバル展開をしている半導体メーカーと付き合いがあり、そのときに彼らが面白かったのはGPSの半導体ベンチャー企業を買収した際、出向者が次の年から購買部長になっていたことです。我々01 boosterも今回M&AをしてSaaSの企業を買収しましたが、その時の社長は取締役に加わっています。こういったことを日本企業ができるのであれば、スタートアップ・エコシステムは変わっていくと思います。

また、現在日本を超えたリープフロッグ(蛙飛び)も起きています。わかりやすい例で言うと、アップルは日本の地方の製造業にすでに入って来ています。日本の製品は安いので、日本企業がウォッチしていないところに、いい物を探す外資企業の手が入ると蛙飛びが発生します。現在シンガポールなど、グローバル企業の方が圧倒的に日本企業のことを知っているという状況があります。

内木:

スタートアップを取り巻く外部環境はすごく改善されていると感じています。我々のような支援機関も増えていますし、優秀な大学から人材が流入してくることもあります。東大の松尾研のようなAI分野で著名な研究室では、卒業後に大手企業に行く学生はほとんどいなくなってきているという状況があり、優秀な人材や技術を持ったスタートアップが増えていることはポジティブに捉えています。
その中で最も改善するべきだと考えていることは、グローバルのマインドセットを初期段階から身につけることです。難しいことですが、日本市場独特の商慣習や規制がある中で成長した後、海外に展開するとなるとプロダクトマーケットフィットをやり直す必要があるため、最初からグローバルを目指すスタートアップをどのように育成するかを考えています。手段の一つとして、起業段階でシリコンバレーに行って現地の市場調査をしたり、投資家を周りながら現地で世界に勝てるスタートアップを作っていくことがあると思います。2つ目は、グローバルなチーム編成です。日本しか知らないメンバーだけだと、世界の顧客から見て成功するプロダクト・サービスは出来にくいので、チーム内のダイバーシティを保つことも重要だと考えています。

西村氏:大手企業の立場とスタートアップの立場で、それぞれどのプログラムから入ればいいのか、全てのプログラムに参加することが最善なのか、それぞれの立場でお聞きしてもよろしいでしょうか。

合田氏:

大手企業の課題の1つに、何か1つの施策を打ったらそれでいいと思う傾向があります。グローバルのプレーヤーは、ベンチャー投資、スポンサー、アクセラレーターの全てに取り組んでいます。イノベーションのコストは知れているので、幅広く施策を行っているという訳です。
また、大手企業には、文化、制度、人材の3つの課題があると考えています。まず文化を作るのであれば、事業相続プログラムやオープンイノベーションプログラムを取り入れることが必要だと思います。制度については、人事制度を含めた制度設計をする必要があります。最後に人材教育に関しては、本人に事業をさせるか、スタートアップに出向させるか、オープンイノベーションをやらせることが効果的だと考えています。大手企業の中で一人を鍛えても意味がなく、環境と人材の両方にアプローチしていくべきだと思います。
スタートアップの立場に関しては、国内である大型プログラムを行った際に、グローバルの世界共通プログラムと比較して圧倒的な差がありました。行政も含めて国内でどれだけやっても規模やサポートが全く違い、対策を考えていく必要がありますが、それくらいスタートアップにはチャンスがあると捉えています。

加々美氏:

大手企業も我々もやっていることは同じでも、それぞれやり方やネットワークが異なるので、良いとこどりしていただければと思います。エコシステムは誰かが一人で作るのではなく、オープンに協力して作り上げるものなので、壁を作るのではなく一丸となって取り組むことがエコシステムの形成につながると考えています。

内木:

日本ではこれまでR&Dに関して、その費用がGDPに占める割合は世界トップレベルにはランクインしているのですが、CVC投資やスタートアップとの協業にかける費用があまりに少なく、イノベーションを創出する上でのボトルネックになっていると感じています。R&Dは費用をかけても全て成功する保証はないにも関わらず多額の予算を投じているのに、失敗が多いスタートアップ投資や協業に関しては、一度やってみて失敗すると次に進まなくなる事例も多いです。今後、失敗ありきで自社内に新規事業や、スタートアップへの投資案件などを多数抱えてポートフォリオとして正しく管理できるように、会社としてのマインドセットが変わっていけば、日本のスタートアップ・エコシステムはより良くなっていくと思います。

西村氏:スタートアップの成長には投資拡大が必要になると思いますが、海外から投資家をさらに連れてくるという流れについて、ご意見いただけますでしょうか。

加々美氏:

日本企業を海外に連れて行って感じるのは、日本にこのようなテクノロジーやアイデアがあることが海外の投資家に届いていないということです。海外進出について、先に日本で成功してからとお考えの方が多く、進出の段階が遅れることが多いです。一方でより早い段階で海外にみてもらえると、それを契機に早い段階から共同研究などにつなげることもできるので、海外にPRしたり現地に行って話をする機会を増やすことが重要だと考えています。

合田氏:

グローバルの流れとして、今までのVCからアセットマネジメントが投資の世界に入ってきて、一気に釣り上げられました。ソフトバンクを超えるような不動産の資金がスタートアップに流れてきているので、外資企業が入ってきて変わっていく必要があると考えています。その代わりバリュエーションは非常に高くなると考えています。

西村氏:それでは最後に、これから日本からのユニコーンの輩出、日本の大手企業や行政も含めて明るい未来を作っていくためにやっていきたいことについて一言いただけますでしょうか。

内木:

産官学における相互活動の活発化をやっていきたいです。大手企業のオープンイノベーション促進はもちろん、大学の研究室との連携の中でシーズを積み上げて事業化する活動も、官公庁と連携しながらスタートアップが活躍しやすい環境づくりを行い、日本のスタートアップ・エコシステムがさらに成長できるような一躍を担いたいと考えています。

加々美氏:

エコシステムに対して、スタートアップに関与しないといけないと思っていても、現在一歩踏み出せていない方を引き込んでいくことが力になると考えています。今後はそのような方達の巻き込みや横のつながりを構築していきたいと思っています。

合田氏:

グローバルでナンバーワンになるために頑張ります!

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