• Trend
  • Fintech

半世紀を経てもなお変革を遂げるATM

2023/03/17

(本記事は Plug and Play本社の記事を翻訳し、一部補足したものです)

現金自動預払機(ATM)が発明されてから50年以上が経ちました。現在、ATM業界は現金輸送システムに革命をもたらす大規模な変化を遂げようとしています。新技術の継続的な導入は、ATM業界全体の収益増加の重要な要因となっています。


Plug and Playでは、フィンテックと金融業界のイノベーションをいち早く実現します。業界を革新するゲームチェンジャーと出会える私たちのプラットフォームにぜひ参加してください。


ATMサービスを提供する全ての金融機関の目標は、より多くのサービスを、より簡単に提供することです。一言で言えば、取引手続きの自動化を加速させながら、機能性を向上させることが狙いになります。金融業界の進化の度合いを検証するにあたり、ATMをめぐるイノベーションの動向に注目することは重要な着眼点となります。

ATMを巡る主なイノベーションの動き

紙幣還流装置を資金管理ソリューションとして活用

キャッシュリサイクルは、ATMでの紙幣の受理、識別、分類、保管を迅速かつ確実に行う機能を指します。このシステムの導入により入金・出金作業を同じ機械で行うことができるようになり、現金補充の頻度を減少させ、人件費の抑制に貢献しています。

フルサービス型ATM

顧客と銀行間における最初の接点としてもATMはその役割を担っています。ATMは単に取引を行うだけでなく、口座開設、カードの即時発行、小切手帳や通帳の印刷、そしてその他多くの機能・技術を介した銀行・顧客間での関係構築ツールとしての機能も兼ね備えています。また、遠隔現金自動預払技術を用いたビデオ・バンキングサービスの提供は、リアルタイム通信とビデオを用いた銀行とのリアルタイムでのコミュニケーションを顧客側にもたらすとともに、リモートでの支店業務を実現するに至っています。

非接触型出金機能

NFC(近距離無線通信)技術による非接触型の出入金システムは、顧客による「タッチ決済(コンタクトレス決済)」を可能とし、より簡素な銀行手続きを実現するツールの一つです。このトレンドは人気を博しているものの、主流なシステムとはなっていないのが現状です。

カードレスATM

コンピュータビジョンの発展は顔認証機能を搭載したカードレスATMの登場を可能としました。カードレスでATMから現金を引き出す例としては、インテルのRealSenseカメラ技術が挙げられます。この技術により、ATMで現金を引き出した顧客がカードの実際の名義人か否かを顔認証で確認できます。また生体認証により、顧客はカードや暗証番号を使用せずに現金を引き出せるため、利便性の向上に貢献する技術となっています。特に、ATM利用時に機械との接触を必要最小限に抑える本技術は、パンデミック時においてその有用性が高いと考えられます。

ATMを介した顧客データの解析

現行のATMでは、顧客がセルフサービスでおこなった取引のデータを収集し、カスタマージャーニーに関するカスタマイズされた統計情報を提供することが可能となりました。この機能を軸に、銀行はより総合的な顧客満足度を向上させる試み・サービス提供を講じることができるようになりました。

EMV(Europay、MasterCard、Visa)への対応

EMV国際規格への対応により、ほとんどのATMにおいてカード不正利用防止措置が実施されるようになりました。しかし、一部の地域ではEMVへの対応が遅れているため、EMV対応に関する規制当局からの働きかけは今後数年間も継続されると考えられます。

カスタマージャーニーのパーソナライゼーション

ATMで得た情報を元に行われたカスタマージャーニーの最適化により、顧客個人にパーソナライズされたメッセージ、取引、顧客のグループや場所に対してタイムリーな提案をするなど、より洗練されたサービスの提供が可能になっています。

ATMの二面性

上述のように、ATMは単なる現金引き出し機能だけでなく、多種多様なサービスを発展させています。現金自動還流は現在、世界的に最も成長しているATM分野であり、英国のRBR*によると、その数は今後5年間で25%増加すると予測されています。

2020年から2021年の間だけでも、還流式ATMの設置台数は全世界で97万3千台から100万台強に増加しました。その設置総数は、2026年に120万台を超えると試算されており、同機能を持たない従来の非還流式ATMは減少の一途をたどると予測されます

同時に、顧客の利便性向上という側面から、さまざまなサービスがATMには追加されはじめていることも重要です。例えばユーザー中心型のデザインを導入したATMは、マルチメディア端末としてスポーツ賭博の賭け金の出入金や公共料金支払いを可能にするなど、顧客・銀行間での直感的なインタラクションを通じた多種多様なサービス提供を実現するに至っています。

RBR:Retail Banking Research (リテールバンキングリサーチ):英国の金融に関するリサーチ会社

暗号資産ATM

暗号通貨は、世界初の分散型通貨であるビットコインが誕生した2009年を境に普及の一途を辿っています。Coin ATM Radarが集計したデータによれば、2022年8月月初時点で、デジタル通貨の入出金が可能なATMの数は世界で3万9000台を超えています。実際、77カ国で614もの暗号資産ATM事業者が3万9,011台の暗号資産ATMを設置したとみられています。2021年4月からの短期間において1万8000台もの暗号資産ATMが設置された点からもわかる通り、同機械の急激な増加は暗号通貨の取り扱いというニーズの急増が背景にあると考えられます。

暗号資産ATMの分野では現在、いくつかのプレイヤーが事業展開をしています。ビットコインATMネットワークの最大保有者の1つであるBitcoin DepotとサークルKは、アメリカとカナダにおいて暗号資産ATM設置に向けたパートナーシップを締結しました。この提携により、700台以上の暗号資産ATMが設置されています。また、暗号通貨に特化したATM業者としては上記2社以外にも、General Bytesとビットコインに特化したChainbytesなどの事業者が存在します。

しかしながら現時点では、銀行はセキュリティ面において暗号資産ATMへの懸念を抱いていることも事実です。従来の銀行ATMは、違法行為があった場合に弁済を保証する銀行保険制度(*日本では「預金者保護法」にあたる)を設けています。一方、暗号資産ATMは中央金融機関や保険が存在しないため、違法行為により生じた損害の弁済を保証する制度はありません。これまでに銀行が顧客に暗号資産ATMを提供しているユースケースは、バージニア州を拠点とするBlue Bridge Bankなど数件のみに留まっており、高いボラティリティとセキュリティリスクを背景に大手銀行の多くは暗号資産ATMには参入していないのが現状です

ATMの効率性

進化し続けるATMは、ターゲット広告やブランドラッピング広告、パーソナライズされたスクリーンメッセージやレシートなどを通じて、潜在的な顧客に商品やサービスを紹介する恰好の場として機能することが期待されます。ATM広告は、DOOH(Digital Out-Of-Home: デジタル屋外広告)メディアと呼ばれる広範な広告カテゴリーの一部にあたります。DOOHには特定のスクリーン技術が必要とされ、Infinitusなどの会社がサービスを提供しています。

また、ATM は地域のビジネスやイベント、金融機関が実施する各種キャンペーンなどを紹介するコミュニケーション・チャネルとしての活用も期待されます。ATMは、銀行の支店よりもはるかに低い運営コスト、かつより多くの場所で、多くの人々にサービスを提供する機会を提供することが可能です。

ATMから社内システムへ送信されるエラーの分析

インターネット通信技術が発展し、様々な地域・場所からのデジタル接続が可能となった今日、銀行もリモートでATMの内部技術へのアクセスが可能となっています。広範囲にわたる管理・運用サポートを必要とするするATMを稼働させるにあたって、銀行には包括的なATMアクワイアリングソリューションの導入が重要となります。リモート管理システムの導入は、ATMネットワーク全体を24時間365日可視化できるだけでなく、ブランド問題に発展する前に懸念すべき事案をピンポイントで特定することを可能とします。

既成概念の打破:3DプリントでつくるATM

現在、一部の銀行では、クレジットカードのスキミングを防止するATM部品の設計・製造に3Dプリンティングを利用しています。セキュリティを設計するにあたり、3Dプリンターは不正に対抗するためのハードウェアを作る上で重要な役割を果たします。さらに、3Dプリンターは顧客一人一人に合わせたサービスのパーソナライズを一層推し進める可能性も秘めています。企業は、3Dプリント技術の使用を通じて企業は、パーソナライズされた製品を作るにあたり、より低いコストで提供することができるようになります。ATMにおいて、3Dプリンターの応用により一人一人にパーソナライズされたカードの提供が今後実現するかもしれません。

未来の新しいATM

多種多様な変化を遂げたATM業界ですが、次にどのようなイノベーションが期待できるでしょうか。デジタルバンキングを主に扱う出版社 The Financial Brandは、現在世界的に現金の需要が一部回復しているものの、今後導入されると考えられる次世代ATMはよりモバイル中心型のシステムになっていくと指摘しています。次世代ATMはより多機能・低コストになり、銀行支店に置き換わることが可能になっていくと考えられるのではないでしょうか。ATM分野に今後どのようなイノベーションがもたらされるかは依然として定かではありません。しかし、フィンテック業界に最適なソリューションを提供することを目的に、新しいアイデアが次々と生み出されるているのは確かな事実でしょう。

Plug and Play Japan の最新ニュースをNews Letter でお届けします!